「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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10章 過去編

131、お前と居るとつまんねぇ

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 デザイアは玉座に深々と腰を据えながら憂慮していた。我が子たちの不甲斐なさに。

 自身が誇る最強の能力を分け与え、期待をかけていたというのに思った通りの性格や行動をしない。
 期待以上なら何も言うことはないが、一人は怠け癖が酷く引きこもって動こうとしないし、一人は尊大で能力の本質に辿り着いていない間抜け。
 このまま新しい子供を作っても画一的な存在が生まれてしまったらまるで意味がない。
 これ以上の能力の無駄遣いは避けたいところ。

(最近はグリードが調子付いてきている。『強欲』の力を『理不陣インペリアルフィールド』などとふざけた名前で大雑把に使用しているのは気に入らないが、今の調子ならいずれ私の異名にも使用された『黒欲ダークアヴァリス』に行き着くことだろう。ふぅ……まったくいつになるのやら)

 デザイアは今自分が悶々と考えている状況に自嘲気味に笑った。

「……他者の将来を案じるなど、昔の私では考えられないだろうな……」

 ポツリと呟いた独り言は誰に聞かれるでもなく虚空に溶けて消えていく。
 信頼出来る部下と我が子が居て、何事もなく平穏無事に日常が進んでいく。これがささやかな幸せと言うのだろうか。
 こんなものではない。もっとあるはず。
 とりあえずこの世界を征服してみれば何か分かることがあるだろう。『物は試し』とは誰が言ったか、これからのことにピッタリ当てはまる言葉だ。
 デザイアは後々のことを夢想しながら静かに目を閉じる。

 ──バァンッ

 音に反応してカッと目を見開いた。
 気配からしてデーモンではない。急用を届けに来たにしては乱暴すぎるし、確実にデーモンを大きく超えた力を有している。皇魔貴族の誰かであろう。
 そして大きな両扉を蹴破る勢いで入って来たことを思えばアレクサンドロスでもない。どれだけ急いでいても音は最小に留めるのが几帳面なアレクサンドロスという男だ。
 そっと目だけで誰が入って来たのかを確認する。

「……ほぅ? お前に乗り込んでくる度胸があるとは夢にも思わなかったぞ。メフィスト」
「警備が手薄だ。油断していたようだなデザイア」
「ふんっ……警備など必要ない。邪魔なだけだ。雑魚は群れねば何も出来んと言っているようなものよ」
かせ。そういう態度が命取りだということにそろそろ気付いたらどうだ? まぁ、気付いた時にはもう遅いが……」
「ふふふ……こうして会話している最中にも私を取り囲んでいるのが手に取るように分かる。しかしだ。私を女神と同一視するのはお門違いと言うものよ。私は個にして絶対なのだ」
「それはどうかな?」
「……なるほど。大公グランデュークである矜恃が私と並び立っていると勘違いさせるのだな? それでは見せてやろう。絶望をな」

 デザイアは玉座から重い腰を上げる。
 3mを超える巨躯。漆黒のオーラを身に纏いし重厚な全身鎧。はためくマント。フルフェイスの兜から覗く金色の目だけが生き物であることを教えてくれる。
 両手を広げて挑戦者を受け入れるその出で立ちは魔王そのもの。
 この怪物をここで撃破する。

「──行けぇっ!!」

 戦いの始まり。周りに響き渡るその声に玉座の間に居た全員が反応する。
 メフィストは右手をかざし、目がギラリと光った。周りの部下たちは一斉に飛び掛かる。
 しかしデザイアだけは一瞬耳を疑うようにキョロキョロと目を動かした。その声に聞き覚えが合ったためだ。

(……いや、そんなはずはない)

 デザイアは気のせいだと思い直して目の前の戦いに集中する。
 左右上下から襲い掛かる皇魔貴族など眼中にない。目の前のメフィスト以外は雑魚である。狙いをメフィストに絞って攻撃を仕掛けようとしたが、最初の一瞬の隙が命取りだった。

「……ん?」

 デザイアは自分の感覚が間延びしているように感じる。
 視界が、聴覚が、危機察知能力が。すべてが鈍感になっている。
 そしてすべてが映像の早回しのように素早く動き始めた。

 ──ガコッ

 視界が揺れる懐かしい感覚。これは頭を殴られた時のものだ。デザイアと対峙するにはまずあり得ない低レベルの敵に殴られた。
 さらに4体にそれぞれ腕、脚、胴体と順々に殴り付けられる。
 痛みまで感じる事はないが、理解出来ないことに驚愕が心を支配する。

「黒欲公が無防備だっ!!今がチャンスですっ!!」

 メフィストに合図を送る先陣を切った魔族。それに対して小さく頷き、メフィストは自身の能力を発動させる。

異空間への扉エニグマっ!!」

 メフィストの声に合わせて空間が裂ける。その中には太陽のような光球が凄まじい輝きを放っていた。
 デザイアに恨みを持つ皇魔貴族の魔力を集めてとんでもないほどの魔力が異空間に仕舞われているのだ。
 本来であればこれほどの規模の魔力を一人に集めれば弾けて死んでしまう。しかし魔力を異空間に仕舞うことで傷つくこともなく貯め込めれる上、放出もノーリスクで全て吐き出すことが可能。
 女神ミルレースのアルカナを滅ぼし、右腕を撃ち取ったのもこのエニグマの力によるものだ。

