【完結済】悪役令嬢の妹様

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4章 小さな世界に集いしモノ

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 サキュール先生が10位からと指定して自己紹介をさせていく。
 しかしエリューシアは思考の海に沈んでいるので、あまり、というか全く真剣に聞いていない。
 10位は先だってエリューシアに突撃してきたフラネア・ズモンタと言う少女だったのだが、伯爵家の令嬢かと思うのみで思考作業…というか、後にしろよと自分突っ込みは入れるが、ついつい記憶発掘、整理作業を行ってしまう。

(まぁ、まだ出会いイベントとかは気にしなくても良いか……。
 学院入学は一応10歳になればとされているけれど、多少前後しても問題はない。私のように前倒しで入学する者も居れば、金銭的な理由等で遅れて入学してくる者もいる。婚姻などでの前倒し卒業や、スキップ制度もあるし、何ならと中途退学も珍しくない。それ以前に学院には来ず、家庭教師だけで済ませる者だって普通にいる。

 ゲーム本編は確か卒業までの3年間。
 シナリオ通りなら途中編入であるシモーヌは、現時点では学院内にいないはず。
 勿論色々と変わってしまっているから、居ないと断言するのは危険よ。警戒は緩めず、だけど叶うならシモーヌが居ない間に足場固めはしておきたいわね。

 何しろゲーム内でのシアお姉様は王子妃教育もあって、学院には王子妃教育が一段落するまで殆ど通えていなかったんじゃなかったかしら…だから取り巻きはいても、友人は……そんな環境だったから、あんな馬鹿げた戯言が罷り通ってしまったわけで。

 とりあえずシモーヌと疑わしい人物がいないか、確認する事から、かしらね、って、自己紹介聞いといたほうが良かったわね…失敗した)

 意識を戻せば、現在は9位のバナン・ドコス伯爵令息が自己紹介をしていた。結構思考の海に沈んでいた自覚はあるので、10位のフラネア嬢の自己紹介時間が長かったのだろう。
 良かったのか悪かったのか……。

 エリューシアの座る席は窓際の最前列。バナンの席は扉側から2つ目の第2列になるので、一応姿もを見ておこうとやや後ろ気味に上げた顔を向けた瞬間、後ろから声が聞こえた。

「ぁ……綺麗…」

 丁度自己紹介の終わったバナンが席に腰かけた所だったので、小さな呟きは思った以上に室内に響き、全員の目が呟き主の男子生徒に集中する。
 エリューシアも自分の真後ろの席からだったので、思わず振り返れば、静まり返っていた教室の空気が一瞬で変わるのがわかった。

「嘘…あれって」
「本当に…」

 男子生徒に集中していた視線が、何故かエリューシアに向けられている。

(ぇ? 何…?)

 窓から差し込む光が時間経過と共に角度が変わって柔らかく減じ、教室内に溢れていた眩しさによる逆光がいつの間にか解消されていた。その為エリューシアの髪が淡く発光している事に気づかれた様だ。
 そして後ろを向いてしまった事で、その精霊眼も同じくだ。

(ぁ、マジか…まだ誰も気づいてなかったのね。
 そうよね、さっき猪娘が突撃してきた時は、オルガとサネーラに直視は阻まれていただろうし、その後はすぐ先生の話から自己紹介。で、今になって逆光も落ち着いた事で気づいたと……まぁ、わかるんだけど…)

 軽く視線を巡らせれば、事前に承知していた先生と、アイシア、オルガを除く全員が目を驚愕に見開いて固まっている。

(わかりやすいわね……でも、この事態、どうしたものかしら)

 ふとサキュール先生を見れば、彼も困っているようだ。仕方ない…。

「先生、私が先に自己紹介をさせて頂いても宜しいですか? このままでは教室内が落ち着くのにかなり時間を要しそうですし」
「ぁ…そうですね。申し訳ないですがお願いできますか?」

 『はい』とい返事をし席から立ち上がって、ぐるりと顔を巡らせる。

「エリューシア・フォン・ラステリノーアと申します。
 ラステリノーア公爵家が次女にございます。未熟故、皆様にはご迷惑をおかけすることもございましょうが、どうぞ宜しくお願い致します」

 そう言って綺麗なカーテシーを行えば、微かな溜息が耳に届く。小さな淑女と名高いアイシアの妹なのだから、この程度出来て当然である。

「あれが公爵家の秘された姫か」
「流石と言うか…」
「はぅぅ、綺麗……」

 そのまま席に座り直し、先生の方へ顔を向ければ、慌てたように彼が8位の少女ノ方へ向き直る。
 エリューシアのせいではないと思いたいが、どことなく浮ついた空気のまま、これから学友となる彼らの自己紹介は淡々と済まされた。
 何とも申し訳なくなってしまうが、エリューシアが望んで引き起こした事ではない為、如何ともしがたいのだが、一応心の中で謝っておこう…ゴメンナサイ。

 彼らの自己紹介含め印象他は、借り上げ邸の自室に戻ってから、きちんとエルルノートに書き込むとしよう。

 その後は前世で言うところの黒板のような板に、学院内の簡単な配置図を掲げて設備の説明を受ける。
 その時に残念な事が判明した。
 エリューシアは沈黙を守ったまま、その眉根を盛大に寄せる。

 教室は成績で完全に分離。校舎そのものも違うので問題はない。今日の騒動も踏まえ、今日この後から調整を更に入れる予定らしいので、始業は明後日以降になるという。
 まぁ成績で分けるという事自体が、学院として初の試みである以上、都度調整を入れたりするのに時間を要するのは仕方ないのかもしれない。
 始業日時については後程連絡が入るとの事だ。
 ということで、そこはエリューシアが残念に思った事ではない。

 残念に思った事は、上位棟と暫定的に呼ばれる事になった成績上位者の教室のある校舎なのだが、談話室など一部施設は通常棟の生徒にも開放して欲しいという要請があり、これを受諾したという話の方だ。
 勉学の場と言う面以外に、友好を深め人脈を作り、また人によっては伴侶を探す場にもなりえる学院で、完全分離は、特に下位貴族からの反発が大きかったらしい。
 エリューシアが過去に手紙で行った提案は、あくまでアイシアの身の安全性を高める為という、実に利己的な理由なので、当然ながらこちらに都合よく通るとは思っていなかったが、実に残念な結果である。

 何しろ通常棟より、こちら…上位棟と呼ばれる校舎の方が豪華で広いのだ。それも無駄に。
 元々職員用施設であったらしいので、豪華で広いのも当たり前なのかもしれないが、やはり生徒の目を憚ったのか、立地が一番奥になっていてあまり利便性は良くない。そんな事情もあって徐々に使われなくなっていったという。
 つまり、利便性は悪いが、豪快で広くて…古びていないのだ。

 そんな場所が通常棟生徒も出入り自由となれば、あの馬鹿リス一行が入ってこない訳がない。
 教室が分離されたのは良かったが、結局出くわす可能性が高いままだという事実は、エリューシアの顔を歪めるに十分な事実だった。





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