「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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17章 龍球王国 前編

299、武人

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「ん? あれ? 屋敷には行かなんです?」

 レッドは国外の敵に対抗するために建てられた防護壁の前にいた。

「ああ。ここにいる武将が今回紹介したい奴だからな。ついでに乱波者も居るはずだからまとめて紹介出来るはずだぜ?」
「乱波者?」
「ん? あ~……なんつうか、スパイ? とかそんな奴らのことだな。うん」

 アキマサは上機嫌で案内してくれる。モミジは目を点にしながらレッドをジッと見ることしか出来なかった。

(……あれは……一体何だったの?)

 モミジは先に起こった事態を頭の中で反芻していた。
 ホウヨクとレッドとの試し合い。
 龍球出身であり、その実力の程を嫌でも知っているモミジにとってホウヨクは雲の上の存在。
 間合いが広く、重量のある薙刀や長巻を小枝のように振るため、懐に入り込むことが不可能と言われる稀代の武人との一戦。
 腕に自信のある者たちも『アイツとだけは戦いたくない』と言わしめたホウヨクの攻撃をすべて往なし、首や胴に剣を軽くポンッと置く。
 あの時、グルガンを除く全ての人間がポカンと口を開けていた──。

「いやっ! まだまだぁっ!!」

 ──ビュンッ

 ホウヨクはレッドを遠ざけるために置かれた剣を押し退けて長巻を回転させた。

「何も一本勝負とは言ってなぁいっ!!」

 レッドは驚いたように目をまん丸にしていたが、すぐにキッと鋭く睨みつける。

「良き目だっ! ここからは本気で行くぞっ!!」

 ホウヨクは曲芸師のように長巻をあらゆる方向で回転させ始める。触れることはおろか近付くことすら困難な間合い。刃引きなど関係ない、当たれば致命傷は免れない危険域。
 まるで暴風。

「に、兄様っ!? それは本当に不味いですわっ! これは殺し合いではございませんでしてよっ!?」

 竜巻でも起きそうな振り回す勢いに圧倒される。道場内に突風が吹き荒れ、せっかく整えた前髪もバサバサと乱れる。

「と、止めてください師匠っ! 本当にあの人死にますよっ!?」

 モミジの必死な問いかけを無視してアキマサは戦いを凝視する。動くつもりのない雰囲気を感じ取り、グルガンに視線を移した。グルガンは突風の中でも涼しい顔で2人の戦いを見守っている。
 モミジの懇願するような視線に気付いたグルガンは小さく首を振る。

「大丈夫、怖がることはない。レッドなら切り抜ける」
「……~~っ!?」

 言葉にならない声が出る。モミジは頭の中でレッドの立ち位置を自分に置き換え、自分ならどうやって切り抜けるかを模索していた。その度に凄まじい勢いの元、自分の頭蓋が割られたり、袈裟斬りに真っ二つになる自分が容易く想像出来てしまう。

(……これをっ?! 切り抜けるっ?!)

 無茶な話である。
 確かにホウヨクの一撃目を完璧に往なしてカウンターを決めたところは称賛に値する。ゴロツキ相手に強さを隠しただけでなく怯えたように見せていたレッドはかなり胡散臭い奴だが、能ある鷹は爪を隠すというように、ここぞの時に真価を発揮出来る凄い人として一目置いたことだろう。
 ホウヨクに期待していた分、少しの落胆は避けられないが、すぐにホウヨクが負けを認めてくれればモミジとしても外には思ったよりも強い武人がいるのだと感心するくらいで終われたはずだ。

 やはりここは何がなんでも止めるべきではないだろうか。
 自分を犠牲にしてでも止めようとする考えが心の奥底でわずかに首をもたげたその時──。

紅逸刀流くれないいっとうりゅうっ!!──炎天翔えんてんしょう紅蓮斬羽ぐれんざんぱぁっ!!」

 ──ボッ

 空気摩擦により発生した炎が刃に纏わり付き、ほぼ同時5連撃の斬撃がレッドを襲う。

 ──ゴオォッ

 目も開けられないほどの熱波が衝撃波と共に周りにも被害を及ぼす。思わず目を瞑るモミジとアゲハ。
 なんとか目を開けた先にはレッドがホウヨクの背後で普通に突っ立っていた。

「ぐぅっ!? おのれっ!!──空凰穿孔嘴くうおうせんこうしっ!!」

 振り向き様に放つ捻り込むような突き。試合形式の立合いで使って良い技では決っして無い。

 足から腰へ、腰から肩へ、肩から肘、そして手首。全身の回転エネルギーを長巻へと収束させて放たれるただでは済まぬ技。
 当たれば皮や肉を根こそぎ持っていくような掘削機を連想させる。

 頭に血が上っているために正常な判断が出来ないことと、何としてでも攻撃を当てたいと願う焦燥感から、空気を巻き込んででも逃げようとする敵を引き寄せるこの技を使用したのだ。

 ──スッ……カクンッ

 ホウヨクの優れた筋肉とかまいたちを宿した刃先にそっとレッドの剣が添えられ、そのまま下に下げるように上から力を加えられた。
 その時、膝を背後から急に曲げられたようにカクンッと力が抜け、無意識に身体を守ろうと転倒しないように踏ん張った足のせいで勢いが殺され、長巻も伸ばし切る途中で止まる。
 レッドは剣を跳ね上げ、ホウヨクの喉仏に触れるか触れないかという微妙な位置でピタリと止めていた。

 モミジやアゲハには全く以って何をしたのか分からなかったが、とりあえずレッドは無傷でホウヨクの首に剣を掲げていることからレッドが勝利したことだけは分かった。

「そ、そんな……兄様が……」

 ガクッと膝から崩れ落ちるアゲハ。ショックこそ大きかったが、モミジは死人が出なかったことにホッと胸を撫で下ろす。

「ひ、一先ずこれで2本先取ですか……?」
「いや、終わりだよ。レッドが3本取った」
「はっ?」
「よぉっ! 2人ともお疲れさ~んっ!」

 アキマサはモミジの問いに答えると同時に2人を労うためにニコニコ笑いながら歩いて近寄って行った。

「え、ちょっ……師匠?」

 モミジは終始困惑していたが、ホウヨクが高笑いしたことで全て吹き飛んだ。

「はぁーっはっはっはぁっ!! いやぁ参った参ったっ! 手も足も出んとは正にこのことっ!! 完敗だレッドくんっ! 君たちの力になることをここに誓おうっ!!」
「あ、えっと……ありがとうございます」
「いやいや、敗者に感謝など……むしろ、こちらこそ申し出を受けてくれて感謝している。君たちが戦う時には必ず参戦する。何なら今からでもわたくしは行けるぞっ!」

 ホウヨクはメラメラと瞳の奥を燃やして闘志を見せる。アキマサは呆れ気味に突っ込む。

「だからすぐじゃないっつーの。でもその意気や良しっ! また招集掛けっからそん時はよろしく頼むぜ」
「畏まったっ!!」

 ホウヨクは気持ち良く快活に承諾してくれた。
 今度は友としていつでも歓迎してくれるということで、レッドからもまた屋敷に来ることを約束した。

 ──そして現在。
 アキマサの案内で次なる武将に会いに来たのだった。

(……分からない。全然凄さを感じないのに、どうしてホウヨク様に勝てるの? 外の剣術はそれほど優れているというの?)

 モミジはレッドを注視する。眼中にもなかったはずのこの男性から目が離せなくなっていた。
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