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第十三章 再生
第四十一話 経験の差
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「仕切り直しといきましょう。私の槍を返してくださるとありがたいのですが?」
ソフィーはエレノアの持つ槍を指して返却を求める。エレノアはチラリと槍を見た後、ニヤリと笑って無言で踏ん反り返る。返すつもりは毛頭ないようだ。それを確認したソフィーはグッと腰を落として前に左手を出し、右手を腰に右足を引く。その形は空手の型のように静と動を兼ね備えた佇まいだった。
「へぇ……?槍だけじゃないのぉ?」
「ええ、他にも剣と弓、ガンブレイドも使用可能です。私は一人であの時のメンバーを再現出来るのですよ」
エレノアは槍をぐるっと回して穂先を下にすると、思いっきり地面に差し込んだ。ズブブブ……と槍の半分を地面に差し込み、手を離したあと指で柄の部分を突いた。
「じゃぁこれいらなぁい」
投げ捨てるのではなく使えなくしたのは、エレノア自身ソフィーの槍術に警戒心を抱いている証明となった。それはイーリス以上だと暗に認めていることとなるが、ソフィーはそれが気に食わない。イーリスをある種”神格化”しているソフィーにはこの行為自体が逆効果となって映った。
ギリィ……
拳を握りこんだ音が少し離れたはずのエレノアまで届く。青い雷が体を駆け巡り、まるで闘気の如く畝りを上げる。
「あぁ、それ私と同じぃ……」
バチバチッと黄色い雷が駆け巡っている。色が違うことに「ちょっと違うかぁ……」と首を傾げる。今すぐにでも始まりそうな空気感にブレイドとゼアルもチリチリとした殺意をぶつけ合う。
魔族 対 人族。人魔大戦の縮図がここにあった。一触即発の空気に一番最初に突っかけたのはブレイドだ。
(若い……)
ゼアルはブレイドの経験の無さから来る無謀に目を細める。読み合うことを放棄したブレイドの行動は頭足らずと分析するより他にない。自身の身体能力に胡座をかいた突撃にゼアルは呆れる。
しかし決して侮らない。脇を開いてガンブレイドを振りかぶるブレイドの隙だらけの胴元に剣を入れようと考える。もちろん速度超過を使用して。
パリィッ……
ブレイドの腕に静電気のような小さな電流が流れたのをゼアルは見逃さなかった。その瞬間のブレイドの速度は人知を超えていた。
ギィンッ
ゼアルは振り下ろされたガンブレイドの防御に剣を用いた。もし胴元を狙っていれば相打ちとなっていた事実に驚愕を隠せない。エレノアの血。いや、第一魔王イシュクルの血縁者であるブレイドは雷のエレメントに愛されていた。無意識に身体能力を引き上げ、且つ雷撃の如き一撃を繰り出すに至ったのだ。
「バカな……」
ゼアルの足が地面にめり込む。腕が悲鳴をあげるように骨が軋み、その痛みから脂汗が滲む。力強いなどというレベルではない。アシュタロトに力をもらわなかったらここで死んでいた。その上、イビルスレイヤーが誇る超スキル”速度超過”の同時発動で初めて追いつく理不尽。今まで会って来たどの敵より速い。
半人半魔。人と魔族の狭間を行き来するブレイドはどちらにも系統出来ない中途半端な存在だと誰もが思う。だが、それは覆される。人と魔族、二つの良いところを網羅した究極の存在。生き物は混血となることで新たなる力、新たなる生き方を見つけられる。それが追い詰められた状況であるなら尚更。
窮鼠猫を嚙む。火事場のくそ力。どう呼んでも良いが、何にせよブレイドはこの瞬間に成長への階段を三段飛ばかしくらい大股に進んだ。
(……防がれたか)
成長著しいブレイドの心にあったのは次の手だ。ゼアルクラスの猛者を相手にする時、一番考えなければならないのは相手の反撃に注意すること、若しくは反撃の機会を与えないことだ。
