「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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3章

30、安心と安全は薄氷の上

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 特別部隊の敗走に頭を抱える冒険者ギルドは、再度行なわれるであろう首都防衛戦や国民の避難誘導、そしてギルド運営側の保身のため、すぐに会議が開かれた。

「前回の防衛戦でいくら払ったと思ってるんだ!2度目があるならあんな大盤振る舞いしなかったというのに!!」

 バンッと机を叩きながら悔しがる幹部の一人。それをギルドマスターが止める。

「文句を言いたい気持ちは分かるが、まずは落ち着け」

 周りからも「そうだ。みっともないぞ」といさめられ、歯軋りしながら椅子に座り直す。

「……ビフレスト、ラッキーセブン、シルバーバレット、風花の翡翠、そしてディロン=ディザスター。何故これだけの冒険者が揃って勝てない魔物が居るんだ?!おかしいだろ!!」

 大人しく座ったまでは良かったが、まったく落ち着くことの出来ない彼はやはり愚痴をこぼす。ただこの疑問はみんな思っていたことだったので、静かに頷いている。

「……分からないことだらけだ。今までにない敵の出現……死人こそ出ていないが、あのレベルの冒険者がほとんど気絶させられている現状は悪夢そのものだな」
「異常だよ。異常」
「この情報が国民に知られては不味い。ヴォーツマス墳墓の件は箝口令を敷く。特別部隊には一切の口外を禁じよ。そして今後の対応だが、昨日の襲撃をダシにイベントの中止と観光客の帰宅を促すように伝達せよ。せっかくこの街まで来てもらって申し訳ないが、巻き込まれるよりはマシだろう」
「中止ですって?!とんでもない!この宣伝にいくら掛かったとお思いですか!」
「お前はさっきから金ばかりだな。もう少しこう……尊い命とかそういうのに焦点を当ててみてはいかがかな?」
「……今回のイベントは国王様にもご尽力いただいたのですよ?国庫からも運営資金が出ております。その言葉は国王様のために取っておいてはいかがですか?」
「あぁ……その……無理難題だな」

 その後も議論は続いたが、ある程度の合意が出たところで決した。次の日、お昼前に広場で会見が開かれる。登壇したのはもちろんギルドマスター。
 結局イベントは中止にならずに延期を発表。今回長旅をして来たであろう観光客に労いとして、次回から使えるホテル無料宿泊券一人一枚とイベントで販売予定だったグッズの無料配布、そしてイベント再始動に使用可能の闘技場への招待券を配布することとなった。
 無論、不満はそこかしこから噴出。一部の国民からの突き上げで、責任者の追求へと話が流れるが、敵の再度襲撃による損害を考慮した結果であることを告げると大半が口を閉ざした。

「我々はダンジョン攻略にうつつを抜かしていたようだ。敵戦力の見極めと今後の対策案を兼ね、しっかりと危機に対応して行く」

 ギルドマスターが豪語したものの、敵についての情報が何もなく、取り敢えずギルドの方針だけを告げる。

「質問は書状にしたためてギルド会館に送達してくれ。順次回答を検討する。とにかく今は命を守ることが何よりも大切だ。この後7日間は兵士の数を倍に増やし、冒険者たちにも協力を仰いで事に当たる。……以上だ」

 兵士とも連携して動くことから、国王とも密にやり取りをしていることを察することが出来た。
 ギルドマスターの会見終了後、観光客はすぐに帰宅を始めた。せっかくの休暇や多額の旅費を消費したわけだが、命には代えられない。街に住む人々も避難すべきかどうかを話し合っていた。
 先の会見を見ていたニールは悔しそうに俯いた。

「どうした?」
「ああ、いや……僕たちが失敗していなければこんな面倒な事にはならなかったんだろうなと思うとさ、ちょっと胸が苦しくなったというか……」
「無茶言うぜ。俺たちだけならともかく、あれだけの冒険者がズラッと揃った結果がこれだぜ?出来ないことを嘆くよか、次のことに目を向けるべきなんじゃねぇか?」

