「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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9章

114、一時の休息

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『うぅぅっくそぉっ……』

 旧地帝マルドゥクはカムペーの滝から飛び出し、夜の暗がりで開いた最果ての門から漏れ出た光に怯えながら眺めていた。大地に降り注ぐ命の光を恐れる土の精霊。獣の首輪を討伐するために意気込んで自分も参加するはずだったと言うのに情けないと自分を戒める。しかしどうしても入れない。

『儂という一級の戦力がいながら何ということだ……また儂だけが生き残ってしまうのか?』

 女神ミルレースとの戦いで失った同じ精霊王たちの影を目の裏で思い浮かべながら、どうなっただろうか、上手くいっただろうかなどと考えながら祈るしかなかった。
 そこでウジウジと滝の流れを眺めていると、ふと何かおかしいことに気付く。気のせいかもしれないが、滝の水が落ちる速度が遅くなっている気がする。目を凝らして見れば見るほどにその目に写る事象は常識では測れない驚くべきことだった。

 ──ズアァァァァァァアァッ

 滝がゆっくりと音を立てて左右に分かれ、滝の先にある空洞からレッドたちが姿を現した。マルドゥクは最初『おおっ!!』と感嘆の声を上げたが、次の瞬間には絶望に顔を歪めたこの世の終わりのような顔になった。

『バ、バカな……獣の首輪が……一緒に……』

 マフラー素材の蛇が2匹、スロウを歩かせないように頑張ってマフラー蛇が自分のお腹を地面につけ、彼女を持ち上げ浮かせて連れていっている。何が起こっているのかマルドゥクには全く分からない。

『あ、爺っ!』

 ヴォルケンはマルドゥクの顔を見るや否や声を上げる。レッドたちは水の落ちる速度が著しく遅くなった左右に割れた滝から濡れることなく飛び出す。

「凄いな……これがスロウの能力か。何がどうなっているんだ?」
「これはね~。時間を遅くしてるんだよ~」
「名前通りのスローモーションか。飽きれるほど凄まじい能力だな」
「んふふ~っよく言われるよ~」

 ライトとグルガンも素直に驚く能力。遅萎えスロウモーション。異次元を操作するフィニアスと同等、ことと次第によってはスロウの能力の方が危険とも言える。
 驚きの説明もなしにマルドゥクの側に全員が揃った。討伐対象のスロウもだ。

