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第十三章 再生
第四十話 泥沼化
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ビュンッ
槍の穂先が空気を切り裂く。先の一振りに六回もの手数がブレイドを襲う。速すぎて音も一つに聞こえる神業。神速と言って過言ではない。
コォンッ……
柔らかく、頑強な金属は澄んだ音を鳴らして静止する。ソフィーがブレイドに放った一撃は横入りしたエレノアに握り止められた。
「あっぶなぁい、私の子供に怪我をさせるつもりぃ?」
「その不快な喋り方……あなたと初めて出会った時を思い出します。当時はビクビク怯えていましたが、今は違います」
スッと手を出して攻撃魔法を仕掛けようとするが、一手遅い。エレノアの後方から風の刃が飛んでくる。アルルが使用した「ウインド・リッパー」と呼ばれる魔法。所謂「かまいたち」である。アルルは魔法を操作し、器用にエレノアを避けてソフィーを襲った。ソフィーは槍を手放して後方に飛び、義手義足を魔道具にした手足で防御する。生半可な攻撃ではビクともしない。金属音を鳴らしながら全てを防ぎきった。
「ならこいつはどうだ?」
ブレイドは構えたガンブレイドから魔力砲を放つ。大気を震わせて放たれた一撃には魔障壁で応じる。火花のような閃光を散らせながら魔力砲は阻まれた。
「あれだけの動きの後にあれだけの魔障壁を生み出せるなんて……」
アルルは戦慄する。魔法の発動とその質が釣り合わない。伝説の武器”デッドオアアライブ”の魔力砲を受け止めるだけの魔障壁を張ろうと思えば、詠唱もそれなりに長くなるし、魔力を練るのも一苦労だ。つまりは尋常ではない。
「当然だな。白の騎士団の中でも破格の力を持った一人だ。”魔女”と聞けばそれだけで逃げ出す者もいる」
アルルの言葉に反応したのは手持ち無沙汰となっていたゼアル。いきなり背後を取られたこともあってアルルは声を忘れるほど驚いた。
「ゼアルさん。何をしているのです?」
「一対多数だ。手を貸そうかと思ってな」
ゼアルは剣の柄に手を置いた。ソフィーはニコリと笑って答える。
「余計なお世話ですが、このままではいつまで経っても殺すのは難しそうです。出来れば手伝っていただけますか?」
「光栄だな、魔女に手を貸せるのは……」
腰に差した剣を引き抜こうとするが、そこに魔力砲が飛ぶ。ブレイドのガンブレイドは敵対する全てに火を吹く。
「チッ……前々から思ってはいたが、何とも高出力な魔力砲。当たれば死は確定か……」
「面倒な奴に絡まれたな……一人ずつならともかく、二人いっぺんとなるとキツイな……アルル、ベルフィアさんを連れて来てくれないか?ここは母さんと抑える。もっと人数が必要だ」
「分かった!」
アルルは一も二もなく頷いて走り出す。しかしアルルはどういうわけか、躓きもしない場所で転ぶ。その転び方はまるで踏ん張りが利かずに倒れ込んだように見える。よく見ると、アキレス腱の部分から血を流しているのが分かった。
「アルルっ!」
アルルは傷付いた足を抱えるように丸まった。ブレイドは凄まじい剣幕でゼアルを睨みつける。
「悪いが、あれこそ面倒なんでな。殺す気は無いが、動けなくした」
「……剣を抜かせたつもりは無かったが、そんなことは些細なことだ。そんなに死にてぇか?」
ブレイドの皮膚が浅黒く変化する。感情の昂りで魔族の力を使用する彼は今とてつもなく頭にきていた。エレノアもブレイド同様に怒りに満ち溢れる。大切な家族に手を出されたのだ、許されることでは無い。
「勝手なものだな。自分はどれほどの命を奪って来た?どれほど大切なものを殺めたのだ?自分の周りだけが傷つかないように立ち回ろうなど虫の良い話だと思わないか?」
ゼアルには信条がある。戦争では共に戦うものの死は避けられない。明日は我が身の戦場において、友であろうが恋人であろうが両親であろうが、勝利のためなら切り捨てられる。無論、助けられる命は助け、無理なものは切り捨てるという当然の理念でもある。
「安い挑発だな……ふっ、それを魔女に言いなよ。イーリスとかいう想い人に先立たれ、愛憎を誰彼構わず振りまく迷惑な輩に」
チラリとソフィーを見るとさっきまであった笑顔が消え、無表情でこちらを凝視している。怒りや憎しみ、それか悲しみを抱いているのであればまだ理解出来るものを……ハッキリ言って怖すぎる。挑発だとしても言いすぎた。失言であることは明白だが、吐いた唾は飲めない。
「母さん、ゼアルは俺がやる。母さんは魔女をお願い出来る?」
「は~い。ラルフたちが戻ってくるまでの時間稼ぎ。盛大にやっちゃおっかぁ」
バリバリと稲妻が体を駆け巡る。エレノアの得意なエレメントは雷である。第一魔王に君臨していたイシュクルが最も得意としていた魔法である。親の得手を子につないだ。
「アルル、魔障壁を強化するんだ。これなら大丈夫、絶対に突破されないってくらいにな」
