「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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1章

7、ダンジョンの主

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 ダンジョン30階層。「ベルク遺跡」の最下層であるこの場所は、誰にも侵されたことのない魔物の聖域。

 ここに居る魔物は全てが二足歩行であり、デーモンのようなシルエットがよく観測される。最下層と言うだけあって魔素が濃く、一体一体がかなりの実力者であることは疑いようがない。20階層以降の階層守護者というべき存在たち。「ハイ・トレント」「タイガーアマゾネス」「死霊のいななき」「エレメントタイタン」などに引けを取らない実力を持つ。

 その中で最も強いベルク遺跡の覇者、ヴェイト=男爵バロン=ダンベルク。玉座に鎮座し、冒険者の到着を今か今かと待ち構える。

「ダンベルク様っ!!」

 忙しなくやってきた部下を見下ろす。

「騒がしいな……何があった?」

 ダンベルクは爪を弄りながら興味なさげに質問する。

「に、人間が……人間がこの階層に迫ってきております!!」
「ほう?」

 チィンッと爪を弾いた時、金属音が鳴り響く。

「クククッ面白い。ようやく我が眼前に人間がやってくるのか……ニール=ロンブルスか?それとも……」
「い、いや……それが……」

 デーモンの吃り方を見てダンベルクは鼻で笑った。

「まぁ良い、せっかくの祝の席だ。歓迎してやろうではないか?」

 ダンベルクの言葉にハッとした周りのデーモンたちはズラッと左右対称に跪き、ダンベルクへと続く道を形成した。その光景はまさに王への謁見のようだった。
 30階層の奥地に住まうダンベルクの居住区には立派な門があつらえられており、まさに最終決戦の場を連想させる。

 ──ゴンゴンッ

 律儀にノックしたことにダンベルクは喜んだ。獣の如き理性に欠けた存在と戦うなど我慢ならない。単純に好き嫌いの話である。

「開けてやれ」

 扉の前に居たデーモンは頭を下げ、すぐに扉を開けた。
 デーモンを初めて見たレッドは驚きの顔を見せる。デーモンも人間が1人しか居ないのを訝しむ。どれだけ後ろを見ても誰も居ないので、顎をしゃくって中へと誘う。

「あ、どうも」

 レッドは扉を開けたデーモンに頭を下げながら中に入る。デーモンは扉から何度か外を覗き込むように身を乗り出すが、結局何事もなかったかのように扉を閉めた。

「ん?1人……たった1人か?」

 ダンベルクもレッドの存在を訝しむ。5チームくらい肩を並べて入ってくるかと期待したがそんなこともなく、入ってきたのは剣を引っ提げた誰かも分からぬ冒険者。田舎から都会へ出てきたように忙しなくキョロキョロと玉座の間を見渡している。

「おい……もしかしてアレ……」
「絶対そうだよ……」
「昨日のハイ・トレントの奴が……?」

 跪くデーモンたちもざわめく。
 魔法の痕跡もなく、斬撃だけで勝利したと思われる空想としか思えない存在。そんな未確認生物が今ここに居るのかと思うと珍しさからか、支配者の前だというのに落ち着いていられない。

 ──パチンッ

 妙に大きく聞こえた指を鳴らす音に急に静けさが戻ってくる。ダンベルクはため息をつきながらゆっくりとレッドを見据えた。

「貴様……名は何という?」

 キョロキョロと壁や柱などの細かな細工を密かに楽しんでいたレッドは、ようやく玉座に座るダンベルクに目を向けた。

 肌が青い。金色の髪が逆立ち、刺叉のような角が2本生えている。耳は尖り、口からは犬歯が覗き、目玉が額を含めて3つ。
 金のチェーンで繋がれた赤いマント、紺色の生地のジャケット、袖の先に施された金の刺繍、白いパンツに黒いブーツ。その他ネックレスから指輪、服に散りばめられた宝石等、貴族を真似たような服装の見るからに偉そうな存在。

