「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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18章 龍球王国 後編

351、果たし状

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 龍球王国の上空。
 浮遊要塞の上にグレゴールは着物を脱ぎ、いつものパンツスタイルで腰に手を当て静かに立っていた。

 ──トッ

 グレゴールの背後から紙飛行機の先が地面に落ちた時の様な軽い音がわずかに聞こえる。何が降り立ったのか分かっている彼は振り返ることなく口を開く。

「……首尾はどう? フェイルちゃん」
「上々です。本当は頭を狙いたかったですが」
「当たってもどうせ死なないわよ。あの子はデザイアちゃんの怒りのオーラでさえ傷一つ付かなかったんだから……」
「は? そんな人間がいるんですか? 魔神あなたたちじゃあるまいし……」
「疑うのも無理ないわ。私も自分の目を疑ったものよ。世界は広いって……しかし不思議なものよね。魔神を超える存在が居ながら、この世界は統一されることなく手付かずだなんて。正に奇跡よ」

 フェイル=ノートは眉間にシワを寄せ、グレゴールの雄々しい背中に厳しい目を向けた。

「超える? あり得ないです。あの気配はあなた方魔神よりもずっと下、多く見積もっても同等です。レッドを高く評価しているのか、はたまたレッド以外の誰かを差しているのかは定かではないですが、あまり大きなことを言うと混乱を招きますよ?」
「うふふっ……ビビっちゃった? でもそれが事実よ。ドラグロスちゃんがどうしてもって言うからちょっと相手してあげるけど、内心やりたくないって気持ちの方が大きいの。あの子が本気を出せば私を殺せちゃうんだろうなって感じて……」
「それはつまり『勘』ということです?」
「そうよ。女の勘」

 グレゴールは肩越しに微笑む。その顔には諦めと悲哀が混ざっていた。

「……その肉体を見れば何をされても死にそうにないですけど、万が一負けても遺骨はデザイア様にお届けするのでご安心くださいです」
「もーぅっ! ちょっとやめてよ縁起でもなーいっ!……でももし私がポクッと逝っちゃったら要塞内の魔王ちゃんたちはあなたに一任するわ」
「それはそれで面倒ですね。私の手を煩わせないように是非勝っていただきたいです」
「あなたって神経図太いし、かなり図々しいわよね。私を前に臆さない姿勢は嫌いじゃないわ。そのままのあなたでいて頂戴」
「えぇ~……」

 レッドが来るまでの暇つぶしで楽しく会話をしていた2人だが、突如強大な魔力の塊が接近しているのを感じてフェイルは弓に矢を番えた。

「おいでなさったわね……」

 グレゴールも強大な魔力に目を向けた。
 それは浮遊要塞の直上。落下してくる巨大な影にグレゴールの目は見開かれる。

 ──ズズゥンッ

 10mはあろうかという巨大なミノタウロスがグレゴールの目の前で着地し、要塞は地震が起きたようにグラグラと揺れた。
 要塞内でくつろいでいた魔王たちも慌てて要塞の外へと出てくる。

「な、なんだあれはっ!?」

 牛の怪獣が要塞を襲撃してきた。魔王たちは戦闘に備えて武器を取り出し、今すぐにでも飛び出そうと身構えている。

「ストーップっ!!」

 戦いに身を投じようとする魔王たちを制止する声が響き渡る。拳を高々と上げたグレゴールが命令を下したのだ。
 全員が大人しく従ったことを肌で感じ、グレゴールは手を下ろした。

「うふふっ……派手な演出じゃないの。なかなかやるわね、レッド=カーマイン」

 その言葉にニヤリと笑ったオディウムは急激な速度で小さくなっていき、3mのところでピタッと大きさが固定された。背中に乗っていたレッドとモミジはおぼつかない足取りでヨロヨロと降りる。

