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17章 龍球王国 前編
337、沽券
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朝日が昇り、地上を照らす。
昨日思ったよりも夜更かしをしてしまったレッドは布団から起きるのが億劫になっていた。シンプルに眠い。
──バッ
布団から出たくなくて頭までスッポリかけ布団の中に身を縮めていたのだが、モミジに引き剥がされた。
身支度まで整えていたモミジはいつまでも起きてこないレッドを起こしに来たようだ。かけ布団を持ったまま黙ってじっと見下ろしているのは、他の人を起こさないための配慮だ。
ここまでされたら起きないわけにもいかず、レッドは眠気まなこでのそのそと起き上がる。布団を畳んで廊下に出ると井戸まで引っ張られた。
「遅いよレッド。早く顔洗って支度してっ」
「……はい。すみません」
しょぼしょぼ目で小さく頭を下げながらモミジが差し出した手拭いをもらい、桶に溜まった水でバシャバシャと顔を洗って目を覚ます。手渡された歯ブラシで歯を磨き終わると宴会場と化していた広い部屋におにぎり2つと漬物が2切れお皿の上に用意されていた。
モミジに急かされるままに食事を済ませたレッドは、背中に引っ付いて離れないオディウムを一旦引き剥がし、新しい作務衣に着替えた後で背中にくっつけ玄関に急いだ。
門の前でナガヨシを待とうと思っていたが、ナガヨシは玄関に腰掛けて待っていた。
「あ……! すいませんっお待たせして」
「ん? いや、俺も今来たところだ。よく寝られたか?」
スッと立ち上がったナガヨシの服装は昨日のボロ切れのような着物と違い、それなりに綺麗な身なりになっていた。
「は、はい。おかげさまで」
「そうかっ。それは何よりっ」
3人で門の外に出るとナガヨシは目的の場所があるのかズンズンと先に歩いていく。レッドとモミジはついていきながら話しかける。
「あの、コウさんっ」
「ん? ああ、すまん。ナガヨシで良いぞ。もう名を隠さなくても良くなったのだ。悪かったな。俺の遊びに付き合わせて」
「いえいえ、警戒は必要ですので。ところで今から行くところと名前を隠さなくて良くなったことには何か関係が?」
「ん。その通りだ。実は昨日寄り道をしていてな。そこで面白い物を見たのだ。これを探らぬ手はないと思い、こうして向かっている」
「その場所とは?」
「まぁついてくれば分かるっ」
ナガヨシは上機嫌に案内してくれる。昨日の空振りから一転、今日のはかなり自信がありそうだとレッドたちも期待が湧いてくる。
細い路地や住宅街を迷路を進むように歩いていくと、しばらくして大通りに出る。2日前に通ったことがある通りだと思いながら、先の細い道は住人ならではのショートカットなのだろうと推察した。
大通りをしばらく進むとナガヨシは駕籠屋へと入って行く。ここからはまた駕籠を用いて遠出をしようということなのだろうかと思いながらも後をついて行った。
「誰かぁっ! おらんかぁっ!!」
ナガヨシは大声で店員を呼ぶ。モミジは慌ててナガヨシい声をかける。
「不味いですよナガヨシさんっ! まだ暖簾も出してないのに……っ!」
開店前にナガヨシは大声で店員を呼びつけると言う暴挙に出ていた。レッドは(暖簾ってそういう意味だったのか……)と勉強になりながらもナガヨシのやっていることが如何に非常識かを目の当たりにすることになった。
「おうおうっ! まだ開店前だぞっ! 出て行ってく……っ!」
中から強面の男性店員が出てきたが、ナガヨシの顔を見るなり目を見開きながら後退りする。
「ツ、ツキグマ様っ!? 何故このような場所にっ?!」
一般人なら問答無用で放り出せても、武家の当主が訪ねてくるなら話は別だ。さっきまでの威勢は何処へやらと萎縮した姿を見せた。
「店主は居るか? すぐに呼んできてくれ」
「は、はいっ! ただいまっ!」
店員はサッと踵を返して奥へと引っ込んでいく。少しして駕籠屋の店主であり、駕籠のビジネスを取り仕切る男が顔を覗かせた。
「こりゃぁこりゃぁナガヨシ殿。よくぞおいで下さいましたっ」
腰が低く丁寧な口調だ。アキマサの時とは違う態度で出迎える。
「ん。まだ生きていて安心したぞ。店主っ」
「ははぁっ。もう何十年も前のことですからそのように思っても仕方無きこと。それで……駕籠など無縁の御方がこの店に何の用でございましょう?」
「実はな店主。駕籠の行き先を記した台帳を調べたいと思ってきたのだ」
「台帳……でございますか」
「そうだ」
店主は嫌な顔をする。
「失礼でございますが令状はお持ちでしょうか? 令状がないことにはいくらナガヨシ殿の御命令であっても出せませんよ?」
当然だ。顧客のプライバシーに関わる。これをあっさり見せては、駕籠屋の沽券にも関わってくるだろう。
「それはそうだ。俺が見る分には令状が必要だろう。だが、お前が調べるなら何も要らぬはずだ」
「えぇ……それはそうでございますが、調べたところでお教えする事は出来かねますが……」
「いや、お前は俺に教えることになる」
「脅迫……でございますか?」
「違う。お前が俺を必要とするからだ」
言っている意味がいまいち分からず困惑する店主だったが、次の言葉で店主の顔つきが一気に変わった。