ブレイドはすぐさま蹴りを入れる。それを交わすように後方にゼアルが飛んだのを見計らってブレイドはガンブレイドを横倒しに構えた。切っ先を前方に向ける動作、これ即ち銃形態の完成である。魔力砲を乱れ打ちながらゼアルに接近し、間合いに入ったら剣として振るう。ブレイドの定石通りならこれを交互に続けるだけで相手の体力が消耗し、いずれ致命の一撃を入れることが出来る。
しかし相手はそう甘くも単純でも無い。息をつかせぬ攻撃ですら穴を突くのがゼアルという男だ。二度剣を交えれば相手の動きは何となく掴める。それ以上になれば癖や好みにまで発展する。
(ふん……私以外が相手であれば、五撃目で怪我を負わせることくらいなら出来たかもしれないな……)
ゼアルは知り得た情報を元にブレイドの剣を往なした。バランスを崩してよろける。技量の差は今更語るべくも無いが、ブレイドの乱雑とも言える剣と銃の応酬に完璧に合わせた手腕は想像を絶する。時にがむしゃらは精密を凌駕するが、戦闘の大半は精密さが勝負の決め手となる。
「やはり……経験の差が勝負の分かれ目だ。ブレイド!」
ボッ
空気を切り裂いて突いた剣は簡単に肉を断つ。一気に貫いた剣は切っ先を血で濡らす。
「その通りだな。確かに俺は剣の経験が浅い……教えてくれる人もいなかったしな……」
ブレイドの肌は白くなっていく。元の地肌となっていっているのだ。プルプル震える左手。赤く血に染まった服や地面。先ほどとは打って変わって脂汗にまみれ、痛みを堪えている。
「でもな。生き死にの経験ならあんたにだって負けちゃいないぜ?」
ブレイドはアルルと生き残るために小さな頃から魔獣狩りをしていた。アスロンが亡くなる直前、ブレイドは自らガンブレイドを取って、自分だけの力でアイアンベアと呼ばれる魔獣を獲った。身体中怪我まみれで臓器も傷つけた死にかけの身を何度も治してもらった。アスロンがこの世を去った後はそれこそやるしかなかった。死の淵から何度も回復し、その度何度も向かっていった。今日を生きるため、明日を迎えるため、アルルを飢えさせないため、何度も何度も……。
左腕に深々と刺さり、肩にまで達した切っ先はそのまま貫通している。イビルスレイヤーのスキルにある斬った魔族の魔力を吸い取る効果でブレイドの魔族化が抑えられているのは肌が教えてくれた。ブレイドはガンブレイドを手放すことで得た自由を全て防御に回したのだ。左腕は串刺しとなって使えないが、まだ右腕は残っている。
「正気では無いな。しかし、これくらいのことは魔族はいくらでもやって来た。貴様もその一つに過ぎない。その拳で私を打つことは出来ないぞ?何故ならラルフの時とは勝手が違うからな」
ゼアルはイルレアン国での攻防を思い出していた。武器を手放したラルフの行動に呆気に取られ、思いっきり顔面を殴られた。状況的に一致するところがいくらかあるが、現在はゼアルが最も有利。
(イビルスレイヤーのスキルにある魔族殺し。魔族をバターのように切り裂くこの剣に貴様の左手が耐えられるはずもない……)
半分魔族の血を引くブレイドはイビルスレイヤーの前に倒れることになる。この力を知るからこそゼアルには確信があった。
だが、油断はしない。
もし叩いただけで死んでしまう虫のような存在だとしても、陸に上げた跳ねるしか能のない魚であっても、血を流しすぎて三秒後には死んでしまうような瀕死の小動物であったとしても……。
ゼアルは致命の一撃を与えんと剣を引き抜こうと力を入れた。
グンッ
「……ん?」
でも剣はどういうわけか引き抜けない。
腕を犠牲にし、ゼアルを攻撃しようとしても腕ごと断ち切られるか、引き抜かれて首を刎ねられたものもいる。どれほどの剛力を持つ魔族も出来なかったことだ。
ゼアルはその時、自分の考えが浅かったことを悟る。人族と魔族のハイブリットたるブレイドにはゼアルの常識は通じない。ブレイドが魔獣との戦いで培ってきた筋繊維は魔族状態のそれとは全くの別物。それは培って来た経験の賜物だった。
