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12章 災厄再来
157、因縁
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「すべてを……諦めろ……だと?」
グルガンの登場で抑えていた怒りが頂点に達する。空間が歪み、メキメキと音を立てて亀裂が走る。
この光景をグルガンとレッドは一度見たことがあった。女神ミルレースの復活。復活と同時に空が剥がれ落ちて、発光する真っ白な空へと変化したあの時と同じ現象。
「お前もそうなのか? レッド=カーマインと同じように……この私に逆らうかぁっ!!」
バキバキと剥がれ落ちる空間の先は完全な闇。ミルレースとは完全に真逆。無限に落ちるような永劫の闇が亀裂の先に存在する。
拳を握り締め、全身に力が入り、プルプルと筋肉が痙攣しているように小刻みに震えるのは必死に我慢している証拠だ。ミルレースのようにぶちまければ気分も良いのだろうが、まだ理性が働いているのが分かる。
それを知ってか知らずか、レッドは怯え、グルガンは表情を変えることなく睨み続ける。
またしても黒いオーラがうねりながら地面を這い回り始めたが、今度は早い段階からオーギュストが止めに入った。
「お待ちくださいデザイア様。私に良い考えがございます。少しだけ私の話に耳を傾けていただけますでしょうか?」
「……っ!!」
「ありがとうございます。これは私の個人的な感想になりますが、彼らは今、デザイア様のあまりのお力の前に少々困惑されているのではないでしょうか? 心の整理をする必要があるのではないかと推察します。そこで一つ、彼らに時間を与えてみてはいかがでしょうか?」
「何だと……? この私に退けというのか?!これほどまでに虚仮にされたというのにっ!!」
「はい。ヴァイザー様のお言葉にもありましたが、彼らは無知ゆえにこうして逆らっているのです。デザイア様の本当のお力を知れば、このように尊大な態度を取ることなど出来ようはずがありません。この世界の支配を進めることで力をお示しになり『本当にこの判断が正しかったのか?』これを胸の内に問い正させるのです。そうすることで逆らう意思は消え、すべてを手中に収めることが可能でしょう」
「そのような世迷言でこの私が……!!」
「これは何も目の前の彼らだけに留まりません。この世界の生物すべてに対して有効なのです。スロウ様も例外ではございません」
「スロウ……?」
娘の名前を聞いた途端デザイアの体から力が抜ける。空間にまで及んだ歪は沈静化と共に綺麗に元に戻り、うねるオーラも溶けて消えるように消滅した。
「はい。スロウ様も急な訪問に驚いて心の準備が出来ていなかったご様子でした。そもそもスロウ様がチームだ家族だと彼らに寄る辺を移したのは、デザイア様がご不在だったための仕方が無きこと。デザイア様がご帰還された今、スロウ様のお心は大きく揺れております。支配を刻一刻と進めることで気持ちは大きく変わりましょう。レッド様とゴライアス様が本当に守るべき大切なものに気付いた時、スロウ様の居場所が無くなることは明白。その暁にはデザイア様という最後の砦がスロウ様を迎え入れる……と、こういう寸法でございます」
オーギュストはいつもの笑顔を崩すことなく堂々とした態度でデザイアに説明して見せた。デザイアは徐々に冷静になり、いつもの調子を取り戻す。
「……一理ある。確かに私も少し急ぎすぎたのかもしれんな。今回ばかりはお前の策に乗ってやろう」
「ありがとうございます」
「なっ……!? よ、よろしいのですか?!このような無礼極まりない害虫はここで跡形もなく消すべきでは!?」
「ヴァイザー、私は何と言った?」
「っ!?……いや、その……」
「そういうことだ。怒りのままに納得のいく部下の進言を蹴っては無粋であろう? それにもうすぐ我らの要塞が到着する。少し寄りたいところもあるからな、ここで時間を潰すのは勿体ない。ふふっ……新たな大陸への進軍は私の悲願でもあった。夢の続きを始めるとしよう」
デザイアは腕を組んでグルガンを見る。
「ゴライアス。時が来るまで私の心臓を預けておく。今一度私の前にお前が立った時、改めて今回の答えを聞かせてもらうとしよう。そして……」