 ──ギュバァッ

 超高出力の魔力砲はデザイアの鎧を貫通し、右腕を撃ち抜いた。
 女神ミルレースと同様に宙に舞う右腕がメフィストたちの戦意を向上させた。

「な、何ぃっ?!」

 デザイアは悪夢を見ているような気分を味わった。
 まともに動けず、雑魚と罵った魔族に殴られ、メフィストの攻撃を無防備に喰らう。
 さらにデザイアはこの瞬間にようやく自分が置かれた状況に追いついた。

(こ、この間延びした感覚……信じたくは無かったが間違いない。スロウの能力。まさかスロウがこの私に反旗を翻したとでもいうのかっ!?)

 デザイアは激痛に耐えながらスロウの気配を探る。そこで不気味なことに気付いた。
 この玉座の間に居るデザイアを除く全員にスロウの気配を感じたのだ。
 あまりのことに疑問と怒りが込み上げる。
 スロウに何をしたのか、スロウは無事なのか、今どこに居るのか。
 全く分からぬことに焦りを感じ、体全身に力を込める。

「この雑魚どもがぁっ!!スロウに何をしたぁっ!!」

 衝撃波が近くに居た魔族を吹き飛ばす。メフィストの使用したスロウの力を跳ね除け、衝撃波によって5体の魔族が犠牲になった。

「チッ!このっ……!」

 メフィストは焦ってエニグマを開こうとするが、それを影から誰かが制止した。

「──違うっ!『怠惰』を重ね掛けするんだっ!!」
「ぬっ!? うむっ!!」

 メフィストは自分の判断が誤っていたことに気付き、すぐさまデザイアの時間を遅延させる。

「ぐぅっ……!?」

 デザイアはまたも体が鈍くなる。恐ろしく粘性の高い液体の中に全身を浸けられたかのようだ。

(女神の因子のせいで私にも影響を与える!これほど厄介なものになるとは……!!)

 自分の本来の力が一切発揮出来ない。ほんの少し力を使うだけで全滅させるだけの自信があっても、戦えないならどうしようもない。
 先の衝撃波のせいで魔族たちは距離を取って遠距離からの魔法攻撃に切り替えた。
 炎の玉が爆ぜ、氷の塊がぶつかり、雷撃が奔る。
 蓄積されるダメージはデザイアの体力を徐々に削る。

 これが親を超えようとする娘のしでかした下克上だというのなら甘んじて受け入れることが出来ただろう。ようやくやる気になってくれたのだと喜ぶことだって出来たはずだ。
 だからこそ許せるはずがない。子供の独自性を奪い、その能力を他者が利用するなどあってはならない。

(……なんだこの違和感は? このやり方に既視感がある。何もかも利用し、仲間すらも目的の道具に利用する。これではまるで……)

 デザイアの中にあった違和感が徐々に像を成していく。最初に雑魚どもが襲いかかってくる時に聞いた声とメフィストに指示を出した声。特に後者の声には違和感しかない。
 大公グランデュークというデザイアと肩を並べるメフィストに指示を出せる魔族が背後に居る。
 女神ミルレース戦の時のように指示役に徹し、まったくその姿を見せないところもデザイアの推論に拍車をかけた。
 あれが聞き間違いでなかったとしたら心当たりは一つだけ。

「……アレク……サン……ドロスっ!!」

 デザイアが最も信頼し、最も期待を掛け、身の安全をも保証してきた腹心たる最高の部下。
 アレクサンドロス=侯爵マークェス=グルガン。

 ──ギュバァッ

 デザイアの左腕が飛んだ。なんという凄まじい攻撃か。
 デザイアに恨みを持つ全魔族の魔力を凝縮して放つのだから、デザイアに向けた負の感情全てが魔力砲に乗っかり、威力を引き上げている可能性もある。
 ミルレースよりも遥かに頑強なデザイアの装甲を難なく貫く攻撃。恐らく現時点で最強の攻撃である。
 続いて両足に一発ずつ千切り飛ばし、土手っ腹に風穴も開けた。メフィストはここで決めるためにエニグマに貯め込んだ全ての魔力を使い切った。

「ぐおおおぉぉっ!!!」

 デザイアは両手両足を失い、腹にも致命的な一撃を受けた。もう助かりようがない状況だが、信じられないほどの生命力がデザイアを死なせてはくれない。
 もう放っておいても死ぬ。生き物であるならそのはずだったのだが相手はデザイア。普通、一般、常識を置き去りにする怪物中の怪物。
 デザイアを前にしたら何が起こっても不思議ではない。