「……俺は俺で色々やって来たんだ。そいつは否定させない」
ゴンッ
ブレイドはゼアルの顔面を思いっきり殴る。アルルの足を切った罪はその身を以て知ることとなった。
ソフィーはエレノアの持つ槍を指して返却を求める。エレノアはチラリと槍を見た後、ニヤリと笑って無言で踏ん反り返る。返すつもりは毛頭ないようだ。それを確認したソフィーはグッと腰を落として前に左手を出し、右手を腰に右足を引く。その形は空手の型のように静と動を兼ね備えた佇まいだった。
「へぇ……?槍だけじゃないのぉ?」
「ええ、他にも剣と弓、ガンブレイドも使用可能です。私は一人であの時のメンバーを再現出来るのですよ」
エレノアは槍をぐるっと回して穂先を下にすると、思いっきり地面に差し込んだ。ズブブブ……と槍の半分を地面に差し込み、手を離したあと指で柄の部分を突いた。
「じゃぁこれいらなぁい」
投げ捨てるのではなく使えなくしたのは、エレノア自身ソフィーの槍術に警戒心を抱いている証明となった。それはイーリス以上だと暗に認めていることとなるが、ソフィーはそれが気に食わない。イーリスをある種”神格化”しているソフィーにはこの行為自体が逆効果となって映った。
ギリィ……
拳を握りこんだ音が少し離れたはずのエレノアまで届く。青い雷が体を駆け巡り、まるで闘気の如く畝りを上げる。
「あぁ、それ私と同じぃ……」
バチバチッと黄色い雷が駆け巡っている。色が違うことに「ちょっと違うかぁ……」と首を傾げる。今すぐにでも始まりそうな空気感にブレイドとゼアルもチリチリとした殺意をぶつけ合う。
魔族 対 人族。人魔大戦の縮図がここにあった。一触即発の空気に一番最初に突っかけたのはブレイドだ。
(若い……)
ゼアルはブレイドの経験の無さから来る無謀に目を細める。読み合うことを放棄したブレイドの行動は頭足らずと分析するより他にない。自身の身体能力に胡座をかいた突撃にゼアルは呆れる。
しかし決して侮らない。脇を開いてガンブレイドを振りかぶるブレイドの隙だらけの胴元に剣を入れようと考える。もちろん速度超過を使用して。
パリィッ……
ブレイドの腕に静電気のような小さな電流が流れたのをゼアルは見逃さなかった。その瞬間のブレイドの速度は人知を超えていた。
ギィンッ
ゼアルは振り下ろされたガンブレイドの防御に剣を用いた。もし胴元を狙っていれば相打ちとなっていた事実に驚愕を隠せない。エレノアの血。いや、第一魔王イシュクルの血縁者であるブレイドは雷のエレメントに愛されていた。無意識に身体能力を引き上げ、且つ雷撃の如き一撃を繰り出すに至ったのだ。
「バカな……」
ゼアルの足が地面にめり込む。腕が悲鳴をあげるように骨が軋み、その痛みから脂汗が滲む。力強いなどというレベルではない。アシュタロトに力をもらわなかったらここで死んでいた。その上、イビルスレイヤーが誇る超スキル”速度超過”の同時発動で初めて追いつく理不尽。今まで会って来たどの敵より速い。
半人半魔。人と魔族の狭間を行き来するブレイドはどちらにも系統出来ない中途半端な存在だと誰もが思う。だが、それは覆される。人と魔族、二つの良いところを網羅した究極の存在。生き物は混血となることで新たなる力、新たなる生き方を見つけられる。それが追い詰められた状況であるなら尚更。
窮鼠猫を嚙む。火事場のくそ力。どう呼んでも良いが、何にせよブレイドはこの瞬間に成長への階段を三段飛ばかしくらい大股に進んだ。
(……防がれたか)
成長著しいブレイドの心にあったのは次の手だ。ゼアルクラスの猛者を相手にする時、一番考えなければならないのは相手の反撃に注意すること、若しくは反撃の機会を与えないことだ。