ギョロッと血走った目がレッドを睨み付ける。
「覚えていろレッド=カーマイン!キサマは我が手で必ず殺す!絶対に逃がしはしない!!何が何でも息の根を止め、世界の歴史からキサマが生きた痕跡をすべて消し去ってくれる!!」
「えぇっ……!?」
凄まじい殺気がレッドに向けられる。アレクサンドロスの時代から因縁があるはずのグルガンと、ついさっき会ったばかりの自分との差とは思えない感情の入れっぷりにレッドは困惑を隠しきれない。
言うことを言ったデザイアはマントを翻し、空間に穴を開けてこの場を立ち去る。それについて行く魔神たち。ヴァイザーの苦々しい顔がグルガンへと向けられたが、当人は相手にしていない。
最後にドラグロスがチラリと2人を一瞥する。
(……強ぇ。ゴライアスつったな。デザイアの殺意を前にして表情一つ変えねぇとは見上げた野郎だ。しかしそれよりもレッドか……あの重圧を受けてピンピンしてやがるとは……)
先の出来事を思い出しながらニヤリと牙を剥いて笑う。
「へっ……なかなか面白れぇ奴らが居たもんだぜ」
そう言い残して去っていった。
後に残ったのは抉り潰れた地面とダンジョンだったものの残骸。脅威が去ったことで張りつめていた緊張の糸が切れ、グルガンの体毛がブワッと総毛立つ。
「……危なかった……ここで戦いが始まっていたら確実に死んでいただろうな……」
今まで感じたことのない恐怖に筋肉が強張るのを感じる。ヴォジャノーイからある程度話を聞いていたのでそれなりに覚悟が出来ていたはずだが、規格外の存在の前にはすべてが無意味。グルガンが先ほど煽った老いぼれですら女神ミルレース以上の強大な力を内包していると本能で感じ取っていた。
レッドは魔神たちの力量に関してはよく分からなかったが、デザイアからの殺意や溢れ出る力に関しては今までに感じたこともないほどに恐怖したので、デザイアがあの中で最強であると認識する。
そんな凄まじい相手から『必ず殺す』とまで言われたことが受け入れられず呆然としていた。
「……すまないレッド。レッドへの敵意を少しでもこちらに向けられたらと思ったが、上手くいかなかったようだ……」
「う……うぅ……。あ、謝らないでください。お、俺もそうですけど、グルガンさんだって殺されそうになったんだから……」
レッドはボロボロと涙をこぼす。グルガンはいたたまれない空気に立ち尽くすしかなかった。
「レッド!!」
そこにようやく岩から脱出したオリーがやってきた。縮こまって泣くことしか出来ないレッドに懸命に寄り添い、元気付ける言葉をかけ続ける。しかしあまりにショックだったのかレッドは顔を上げることも出来ない。
「ああ、すまないレッド……私が側に居られれば……」
「いや、逆だ。貴君が居なくて良かった。万が一にもデザイアと相対していたら、いくらオリハルコンだとて容易に破壊されたことだろう。特にレッドのゴーレムだと知られたら猶更な……」
フィニアスを長年支えてきた執事も瞬時に殺された。オリーが生かされる理由など端から存在しない。
それを知ったレッドは縋るようにオリーの手を取った。オリーは誰にも向けることがないだろう慈愛の眼差しで微笑み、レッドの手を握り返す。それに勇気付けられたレッドはよろよろと立ち上がった。
「……スロウのお父さんがあんな怖い人だとは思わなかったよ。グルガンさんが来なかったらどうなっていたことか……」
「うむ。こうなった以上はもう戦う他ないな」
「えぇ……マジですか? あんなのと戦えないですよ……」
「ミルレース以上の脅威が今まさにそこにあるのだ。今こそ世界が一丸となって戦う時。大丈夫だレッド。みんなで戦うんだ」
「あ、はい。そ、そうですよね。自分のことばかり考えていました」
「……すまない」
「え?」
「いや、とにかく今はチームを招集して作戦会議だ。急ぐぞ」
グルガンはレッドを鼓舞しつつ複雑な気持ちになっていた。デザイアの怒りのオーラを真っ向からぶつけられて無傷であるレッドこそが一番の頼りである事実。それを言葉に出来ずに濁してしまった自己保身と、みんなのためという責任転嫁。それらすべてが綯い交ぜになったがために心の底からレッドに謝罪していた。
異世界を放浪し、神と呼ばれるレベルまで昇華した厄災。意思を持つブラックホールと呼ぶべき凶悪無比な存在が今、エデンズガーデンに牙を剥く。