アルルは息を潜めて魔障壁の強化をし始める。回復魔法もお手の物な彼女からしてみれば、足の腱を切られる程度、何ということはない。あるのは大切な人が傷つけられたという事実のみ……。
槍の穂先が空気を切り裂く。先の一振りに六回もの手数がブレイドを襲う。速すぎて音も一つに聞こえる神業。神速と言って過言ではない。
コォンッ……
柔らかく、頑強な金属は澄んだ音を鳴らして静止する。ソフィーがブレイドに放った一撃は横入りしたエレノアに握り止められた。
「あっぶなぁい、私の子供に怪我をさせるつもりぃ?」
「その不快な喋り方……あなたと初めて出会った時を思い出します。当時はビクビク怯えていましたが、今は違います」
スッと手を出して攻撃魔法を仕掛けようとするが、一手遅い。エレノアの後方から風の刃が飛んでくる。アルルが使用した「ウインド・リッパー」と呼ばれる魔法。所謂「かまいたち」である。アルルは魔法を操作し、器用にエレノアを避けてソフィーを襲った。ソフィーは槍を手放して後方に飛び、義手義足を魔道具にした手足で防御する。生半可な攻撃ではビクともしない。金属音を鳴らしながら全てを防ぎきった。
「ならこいつはどうだ?」
ブレイドは構えたガンブレイドから魔力砲を放つ。大気を震わせて放たれた一撃には魔障壁で応じる。火花のような閃光を散らせながら魔力砲は阻まれた。
「あれだけの動きの後にあれだけの魔障壁を生み出せるなんて……」
アルルは戦慄する。魔法の発動とその質が釣り合わない。伝説の武器”デッドオアアライブ”の魔力砲を受け止めるだけの魔障壁を張ろうと思えば、詠唱もそれなりに長くなるし、魔力を練るのも一苦労だ。つまりは尋常ではない。
「当然だな。白の騎士団の中でも破格の力を持った一人だ。”魔女”と聞けばそれだけで逃げ出す者もいる」
アルルの言葉に反応したのは手持ち無沙汰となっていたゼアル。いきなり背後を取られたこともあってアルルは声を忘れるほど驚いた。
「ゼアルさん。何をしているのです?」
「一対多数だ。手を貸そうかと思ってな」
ゼアルは剣の柄に手を置いた。ソフィーはニコリと笑って答える。
「余計なお世話ですが、このままではいつまで経っても殺すのは難しそうです。出来れば手伝っていただけますか?」
「光栄だな、魔女に手を貸せるのは……」
腰に差した剣を引き抜こうとするが、そこに魔力砲が飛ぶ。ブレイドのガンブレイドは敵対する全てに火を吹く。
「チッ……前々から思ってはいたが、何とも高出力な魔力砲。当たれば死は確定か……」
「面倒な奴に絡まれたな……一人ずつならともかく、二人いっぺんとなるとキツイな……アルル、ベルフィアさんを連れて来てくれないか?ここは母さんと抑える。もっと人数が必要だ」
「分かった!」
アルルは一も二もなく頷いて走り出す。しかしアルルはどういうわけか、躓きもしない場所で転ぶ。その転び方はまるで踏ん張りが利かずに倒れ込んだように見える。よく見ると、アキレス腱の部分から血を流しているのが分かった。
「アルルっ!」
アルルは傷付いた足を抱えるように丸まった。ブレイドは凄まじい剣幕でゼアルを睨みつける。
「悪いが、あれこそ面倒なんでな。殺す気は無いが、動けなくした」
「……剣を抜かせたつもりは無かったが、そんなことは些細なことだ。そんなに死にてぇか?」
ブレイドの皮膚が浅黒く変化する。感情の昂りで魔族の力を使用する彼は今とてつもなく頭にきていた。エレノアもブレイド同様に怒りに満ち溢れる。大切な家族に手を出されたのだ、許されることでは無い。
「勝手なものだな。自分はどれほどの命を奪って来た?どれほど大切なものを殺めたのだ?自分の周りだけが傷つかないように立ち回ろうなど虫の良い話だと思わないか?」
ゼアルには信条がある。戦争では共に戦うものの死は避けられない。明日は我が身の戦場において、友であろうが恋人であろうが両親であろうが、勝利のためなら切り捨てられる。無論、助けられる命は助け、無理なものは切り捨てるという当然の理念でもある。
「安い挑発だな……ふっ、それを魔女に言いなよ。イーリスとかいう想い人に先立たれ、愛憎を誰彼構わず振りまく迷惑な輩に」
チラリとソフィーを見るとさっきまであった笑顔が消え、無表情でこちらを凝視している。怒りや憎しみ、それか悲しみを抱いているのであればまだ理解出来るものを……ハッキリ言って怖すぎる。挑発だとしても言いすぎた。失言であることは明白だが、吐いた唾は飲めない。
「母さん、ゼアルは俺がやる。母さんは魔女をお願い出来る?」
「は~い。ラルフたちが戻ってくるまでの時間稼ぎ。盛大にやっちゃおっかぁ」
バリバリと稲妻が体を駆け巡る。エレノアの得意なエレメントは雷である。第一魔王に君臨していたイシュクルが最も得意としていた魔法である。親の得手を子につないだ。
「アルル、魔障壁を強化するんだ。これなら大丈夫、絶対に突破されないってくらいにな」
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