「山の紋の駕籠を不正に利用する輩がいる可能性がある。今日俺が調べにきたのはそれだ」
「……はっはっはっ! ナガヨシ殿ぉっ!……そいつは一大事だぜ?」
昨日思ったよりも夜更かしをしてしまったレッドは布団から起きるのが億劫になっていた。シンプルに眠い。
──バッ
布団から出たくなくて頭までスッポリかけ布団の中に身を縮めていたのだが、モミジに引き剥がされた。
身支度まで整えていたモミジはいつまでも起きてこないレッドを起こしに来たようだ。かけ布団を持ったまま黙ってじっと見下ろしているのは、他の人を起こさないための配慮だ。
ここまでされたら起きないわけにもいかず、レッドは眠気まなこでのそのそと起き上がる。布団を畳んで廊下に出ると井戸まで引っ張られた。
「遅いよレッド。早く顔洗って支度してっ」
「……はい。すみません」
しょぼしょぼ目で小さく頭を下げながらモミジが差し出した手拭いをもらい、桶に溜まった水でバシャバシャと顔を洗って目を覚ます。手渡された歯ブラシで歯を磨き終わると宴会場と化していた広い部屋におにぎり2つと漬物が2切れお皿の上に用意されていた。
モミジに急かされるままに食事を済ませたレッドは、背中に引っ付いて離れないオディウムを一旦引き剥がし、新しい作務衣に着替えた後で背中にくっつけ玄関に急いだ。
門の前でナガヨシを待とうと思っていたが、ナガヨシは玄関に腰掛けて待っていた。
「あ……! すいませんっお待たせして」
「ん? いや、俺も今来たところだ。よく寝られたか?」
スッと立ち上がったナガヨシの服装は昨日のボロ切れのような着物と違い、それなりに綺麗な身なりになっていた。
「は、はい。おかげさまで」
「そうかっ。それは何よりっ」
3人で門の外に出るとナガヨシは目的の場所があるのかズンズンと先に歩いていく。レッドとモミジはついていきながら話しかける。
「あの、コウさんっ」
「ん? ああ、すまん。ナガヨシで良いぞ。もう名を隠さなくても良くなったのだ。悪かったな。俺の遊びに付き合わせて」
「いえいえ、警戒は必要ですので。ところで今から行くところと名前を隠さなくて良くなったことには何か関係が?」
「ん。その通りだ。実は昨日寄り道をしていてな。そこで面白い物を見たのだ。これを探らぬ手はないと思い、こうして向かっている」
「その場所とは?」
「まぁついてくれば分かるっ」
ナガヨシは上機嫌に案内してくれる。昨日の空振りから一転、今日のはかなり自信がありそうだとレッドたちも期待が湧いてくる。
細い路地や住宅街を迷路を進むように歩いていくと、しばらくして大通りに出る。2日前に通ったことがある通りだと思いながら、先の細い道は住人ならではのショートカットなのだろうと推察した。
大通りをしばらく進むとナガヨシは駕籠屋へと入って行く。ここからはまた駕籠を用いて遠出をしようということなのだろうかと思いながらも後をついて行った。
「誰かぁっ! おらんかぁっ!!」
ナガヨシは大声で店員を呼ぶ。モミジは慌ててナガヨシい声をかける。
「不味いですよナガヨシさんっ! まだ暖簾も出してないのに……っ!」
開店前にナガヨシは大声で店員を呼びつけると言う暴挙に出ていた。レッドは(暖簾ってそういう意味だったのか……)と勉強になりながらもナガヨシのやっていることが如何に非常識かを目の当たりにすることになった。
「おうおうっ! まだ開店前だぞっ! 出て行ってく……っ!」
中から強面の男性店員が出てきたが、ナガヨシの顔を見るなり目を見開きながら後退りする。
「ツ、ツキグマ様っ!? 何故このような場所にっ?!」
一般人なら問答無用で放り出せても、武家の当主が訪ねてくるなら話は別だ。さっきまでの威勢は何処へやらと萎縮した姿を見せた。
「店主は居るか? すぐに呼んできてくれ」
「は、はいっ! ただいまっ!」
店員はサッと踵を返して奥へと引っ込んでいく。少しして駕籠屋の店主であり、駕籠のビジネスを取り仕切る男が顔を覗かせた。
「こりゃぁこりゃぁナガヨシ殿。よくぞおいで下さいましたっ」
腰が低く丁寧な口調だ。アキマサの時とは違う態度で出迎える。
「ん。まだ生きていて安心したぞ。店主っ」
「ははぁっ。もう何十年も前のことですからそのように思っても仕方無きこと。それで……駕籠など無縁の御方がこの店に何の用でございましょう?」
「実はな店主。駕籠の行き先を記した台帳を調べたいと思ってきたのだ」
「台帳……でございますか」
「そうだ」
店主は嫌な顔をする。
「失礼でございますが令状はお持ちでしょうか? 令状がないことにはいくらナガヨシ殿の御命令であっても出せませんよ?」
当然だ。顧客のプライバシーに関わる。これをあっさり見せては、駕籠屋の沽券にも関わってくるだろう。
「それはそうだ。俺が見る分には令状が必要だろう。だが、お前が調べるなら何も要らぬはずだ」
「えぇ……それはそうでございますが、調べたところでお教えする事は出来かねますが……」
「いや、お前は俺に教えることになる」
「脅迫……でございますか?」
「違う。お前が俺を必要とするからだ」
言っている意味がいまいち分からず困惑する店主だったが、次の言葉で店主の顔つきが一気に変わった。
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