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5章 不公平の傍らで
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しおりを挟む―――パタン
広げていた手帳を閉じる。
窓の外には朝焼けが広がり、夜の帳を追いやろうとしている様子が見えているので、間もなくオルガかアッシュが部屋の扉をノックするだろう。
既に登校の準備は終えている為、問題はない。
羊皮紙のメモと言うか切れ端が沢山挟まっているので膨らみ切っているが、アマリアの最期の願い通り、崩れた部分も綺麗に修復されており、最初に見た時よりも幾分厚みが増した気がする。
手帳にはアマリアの兄アソーツが、血の滲むような思いをして捜索していた事が窺える書き込みを、至る所に見る事が出来た。
アマリアが生まれて直ぐに母親が死亡し、仕事で忙しい父親に代わって、アソーツが育ててくれたようなものなのだと、アマリア自身も言っていたから当然の事だろう。
《学院へ赴いた
クラスメイト達から話を聞いたが、友人関係に問題はなかった》
《やはりモレンダスト領へは無事に到着していた
商店の女将が覚えていた
何処へ行ってしまったんだ
何故見つからない》
《父上は心痛のせいか倒れた
だが俺まで倒れる訳にはいかない
妹を何としても見つけ出さないと
誘拐だと言うなら、どうして脅迫状の1つも来ないんだ》
《母上
どうか見守ってくれているなら、アマリアを無事に返してください
藁にも縋りたい
何でも良い、手掛かりが欲しい
弱音を吐いても仕方ないと分かっているが
神よ、お願いだ、どんな小さな事でも良いんだ》
《モレンダスト伯爵の許可は得ている
今日は西側の領民達に話を聞く事が出来そうだ
ヒュージル君も顔色が悪い
互いに顔色が悪いと言いあって、久しぶりに笑えた気がする》
そんな走り書きが、時系列もめちゃくちゃに書き込まれている手帳を、エリューシアはそっと撫でた。
その隣にはアマリアが、最期に言い残した飾り箱が置かれている。
どちらも無事メフレリエ家から、エリューシアへ手渡された。
木で作られた箱に銀細工を随所に施した飾り箱の中には、緑色の石が使われた宝飾品と、赤色の石を使った宝飾品が入っていた。アマリアの瞳は緑色だったから、この赤色はもしかしたら婚約者の色だったのかもしれない。
アマリアの言った通り宝飾品としての価値は高くはないが、エリューシアにとっては、5歳のお披露目時の為に作られた竜心石の首飾りと同じく、何物にも代えがたい大事なモノとなっていた。
(それにしてもアマリアの言ってたとおりね……。
本当にちょっとした感想も書き記してあるわ。おかげで心の動きまで想像できてしまって……こっちまで心が痛い…。
そのせいだけではないのよ……えぇ、こう、余白がないと頁を戻ってまで書き留めてあるから、前後がおかしな事になってて読み解くのも大変なのよ。
あぁ、遅々として読み進まない……まぁじっくり読み解いていくしかないわね)
そんな愚痴を心の中で零していると、扉がノックされる音に気付いた。
アイシアの準備が整ったのだろう。
手帳と飾り箱を、エルルノートや竜心石の宝飾品が入った宝石箱等、大事なモノが入った抽斗に戻し鍵をかけてから、エリューシアは扉の方へと足を向けた。
学院は相変わらずだ。
クリストファとマークリスの席は空席のままだし、もしかしたらオザグスダムの王子王女が来るかもしれないと囁かれていた2つの席も、変わらず空席のままだ。
一応探りは入れているが、オザグスダム王国からの船が入港しているらしい事まではわかったが、それ以降の話は錯綜していて、どうにも要領を得ない。
既に入国していると言う話もあれば、未だ港で上陸許可待ちだとか言う話もある。
確かめたい所だが、オザグスダム王国からの船となると、入港したのは南のザムデン領の港だろうが、エリューシア達の居る王都からはかなり離れていて、おいそれと足を延ばす事も出来ない。
ジョイはエリューシアからの依頼の調査中だし、アッシュやオルガにお願いしようにも、警護の役目も担っている彼らは渋るだろう。
それ以前に彼の国の事は、エリューシアが気を揉んでも仕方ないという部分があるのも確かだし、何より今は目の前の……ぃゃ、実の所かなり距離は離れているのだが、そちらの光景の方がずっと気にかかる。
(なんともはや……)
これまでも通常棟と上位棟に分かれているので、謎の人物『フィータ・モバロ嬢』とは直接的な接触はない。
勿論積極的に関与したい訳ではないし、アイシアの身の安全を考えれば、近づけない、近づかないとした方が良いに決まっている。
だが、そうは言っても同じ学院内に居る以上、見かけたりする事はあった。
遠目でしかないので瞳の色までは確認できなかったが、メルリナが言っていた通り、ふわふわとした柔らかそうな薄いオレンジ色の髪はかなり目立つ。
フィータ・モバロの姿絵を見た時には、家族全員が揃って澄んだ青い瞳で描かれていて、それについ気を取られたが……。
(そうよね……やっぱり髪色も不審だわ。
絵の中のフィータ嬢は幼い事もあってか、他の家族より髪色は薄く描かれていたけど、決してオレンジ色だった訳ではない。
まぁ髪は染める事も出来るから、大きな意味を持つとは言えないかもしれないけど……画家が赤みがかった薄いオレンジ色なんて特徴的な髪色を残さず、薄茶の色に塗るなんて考え難いのよね。
何より幼い子供……末娘だけ染めるなんて…理解不能よ。
あぁ、でも本当は薄いオレンジに見えていたけれど、絵の中だと1人だけ浮いてしまうから、そうならないような色を選択したという可能性も……。
………ぅん、今考えてもわからない事はわからない。
それにしても張り付いたような笑顔で、居並ぶ取り巻きの図って……思った以上に薄気味悪いわね……)
最初の頃に聞いた様相とは異なり、今は取り巻きの生徒の多くが後ろに控えている。
一様に何処か虚ろな感じのする笑顔を張り付け、無言で防壁のようにずらりと並んでいるのだ。正直一見しただけで後退ってしまいそうな程、異様な光景になっている。
そして、フィータ・モバロの傍には数人の男子生徒だけが侍っていた。
一人はケスリー・バッカダーナ子爵令息。
メルリナの友人であるクロッシー・チョセタ子爵令嬢の婚約者だった人物だ。『だった』と過去形なのは、既に婚約破棄となってしまった為だ。
揉めた挙句、ケスリー側の有責で婚約破棄となり今に至っているのだが、懲りずにフィータの取り巻き継続中である。
他にも3人ほど見目好い男子生徒が侍っているが、その中で一人……エリューシアが眉を顰める人物が居た。
ロスマン・コナード男爵令息……。
そう『マジない』こと『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というゲームの攻略対象の1人だ。
ゲーム内ではアイシアが王子の婚約者となった事で、後継が居なくなった為に遠縁から養子に入り、アイシアの義兄となった人物である。
ゲーム内での担当は『チャラ男』とでも言えば良いだろうか……。
義父となったアーネストが邸に居ない事を良い事に、養子でしかない癖にアイシアを虐げ、散財する屑男。
まぁチャラ男と言うだけあって、艶めいた容姿なのは間違いない。
実際、フィータ・モバロの取り巻きの中では群を抜いてイケメンだろう。
(はぁ……もう関わる事はないと思っていたのに、結局関わる事になるのね…。
まぁ養子に来てはいないし、シアお姉様に暴言を吐いたりする事はないだろうけど……ぃぇ、油断はいけないわね。
攻略対象に謎の人物……混ぜるな危険!……だわよ)
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