「お前から名乗ったらどうだ?」

 その瞬間、空気が冷える。デーモンたちも身震いしながら息を殺し、様子を窺っている。

「なるほど、命が惜しくないようだな……。ならば冥府の土産に教えてやろう。我が名はヴェイト=男爵バロン=ダンベルク。貴様らがダンジョンなどと名付けたベルク遺跡のあるじだ」
「そうか。俺はレッド=カーマイン。憶えていなくてもいいぞ。どうせ俺は今日死ぬんだからな」
「は?……フハハハッ!面白い奴よ!この私との力量差を感じて自虐とは笑わせてくれる!いや、逆か。諦めきった虫のさえずりは悲哀を感じる。これほど笑わせた貴様を殺すのは忍びないが、私の部下を殺した責任は取ってもらわねばなるまい……」

 スッと手を挙げると跪いたデーモンたちが全員立ち上がる。レッドはその様子を目だけで確認し、ニヤリと口角を上げた。

「ふっ……そうか。お前が相手してくれるわけじゃないのか……」
「私と戦いたくばこの壁を越えるのだな。我がデーモンたちよ……やれ」

 前に手をかざし、デーモンたちをけしかける。
 誰より早くレッドを殺し、我こそがダンベルクに褒美をもらうのだと一斉に襲い掛かった。

「死物狂いで……全力で抵抗するぞっ!!」

 ワッとレッドに覆い被さるデーモンの群れ。常人であるならデーモンに平手で叩かれただけでも原型を失う。

「ふっ……他愛無い」

 ダンベルクはすぐに興味をなくす。同時にレッドの名を忘却の彼方に消し去ろうとしたその時、

 ──ボッ

 ドーム状に取り囲んだデーモンたちの体に光る筋が走る。次の瞬間、バラバラとデーモンたちの体が細切れになり、散り散りに吹き飛んだ。
 剣を構えた無傷のレッドがギラリと目を光らせてそこに居た。

「何?」

 デーモンに囲まれないよう逃げながら戦っていたら、こうも驚かなかったかもしれない。ただの肉塊になっていれば、これが当然だと吐き捨てていた。
 では取り囲んだデーモンを肉片に変えたらどうなるのか。警戒心は途端に跳ね上がり、敵を本気にさせることは間違いない。

「!?」

 同胞が一瞬で物言わぬステーキと化した時、デーモンたちの足は既に背後を向いていた。1も2もなく逃走。レッドの剣が届かない位置まで飛行するものもいた。

「ふんっ!」

 ──ボンッ

 ダンベルクが逃げようとする部下たちを炎で焼く。一息に7~8体を黒焦げにし、その力を見せつける。
 しかし──

「う……うぅ……」

 全てが瀕死状態。即死したデーモンはいなかった。
 動くことが出来なかったデーモンたちはこの事態に顔を見合わせる。

 ダンベルクの魔法は確かに強い。逃げようとしたデーモンが瞬時に黒焦げとなれば普通なら息を呑む。
 だがレッドの剣は魔法でもそれに類する不可思議な力でもない。単なる物理。斬撃による攻撃。ハイ・トレントの時に魔法の痕跡を見つけることなど出来ようはずもない。

 この時に格付けは完了した。ダンベルクよりレッドの方が強い。
 ダンベルク自身は距離や威力を考慮してレッドと自分の実力はそれほど変わらないのではないかと考える。いや、若干自分の方が強いと踏ん反り返る。

「ふんっ……弱卒など要らぬ」
「背を向けた部下に攻撃だと?……なんて奴だ。部下に対して敬意はないのか!?」
「フハハッ!部下に敬意?下だらぬことを言うじゃないか。部下など放っておいても湧いて出てくる。カリスマとはそういうものだ」
「なっ……!放っておいても……!?」

 レッドは目を見開いてダンベルクに尊敬の目を向ける。知りもしない相手の部下など、まして強いだけの傍若無人な上司など、部下となる者にとっては勘弁してほしいはずだ。なのに放っておいても集まってくる。カリスマとはそこまで凄いものなのかと愕然とした。

「ふふふっ……ようやく私の力が分かったようだな。だが分かったところでもう遅い。ここで貴様は死ぬのだからな」

 ダンベルクは玉座から立ち上がって両手を広げる。手のひらに魔力を込めて煌々と燃え上がる炎を出現させた。

「これは先の炎とは一線を画す。貴様程度なら……蒸発だな」

 コオォォ……と独特の音を発生させながら揺らめく炎がまん丸の小さな太陽へと変化する。確かにあれを放たれたら側を通り過ぎただけでも蒸発しそうだ。

「そうか。あのトレントを従えているだけはある。これならトレントを一撃で消滅させられそうだ」
「トレント?20階層のハイ・トレントのことか?」
「ハイ・トレントだって?!なるほど……やはりあのトレントは上位種だったのか。どうりで強いわけだ……」
「ふっ、何を言っている?貴様はそのハイ・トレントから10階層も下に降りて私の前に立っているのだぞ?あれより強いのは他の階層にごまんと……ん?」