『まったく……自分だけ逃げるとは精霊王の風上にも置けないな。レッドが対処しなければどうなっていたか分かったもんじゃない』

 ヴォルケンは命の危機すら感じたスロウとの邂逅に苛立ちを以ってマルドゥクに想いをぶつけた。だがマルドゥクとしてはそんなことなどどうでも良かった。

『ど、どうやってそのような状況に……?』
「あ、えっと……スロウは俺のチームに入ってもらったよ。もう心配することはないから」

 レッドはスロウを見ながら事実だけを話した。

『いや、だからそうなった過程と理由を聞いておるんじゃよっ!!何故封印せざるを得なかった獣の首輪とそんな関係になれたのかと事細かに話してみせろぉっ!!』

 ビリビリと空気が揺れるほど叫ぶマルドゥクにディロンが耳の穴をほじる。

「っるせぇな。近所迷惑だろ?」
『おらんわっ!生物なんぞっ!この山にっ!!』

 ブチギレるマルドゥクだったが、ライトが宥めるように手をかざす。フローラも一緒になって落ち着かせたが、尚も説明を求めるマルドゥクにグルガンが冷ややかな目を向けた。

「ふぅ……もうすぐ夜が明ける。こんなところで立ち話もなんだから、ここから早々に移動しないか?」

 グルガンの指摘にマルドゥクが静かになる。それと同時に滝の水の勢いが戻り、ドドドド……と滝の音だけが静まり返ったレッドたちの周辺に鳴り響いた。



 パァッと差し込む朝日に世界が明るく照らし出される。人々があくびをしながら起き出した。
 マルドゥクが日の元で動けないことが災いし、仮眠もないまま灰山に入ったので割と限界だったレッドたちは、スロウがたるタロスと呼んでいる家もシャングリラに飛ばしたので様子を確認がてら、グルガンの領地であるシャングリラで休息を取ることに決めた。
 ダンジョンに潜る冒険者、畑を耕す農家、続々と店が開き活気に満ちる街、御者が馬に鞭を入れて世界の血液が循環を始める頃、レッドたちは眠りに落ちる。
 BGMにオルゴールの音が似合うほど穏やかに眠ったレッドたちが起き出したのは昼過ぎだった。

 ──チンチンチンチーンッ

 遅めの昼食に舌鼓を打っていると、グルガンがグラスをスプーンで叩く甲高い音が鳴り響いた。

「食事中にすまない。レッドよ、今日も申し訳ないが時間をもらうことになる」
「え?何か他にありました?」
「うむ。皇魔貴族の爵位の授与式があるのだ。マルドゥクによってゴタゴタしたが、思った以上に時間も丁度良いからな」
「えぇ?!じゅ、授与式ですか?そういうのはちょっとよく分からないんですけど……」
「形だけだ。どうすれば良いかは我が逐一指示するのでそれに従ってくれたら終わる」
「式典か。そういうのは人族と変わらないようだな」
「レッドの地位向上にも良い。騎士ナイトの位でももらっておいて損はないからここは一つ我慢しようレッド」
「えぇ~……」

 レッドはもらうと言ったその日に既に騎士位をもらっていたと勘違いしていた。というかグルガンが説明を省いていたのでライトもオリーもレッドは既に騎士だと勘違いしていたのだが、考えてみたら当たり前だよねと考えを修正した。

「すご~い!レッド皇魔貴族になるの~?式典見たことないから私も見てい~い?」
「問題ない。我が話しておく」
「サラッと無茶苦茶言ってやがるが、オメー魔族でもねぇのに魔族の肩書もらうとか正気かよ?後で何か言われても知らねぇぞ?」
「え?ディロンの言ってたギルドってそういうの分かんの?」
「あ?無理だぜ」
「じゃあ別によくない?どうせ分かんないでしょ?」
「……ま、そりゃそうだがよ」

 ディロンは用意された肉を頬張りながら肩を竦めた。レッドは式典に乗り気ではなかったが、みんなの後押しで参加に了承し、フィニアスの領地に招待されることになった。



 式の会場は宝物庫の中身をひっくり返したかのように金銀財宝で豪華絢爛に彩られ、黄金の彫像が壁や柱の前で式の主役を歓迎する。女神の欠片集めをしていたレッドの猛攻と、女神復活から討伐までの災害で運よく生き延びた選ばれし皇魔貴族たちが今回の授与式に参加している。
 随分と数を減らした皇魔貴族で実質ナンバー3のレイラ=伯爵アール=ロータスは式会場に入り、調度品を眺めながら自嘲気味に笑った。

(……人間のために開かれるとは前代未聞だな……)

 レッドの功績を考慮すれば当然のことが起こっている。どころか騎士位では不十分。そんなことは分かっているが魔族として人間を迎え入れるなど考えられない。ロータスにとって人間とは弱者の代名詞。本来なら同胞を扇動して離反を持ちかけたいところだが、気に食わないなどとわがままを言えるような状況でもない。
 続々と会場内に入る皇魔貴族の数を見れば一時の賑わいなどもはや無い。開始時間直前、執事バトラーがロータスの元へと寄って行った。

「ロータス様。準備が整いましたのでどうかご準備を……」
「……分かった」

 ガチャッ

 生き残ったもの同士が慰め合うお通夜状態の会場にフィニアスが入り、わずかにあった賑わいもスッと静かになった。フィニアスが玉座に座ると同時にロータスが声をあげた。

「……これより授与式を執り行う」
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