ブレイドはすぐさま蹴りを入れる。それを交わすように後方にゼアルが飛んだのを見計らってブレイドはガンブレイドを横倒しに構えた。切っ先を前方に向ける動作、これ即ち銃形態の完成である。魔力砲を乱れ打ちながらゼアルに接近し、間合いに入ったら剣として振るう。ブレイドの定石通りならこれを交互に続けるだけで相手の体力が消耗し、いずれ致命の一撃を入れることが出来る。
しかし相手はそう甘くも単純でも無い。息をつかせぬ攻撃ですら穴を突くのがゼアルという男だ。二度剣を交えれば相手の動きは何となく掴める。それ以上になれば癖や好みにまで発展する。
(ふん……私以外が相手であれば、五撃目で怪我を負わせることくらいなら出来たかもしれないな……)
ゼアルは知り得た情報を元にブレイドの剣を往なした。バランスを崩してよろける。技量の差は今更語るべくも無いが、ブレイドの乱雑とも言える剣と銃の応酬に完璧に合わせた手腕は想像を絶する。時にがむしゃらは精密を凌駕するが、戦闘の大半は精密さが勝負の決め手となる。
「やはり……経験の差が勝負の分かれ目だ。ブレイド!」
ボッ
空気を切り裂いて突いた剣は簡単に肉を断つ。一気に貫いた剣は切っ先を血で濡らす。
「その通りだな。確かに俺は剣の経験が浅い……教えてくれる人もいなかったしな……」
ブレイドの肌は白くなっていく。元の地肌となっていっているのだ。プルプル震える左手。赤く血に染まった服や地面。先ほどとは打って変わって脂汗にまみれ、痛みを堪えている。
「でもな。生き死にの経験ならあんたにだって負けちゃいないぜ?」
ブレイドはアルルと生き残るために小さな頃から魔獣狩りをしていた。アスロンが亡くなる直前、ブレイドは自らガンブレイドを取って、自分だけの力でアイアンベアと呼ばれる魔獣を獲った。身体中怪我まみれで臓器も傷つけた死にかけの身を何度も治してもらった。アスロンがこの世を去った後はそれこそやるしかなかった。死の淵から何度も回復し、その度何度も向かっていった。今日を生きるため、明日を迎えるため、アルルを飢えさせないため、何度も何度も……。
左腕に深々と刺さり、肩にまで達した切っ先はそのまま貫通している。イビルスレイヤーのスキルにある斬った魔族の魔力を吸い取る効果でブレイドの魔族化が抑えられているのは肌が教えてくれた。ブレイドはガンブレイドを手放すことで得た自由を全て防御に回したのだ。左腕は串刺しとなって使えないが、まだ右腕は残っている。
「正気では無いな。しかし、これくらいのことは魔族はいくらでもやって来た。貴様もその一つに過ぎない。その拳で私を打つことは出来ないぞ?何故ならラルフの時とは勝手が違うからな」
ゼアルはイルレアン国での攻防を思い出していた。武器を手放したラルフの行動に呆気に取られ、思いっきり顔面を殴られた。状況的に一致するところがいくらかあるが、現在はゼアルが最も有利。
(イビルスレイヤーのスキルにある魔族殺し。魔族をバターのように切り裂くこの剣に貴様の左手が耐えられるはずもない……)
半分魔族の血を引くブレイドはイビルスレイヤーの前に倒れることになる。この力を知るからこそゼアルには確信があった。
だが、油断はしない。
もし叩いただけで死んでしまう虫のような存在だとしても、陸に上げた跳ねるしか能のない魚であっても、血を流しすぎて三秒後には死んでしまうような瀕死の小動物であったとしても……。
ゼアルは致命の一撃を与えんと剣を引き抜こうと力を入れた。
グンッ
「……ん?」
でも剣はどういうわけか引き抜けない。
腕を犠牲にし、ゼアルを攻撃しようとしても腕ごと断ち切られるか、引き抜かれて首を刎ねられたものもいる。どれほどの剛力を持つ魔族も出来なかったことだ。
ゼアルはその時、自分の考えが浅かったことを悟る。人族と魔族のハイブリットたるブレイドにはゼアルの常識は通じない。ブレイドが魔獣との戦いで培ってきた筋繊維は魔族状態のそれとは全くの別物。それは培って来た経験の賜物だった。
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