56 / 157
4章 小さな世界に集いしモノ
17
しおりを挟むオルガが誘拐の事を追うという話でゴリ押しされてしまったが、エリューシアが欲しい情報を拾ってきてくれるとは限らない。
どうしたものかと唸っていると父母が戻ってきたようだ。
正面玄関が少々騒がしくなり、それに気づいて少女3人も立ち上がる。
「お父様お母様が戻られたみたいね」
「はい、私は一度失礼いたします」
「私も手伝いに行くわ」
玄関へ向かうと、酷く憮然としたアーネストの顔に驚いて足が止まってしまった。美貌の公爵閣下が残念な事である。
流石と言うか何と言うか、オルガは全く動じることなくナタリア達の手伝いを始めている。うん、淑女の手本は母セシリアと姉アイシアだったが、これからはオルガも加える事にしよう。
メルリナも、こっちはこっちで平常運転だ。さっさと荷物を持ち上げようとしている。騎士を目指して訓練に励んでいただけの事はあり、重そうな鞄も何とか持ち上げて運んでいた。
「お父様、お母様、お帰りなさい?」
最後に疑問形になってしまうのは、ここが家であって家でない以上仕方ない。
しかしその後の言葉が続かない。言葉を続ける前に突進してきたアーネストに抱き上げられ、ギュウギュウスリスリの刑に処されてしまったからだ。
(く、苦し、い……頭も、揺れる揺れる……父よ、私、を殺、す気か……ウグ)
「エルル!! あぁ、私のお姫様! あ"あ"ぁぁぁ癒されるぅぅぅ!! エルルには浄化能力もあるのかもしれない!!」
「まぁ、旦那様! 旦那様だけズルいですわ、私だってエルルにただいまって言いたいですのに!」
残念な事にアイシアがまだ眠っているのか自室から出てくる気配がない為、父母のターゲットはエリューシアのみに固定されてしまっている。
先程までの憮然とした表情が嘘のような豹変ぶり。美貌の公爵夫妻が台無しである。
「旦那様、奥様も、まずはお着替えをお願いします」
にっこりと微笑んでいるネイサンだが、その目は笑っておらず、アーネストの腕から半分魂が抜け落ちた様になっているエリューシアを救出し、ナタリアへと流れるような所作で送る。
ナタリアも慣れたもので、そのままぐったりとしているエリューシアを受け取り、既に用意していた水を飲ませていた。
「あぁぁああ!!?? エルル!? エルル!!?? どうしてそんなにぐったりとして、誰だ!!??」
「まぁ、エルル!! 何てこと!!」
―――貴方です、貴方なんですよッ!!
毎度毎度……少しは手加減を覚えて欲しいと思っても罰は当たらないはずだ。とは言え愛情表現だと思えば…その、嫌ではない。嫌ではないからこそ精霊防御もカウンターも発動していないのだろう。
―――本当ニ、気遣イノ出来ル精霊達デスコト…。
しかし今日は少々激しかったせいか、ネイサンに『もう少し早く救出すべきでした』と謝られてしまった。
流れる空気の、この居たたまれなさよ……。
そのネイサンとナタリアに父母が引き摺られて行くのを見送り、再び談話室へ戻ると、先んじて戻っていたオルガがお茶を入れ替えてくれる。
暖かく香り高いお茶にほっこりしていると、着替え終わった両親がやってきた。
子供があまり首を突っ込むべきではないのかもしれないが、どうにも気になっていたので出先の事に話を向ければ、途端にアーネストがムッと機嫌を下降させる。
あまりの様子に、苦笑いで肩を軽く竦めて見せれば、セシリアの方も苦笑を零した。
「エルル、あまり旦那様を虐めないであげて。そうね……何と言うか、そう、何か困ったことがあれば王弟殿下夫妻に助力を求めてね。
迷惑とか考えなくて良いから。そう……どんな話でも持ってっていいわ。
それこそ池のカエルが煩いとか、そんな話でも持ってって構わないのよ? 迷惑だなんて言わせないし、どうにかさせるから……えぇ、必ず……」
セシリアの微笑みに、どんどんと昏いモノが混じって行く。
これ以上突っ込むのはマズい判断して控える事にした。
結局出先で何の話をしていたのかはわからないままだが、王弟殿下夫妻の所に行っていたというだけ理解して、それ以上は諦める。
だが…そっちの話は兎も角、こっちの話は何としてでも通してもらおう。
事件の事について、欲しい情報を得たいという話だ。
オルガやサネーラが調べてくれると言うのだから、任せるのに否やがある訳ではない。しかし、前世の記憶があり、シモーヌの事を一方的な偏った知識とは言え知っているエリューシアは、問答無用でシモーヌ側を警戒し、その関与の有無を確認し対処したい。
だけど『何故?』と問われても、それを説明する事は難しい。まず前世の記憶とか言う時点で、一笑に付されても当然だし、そも上手く説明できる気もしない。
それに黒い靄や気配等、エリューシアにしかわからない事もある。
オルガやサネーラにはエリューシアが及ばない所を調べて貰うのが良いだろう。
だから……。
「お父様、王都の警備隊の方か、騎士団の方を紹介して頂けませんか?」
「警備隊か騎士団?」
アーネストが目を丸くしてきょとんとしている。
唐突な話だったので、それも当然だろう。だが言い訳は考えた。
「はい、さっきのお母様のお話ではありませんが、何かあった時に助けを求める先は多いほど良いと思うのです。
シアお姉様は兎も角、私はこれまで一切外に出ていません。ですので何方とも御縁を持っていないのです。そんな私が何かあったとして助けを求めた時に、信用されるとは思えません」
「ぁ……」
「……エルル」
そう、エリューシアと言う存在は、この王都では噂さえ流れた事のない新参の子供に過ぎないのだ。
父母はエリューシアのこれまでを思ってか、表情を曇らせているが、無いのなら作れば良いだけである。
「ごめんなさい…そうよね、エルルはずっと…お披露目会も流れて、挙句先日までは避難するしかなくて……」
「セシィ……そうだね。私達も会えなくて辛かったが、本当ならお披露目以降であれば他家の子供達とも交流をもてたはずなのに、それさえ…」
友人の一人もいない現状に心を痛めてくれているのだろうが、正直そんな事はどうでも良い。ぶっちゃけアイシアが元気に笑っていてさえくれれば、エリューシアは幸せなのだ。そこに一切の迷いも揺らぎもない。我ながら笑ってしまう程の執着だと思うが、そこにブレがない以上、エリューシアは幸せだし、不幸だと思う事もない。いけない、父母と使用人達も追加しておかねば。
それにこんな事は子供らしくなさ過ぎて口に出せないが、下手な縁は身を滅ぼす原因にもなりうるので慎重に見極めたい。
ま、そうは言っても思う通りには行かない事も多くなっていくだろうが。
「お父様お母様が私を心配して下さるのはとても嬉しいです。でも、実の所私はそれを嘆いた事はありません。
これまで何も持たなかったなら、これから持てば良いだけではありませんか。
友人も御縁も、これから作って行けば良いと思っております。
ですので、どうか、是非! 王都警備の方か、騎士の方をご紹介くださいませ!」
そう、そしてエリューシアが憂いなく王都を歩けるようにしてほしい。
何故なら資金調達の為にも、探し出したい人物がいるのだ。まだ時期的には間に合うはず。だが、運悪くあちらと接触して取り込まれていたなら、その時は処分も考えなければならない。
エリューシアにとって邪魔になる前に……。
―――難関攻略対象の一人……暗殺者カーティス。
37
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる