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2章
10、夢の始まり
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あの頃2人はいつも一緒だった。
「待ってよニール!」
「ははっ!遅いぞレッド!」
田舎の平和な村。大雨が振ったり強風が吹いたりする程度が災害だと言えるくらいに平和そのものの長閑な故郷。
だからだろう、刺激が欲しかったのだ。夢は冒険者になってこんな退屈な村を出ていくこと。農業を継ぐなんて考えられなかった。
小さな時の冒険者ごっこ。レッドはニールに剣の才能を見た。
ただ剣に見立てた折れた枝をセンスのままに振り回す。その流麗な動きは素人目に見ても感嘆の声を上げざるを得なかった。更に驚くべきことにニールは魔法使いの素質まで持ち合わせていた。
レッドはニールに憧れた。ゆくゆくは伝説と崇められ、世界に名が知れるだろう最強の魔法剣士に憧れた。
魔法の才能のないレッドはただひたすらに剣を振った。ニールに追い付けるように、側で共に戦えるように。
「ね、ねぇニール。僕らは……さ、ずっと友達だよね?」
「そうさレッド!僕らはずっとずーっと友達さ。もし離れ離れになってもそれだけは変わらないよ」
ニールの笑顔は眩しかった。レッドが彼の才能を妬んで出た女々しい質問に何の陰りもなく笑う。純粋でストレートな答えに後光が差しているのかと見紛うほどにニールが輝いて見えた。
レッドはいつかこんな人間になりたいと心から願う。
例え追い出されても憧れの対象はいつまでも変わらない。
*
「夢か……」
深夜、寝汗をかきながら目覚めたニール=ロンブルスは右の手のひらで顔を拭いながらベッドの脇に座る。
動悸がする。ゆっくりと深呼吸して自身を落ち着かせると立ち上がった。窓を開けて夜風に当たると多少気分が良くなってくる。
「……突然なんだ?急にあいつの夢を見るなんて……」
嫌な予感がしてくる。追い出したあの日から姿を見なくなったレッド。ニールの心に去来したのは焦りだった。
「まさか近々やって来ると?いや……まさか……ね」
もしレッドがやって来るとしたら何のためだろうか。当然復讐だろう。何故今なのかと困惑するがどんな形であれ戦うと言うならタダでは済まない。最悪ビフレスト全滅も視野に入る。
背中に冷たいものを感じているためかニールは眠る気にもなれず、ソファに座ってぼんやりと外を眺めていた。
「ずっと友達か……」
レッドと離れたことに後悔はない。もしあのまま何もせずに漫然と生活を続けていたなら多分冒険者を辞めてしまっていただろう。今こうして冒険者をやっているのもレッド追放という選択あってこそだ。
「僕たちはお前に負けないように力を蓄えてきたんだ……来るなら来いレッド。返り討ちにしてやる」
白みかけた空をニールは野獣の如き鋭い眼光で睨みつけた。
*
あるダンジョンの最奥。豪華な玉座に腰を深々と据える怪物が前方に跪くデーモンに目を向ける。
「……ダンベルクが倒されたと?」
「はっ!その通りであります!」
「……まさかベルク遺跡が攻略されるとは……」
怪物はスッと足を組み替え遠い目で虚空を見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。
「……ダンベルクが負ける姿を想像出来ん……敵は?多勢に無勢か?」
その言葉にデーモンは逡巡する。目の前の怪物は現実的なことを口にしている。しかし自分の見た現実はそれとは大きく離れていた。この事実をありのまま伝えるべきなのかどうかを迷った結果だ。とはいえ黙っていることは出来ずにデーモンはさらに頭を垂れて叫ぶように伝えた。
「敵は……!敵は1人です!!」
怪物は大きく目を見開きギョロッとデーモンを見下ろした。その視線は物理的に触られたような感覚があるほど殺意に満ち溢れていた。
いつの間にか音もなく立ち上がった怪物は、さらにいつの間にかデーモンの目の前まで迫って見下ろしていた。
「……たった1人にダンベルクが倒されたと?勇者か?魔法剣士か?」
「た、たたた……ただの剣士です!!」