レッドの感情など一切考慮されることなく、デザイアとの戦いの火蓋は切って落とされた。
グルガンの登場で抑えていた怒りが頂点に達する。空間が歪み、メキメキと音を立てて亀裂が走る。
この光景をグルガンとレッドは一度見たことがあった。女神ミルレースの復活。復活と同時に空が剥がれ落ちて、発光する真っ白な空へと変化したあの時と同じ現象。
「お前もそうなのか? レッド=カーマインと同じように……この私に逆らうかぁっ!!」
バキバキと剥がれ落ちる空間の先は完全な闇。ミルレースとは完全に真逆。無限に落ちるような永劫の闇が亀裂の先に存在する。
拳を握り締め、全身に力が入り、プルプルと筋肉が痙攣しているように小刻みに震えるのは必死に我慢している証拠だ。ミルレースのようにぶちまければ気分も良いのだろうが、まだ理性が働いているのが分かる。
それを知ってか知らずか、レッドは怯え、グルガンは表情を変えることなく睨み続ける。
またしても黒いオーラがうねりながら地面を這い回り始めたが、今度は早い段階からオーギュストが止めに入った。
「お待ちくださいデザイア様。私に良い考えがございます。少しだけ私の話に耳を傾けていただけますでしょうか?」
「……っ!!」
「ありがとうございます。これは私の個人的な感想になりますが、彼らは今、デザイア様のあまりのお力の前に少々困惑されているのではないでしょうか? 心の整理をする必要があるのではないかと推察します。そこで一つ、彼らに時間を与えてみてはいかがでしょうか?」
「何だと……? この私に退けというのか?!これほどまでに虚仮にされたというのにっ!!」
「はい。ヴァイザー様のお言葉にもありましたが、彼らは無知ゆえにこうして逆らっているのです。デザイア様の本当のお力を知れば、このように尊大な態度を取ることなど出来ようはずがありません。この世界の支配を進めることで力をお示しになり『本当にこの判断が正しかったのか?』これを胸の内に問い正させるのです。そうすることで逆らう意思は消え、すべてを手中に収めることが可能でしょう」
「そのような世迷言でこの私が……!!」
「これは何も目の前の彼らだけに留まりません。この世界の生物すべてに対して有効なのです。スロウ様も例外ではございません」
「スロウ……?」
娘の名前を聞いた途端デザイアの体から力が抜ける。空間にまで及んだ歪は沈静化と共に綺麗に元に戻り、うねるオーラも溶けて消えるように消滅した。
「はい。スロウ様も急な訪問に驚いて心の準備が出来ていなかったご様子でした。そもそもスロウ様がチームだ家族だと彼らに寄る辺を移したのは、デザイア様がご不在だったための仕方が無きこと。デザイア様がご帰還された今、スロウ様のお心は大きく揺れております。支配を刻一刻と進めることで気持ちは大きく変わりましょう。レッド様とゴライアス様が本当に守るべき大切なものに気付いた時、スロウ様の居場所が無くなることは明白。その暁にはデザイア様という最後の砦がスロウ様を迎え入れる……と、こういう寸法でございます」
オーギュストはいつもの笑顔を崩すことなく堂々とした態度でデザイアに説明して見せた。デザイアは徐々に冷静になり、いつもの調子を取り戻す。
「……一理ある。確かに私も少し急ぎすぎたのかもしれんな。今回ばかりはお前の策に乗ってやろう」
「ありがとうございます」
「なっ……!? よ、よろしいのですか?!このような無礼極まりない害虫はここで跡形もなく消すべきでは!?」
「ヴァイザー、私は何と言った?」
「っ!?……いや、その……」
「そういうことだ。怒りのままに納得のいく部下の進言を蹴っては無粋であろう? それにもうすぐ我らの要塞が到着する。少し寄りたいところもあるからな、ここで時間を潰すのは勿体ない。ふふっ……新たな大陸への進軍は私の悲願でもあった。夢の続きを始めるとしよう」
デザイアは腕を組んでグルガンを見る。
「ゴライアス。時が来るまで私の心臓を預けておく。今一度私の前にお前が立った時、改めて今回の答えを聞かせてもらうとしよう。そして……」
ギョロッと血走った目がレッドを睨み付ける。
「覚えていろレッド=カーマイン!キサマは我が手で必ず殺す!絶対に逃がしはしない!!何が何でも息の根を止め、世界の歴史からキサマが生きた痕跡をすべて消し去ってくれる!!」