 ジンはニールの肩をポンと軽く叩く。

「……奴はあの後、結局僕たちの前に現れることはなかった。あれだけ煽っておいて何もしなかったのはどんな意図があったんだろうか?」
「さぁな。もしかしたら急に飽きたのか、俺たちをほっといてでも行かなきゃいけなかった”急用”とやらがよっぽど大変なのか……つってもそのお陰で助かったんだがな」
「甘いなジン」

 ニールとジンの会話にアルマが入ってきた。

「俺たちが命をながらえたんじゃない。奴によってながらえさせられたんだ。俺たちにある程度攻撃を仕掛け、恐怖を与えて一旦距離を置く。その際「後で殺す」などと脅せば、獲物である俺たちはその時を今か今かと待つことになり、心身ともに疲弊する。それを愉しんでいるんだ」
「……やけに語るじゃねぇか。そりゃあれか?実体験って奴か?」
「狩人としてのな。強い獲物を仕留めるのに心理戦を使ったことは幾度もある。奴がある種のゲームのように考えているのなら、この仮説が最もしっくり来る」

 一切余裕のないアルマに2人は顔を見合わせる。目で語り合った後、ニールは肩を竦めてアルマに向き直った。

「僕たちは連日の戦いで疲弊している。心理戦の件も含めて休養が必要じゃないか?奴の術中に嵌まっているかもしれないなら尚更だ」

 ニールはアルマの背中に手を当てて、3人は拠点にしている宿泊施設へと移動した。



「……よし、バレてないな」

 レッドはアヴァンティア周辺に帰って一晩明かした。こっそり街に入り、ギルド会館にて受付嬢に依頼がないかを確認する。それとなく受付嬢の反応を窺っていたが、特別クエストの件に一切言及されなかったことにホッと胸を撫で下ろしていた。

『あれだけ気を付けて戻ったんですから私は大丈夫だと思っていました。しかしイベント延期とは残念でしたね』
「まぁ仕方ないな。一昨日の襲撃事件でギルドは神経質になってるらしいし、これ以上住人の不安を煽るのは本意じゃないだろう。……楽しみにしてたのになぁ……」

 レッドは一瞬悲しみに暮れたが、頭を振って邪念を飛ばす。

「ま、とにかく欠片かけらは手に入れた。これで3つめか」

 そう言って取り出した欠片は未だ水晶玉の中にあった。

『何故まだ取り出さないのですか?』
「……なんか綺麗だから?大丈夫だよ。ちゃんと取り出すから」
「おいコラ」

 手の中で水晶玉を弄びながら笑って見せるレッドの背後からぬぅっと顔を覗かせる大男。レッドは「おわっ!」と驚いて、サッと水晶玉を隠しつつ後ずさる。そこにいたのはディロン=ディザスター。人類最強と名高い冒険者である。

「オメーさっきから何をぶつぶつ言ってんだ?」
「あっ……えっと……その……」

 いきなり憧れの存在に声を掛けられたら吃るのも無理はない。だがそんなハッキリしない態度はディロンの一番嫌う所作。イラッとした顔を見せた後、背筋を伸ばしてレッドを睨みつける。

「出入り口付近に立つな。邪魔なんだよ」
「え?……あ、あぁ……」

 レッドは受付嬢とのやり取りですっかり安心し切っていたが、ここはギルド会館の門前。自分が如何に非常識だったかを恥じて急いで隅に寄る。
 反骨心のカケラもないレッドにディロンは何故かイラっとした。きっとハウザーのせいだろう。
 ヴォーツマス墳墓のアンデッドに力の差を見せつけられて溜まった鬱憤。その辺の小者が逆上して喧嘩をふっかけてくれれば一発ぶん殴ってスッキリ出来るというのに、その隙を与えないレッドの控えめな態度が気に食わなかったのだ。
 ディロン自身も自己中心的で勝手な考えだと思うが、そういう性格だと諦める。