 その時、鈍いダンベルクもようやく気づいた。

「そういえば昨日20階層が突破されたと報告があったな……そこから僅か1日で?貴様は……一体何者だ?レッド?聞いたこともない……。魔法剣士マジックセイバーか?それとも勇者ブレイブか?」
「何者でもない。ただの剣士セイバーだ」

 レッドは剣を構える。ダンベルクはとぼけられたと考えて奥歯を噛みしめる。今までこんなスピードで各階層を降りてきたものなど存在しない。まして何年もの間19階層から下に降りられなかった人間がだ。それをたった1人の剣士セイバーが成し遂げた。そんなことあり得るはずがないだろうとさらに力を込める。

「……まぁ何でも良い。どの道貴様はこの世から消えるのだ。誰にも知られることなくな……。仲間の居ない孤独な貴様には悲しんでくれる同胞がいるのか?」
「か、関係ないだろ……!?」

 レッドが狼狽したところを狙ってダンベルクは動き出した。
 触れれば消滅、触れなくとも消滅。放たれたら終わりの魔力で生成した小さな太陽を手のひらに保持したまま突っ込んでくる。最大の攻撃は最大の防御。ダンベルクに接敵すれば一巻の終わりだ。

(なんてタイミングだ!ダンベルク!ただ強いだけでなく、駆け引きまで……!)

 レッドの困惑にダンベルクは笑う。

(さぁどうする?レッド!)

 覆いかぶさったデーモンたちをあれだけ完璧に捌いてなかったらもう少し遊んでいたかもしれない。レッドがダンベルクの欲しい答えを言っていたらこれほどの魔法を使っていなかったかもしれない。
 今に至る全ての状況が強すぎるダンベルクの力加減を忘れさせた。

(くそっ!俺にはこれしか無い!これならここからでも届くはずだ!!)

 そしてそれはダンベルクだけではない。この状況はレッドの力加減をも忘却の彼方に追いやった。

爪刃そうじんっ!!」

 それは剣士セイバーの唯一の飛び道具。魔力を斬撃として飛ばし、相手を切り裂く剣士セイバーの基本技。剣士セイバーの魔法とも称される「爪刃」を発展させた「三連爪刃」などは奥義と呼ばれていて、ベテラン冒険者の中でも使用出来る者はごくわずかとされる。

 ──ボッ

「!?」

 レッドの剣圧は全ての常識を覆す。本気になったレッドの一撃は空気を切り裂く真空の斬撃。
 間合いを一息に詰めようとしたダンベルクよりも速く届き、刀身に触れることもなくダンベルクを真っ二つに斬った。
 それだけではない。レッドが振った剣の軌道全てを切り裂く。天井から玉座、玉座への階段から床まで。鋭利な切り傷が一本の線となって上から下まで真っ直ぐ付いている。

「バカ……な……」

 ズルッ……

 その中心に居たダンベルクが無事に済むはずがない。
 間合いを詰めようとした勢いに裁断された体は耐えられず、剥がれるように真っ二つに引き裂かれ、両の手に込めた小さな太陽は暴発し、ダンベルクの体を焼いた。
 ダンベルクがいきなり本気で来なかったら、攻守を両立させた接近されない方法を取らなければ、カリスマを全面に出していなかったら、あるいはもう少し生きられたかもしれない。
 その全てが「たら・れば」の憶測である。

 全てが終わったことを確信してほっと一息をつく。

「流石だなニール。お前のお陰で助かったよ……」

 レッドは天井や床、ダンベルクだった炭を見た。
 幼き頃に共に修行し合ったニールとレッド。「そーじん!」と叫びあったあの日。レッドはその時のことを思い出して微笑んだ。

 ちなみにニールは「五連爪刃」を出せるほど練度を高めた本物の天才なのだが、次元を断つことは出来ない。
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