【完結済】悪役令嬢の妹様

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4章 小さな世界に集いしモノ

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 オルガが誘拐の事を追うという話でゴリ押しされてしまったが、エリューシアが欲しい情報を拾ってきてくれるとは限らない。
 どうしたものかと唸っていると父母が戻ってきたようだ。
 正面玄関が少々騒がしくなり、それに気づいて少女3人も立ち上がる。

「お父様お母様が戻られたみたいね」
「はい、私は一度失礼いたします」
「私も手伝いに行くわ」

 玄関へ向かうと、酷く憮然としたアーネストの顔に驚いて足が止まってしまった。美貌の公爵閣下が残念な事である。
 流石と言うか何と言うか、オルガは全く動じることなくナタリア達の手伝いを始めている。うん、淑女の手本は母セシリアと姉アイシアだったが、これからはオルガも加える事にしよう。
 メルリナも、こっちはこっちで平常運転だ。さっさと荷物を持ち上げようとしている。騎士を目指して訓練に励んでいただけの事はあり、重そうな鞄も何とか持ち上げて運んでいた。

「お父様、お母様、お帰りなさい?」

 最後に疑問形になってしまうのは、ここが家であって家でない以上仕方ない。
 しかしその後の言葉が続かない。言葉を続ける前に突進してきたアーネストに抱き上げられ、ギュウギュウスリスリの刑に処されてしまったからだ。

(く、苦し、い……頭も、揺れる揺れる……父よ、私、を殺、す気か……ウグ)

「エルル!! あぁ、私のお姫様! あ"あ"ぁぁぁ癒されるぅぅぅ!! エルルには浄化能力もあるのかもしれない!!」
「まぁ、旦那様! 旦那様だけズルいですわ、私だってエルルにただいまって言いたいですのに!」

 残念な事にアイシアがまだ眠っているのか自室から出てくる気配がない為、父母のターゲットはエリューシアのみに固定されてしまっている。
 先程までの憮然とした表情が嘘のような豹変ぶり。美貌の公爵夫妻が台無しである。

「旦那様、奥様も、まずはお着替えをお願いします」

 にっこりと微笑んでいるネイサンだが、その目は笑っておらず、アーネストの腕から半分魂が抜け落ちた様になっているエリューシアを救出し、ナタリアへと流れるような所作で送る。
 ナタリアも慣れたもので、そのままぐったりとしているエリューシアを受け取り、既に用意していた水を飲ませていた。

「あぁぁああ!!?? エルル!? エルル!!?? どうしてそんなにぐったりとして、誰だ!!??」
「まぁ、エルル!! 何てこと!!」

 ―――貴方です、貴方なんですよッ!!

 毎度毎度……少しは手加減を覚えて欲しいと思っても罰は当たらないはずだ。とは言え愛情表現だと思えば…その、嫌ではない。嫌ではないからこそ精霊防御もカウンターも発動していないのだろう。

 ―――本当ニ、気遣イノ出来ル精霊達デスコト…。

 しかし今日は少々激しかったせいか、ネイサンに『もう少し早く救出すべきでした』と謝られてしまった。
 流れる空気の、この居たたまれなさよ……。

 そのネイサンとナタリアに父母が引き摺られて行くのを見送り、再び談話室へ戻ると、先んじて戻っていたオルガがお茶を入れ替えてくれる。

 暖かく香り高いお茶にほっこりしていると、着替え終わった両親がやってきた。
 子供があまり首を突っ込むべきではないのかもしれないが、どうにも気になっていたので出先の事に話を向ければ、途端にアーネストがムッと機嫌を下降させる。
 あまりの様子に、苦笑いで肩を軽く竦めて見せれば、セシリアの方も苦笑を零した。

「エルル、あまり旦那様を虐めないであげて。そうね……何と言うか、そう、何か困ったことがあれば王弟殿下夫妻に助力を求めてね。
 迷惑とか考えなくて良いから。そう……どんな話でも持ってっていいわ。

