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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
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しおりを挟む明日はドレスを受け取りに行く日なので、既にアーネストにお願いして、公爵家騎士団にいつもより多めの護衛をお願いしている。
当日までに担当を決めてくれるだろう。
変装グッズは既に準備済みだし、後、する事と言えば当日晴れてくれますようにと祈る事くらいだろうか。雨の中で襲撃されたら、察知が遅れたりしそうなので、叶うなら避けたい。多分大丈夫だろうけど。
この世界に天気予報なんて、勿論ないのだが、精霊達に訊ねれば肯定的な空気を醸してくれたので、きっと晴れるはず。
いつも通り朝食を終え、今日の予定をざっくり頭に描いていると、食堂の出入り口の方が少し騒がしくなった。
慌てて様子を確認したりするのは『ハシタナイカシラァ?(棒読み)』とか思いつつ、好奇心には勝てないのでちらりと視線を向ければ、表情の硬いネイサンがハスレーに何か話しかけていた。
ゆっくりとだが、ハスレーの表情も険しくなり、流石に何かあったかと、アーネストが声をかける。
「何事だい?」
その声にハスレーとネイサンが同時に顔を上げるが、やはり難しい表情を浮かべている。
「……お騒がせして申し訳ございません……実は、これが届きまして」
暫く逡巡した後、意を決したハスレーが、ネイサンが手にしていた物を受け取り、アーネストの傍へと近づいてきた。
全員の視線が集まる中、ハスレーがアーネストの前に差し出したのは、金の封蝋がされた封書だった。
途端に皆の表情に険しさが増すが、何か気付いたのか、アーネストの表情が驚愕の色を浮かべたように見えた。
「この紋章は……」
呟くように零した声に、セシリアも怪訝な様子を浮かべ、封蝋をじっと見つめる。
「あら、グラストン公爵家の紋章ですわね……だけど金蝋で送ってきたんですの?」
「そのようだね」
グラストン公爵家と言うのは、現王ホックスの弟であるリムジールが興した家である。
基本公爵家が用いる封蝋は銀なのだが、あえて金蝋を用いたという事は、王家絡みの内容だと知らせる為だろうか、それとも強制する為だろうか…。
封を開いて中の手紙を開いて目を通せば、どんどんとその双眸は剣呑な色を湛えて細められ、周囲の空気は氷室のように凍り付いた。
「……どういうつもりだ…」
そんなアーネストの様子に、流石と言うべきか、セシリアは普段と全く変わらない。
「何が書いてありましたの?」
無言で渡された手紙にセシリアも目を通せば、般若の形相、再び…であった。
「あらあらまぁまぁ、どうやらリムジール殿下は学院卒業後、馬鹿になる一方だったようですわね」
「全くだ……何が考えがあるから王都に来られたし、だ……しかもアイシアまで連れてこいだと!? まぁあいつは万年4位だったからな、さもありなん…か」
絶対零度の鬼の形相で暴言を吐いても、気品あふれる様相のままなのは、二人とも流石だと感心してしまう。
ちなみに後からハスレーに確認したのだが、万年4位と言うのは王立学院での成績の事だったようで、主席はアーネスト、セシリアが2位、ついで3位は現王の元婚約者で現在王弟リムジールの妻となっているシャーロット、そして当の王弟リムジールは不動の4位だったらしい。つまりその4名は同窓生だったという事だ。
「ですが……シャーロットまで一筆添えてきてるというのは……無視できませんかしら…」
「そうかもしれないが、日が悪すぎるだろう? 転移紋の許可を取ってあるから明日来いとは、横暴が過ぎる。何より最初の登城要請はさっさと断ったんだ、にも拘らずこんな……」
「はぁ、明日はエルルの初お出かけで、シアも楽しみにしておりましたのに…」
流石に大人しくしていたアイシアも、自分の事となれば黙っていられなかったようだ。
「お父様、お母様、どういう事ですの? 私も、とは……私は王城へ行かねばなりませんの?」
「……そう、なります、かしら…」
「そんな……」
アイシアの顔が愁いを帯びる。
エリューシアとしても、アイシアの悲しそうな顔など見たくもないし、死ぬほど辛いのだが、明日起こるであろうイベントを考えれば、これは渡りに船ではないだろうか。
ここは……乗らねばならない! このビッグウェーブに!!
「あぁ、シア…そんな悲しい顔をしないでおくれ。大丈夫だ、父様がこんなもの握り潰して「お父様」…」
アーネストがグッと拳を握り、アイシアを慰めようとしていた力説に、エリューシアが言葉を被せた。
「お話だと王弟殿下であるグラストン公爵、そしてその細君であるシャーロット夫人、お二人ともから登城を求められているのですよね?
王弟殿下の為人は存じませんが、確かシャーロット様は現王の元婚約者であらせられた御方、何の考えもなしに、そんな事は書いてこないのではありませんか?
それに金蝋を用いているのであれば、王族から命令とも取れますが、あえて公爵家の紋章を使われているのであれば、強制力のある命令と言う形を取りたくなかったのではないかとも考えられます。
そういった『お願い』と言う形を取られた事について、あまり無下にするのは……」
両親形無しである。
揃って情けなく眉尻を下げ、口をへの字に曲げている。
「我が子ながら、なんという……」
「ほんと…エルルには敵いませんわね」
しかし、納得できないのはアイシアである。
「そんな、嫌ですわ。私もエルルとお出かけが良いです」
「シア……」
「あぁ、そうよね…どうしましょう」
エリューシアだってアイシアとお出かけしたい。
それはもう切実に!
だが、明日のお出かけは命がけになる可能性が高い以上、アイシアの同行を求める訳にはいかない。
ここは我慢するしかないのだ!
「お父様が最初断ったにも拘らず、それを伏して封書を送ってこられたという事は、王弟殿下ご夫妻には、やはり何かお考えがあるのではないでしょうか。
明日の用件は、恐らくですが、お姉様の婚約話か何かではないかと危惧します。
ならば、そんな大事な話をお姉様抜きでさせてしまうのは、良くないのではありませんか?
私はお姉様には幸せになって頂きたいのです。
知らぬ間に王族と婚約などにでもなったら、お姉様がどれほど苦労されるか……お姉様の意志や感情が無視される事態は避けねばなりません。
だから、行ってきてください。
ただ……お姉様がお嫌でなかったら、次こそは一緒にお出かけして欲しいです。お姉様と一緒に領都を見て回りたいです。
明日はお店に行って帰って来るだけにするので……ダメですか?」
微かに首を傾け、ほんのり悲し気な色を載せれば、途端にアイシアが感極まったように瞳を潤ませた。
「エルル……嫌な訳ないでしょう? 私だってエルルとのお出かけ楽しみにしていたんだもの……だけど、そうね、エルルの言う通りかもしれないわ。
悪い予感ほど当たると言うもの、知らぬ間に身動きできない状態にされるなんて、そんなの嫌だわ」
援護射撃をしたのに、両親揃って額に手を添え、ふるふると首を横に振っている。
(ぇ? 何故……私、良い仕事したわよね? 完封勝利よ? なのに…解せぬ……)
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