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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
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しおりを挟む王都へ向かうべく、転移紋がある神殿へ行くアーネストとアイシアとは、公爵邸前で別れた。最後まで渋っていた二人には申し訳ないが、今日はエリューシアと居ない方が良い。それに手紙も渡してもらいたい。勿論あんな案がすんなり通るだなんて思っていない。
何しろ王家のやらかしを、アーネストの行動を邪魔しつつ、全てを有耶無耶のまま終わらせるような、そんな手を打てる相手が王家についているのだ。
そんなのを相手に、エリューシアが考えるような子供だましなど、通用するはずもないだろう。
だからこそ、可能な限り打てる手は打っておきたい。
結局シナリオに抗えなかったとしても、そこに至るまでに抗えば、大団円に……いや、エリューシアとしてはアイシアを筆頭に、使用人達も含めた自分の家族がハッピーエンドに到達できればそれで良い。
そんな事を考えているうちに馬車は、ラステリノーア公爵家が治める地の領都カレンリースの商業区へ近づいていた。
商業区と言っても平民向けではなく貴族向けの商会が並んでいるせいか、行き交う人影は思ったより少ない。
空模様もあまり芳しいといえないのも原因の一つだろう。
最も馬車の窓はきっちり閉じられていたので、そんな光景さえエリューシアが見ることは叶わなかったが。
そうこうするうちに馬車はゆっくりとその速度を落とし、静かに止まった。御者を務めてくれているのは、公爵家の馬丁マービンで、馬たちも彼のいう事はよく聞くのだ。
「お嬢様、眼鏡をおかけください」
メイドのドリスが瓶底眼鏡を差し出して来た。
窓をきっちり締め切っていたので、眼鏡だけは外していたのだ。何しろ瓶底眼鏡なので、あまり長く掛けていると頭痛がしてしまう。
手袋とマフラーも二人のメイドによって、あっという間に装着が完了し、サネーラが外のマービンに合図を出せば、馬車の扉が開かれた。
初めてのお出かけの天候が恵まれなかったのは残念だ。
石造りの並ぶ壁はどこまでも寒々しいほど整然としており、曇天の空気と相まって、彩度の欠けた、まるで古びた白黒写真の様な不思議な感覚に襲われる。
盗賊対策なのか、並ぶ建物はどれも何処かの商会のものだと思われるのだが、表札も何も掲げられていないので、余計にそう感じるのだろう。
最も古びた白黒写真だ等とは、エリューシア以外に通じない。
ドリスとサネーラが先に降り、ついでセシリアが馬車を降りる。
最後のエリューシアはドリスが支えて降りるのを手伝ってくれた。護衛騎士も馬を降り、二人はすぐに脇につく。
もう二人は先に警護についた者の馬を誘導しているようだ。
扉を開けて中へ入れば、ほわりとした暖気が身を包む。
「ラステリノーア公爵夫人、そしてお嬢様、ようこそお越しくださいました」
「まぁ、もしかして貸し切りに…?」
セシリアが店内を見回して呟けば、店内で幾人かのお針子らしき者達と待ち構えていた店主らしき人物がにこやかに答えた。
「当然でございます。まずはこちらに」
奥まった一室に案内されソファへ誘導される。店の使用人だろうか、豊かな香りのお茶を淹れてくれた。
きちんと教育されているようで、エリューシアの隠しきれていない淡く輝く髪色が覗き見えても、全く動じる気配がない。流石人気の一流店と言われるだけの事はある。
最も、どうやらここ『ローズ・ネネランタ服飾店』のオーナー兼デザイナーのネネランタ・ボルトマイス伯爵夫人が、セシリアの友人であることも影響しているかもしれない。
外の寒さに強張った身体を解す様なお茶に、ホッと息を吐く。
少しして体が温まった頃にセシリアと店主が話しを進め始めた。
最後の調整についても尋ねられたが、それはやんわりと断りを入れる。流石にここで調整となれば帽子は外すしかないが、いくらバレている可能性が高いとはいえ、それは避けたい事態だ。
それに公爵家にもドレスの手直しは出来る者がいるので、このまま持ち帰って何の問題もない。
ドレスと幾つかの宝飾品、全てを確認して包み直してもらえば、もう後は帰邸するだけである。
包まれた品々は全て店側の使用人達が馬車に運び入れてくれており、ドリスとサネーラが手袋だのマフラーだのを手渡してくれる。
店の扉を開き、外へと出れば吐く息は白く、折角暖まった身体がフルリと震えた。
御者を務めてくれているマービンが、馬車の扉を開いて既に待っており、護衛騎士4人も、すぐさまエリューシア達の周囲を警備についてくれる。
このまま無事に馬車に乗りこめれば、予想していたイベントは回避できたと思っても良いだろう。
「さぁ、エルル、帰りましょうか。とても寒いからまっすぐ帰ってお父様とアイシアの帰りを待ちましょう」
「はい、お母様」
そしてエリューシアを馬車へ乗せるべく、護衛騎士の一人、副団長のスチアルド・オラミスタンが近づき抱き上げた所で、近づく複数の靴音に気付いた。
敵はそれぞれ剣や何かの棒みたいなものを構えており、全員が身元を割れさせない為か、頭多袋を被っていた。
「おい、ターゲット以外は斬り捨てろ!」
「こんなに護衛がいるなんて聞いてねーぞ!!」
「うっせー! そいつだ、そのガキだ!」
エリューシアを抱きかかえていたスチアルドが、そのままセシリアも背に庇うようにして一歩下がる。そこへ割って入るかのように、残り3人の護衛騎士が剣を抜いて賊を迎え撃つ形だ。当然戦闘訓練を受けているメイド二人も、何処から出したのか暗器をすでに手にしていた。
「どけええぇぇぇえええ!!」
一番先頭に立って駆けてきたガタイの良い大男が、かなりごつめの長剣を振り被っている。
ガン!!と大きな音と共に、スチアルド達を庇うように間に入り込んだ騎士の一人がそれを自身の剣で弾けば、弾かれた大男の方が後ろへと倒れ込み、尻もちをついている。
「ってええ! くっそ、野郎ども、さっさとガキ連れてこい!!」
部下なのだろうか、他の小汚い恰好をして、少し小柄な奴の手を借りて立ち上がると、自身は少し逃げの態勢になりながら、大声で手下たちに指示を飛ばした。
「そっち、騎士どもを止めろ! ええい、その女どももだ!! おい、横からかっさらえ!!!」
隙をつこうと、一部の賊が一斉に護衛騎士達に飛び掛かる。そんな賊のなりふり構わない暴れ様に、騎士達は兎も角、まだ少女のサネーラは押され気味だ。
ざっと見ただけでも、賊は15人近い。
片や騎士やメイド達は、セシリアとエリューシアを守りながらになるので、どうしても攻勢には出にくい。
エリューシアを抱え、セシリアを背後に守っていたスチアルドは、このままではまずいと、御者のマービン手を借りてまずセシリアを馬車へと乗せ、そのセシリアにエリューシアを渡そうと手を伸ばしたそこを狙われた。
「やってやらあああ!!」
「く!!」
両手でエリューシアの身体を支えていた為、スチアルドは剣を抜くことが出来ず、もう斬られると思った瞬間―――
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