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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
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就寝前にエルルノートへ書き込みをするのは、最早日課となっており、いい加減残り頁が少なくなってきた。この世界、印刷もまだまともにない事からわかる通り、文具もかなり旧時代的な物だ。
(文具も前世知識チート使えば無双できそうよね…というか印刷技術がないのに、学校ってどうしてるのかしら…教科書とかはない? え……マジ?
ゲーム内では教科書破いたりとかのお約束嫌がらせは、しっかりとあった。印刷じゃない教科書を破くって……いやいや、そんな希少な物だったら学校側で管理するんじゃないの? まぁ希少じゃなくても人様の物に故意に損害を与えるなんて、ダメ、絶対。
う~ん、こっちの学校システムと言うか、教育システムの事をもう少し知らないといけないわね。ってか、明日お父様とお姉様は王都へ出向いて、多分だけど王弟夫妻と会うのよね? これって使えるかも……明日、お出かけ前にサラッと学校の事聞いて、ちょっと書くとしますか……)
思いつくまま書き記し、後は明日とベッドにもぐりこんだ。
翌朝目覚めて朝の準備を終えれば、何時ものようにナタリアがやってくる。髪を整えてもらい朝の勉強時間を、昨晩考えた事の調べ物に使おうと、図書館へと出向いた。
敷地内に建てられた図書館は24時間いつでも営業中だ。ヘンドルはいつ寝ているのかと不思議になった事もあるが、実は補佐官としてもう一人いる。
もう一人の名はターニャ・ロモロックといい、ヘンドルの奥様だ。
今朝図書館に居たのはターニャの方で、昨日、ヘンドルの去り際の様子が気になっていたエリューシアは、聞くに聞けず、ちょっぴりもにょりつつも、お目当ての資料を探し出す。
夫妻によりきっちり分類されているので、見つけにくいという事はないのだが、前世の図書館にあったようなデータベースがあれば良いのにと思っ……そっ閉じしよう、そうしよう、無い物はないのだ。
朝食までそれらしき書物を何冊か開いたが、教育現場での教科書他の扱い等が書かれた書物には、当然ながら行き当たらなかった。
学校ごとに違いの出る部分だろうし、ここは卒業生に聞くのが早いと、早々に図書館を出て朝食へ向かう。
本日のメニューは緑の多いサラダにスクランブルエッグ、ベーコンソテー、パンとスープ、そして 果物だ。
多分貴族家では一般的な朝食ではないだろうか。
味の方は、普通だろう。
味付け自体がそもそも塩と……あと香辛料も使用されるが、高価な物なので、それを使う事は貴族としてのステータスに直結するらしく、使うときは豪快に使っていた。
過去形なのは、エリューシアが苦言を呈した為だ。
香辛料なんて使えば使う程良いというものではない。
これは結果として父母にもアイシアにも好評であった。
とは言え、あまり踏み込んで言わないように気を付けている。
日本人転生あるあるで、味は少しでもマシになるような提言はしたい所なのだが、この世界なりの文化や習慣なんて言うものもあるし、まだ幼児と言って良い自分が、あれこれ口出しするのも申し訳ない。料理人には料理人の面子とか、色々あるだろうし…きっと。
香辛料の使い過ぎや油の多過ぎなど、ちょっと耐えかねるものに留めている。
とはいえ苦言以降、料理長のデリックが偶に意見を求めて来るので、それには対応している。
おかげでデリックの意欲もさらに高まり、アップルパイなんて言うのも食べられるようになったのだから、悪い事ばかりではないはずだ。
今日の朝食も平穏に……いや、アイシアとアーネストの表情はあまりさえなかった…というか目が座っていた。まぁ王都へ出向き、あれほどの確執がある王族と会うなんて言うのは、気が重い話……殴りつけてでも拒否したい話だろうから仕方ない。
仕方ないので、朝食後すぐには訊ねず、各自が部屋へ戻りはじめ、セシリアが一人になるになる頃合いを待った。
「お母様、少しお聞きしたいことがあるのですが」
「何かしら? エルルの質問は難しい事が多いから、緊張しちゃうわね」
学院2位保持者が何を言うと、心の中で突っ込みつつ、昨晩から気になっていた事を訊ねた。
「お母様は王都の学院に行ってらっしゃったのですよね?」
「学院? まぁそうね。といっても途中からなのよ。
私は辺境伯の娘でしょう? 王都は遠いから、自領で家庭教師やら何やらで勉強はしていたのだけど、お父様……エルルから見ればお祖父様が辺境にも学校をって言い始めたのよね。それで王都の学院に視察に行くのについて行って、そのまま編入になっただけなの。学生の目線も知りたいとおっしゃって」
「そんな経緯が……あの、それでお聞きしたいのは教科書含め、備品の事なのですが、それ等の管理はどうなっていたのですか?」
「そんな事が知りたいの? 相変わらずエルルは少しズレているというか……ふふ、まぁ良いわ」
その後セシリアからストップを喰らうまで、あれもこれもと質問し続けた。
部屋に戻り、あれこれとしているうちに出掛ける準備をしなければならない時間となったようで、ナタリア達がエリューシアの部屋へ大挙して押しかけて来た。
あまりの人数と気合に、思わずたじろげば、その隙を逃さないとばかりに微笑む使用人達に捕まった。
「エリューシアお嬢様の初のお出かけです。皆、気を入れて参りますよ!」
「「「「「「ハッ!!!!!」」」」」」
何処の軍隊だよと内心突っ込んだのは言うまでもない。
そこから先は怒涛の時間だった。どうせ変装するのだからと言っても、誰もがエリューシアを磨く手を止めない。
こんな幼児のどこに磨く余地があるんだ、やりすぎだろう!?と、小一時間問い詰めたい心境になったとして、誰が責められるだろう…全てが終わった時には、エリューシアは既に疲労困憊でへろへろだった。
ただでさえ幼児の美しい肌は更に磨かれ、ぷるぷるのつやつやだ。
真珠の様な光沢を放つ艶やかな銀髪は綺麗に編み込まれ、つばの広い帽子の中にきっちりと収められていて、煌めく精霊眼の美しい紫も、無粋な瓶底眼鏡で後程隠す事になっている。
どれだけ手を入れ磨き上げようと、まだ公にするわけにいかないのだから仕方ないが、代わりのように衣装は入念に整えられた。
ほんのりとした、白に近い水色のワンピースで、スカート部分はふんわりとくるぶし辺りまでの長さだが、前側にはレースが折り重なるようにあしらわれていて、品が良いながらも、とても可愛らしく華やかな衣装となっていた。
「あぁ、なんという」
「きゃぁぁぁ! この世のものだなんて噓でしょ!」
「やだもう、拉致監禁しちゃダメですか…」
「妖精がいるわ……いえ、天使よ天使」
仕上がったエリューシアの姿を見て使用人達は何故か、時折不穏な発言が聞こえるものの、多くは感極まったように涙ぐんだり抱き合ったりしていた。
当の本人は出かける前から疲れ切っていて、その脳内では只管、動きにくいだの、重いだのと不満を漏らしていたが、そこは仮にも貴族家のお嬢様歴既に4年以上なので、そつなくにっこりと微笑んで見せれば、何故か数人卒倒していた……解せぬ。
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