「……チッ」

 卑屈そのものを体現するレッドの横を通り過ぎる。俯いて目を合わせようとしないレッドを肩越しに睨んだ。

「オメー……名前は?」
「は?名前ですか?……レッド=カーマインです」
「レッド……オメーあれか?ビフレストに追い出された奴か?」
「……ええ、まぁ……」

 レッドは苦笑する。この流れはきっと馬鹿にされるのだろうと予想が付いたから。

剣士セイバーとしてのなりは悪くねぇ。問題はその自信の無さか。もっとシャキッとしろシャキッと」
「……っ!?は、はい!」

 ディロンは鼻を鳴らして立ち去る。まさかそんなことを言われるとは露ほど思わなかったレッドは心の底から喜んだ。

「ああいう人に付いていきたいよなぁ……」
『えぇ?私は嫌です。怖そうですし……』
「あ、確かに怖いな。あの鋭い目で睨まれたからちょっぴりビビっちゃったよ。それでも格好良いよなぁ……見ろよあの肩幅。あのゴツさは天性のものだ」
『うーん……私はもう少し線の細いほうが好みですけど。というかレッドくらいの体型が一番好みですね』
「はは……ありがと」

 レッドはミルレースの言葉がおべっかであると思い、素直に喜ぶことが出来なかった。人それぞれの好みがあるのだから、ミルレースにだって選ぶ権利がある。レッドの理想とは相容れないだけだ。

「……サインとか欲しいけど、嫌がるよなぁ絶対……」
『意外と優しい感じがしましたし、もしかしたらくれるんじゃないですか?』
「うーん……でもなぁ……」

 レッドはもじもじしてどうしても勇気が出ない。いつもの「でもでもだって……」が発動し始めた頃、目の前を通り過ぎる冒険者で視界を遮られた。
 さっきディロンに注意されたばかりだというのに、まだ懲りずにギルド会館の出入り口付近に立っていた。
 不味いと感じたレッドはそそくさと退いて、自然な行動を意識しつつ街を散策することにした。

「……ビフレストには依頼を断られイベントも延期。この街でやることは既に終わってるんだよなぁ……」
『そうはいってもお疲れでしょう?すぐに移動しては危険が伴うのでは?』
「確かにミルレースの言う通りだ。観光客も帰るみたいだし、ちょっと奮発して高い宿でも取っちゃおうかな」

 レッドはキョロキョロと周りを見始める。どうせなら有名人が泊まってそうな宿に狙って泊まりたかったからだ。先のディロンの後でも追えば良かったと、今になって見失った自分を呪う。
 同じ宿に泊まれば、夜に宿の廊下でバッタリみたいなこともあるかもしれない。そうでなくとも何かしら個別イベントが発生するかもしれない。
 ストーカー紛いの行動だがファンなら気持ちが分かるはずだとレッドは自分を正当化している。

「おやぁ?あらあらあらあら?ありゃぁもしかして……」

 聞いたことのある声が背後からレッドの耳に入ってきた。ビクッとして振り向く。

「やーっぱり!レッドじゃぁん!」

 そこに居たのはゴールデンビートルだ。レッドは「うわぁ……」とバツが悪そうに俯いた。

「おっ?おっ?なになになに?俺たちと合ってそんな嬉しいの?そりゃそうだよなぁ!トボトボ歩いちゃって寂しそうだったしぃ?」
「レッドさーん!今日もお1人ですかぁ?ギャハハッ!」

 ゴールデンビートルの面々は大声でレッドを嘲笑する。

『もう、何でこの人たちは絡んでくるんですか?こんなこと言いたくないですけど、何と言うか鬱陶しいです』

 ミルレースは訝しみながらゴールデンビートルに苛立つ。いっそのことレッドに物理的な攻撃を仕掛けてくれれば反撃されて二度と絡まないだろうに、彼らはレッドに対しある程度の距離を保って口撃する。まるで触れるのは危険だと気付いているかのように肩すら組まない。天性の勘か、それとも単に触りたくないだけか。

「レッドくんってぇ、イベント参加組だっけ?じゃ延期ってこと教えないと不味いよなぁ。えっ?なに?元々呼ばれてない?……えっ?じゃ何でこの街に居るのぉ?」
「いや、街に居るのは別に良いだろ。もういいから絡んでくるなよ」
「おいおい何だよ。本当はめちゃくちゃ嬉しいくせに~」
「……何だよお前ら暇なのか?俺に構わずにどっか行ってくれよ」