 それこそ池のカエルが煩いとか、そんな話でも持ってって構わないのよ? 迷惑だなんて言わせないし、どうにかさせるから……えぇ、必ず……」

 セシリアの微笑みに、どんどんと昏いモノが混じって行く。
 これ以上突っ込むのはマズい判断して控える事にした。
 結局出先で何の話をしていたのかはわからないままだが、王弟殿下夫妻の所に行っていたというだけ理解して、それ以上は諦める。

 だが…そっちの話は兎も角、こっちの話は何としてでも通してもらおう。
 事件の事について、欲しい情報を得たいという話だ。

 オルガやサネーラが調べてくれると言うのだから、任せるのに否やがある訳ではない。しかし、前世の記憶があり、シモーヌの事を一方的な偏った知識とは言え知っているエリューシアは、問答無用でシモーヌ側を警戒し、その関与の有無を確認し対処したい。
 だけど『何故?』と問われても、それを説明する事は難しい。まず前世の記憶とか言う時点で、一笑に付されても当然だし、そも上手く説明できる気もしない。
 それに黒い靄や気配等、エリューシアにしかわからない事もある。
 オルガやサネーラにはエリューシアが及ばない所を調べて貰うのが良いだろう。
 だから……。

「お父様、王都の警備隊の方か、騎士団の方を紹介して頂けませんか?」
「警備隊か騎士団?」

 アーネストが目を丸くしてきょとんとしている。
 唐突な話だったので、それも当然だろう。だが言い訳は考えた。

「はい、さっきのお母様のお話ではありませんが、何かあった時に助けを求める先は多いほど良いと思うのです。
 シアお姉様は兎も角、私はこれまで一切外に出ていません。ですので何方とも御縁を持っていないのです。そんな私が何かあったとして助けを求めた時に、信用されるとは思えません」
「ぁ……」
「……エルル」

 そう、エリューシアと言う存在は、この王都では噂さえ流れた事のない新参の子供に過ぎないのだ。
 父母はエリューシアのこれまでを思ってか、表情を曇らせているが、無いのなら作れば良いだけである。

「ごめんなさい…そうよね、エルルはずっと…お披露目会も流れて、挙句先日までは避難するしかなくて……」
「セシィ……そうだね。私達も会えなくて辛かったが、本当ならお披露目以降であれば他家の子供達とも交流をもてたはずなのに、それさえ…」

 友人の一人もいない現状に心を痛めてくれているのだろうが、正直そんな事はどうでも良い。ぶっちゃけアイシアが元気に笑っていてさえくれれば、エリューシアは幸せなのだ。そこに一切の迷いも揺らぎもない。我ながら笑ってしまう程の執着だと思うが、そこにブレがない以上、エリューシアは幸せだし、不幸だと思う事もない。いけない、父母と使用人達も追加しておかねば。
 それにこんな事は子供らしくなさ過ぎて口に出せないが、下手な縁は身を滅ぼす原因にもなりうるので慎重に見極めたい。
 ま、そうは言っても思う通りには行かない事も多くなっていくだろうが。

「お父様お母様が私を心配して下さるのはとても嬉しいです。でも、実の所私はそれを嘆いた事はありません。
 これまで何も持たなかったなら、これから持てば良いだけではありませんか。
 友人も御縁も、これから作って行けば良いと思っております。
 ですので、どうか、是非! 王都警備の方か、騎士の方をご紹介くださいませ!」

 そう、そしてエリューシアが憂いなく王都を歩けるようにしてほしい。
 何故なら資金調達の為にも、探し出したい人物がいるのだ。まだ時期的には間に合うはず。だが、運悪くあちらと接触して取り込まれていたなら、その時は処分も考えなければならない。
 エリューシアにとって邪魔になる前に……。


 ―――難関攻略対象の一人……暗殺者カーティス。




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