「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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10章 過去編

130、第一の懸念

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 その日グリードは機嫌が良かった。

 正確にはアレクサンドロスとの諍いの際にデザイアがグリードの味方についたあの時からずっと機嫌が良い。
 従者を殺されたアレクサンドロスが頼ったデザイアは、アレクサンドロスにまともに取り合わず、さらにグリードを一切咎めることがなかった。
 どちらかといえば貴重な能力を得たことに喜んですらいた。
 長年に渡り、右腕として働いてきたであろうアレクサンドロスを蔑ろにし、グリードが選ばれたようなそんな気持ちをあの日あの時に実感した。

 デザイアの真意は違うところにあったのかもしれないが、そんなことはどうでも良い。自分の能力が何のためにあるのか、何故自分が生み出されたのかを理解したのだ。
 『強欲』の先にある全ての能力と全ての命の統合。その過程でいずれはスロウとデザイアの能力をグリードが手に入れるだろう。
 そして世界を自らのものし、唯一無二の存在へと昇華するのだ。

「……なるほどね。ふふふっ父上も性格が悪い。僕がこの答えに行きつかなかったらどうしていたのやら……」

 グリードは椅子に座ってじっと右手を見つめる。世界全土が自分の小さな掌の中にあるような想像が膨らんでいく。
 スロウに挫かれたと思っていたグリードだったが、あの出来事が成長の一環だったのだと思い直す。
 スロウにばかり贔屓していたのではなく、分け隔てなくちゃんと力を与えていたのだと自分を慰め、もしかすればスロウ以上の能力を与えられたのではないかとまで気持ちが飛躍していた。

「グリード様。お休みの準備が整いました」

 グリードが気持ちよく浸っていた時にデーモンが報告に来た。しかしグリードは機嫌よさそうに笑いながら椅子から立ち上がった。

「うんうん。ご苦労だったね。よくやったデーモン」
「き、恐縮です……」
「そう緊張するなよ。僕は今機嫌が良いんだ」
「はっ。お気遣いいただきありがとうございます」
「君はまぁ、25点だね。それでもそこそこ気に入ったよ。そうだ褒美を上げよう」
「褒美……でございますか?」
「チッ……いちいち聞き返すなよ。君はやまびこかい?」
「も、申し訳ございませんっ!」
「ふふふっ冗談さ冗談。さて、褒美はっと……」

 デーモンが死に物狂いで下げた頭に右手をかざした。
 次の瞬間グリードは理不陣インペリアルフィールドを発動してデーモンの命を吸い取った。デーモンは操り人形の糸が切れたように力なくパタリとその場に突っ伏した。

「僕の力にしてあげようじゃないか。僕が生き続ける限り、君は僕の中で永遠に生きることが出来る。素敵な話だろう? これこそ比類なき褒美じゃないか!……ふふっもう聞こえてはないかもしれないけどね?」

 グリードはニヤニヤ笑いながらデーモンの死体を見下ろす。
 今後もこれが続くのだ。グリードが生き続ける限り哀れな死体が積み上がる。
 助かる道は一つ。せいぜいグリードに見つからないように穴倉で細々と生き残るのみである。

「──救いようのないゲスだな」

 その声に視線を上げると開いた扉の前にメフィストが立っていた。見たことのない魔族に眉を潜ませながら首を傾げた。

「えっと? 君は……だれだっけ?」
「ゲスに名乗る名は持ち合わせていない」
「怖いもの知らずもいいところだね。死んでくれよ名無し」

 グリードはまたも右手を掲げメフィストに向ける。しかし──。

「……あれ?」

 グリードは確かに理不陣インペリアルフィールドを発動した。そのはずだが、何故だか目の前の魔族から力を吸収することが出来ない。意味が分からずに自分の手を意味もなく確認する。

「今だっ!」

 メフィストから発せられた声に合わせて廊下に隠れていた部下たちが一斉になだれ込んだ。
 ありとあらゆる強者の力を吸収し、身体能力と動体視力もかなり強化されていたために自分に害を為そうと近づいてくる敵の姿がかなりゆっくりに見える。
 だというのにグリードはあまりのことに驚きながら必死に腕を振り回す。自分の能力が急に機能しなくなったことが信じられず、なりふり構わずとにかく吸い取ろうとした無様な姿。
 こういう時に吸い取った強力な能力を遺憾なく発揮出来れば目の前にいる3人は討ち取れただろうが、デザイアから持たされた最強の吸収能力だけに頼ってきたために奪った能力を使おうという発想がない。
 グリードはメフィストが集めた皇魔貴族たちに瞬く間に取り押さえられた。

「くそっ!何でっ!? どうなってる?!」
「うるさい。黙らせろ」

 メフィストの指示でロータスがサッと口に魔法をかけた。薄く黒い布のようなものが口を覆いながらピタリと張り付いて息もしづらそうにしている。

「──目も覆え。そいつの能力は相手を視認しないと発動しない」
「っ!?」

 どこからともなく聞こえた声に鼻息荒く目をキョロキョロと忙しなく動かす。
 ここには自分が知らない魔族しかいない上、グリードの理不陣インペリアルフィールドの発動条件など誰も知らないはずだ。唯一知ってるとしたらデザイアだろうが、我が子に不利になるようなことを話すわけがない。
 きっとグリードが気づかない内に粘着され、一挙手一投足余すことなく盗み見られた結果、推論で答えに辿り着いたストーカーが居たに違いない。
 そんなことが出来るのはデザイアの部下に違いないが、そんな度胸のある魔族などグリードには心当たりがない。
 いったい誰がグリードを売ったのか。そんなことを考えている内に視界も奪われてしまう。ついでに手足も縛られ、芋虫のようにもがくしかなくなった。

「よし、ダークイーターに連れて行け」
「はっ!畏まりました!」

 それに意気揚々と声を上げたのはミラージュ。ミラージュは強力な結界魔法を使用する。結界に入れてしまえば万が一手足が自由になったところで今のグリードでは結界を破る事は出来ない。
 本当ならミラージュはデザイア戦に参加して欲しいところだが、グリードを確実に連れて行けるのはミラージュのみだ。ちなみにロータスもダークイーターに同行する。
 廊下でアレクサンドロスとすれ違う時にミラージュは一瞥いちべつするなり鼻で笑ったが、ロータスは「メフィスト様をお願いします」と頭を下げた。
 連れて行かれる様を遠目で見ていたアレクサンドロスはメフィストに肩を叩かれて初めて顔を動かした。

「……大丈夫か?」
「ええ。第一の懸念は消えました。後は本丸を叩くだけです」

 全く感情を見せない凍えるほど冷たい目にメフィストは寒気を覚える。
 今まで様々な殺意を目の当たりにしたが、これほどまでに冷静で且つ事務的な殺意は初めてだった。
 アレクサンドロスの姿勢に恐怖を感じたが、怖気づくことなくメフィストの目にも殺意の炎が灯った。

「……行くぞ」
「はい。手筈通りに」
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