 レッドは次第に面倒臭くなって、ちょっと苛立ちながら言葉を放った。それに対しゴールデンビートルも反発する。

「はぁ?何お前……」
「おいおい生意気だな。そういうお前はどうなんだよ。忙しいの?さっきから暇そうにしてたじゃん」
「……」

 段々疲れてきたレッドは黙々と歩き出す。「あれあれぇ?無視ですかぁ?」と言いながら煽り散らすウルフを視界に入れないように心掛けながら街の出入り口を目指す。

「あら?お前もしかして依頼クエストを受けてんのか?え?マジで忙しかったの?」
「そ、そうだよ。俺は忙しいんだ!だから……」
「え?でもどんなクエストを受けてんだ?確か襲撃の件で掲示板の依頼書は回収されたはずじゃ……」
「……」
「フハッ!!ちょっ……!こいつクエスト受けたふりして逃げるつもりだぜ!なっさけねぇなぁ!!ギャハハハッ!!」

 レッドの口から出任せに気付いたパイクは仲間と共にレッドを笑う。その空気に耐えきれなくなったレッドは急いで走り出した。
 ゴールデンビートルの嘲笑がレッドの耳の中で反響する。レッドの顔は今にも泣きそうなほどに歪んでいた。



「う、うぅ……うくっ……」
『レッド……泣かないで。あんな奴らに負けてはダメです』
「で、でも……だって……」

 レッドは街の外の野営地で一人涙を流していた。こんな時声を掛け続けるのが正解か、はたまた放って置くのが正解かが分からない。取り敢えずミルレースは何とか元気を出してもらおうと慰める。でもレッドは泣き止まずにぐすぐすとうずくまっている。

『……このままでは一生彼らに馬鹿にされ続けますよ?こうなったらどこかの誰かとチームを組むか、開き直るかのどちらかしかありません』
「……俺とチームを組みたがる奴なんて居ないよ……!」
『じゃあ後者ですか?ゴールデンビートルなんて無視無視。開き直って旅を続けましょうよ。私は集め終わる最後まで二人旅でも構いませんよ?』
「……う~ん……でもやっぱり人恋しいし……」
『もう!じゃあどうするんですか!……って、私をからかってます?』
「……そんな余裕ない~……」

 レッドはわがままを言いながら塞ぎ込んでしまう。ミルレースもお手上げの状況だったが、ふと水晶玉がチラリと見えた。

『レッド、欠片を取り出しましょう。欠片3つでは受肉は出来ませんが、何らかの力は戻るはずです。現状の打開案が見つかるかもですよ?』

 レッドはその言葉にようやく顔を上げた。鼻をすすりながら水晶玉を取り出し、ジッと綺麗な玉を見つめる。

「……なぁ、思ったんだけどさ、勇者がゴーレム作ってたよな。あれって再現出来ないかな?」
『ああ、確かに。それなら戦いに参加することも可能ですね。え?でもどうやって作成するのかは分かりませんね……』
「それを言われると……魔法使いマジックキャスターで言うところのどの系統なら作れるんだろうか?」

 レッドは頭を捻りながら水晶玉を拳でコツコツ小突く。あまり硬くないのか、それだけでピシピシと砕けていく。

「叩きつけないと割れないかもって思ってたけど、案外脆いな」
(いや、それレッドの力が強いだけなんじゃ……)

 ミルレースのジト目に気付かないまま水晶玉から小さな欠片を取り出したレッドは、元々持っていた大きめの欠片とくっつけた。すると突然光を放ち、融合して小さな欠片の分だけ大きくなった。
 欠片同士の融合は一度見ているのだが、人知を超えた現象に頭がついていかない。

「これ本当にどういう仕組みなのか分かんないな。これも魔法なのか?」
『これは私自身なので魔法とは少しだけ違います。それとまた1つ力を取り戻した気がします』
「本当か?じゃあもしかして欠片の位置が分かるとかそういう力が?」
『まだ戻った力が何なのかまでは分かりませんが、いずれハッキリしますよ』

 レッドはミルレースの言葉に何度か頷きながら欠片を大事そうにポケットにしまった。

『それで……これからどうします?』
「ミルレース的には次のダンジョンに潜りたいところだろうけど、やっぱりゴーレムを諦めきれない。こうなったら魔法使いマジックキャスターの聖地に行こう」
『聖地?』
「ああ。魔法使いマジックキャスターの聖地……魔道国「ロードオブ・ザ・ケイン」だ」
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