「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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24話 紅蓮のアモン

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 翌朝。パーシヴァル騎士団と義勇軍は、ホーン平原にて布陣を張って魔族襲来に備えていた。私たち支援および回復術師は、城塞の上で待機している。
 やがて北の空が陰りを帯びる。雲のせいじゃない。空を覆うおびただしい数の魔物の群れが、こちらに向けて飛んできた。

「弓兵、矢を構え! ——放てッ!!」

 最前線で戦いの火蓋が切って落とされる。飛んできた魔族――ガーゴイルやインプといった群れを、弓兵の放った矢が貫く。聖女の力で飛距離と威力を増した弓矢に、魔族はどんどん落とされていった。

「魔法兵、連携術式を展開せよ!!」
「連携魔法――“ファイアーウォール”!!」

 地を走る炎の壁が、迫りくる魔族の群れを一掃した。
 それでも突破された箇所は、槍兵や戦士たちが陣形を組んで適切に処理していく。
 すごい。一方的だ。私は砦の上で戦場を見下ろしながら、感嘆の息を漏らした。
 すべての指揮はフレイさんが執っている。彼自身もまた戦場で馬を駆り、魔族の層がもっとも厚い箇所で聖剣ブルトガングを振るう。

「はアァッ!!」

 光る剣より放たれた攻撃が、たったひと振りで何十体もの魔族を仕留めた。
 フレイさんの活躍はそれだけに留まらない。剣を槍に持ち替えると、槍術の技術だけで次々と魔物を仕留めていく。
 陣形が崩れそうなエリアに颯爽と現れ、形成を逆転させていくフレイさん。

「うおおおおおッ! フレイ様に続けーッ!!」

 その姿に兵たちは指揮を高揚させ、再び魔族に向かっていく。戦えないほどの怪我を負った人は、衛生兵に抱えられ背後まで運ばれてきた。

「私に任せてください――“アース・ヒーリング”!」

 戦場における私の役目は、支援と回復魔法の行使だ。今のところ支援魔法が必要な事態に陥っていないので、ひたすら負傷兵の回復にあたる。即死以外の兵士は皆、無事に回復する。

「どうした、この程度か! 魔族の親玉はどこにいる? いい加減、登場したらどうだ? このままでは総崩れになるぞ!」

 フレイさんが挑発する。彼の言う通り、最前線はこちら側の優勢。情報によると、この軍勢は魔王軍四天王の1人が率いているはず。だけど今のところ、それらしい首級は挙げられていない。
 このまま何もしないで去るとは考えにくい――そう思った瞬間、私は上空に高濃縮された魔力を感知した。

「危ない! “ガイア・プロテクション”!」

 フレイさんとその周辺一帯を、支援魔法で包み込む。
 刹那、上空から赤い流星が落ちてきた。……違う、流星じゃない。炎を纏った人影だった。
 支援魔法の発動が早かったおかげで、地上にいた人々は焼かれずに済む。だけど幾人かは衝撃波で吹っ飛ばされる。
 中央にいるフレイさんは無事だ。これまで振るっていた槍ではなく、ブルトガングに持ち替えて、落下してきた魔族の爪を受け止めていた。

「――貴様が魔王軍の将だな?」
「おーヨ、魔王軍四天王の1人、紅蓮のアモンたぁ俺様のことサ! てめぇは人間軍の指揮官で間違いねぇナ!?」
「如何にも。俺がこの軍の指揮官、フレイ=パーシヴァルだ」
「フハッ! こんな若造がねェ、俺様の手下どもを嬲ってくれたもんだゼ! だガ、てめぇが崩れれば形成は逆転する余地を残してやがるナ。てめぇさえ討ち取れば問題ねエ!」
「やれるものならばやってみろ。――はッ!」
「チッ!」

 フレイさんはアモンと名乗った魔族を押し返す。
 アモンは背中からカラスのような羽を生やし、口からは牙が覗く大柄な魔族だ。髪は燃えるように赤く、口から吐いた炎を全身に纏っている。指先からは鋭い爪が生えていた。
 前に見たバフォメットに比べると人間らしい容姿をしている。けど、背中の羽と鉤爪、それに炎が人間ではないと物語っていた。

「ハアァッ!!」

 アモンは空高くへと舞い上がる。私は支援魔法を発動させ続けていた。これでフレイさんたちは守れる筈――そう思った私の方を見て、アモンがニヤリと笑うのが分かった。
 結構離れているから、視覚で捉えられたわけじゃない。直観で理解したのだ。
 アモンの――魔族の狙いは、聖女(わたし)だ。極論、私さえ殺せば大目的は達成される。そして魔族は、どうやら聖女の気配がある程度分かるみたいだった。

「見つけたゼェッ!!」

 アモンが、私へと向かって飛んでくる。私の命を奪おうと狙いを定める。
 支援魔法を解除して、自分にかけ直している暇は――ない!

「死にさらせェッ、聖女ォッ!!」

 禍々しく歪んだアモンの表情が目視できるほど接近した時、その表情が驚愕に彩られる。その炎も爪も私に届くことはなかった。
 眩い閃光に包まれたかと思うと、すさまじい勢いで一直線に落下していった。
 アモンは地面に叩きつけられる。頭上から打ち付けられ、落下した地点はクレーターのように抉れている。
 上空にはフレイさんがいた。手にはブルトガングを携えている。ブルトガングの攻撃でアモンを斬った――というか、叩きつけたのは間違いない。

「……フレイさん? どうして、飛んで……!?」
「風属性の飛行魔法、“ウィンド・ウィング”を発動させているのでしょうな」
「クレイトンさん!」
「この場は危険です、退避しましょう。エリカ様、失礼します!」

 そう言うとクレイトンさんは私を担ぎ上げ、駆け出した。

「飛行魔法って、かなり高位の魔法じゃないですか!?」
「ええ、その通りです。あのお方は13歳で飛行魔法を会得し、7年前の魔物討伐ではもっとも多くの魔物を仕留めました」
「話には聞いています。確か1人で100体以上を仕留めたとか……」
「100体? それはずいぶんと捻じ曲がった数字が伝わっているようですな」
「で、ですよね? いくらなんでも――」
「1000体です」
「え?」
「あのお方は3日の間に、1000体もの魔物をたった1人で狩りました」
「――」

 背筋にぞくりと衝撃が走る。首の裏がチリチリする感覚があった。
 嫌悪感や恐怖から来る感覚じゃない。むしろその逆で、私は圧倒されていた。
 圧倒され、高揚していた。

「あれ以来、フレイ様には“剣鬼”の異名で呼ばれています。御前試合でもある剣術大会の振る舞いが“白銀の騎士”なら、魔種族を相手にする時のフレイ様は“剣鬼”。エリカ様、刮目を。あのお方こそがあなたの騎士、フレイ=パーシヴァル様です」
「わたしの……騎士……」

 上空のフレイさんは、緑色の淡い光に包まれている。あれが飛行魔法、ウィンド・ウィングなのだと直感で理解する。
 彼はクレーターを見下ろす。視線の先では地面に埋まっていたアモンが這い出ようとしているところだった。
 もちろんフレイさんがそれを見逃すわけもなく。彼は剣を構え直すと、一気に滑空し地上のアモンへと追撃を食らわせた。
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