「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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1章

6、化け物

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「うあぁぁぁあっ!!」

 レッドはぶり返した言い知れぬ負の感情を爆発させ、目に付く魔獣を片っ端から斬り伏せる。

 1階層から始まった殺戮はあっという間に20階層まで行き、前人未到の21階層へと足を踏み入れた。
 21階層は20階層の森林地帯から亜熱帯のジャングルを思わせるジメジメしたものへと変わり、出てくる魔生物も多少変化する。

 ワニのような魔獣や蟹のような魔獣。肉食植物など種類も造形も様々。
 単独での侵入など命知らずどころの騒ぎではない。本来なら殺され、食べられ、跡形もなくこの世から消えてなくなることだろう。

「うあぁぁぁあっ!!」

 レッドは襲い来る魔獣、歩いてた魔獣、寝ている魔獣など全てお構いなしに片っ端から斬り裂き、驚くほど瞬時にその命を散らしていく。

 泣き喚きながら剣を振り続ける人の形をした災害。

 そんなレッドを影から見ていた筋骨隆々の女魔獣人タイガーアマゾネスはドラゴンをも一刀両断出来るデカいサーベルを握りしめ、体の半分を隠せる盾を持って木々の間から飛び出した。

「ガルルァッ!!」

 黄色地に黒の縞々が生えた体毛は危険色の証。この階層で最も強い魔獣である。

「お前がこの階層で一番強そうだな……俺はここだっ!!掛かってこいっ!!俺を殺してみせろっ!!」

 ゴォッ

 今まさに振り下ろされる巨大サーベルを受け止めることが出来たら、間違いなく誰しもが称賛しただろう。
 このレベルの魔獣と互角に戦うことが出来たら、間違いなく世界最強の剣士セイバーであると認められ、ビフレストなどを鼻で笑えたことだろう。

 全ては時間を掛けることに意味がある。大衆がその瞬間を目撃した時、初めて事象は真実となるのだ。
 とすれば、3mはあろうかという怪物を一刀のもと叩き斬ったらどうなるか……。

 ──ゾンッ

 レッドは袈裟斬りに剣を振り下ろし、タイガーアマゾネスを盾ごと真っ二つに斬り裂いた。
 真っ二つにされたことで、サーベルを振り下ろしていた膂力も相まって首と右上半身は回転しながら遠くに飛んでいく。
 大木にぶつかって止まった右上半身は抗うことなく地面に落ちる。斬られた盾を持つ左半身から足までは膝から崩れ落ち、どうしようもなく絶命したことを知らせる。

 ビフレストが世界一の冒険者チームに選ばれた理由。それは栄光の数々を衆目に晒したことだ。あっという間に倒してしまっては何が起こったか分からないどころか誰も気付かない。

 3mはあろうかという怪物を一刀のもと叩き斬ったら……それは誰にも見られることがなく、誰からの称賛も得られず、まして畏怖されることもない。
 誰にも認知されていない化け物が、ただひたすらにそこにいるだけとなる。

「な、何だこいつは……?昨日のトレントの方が強かったぞ?」

 ここが自分の墓場なのだと覚悟して来てみれば昨日以上に簡単に魔獣は死んでいく。さらなるストレスを抱えつつ、レッドは死地を探してどんどん下に降りていった。



「トランス?」

 リック=タルタニアンは行きつけの酒場でビフレストのメンバーと酒を飲んでいた。

「無我の境地とも言われるアレネ。ワタシまだ行ってないヨ」

 ワン=チャンは樽ジョッキに入った酒で顔を赤くしながら手振り多めに反応する。ローランド=ヒールダーはそんなワンに補足するように口を開いた。

「精神に作用する魔法で一時的にその境地を再現することができるそうですが、大司教アークビショップ以上の力を駆使した神聖魔法が必要でしょうね」

 ワンはローランドの言葉にうんうんと頷きながら酒を傾ける。

「ねぇ?何の話ぃ?」

 プリシラ=トートはベロベロに酔いながらローランドの肩に肘を置いた。

「……戦闘の話ですよ。あ、これ美味しいので良かったらどうぞ」
「えっへへ~ありがと~」

 プリシラはお皿に乗ったお肉に表情を蕩けさせながらテーブルから離れた。プリシラがカウンターに座ったのを確認してまた話し合う。

「この手の話はかなり抵抗があるので彼女の前では控えるようにしてください」
「そうか。それもそうだな……」

 リックはチビチビと酒を飲みながら仕切り直す。

「つまり最初は普通の剣士セイバーだって疑わなかったってそういうことか?」
「ええ。彼は戦い始めると段々周りが見えなくなっていく方でして、私達を置いて敵を狩り尽くすこともしばしばといった感じです」

 その時のことを思い出してか遠い目をしている。リックが適当に相槌をうっているとジン=ユランがドカッと椅子に座って話に参加してきた。

「それだけでも1人でヤッてろっつーのに、周りが全く見えてねーからチーム全員で戦ったと勘違いしやがる。俺はあいつが気持ち悪かったぜ」

 ジンは小皿に盛られた豆を頬張りながらリックを見た。

「へっ……話題に乗っといてあれだけどよ、またレッドの話かよ。好きだね~お前も」
「いや、だって信じられないでしょ?強すぎて追放なんておとぎ話っていうか……」
「擬態だよ」

 リックの言葉に被せるようにアルマ=モルデンが返答する。

「俺は奴を化け物だと思ったよ。人間に変装した化け物。自分が得体のしれない魔物と生活しているんだって感じたら距離を置きたくなるだろ?それがレッ……奴だったってわけさ」

 言いかけたのを伏せてまで名前を避けた。アルマにはそれそのものがトラウマなのかもしれない。

「その気持ち分かるネ。子供に目線を合わせる人食いの怪物……想像しただけで身震いが止まらないヨ」

 ワンは酔いが冷めた顔で肩を震わせた。そして一気に酒を呷ってまた顔を赤くした。

「でもさ、それがトランスってのと何が関係するんだよ。ただ単に狂戦士バーサーカーってだけのような気がするんだけど?」
おおむねその通りです。トランスというのは”超越”や”神域”と呼ばれるものでして、内に秘めた究極の力を遺憾なく発揮し、全てを飲み込む業火と化す。アルマの言葉にあるように彼は常人のように擬態した化け物なのです。つまり相手に応じてその時々で力量を変化させる人間ではない何か。それが彼の正体なのです」
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