「あ~……怖かったぁ……」
「二度は味わいたくないわ……」

 苦言を呈する2人をオディウムは鼻で笑う。

「なっさけねぇなぁ。楽しむくらいの余裕見せろよ。因みに降りる時もこれで降りるんだから文句は言うなよ?」
「いや、無理……飛ぶの速すぎで捕まってるのがやっとだし、落ちる時の浮遊感が最悪……。なんでゆっくり飛べないのよ? 浮き始めはゆっくり飛んでたじゃない」
「あんなん時間が掛かりすぎるから面倒くせぇだろうが。文句言うな」

 オディウムの譲らない姿勢にモミジも諦めが勝つ。ここはどの辺りかとキョロキョロと見回すと、2人の人物が立っていることに気付く。その背後には決して人間と呼ぶことの出来ない魔族と思しき者たちが様子を伺っている。

「あれって……」

 モミジが何か言いかけた時にレッドが前に出る。ゆっくりだが確実に間合いを詰めるレッド。
 それに対してグレゴールは首を左右に倒し、パキパキと首の骨を鳴らしながら戦いを意識している。

 ──ザッ

 レッドは3m位の距離で立ち止まり、矢文を取り出した。

「……何かは分かっているわよね?」
「グレゴールさん。俺はあなたとは戦いたくない」
「私もよレッド。でもダメ。それじゃ私の心が納得しないの」
「……どうしてもですか?」
「どうしてもよ。レッド」

 グレゴールは腰に当てた手を下ろし、ぐっと握り込む。その拳は硬く、山をも粉砕しそうなほどの圧力を感じさせる。
 急な緊張感にふざけていたオディウムと怒っていたモミジもキュッと口を結ぶ。軽口の絶えないフェイルをも黙らせる圧迫感。
 今から行われるのは人智を超えた戦い。

 ──ゴゴゴゴゴッ

 空が戦慄わななき、風が吹きすさぶ。
 レッドの伸ばした手に握られた矢文がカサカサと音を立てて風になびいている。

「おっ、ラッキー。まだ始まってねぇな?」

 オディウムの背後から声がする。いつから居たのかドラグロスがスッと前に出た。モミジは急なドラゴンの登場にビクッとしたが、それ以上にオディウムがビクッとしたことでほんの少し冷静になれた。

「ド、ドラグロス様っ。ど、どうしてここに……?」
「あ? 野郎を味方につけるために最近はここに入り浸ってんだよ。文句あるか?」
「い、いいえっ。とんでもないっ」

 オディウムのぎこちない返答にモミジが訝しみながらコソッと聞く。

「……知り合い?」
「……『竜神帝』のドラグロス様だ。失礼の無いようにしろっ」
「竜神帝っ!?」
「しーーっ!!!」

 オディウムは人差し指を口に当ててモミジに静かにするように促す。モミジは「ごめん……」と素直に謝った。

「その話は後でじっくりとしようぜ。そら、始まるぞ」

 ドラグロスが顎をしゃくってレッドとグレゴールを見るように誘導する。丁度その時、レッドは吹きすさぶ風に乗せるように矢文を手放した。

 ──ピィィ……ンッ

 風に乗って吹き飛ぶよりも早く抜いた剣で矢文を切り裂くと同時にグレゴールも動き出す。

 ──バゴォッ

 次の瞬間には2人のぶつかったであろう中心が抉れ、瓦礫となって四方に散る。先ほどよりも間合いが開いているのは、あの一瞬に数えきれないほどの攻撃と防御を繰り返した証左だろう。
 モミジには動き出しすら見えなかったが、少しだけ目で追えたオディウムもその速度には舌を巻いた。

 どちらも無傷。かと思われたが、グレゴールの肩に掠り傷程度の切り傷が一筋付いていて、じわっと血が浮いている。

「うふっ。乙女の柔肌に傷をつけるなんて……悪い子ねレッドちゃんはっ」
「……すいません」

 謝罪はすれどその眼には覚悟が宿っていた。
 決闘開始の合図となった矢文は文字が判別出来ないほどに切り裂かれ、紙吹雪のように散ってどこかへと飛んで行ってしまった。
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