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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
13
必要な物を持ち、玄関フロアへ向かえば、どうやらエリューシアが一番最後だったようだ。
階段を下りれば、階下から見上げてきた父母と姉が一斉に固まるのが見える。
あんなにナタリア達が頑張って用意してくれたが、どこかおかしいのだろうかと動揺し足を止めれば、アーネストが階段を駆け上がってきた。
そして避ける間もなく抱き上げられる。
(ぐ…ぐ、るし……いぃ……)
抱き上げただけでは足りなかったのか、苦しいほど抱き締められた。酸素が肺に入ってこず、このままシナリオ通り死ぬのではと危惧したほどだ。
「あ”あ”あ”あああぁぁぁぁ!!!!!! 私のお姫様はなんて愛らしいのだあああぁぁぁ!!!!」
「旦那様ズルいですわ!!」
「そうよ、お父様だけズルいわ!!」
ドレスと言う重苦しい衣装に身を包んでいる女性陣に、階段を駆け上がったりするというのは、なかなか厳しい動作なのだ。
早く降りてこいと言う圧を感じたのかどうかわからないが、アーネストはエリューシアを抱き締めながら、ホクホクと階段を降り、エリューシアを床へ降ろしてくれた。思わず胸を押さえて荒い呼吸を繰り返す。
次いで抱き締めてきたのはアイシアだ。
「なんて可愛いのかしら! 私の妹は世界一ね!」
「シア! お母様にも譲って頂戴!」
「嫌よ!! お母様はこの後エルルとお出かけできるじゃない!」
「うぐ……」
そう、アイシアとアーネストは渋々ながら、王都へ向かわねばならないのだ。
「はぁ……」
ゆっくりとエリューシアを抱きしめていた腕を緩めるが、やはりアイシアは気が向かないと言わんばかりの表情で溜息を零す。
「お姉様」
「……大丈夫よ。悪評しか聞いてこなかった王一家だけど、噂通りとは限りま……あぁ、でもだめよ。噂通りに違いないって思ってしまう自分がいるわ!……自分を騙せないのよ!!」
「ま、まぁ……概ね噂通りだ。ただ奴らは人の話を聞かないという技だけは一流なんだ。我らは自分を手放す事無く、気をしっかりと持って立ち向かおう」
「……お父様、何の慰めにもなっていませんわ……」
まるで今から死地に赴くかのような空気だが、見れば使用人達までそっと目頭を押さえているではないか……。
王城…どんだけ魔境なんだよ……。
下手すると魔王の方がマシだとでも言いだしそうな雰囲気だ。しかし、この空気に呑まれてばかりもいられない。エリューシアはアーネストに近づき、手に持っていた手紙を差し出した。
「エルル?」
「王弟御夫妻に会うときに渡して頂けませんか?」
「手紙かい? 何を書いたんだい?」
エリューシアは片側の口角をニヒルに釣り上げ、不敵な笑みを作る。
「フ……次の一手です」
「……ん?」
「だから、次の一手ですの! お父様、お願いしましたからね!?」
アーネストがよくわかっていないだろう事は。その表情から見て取れるが、コクコクと反射のように頷いているので、必ず果たしてくれるだろう。
そう、今日と言う日を無事乗り切れたとしても、物語の強制力とやらが恐ろしいのもまた事実。
己もそうだが、アイシアも王立学院に通うのを避けられない可能性を考えているのだ。
図書館で教育について調べた時に分かったのだが、現王のやらかしのおかげで、現在王立学院は平民に門戸を閉ざしている。そして養子という抜け道についても、試験を実施して、最低限の学力、そして礼儀がなっていないものは弾かれるようになっているのだ……が、やはりというか何というか、どうにも形骸化しているように思えてならなかった。名前だけとは言えトップの王族がアレでは、ある意味仕方ないかもしれない。
実際書物を読んでも、綺麗に整えられた文面で、内情は全く見えてこない。