──ブゥンッ
デーモンの体は瞬時に持ち上がった。首に掛かった手を振り払うことは出来ない。もしこの怪物の気に障るようなことがあればどうなるか分かったものではない。
「……笑えない冗談だな。誰に言われてそのような報告をした?」
「わた……私……だけでは……ありま……せん……他の同胞も……目撃して……」
意識が飛びかけるデーモンを前に怪物も半信半疑に手を離す。窒息しかけたデーモンはこれでもかと息を吸い込む。噎せて咳を何度か続けるが、一向に息が整わない。怪物がゆっくりと玉座に座り終えるその時までデーモンが落ち着くことはなかった。
「……其の者の名は?」
怪物は何とか怒りを抑えながら尋ねる。デーモンは土下座をしながら頭を床にこすりつけた。
「レ、レッド……レッド=カーマイン!!」
怪物は顎を撫でながら「レッド……」とポツリと呟く。ひとしきり頷いた後デーモンを見やる。
「……ダンベルクの死後、欠片はどうした?」
ひゅっと冷える。あの時デーモンは全ての同胞を含め、自分の命を守るためだけに逃げ出した。誰も欠片の存在など見向きもせず。
「あ……その……えっと……」
言い淀むデーモン。瞬間、このデーモンはもう二度と質問に答えることは出来なくなっていた。パチャッという音を立てて血の肉片が床に散った。
「執事」
怪物の一声に柱の陰からスッと仮面を被った何かが姿を現した。
「……ここを片付けろ。終わり次第ベルク遺跡に向かい、欠片を回収しろ。……既に奪われていた場合は奪った人間を見つけ出して殺……いや、相手はダンベルクを倒すほどの猛者。雑魚を使って情報を拾って来い」
バトラーと呼ばれた仮面の人型はスッと一つ礼をすると影の中へと消える。そこから仮面を付けたメイド服の人型が数体ゾロゾロと姿を現し、肉片を片付ける。それをぼんやり眺めながら怪物は目を細めた。
「……我らを脅かすほどの敵を女神が新たに創り出したというのか?封印された状態から?……俄かには信じ難い……とすると裏切りも視野に入れる可能性があるのか?フゥ……面倒なことだ」
怪物は憂鬱そうにため息をつく。この考えが全て杞憂であることを願うばかりだった。
「待ってよニール!」
「ははっ!遅いぞレッド!」
田舎の平和な村。大雨が振ったり強風が吹いたりする程度が災害だと言えるくらいに平和そのものの長閑な故郷。
だからだろう、刺激が欲しかったのだ。夢は冒険者になってこんな退屈な村を出ていくこと。農業を継ぐなんて考えられなかった。
小さな時の冒険者ごっこ。レッドはニールに剣の才能を見た。
ただ剣に見立てた折れた枝をセンスのままに振り回す。その流麗な動きは素人目に見ても感嘆の声を上げざるを得なかった。更に驚くべきことにニールは魔法使いの素質まで持ち合わせていた。
レッドはニールに憧れた。ゆくゆくは伝説と崇められ、世界に名が知れるだろう最強の魔法剣士に憧れた。
魔法の才能のないレッドはただひたすらに剣を振った。ニールに追い付けるように、側で共に戦えるように。
「ね、ねぇニール。僕らは……さ、ずっと友達だよね?」
「そうさレッド!僕らはずっとずーっと友達さ。もし離れ離れになってもそれだけは変わらないよ」
ニールの笑顔は眩しかった。レッドが彼の才能を妬んで出た女々しい質問に何の陰りもなく笑う。純粋でストレートな答えに後光が差しているのかと見紛うほどにニールが輝いて見えた。
レッドはいつかこんな人間になりたいと心から願う。
例え追い出されても憧れの対象はいつまでも変わらない。
*
「夢か……」
深夜、寝汗をかきながら目覚めたニール=ロンブルスは右の手のひらで顔を拭いながらベッドの脇に座る。
動悸がする。ゆっくりと深呼吸して自身を落ち着かせると立ち上がった。窓を開けて夜風に当たると多少気分が良くなってくる。
「……突然なんだ?急にあいつの夢を見るなんて……」
嫌な予感がしてくる。追い出したあの日から姿を見なくなったレッド。ニールの心に去来したのは焦りだった。
「まさか近々やって来ると?いや……まさか……ね」
もしレッドがやって来るとしたら何のためだろうか。当然復讐だろう。何故今なのかと困惑するがどんな形であれ戦うと言うならタダでは済まない。最悪ビフレスト全滅も視野に入る。