「私は死なんっ!!死なんぞぉっ!!」

 何も出来ない状態だと言うのに威勢だけは凄まじい。このまま放っておいたら女神ミルレースよろしく急に腕が再生し出しても不思議ではない。
 メフィストは背筋が凍るほどの焦りと緊張を覚えたが、恐怖を振り払って冷静にデザイアを見据える。

「……デザイア。お前はこの世界に居てはいけない存在だとつくづく思わされるよ。私の持つ最大の奥義を持ってこの世界から退場してもらおう。──異世界への扉エニグマ・ジオメトリー

 ──ゴバァッ

 死にかけのデザイアの背後に空間の裂け目が出来る。見た目はいつも出しているエニグマと変わらないが、その用途はまるで違う。
 エデンズガーデンから他の世界へ移動可能なこの能力は、万が一にもデザイアとの戦いに敗れ、この世界で生きられなくなった時に使うはずだった。
 まさかこれで逆にデザイアを追放出来るとは夢にも思わなかった。

「うおぉっ!? メフィストォッ!!」

 空間の裂け目の出現と共にデザイアの体が浮き、吸い込まれるように裂け目に引っ張られ始めた。
 驚愕に目を丸くするデザイアだったが、裂け目の両側に千切れて短くなった手足を目一杯伸ばし、引っかかるようにして何とか耐える。
 異世界へと飛ばされるのは時間の問題だったが、この危機的状況にいつからそこに居たのかアレクサンドロスがデザイアに向けてのっしのっしと歩いてくる。

「ア、アレクサンドロスっ?!」
「こんばんわデザイア様。おや? これは一体……どうかされましたか? お可哀想にこのような変わり果てた姿で……」
「白々しいぞアレクサンドロスっ!何故っ……何故裏切ったっ!!」
「私が裏切った? これは異なことを仰っしゃられる。先に私を裏切ったあなたが私にどうこう言えたセリフでは無いでしょう?」
「……何っ? 私がお前を?」
「分かりませんか? やれやれ……最初からグリードを何とかしていれば俺がお前に手を出すことはなかったと言ってるんだよ。少しは気付いてもらいたいものだなぁデザイア?」
「なっ……!?」
「あ~っ我慢してたもの全部出せて気持ちが良いぜ。それじゃそろそろ終わりにするか。二度とその面を拝まねぇようにキッチリとな……」
「ぐっ……この私を殺す気か?!死ぬわけにはいかんっ!私は認めぬっ!! 」
「おやおやぁ? 生き物はいずれ死ぬのだから早いか遅いかの違いでは? ちなみにお前が居なくなればこの世界のためになる。ん? 言い回しが違うな……ああ、そうだ。より長くこの世界が存続出来る今の状況は裏を返せば喜ばしい状況でもあるのではないか? だったよなぁ?」
「お前……まさかあの程度のことで……?」

 ──ズンッ

「かはぁっ……!!」

 アレクサンドロスはデザイアの腹に開いた痛々しい風穴に手を突っ込んだ。傷口を広げるように手を捻りながら臓器を引っこ抜く。
 バキバキと木の幹を引き裂くような音を鳴らしながら出した手に握られていたのは早鐘を打つ心臓。
 心身の激痛と死ぬ恐怖、裏切られたことによる疑問と何も出来ないことに対する怒り。我慢することも出来ずに口や目から溢れ出る血が兜から滝のように流れ出た。

「ごぼっ……!!がっ……!!」

 空虚となった胸の内。失われていく血と命。もはやまともに息も出来ず、声もまともに出ない。
 だが湧き立つ感情だけは未だ失われず、憎悪を孕んだ瞳でアレクサンドロスを睨みつけた。
 その目に映ったのはデザイアとは真逆。何を考えているのかも分からない感情の抜け落ちた顔だった。

「……あなたという規格外の存在の元で私の存在価値は飛躍的に向上しました。ここまで私の踏み台に貢献してくださり感謝に絶えません。……しかし、大変恐縮なのですが──お前と居るとつまんねぇんだよ」

 ──ガンッ

 アレクサンドロスはデザイアを蹴飛ばした。その勢いで空間の裂け目で踏ん張っていた手足が外れ、亜空間へと落ちていく。
 星一つない暗黒の空間に差すのは空間の裂け目の光。だがその光も裂け目が閉じるのと同時に徐々に消えていく。
 裂け目が閉じるその瞬間までアレクサンドロスはデザイアが落ちていくのを眺めている。もう二度と現れることのない災厄をこの手で殺したという実感を最後まで得るために。

「──アレクサンドロスゥゥゥッ……!!!」

 最後の最後に絞り出した大絶叫はデザイアの断末魔。
 手足も心臓もない状態で異世界に捨てられた何かも分からない遺体。もしかしたらどの世界に行き着くこともなく亜空間を永遠に彷徨うことになるかもしれない。
 デザイアはエデンズガーデンという世界から追放された。

「……終わったな」

 メフィストはアレクサンドロスの背後に立ち、感慨深く呟いた。

「ええ。デザイアはね」
「何? それは一体どういう……?」
「行きましょう。ダークイーターへ」
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