手段があるなら、現在の学院の様子をどうにかして探りたいのだが、手段がないのだから仕方ない。父アーネストに助力を頼んでも良いのだが、これまで今日と言う日に備えるのに注力しすぎていて、すっかり忘れていたのだ。まぁ父母に助力を頼むのは何時でもできる。
しかし比較的まともらしい(?)王弟夫妻にも会うとなれば、別の手段を講じることが可能かもしれない。
どうせ今日を生き延びることが出来れば、その後一か月にはエリューシアの存在は公にされるのだ。
必要なら王弟夫妻であれば、エリューシアは先んじて自分の事を話してもらって構わないと思っている。
それでアイシアの断罪や冤罪を避けられるのであれば安いものだ。
王弟夫妻に書いた手紙には、王立学院の現状視察の実施願い、及び、王立学院で弾かれた落ちこぼれ組や平民たちの救済に、新たに受け皿を創設して貰いたいという希望を書いた。
昨日セシリアから聞いた学院の様子は、正直言ってあまり褒められたものではなかった。
貴族と言う生物だからある意味仕方ないのかもしれないが、学び舎であるはずなのに、まともに勉強している者は殆どおらず、婚姻相手探しと人脈造りに血道を上げる者が殆どだったらしい。まぁ、それも間違いではない……あくまで貴族と言う生物だから。
そんな場所だったから現王妃ミナリーも好き勝手出来たのだろう…。
実際学院主席などと言っても、それにどこまで価値があるかとなると、苦笑するしかないという。とはいえアーネストの主席は誇って良いそうだ。何と言っても創立以来最高の成績での卒業だったと聞いた。しかも前倒し…飛び級をしての卒業だ。
毎年トップ10くらいまでは、本分を忘れず自分を磨いた者達と言って良い様だが、セシリアから聞いた話は、まだ特待生として優秀な平民にも門戸が開かれていた時代の事であって、今はそうではない。
優秀な平民と言うのは、いろんな意味で刺激になっていただろうと思うのだが、それが今は無いとなると、だらけ切ってる可能性もないとは言えないと考えたのだ。
それに現在学院の門戸が開かれていないとなると、優秀な平民たちは勉学の機会を奪われているという事に他ならない。学びたい平民たちにとっては迷惑な話であろうが、邪魔にしかならない落ちこぼれ組とごった煮でも、受け皿があるとないとでは大きな差があるだろう。
必要なら警備隊を常駐させるなどもアリだし……とは言え、それもその受け皿となる場所があっての話だ。
だから、まずは提案。そして現在の学院視察願いだ。
行先が異なる為、アイシアとアーネスト、そしてセシリアとエリューシアに分かれて、それぞれの馬車へ向かう。
護衛は双方に分けねばならなくなったが、それでもセシリアの警護に護衛騎士4名、そしてメイド2名を付けて貰えた。
そのうちの一人、公爵家騎士団副団長スチアルド・オラミスタンが声をかけてきた。
「奥様、本日警護に当たります4名揃いましてございます」
「今日は手間をかけるわね、しかもエルルが我儘を言ったそうで……ごめんなさい」
「滅相もございません。エリューシアお嬢様の御心配は尤もな事。奥様とお嬢様の身の安全の為にも、護衛騎士を増やすのは当然の事でございます」
「ありがとう」
セシリアと副団長スチアルドのやり取りを見ていたエリューシアは、近づいてきたメイドに顔を向ける。
そっと近づいてきたのは同行メイド2名。どちらも戦闘訓練をこなした戦闘メイドで、一人はセシリア付きのドリス、もう一人はドリスの姪にあたるサネーラだ。
「じゃあ私達も行きましょうか」
「はい」
(さぁ出発だ。
お母様に傷など負わせない、自分も生き延びる。どういう事態になって誘拐されるのかわからないが、全力で抗ってやる)
エリューシアは少し雲の多い寒空を見上げ、心の内で呟いた。
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