背中に冷たいものを感じているためかニールは眠る気にもなれず、ソファに座ってぼんやりと外を眺めていた。
「ずっと友達か……」
レッドと離れたことに後悔はない。もしあのまま何もせずに漫然と生活を続けていたなら多分冒険者を辞めてしまっていただろう。今こうして冒険者をやっているのもレッド追放という選択あってこそだ。
「僕たちはお前に負けないように力を蓄えてきたんだ……来るなら来いレッド。返り討ちにしてやる」
白みかけた空をニールは野獣の如き鋭い眼光で睨みつけた。
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あるダンジョンの最奥。豪華な玉座に腰を深々と据える怪物が前方に跪くデーモンに目を向ける。
「……ダンベルクが倒されたと?」
「はっ!その通りであります!」
「……まさかベルク遺跡が攻略されるとは……」
怪物はスッと足を組み替え遠い目で虚空を見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。
「……ダンベルクが負ける姿を想像出来ん……敵は?多勢に無勢か?」
その言葉にデーモンは逡巡する。目の前の怪物は現実的なことを口にしている。しかし自分の見た現実はそれとは大きく離れていた。この事実をありのまま伝えるべきなのかどうかを迷った結果だ。とはいえ黙っていることは出来ずにデーモンはさらに頭を垂れて叫ぶように伝えた。
「敵は……!敵は1人です!!」
怪物は大きく目を見開きギョロッとデーモンを見下ろした。その視線は物理的に触られたような感覚があるほど殺意に満ち溢れていた。
いつの間にか音もなく立ち上がった怪物は、さらにいつの間にかデーモンの目の前まで迫って見下ろしていた。
「……たった1人にダンベルクが倒されたと?勇者か?魔法剣士か?」
「た、たたた……ただの剣士です!!」
──ブゥンッ
デーモンの体は瞬時に持ち上がった。首に掛かった手を振り払うことは出来ない。もしこの怪物の気に障るようなことがあればどうなるか分かったものではない。
「……笑えない冗談だな。誰に言われてそのような報告をした?」
「わた……私……だけでは……ありま……せん……他の同胞も……目撃して……」
意識が飛びかけるデーモンを前に怪物も半信半疑に手を離す。窒息しかけたデーモンはこれでもかと息を吸い込む。噎せて咳を何度か続けるが、一向に息が整わない。怪物がゆっくりと玉座に座り終えるその時までデーモンが落ち着くことはなかった。
「……其の者の名は?」
怪物は何とか怒りを抑えながら尋ねる。デーモンは土下座をしながら頭を床にこすりつけた。
「レ、レッド……レッド=カーマイン!!」
怪物は顎を撫でながら「レッド……」とポツリと呟く。ひとしきり頷いた後デーモンを見やる。
「……ダンベルクの死後、欠片はどうした?」
ひゅっと冷える。あの時デーモンは全ての同胞を含め、自分の命を守るためだけに逃げ出した。誰も欠片の存在など見向きもせず。
「あ……その……えっと……」
言い淀むデーモン。瞬間、このデーモンはもう二度と質問に答えることは出来なくなっていた。パチャッという音を立てて血の肉片が床に散った。
「執事」
怪物の一声に柱の陰からスッと仮面を被った何かが姿を現した。
「……ここを片付けろ。終わり次第ベルク遺跡に向かい、欠片を回収しろ。……既に奪われていた場合は奪った人間を見つけ出して殺……いや、相手はダンベルクを倒すほどの猛者。雑魚を使って情報を拾って来い」
バトラーと呼ばれた仮面の人型はスッと一つ礼をすると影の中へと消える。そこから仮面を付けたメイド服の人型が数体ゾロゾロと姿を現し、肉片を片付ける。それをぼんやり眺めながら怪物は目を細めた。
「……我らを脅かすほどの敵を女神が新たに創り出したというのか?封印された状態から?……俄かには信じ難い……とすると裏切りも視野に入れる可能性があるのか?フゥ……面倒なことだ」
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