「えぇっ……!?」
凄まじい殺気がレッドに向けられる。アレクサンドロスの時代から因縁があるはずのグルガンと、ついさっき会ったばかりの自分との差とは思えない感情の入れっぷりにレッドは困惑を隠しきれない。
言うことを言ったデザイアはマントを翻し、空間に穴を開けてこの場を立ち去る。それについて行く魔神たち。ヴァイザーの苦々しい顔がグルガンへと向けられたが、当人は相手にしていない。
最後にドラグロスがチラリと2人を一瞥する。
(……強ぇ。ゴライアスつったな。デザイアの殺意を前にして表情一つ変えねぇとは見上げた野郎だ。しかしそれよりもレッドか……あの重圧を受けてピンピンしてやがるとは……)
先の出来事を思い出しながらニヤリと牙を剥いて笑う。
「へっ……なかなか面白れぇ奴らが居たもんだぜ」
そう言い残して去っていった。
後に残ったのは抉り潰れた地面とダンジョンだったものの残骸。脅威が去ったことで張りつめていた緊張の糸が切れ、グルガンの体毛がブワッと総毛立つ。
「……危なかった……ここで戦いが始まっていたら確実に死んでいただろうな……」
今まで感じたことのない恐怖に筋肉が強張るのを感じる。ヴォジャノーイからある程度話を聞いていたのでそれなりに覚悟が出来ていたはずだが、規格外の存在の前にはすべてが無意味。グルガンが先ほど煽った老いぼれですら女神ミルレース以上の強大な力を内包していると本能で感じ取っていた。
レッドは魔神たちの力量に関してはよく分からなかったが、デザイアからの殺意や溢れ出る力に関しては今までに感じたこともないほどに恐怖したので、デザイアがあの中で最強であると認識する。
そんな凄まじい相手から『必ず殺す』とまで言われたことが受け入れられず呆然としていた。
「……すまないレッド。レッドへの敵意を少しでもこちらに向けられたらと思ったが、上手くいかなかったようだ……」
「う……うぅ……。あ、謝らないでください。お、俺もそうですけど、グルガンさんだって殺されそうになったんだから……」
レッドはボロボロと涙をこぼす。グルガンはいたたまれない空気に立ち尽くすしかなかった。
「レッド!!」
そこにようやく岩から脱出したオリーがやってきた。縮こまって泣くことしか出来ないレッドに懸命に寄り添い、元気付ける言葉をかけ続ける。しかしあまりにショックだったのかレッドは顔を上げることも出来ない。
「ああ、すまないレッド……私が側に居られれば……」
「いや、逆だ。貴君が居なくて良かった。万が一にもデザイアと相対していたら、いくらオリハルコンだとて容易に破壊されたことだろう。特にレッドのゴーレムだと知られたら猶更な……」
フィニアスを長年支えてきた執事も瞬時に殺された。オリーが生かされる理由など端から存在しない。
それを知ったレッドは縋るようにオリーの手を取った。オリーは誰にも向けることがないだろう慈愛の眼差しで微笑み、レッドの手を握り返す。それに勇気付けられたレッドはよろよろと立ち上がった。
「……スロウのお父さんがあんな怖い人だとは思わなかったよ。グルガンさんが来なかったらどうなっていたことか……」
「うむ。こうなった以上はもう戦う他ないな」
「えぇ……マジですか? あんなのと戦えないですよ……」
「ミルレース以上の脅威が今まさにそこにあるのだ。今こそ世界が一丸となって戦う時。大丈夫だレッド。みんなで戦うんだ」
「あ、はい。そ、そうですよね。自分のことばかり考えていました」
「……すまない」
「え?」
「いや、とにかく今はチームを招集して作戦会議だ。急ぐぞ」
グルガンはレッドを鼓舞しつつ複雑な気持ちになっていた。デザイアの怒りのオーラを真っ向からぶつけられて無傷であるレッドこそが一番の頼りである事実。それを言葉に出来ずに濁してしまった自己保身と、みんなのためという責任転嫁。それらすべてが綯い交ぜになったがために心の底からレッドに謝罪していた。
異世界を放浪し、神と呼ばれるレベルまで昇華した厄災。意思を持つブラックホールと呼ぶべき凶悪無比な存在が今、エデンズガーデンに牙を剥く。
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