「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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29話 新たな脅威

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 アモンたちを捕虜として捕えてから、幾日かが経過した。
 相変わらずアモンからも部下たちからも目ぼしい情報は聞き出せないままだった。

「いい加減、屋敷に戻ることも考えなければいけません。アモンたちの受け入れも手配させています。エリカ殿には窮屈な思いをさせますが、もうしばらくお待ちください」
「私は構いませんよ。ここでの生活も慣れれば結構楽しいです」

 フレイさんと並んで砦内の見回りをしていると、兵士や冒険者たちが気さくに声をかけてくる。
 フレイさんは高潔な人だから、軍規自体はしっかりしている。それでいて他人に厳しすぎる人でもないから、身分や出自を問わず大勢の部下に慕われている。
 彼が慕われている姿を見ると、なんだか自分のことのように嬉しくなった。

「しかしアモンは本当に部下たちから慕われているようですね。捕虜にした魔族は全体の1/3程度でしたが、ほぼ全員がアモンを悪く言いません。あれは仲間にとって、いい上司のようですね。その点の評価は改める必要があります」

 最近のフレイさんは、アモンの人格を認めた影響もあって、尋問でも敬意を払っている。アモンにも伝わっているみたいで、初日に比べれば態度は軟化している。
 でも、それとこれとは話が別。アモンは魔王軍にとって不利になる情報を漏らさない。その忠誠心にも感心しているみたいだった。

「捕虜として捕えた以上、魔王軍の情報は何としてでも引き出したい。まだ魔王四天王は2人残っています。これまでの2人が比較的容易に片付いたからといって、舐めてかかっては足元が掬われかねません。より正確に魔王軍の実態を把握する為にも、アモンから――」
「っ、失礼します! フレイ様、エリカ様! 報告です! ホーンズ平原の北東より、魔族と思しき軍勢が姿を現しました!!」
「何!? 分かった、すぐに向かう」

 私もフレイさんについて行って、砦の上から平原を見下ろす。
 確かに北東には、先日戦った時と同じように魔物たちが出現していた。
 でも先日とは違い、覇気がない。のろのろと勢いがなく、数もだいぶ減っている。

「遠眼鏡を。――なっ、あれは!?」

 私も遠眼鏡を渡してもらって魔物たちを見る。魔物たちは既にボロボロだった。先頭に立っている魔物に至っては白旗を掲げている。文字の書かれた看板を掲げている魔物もいた。

『アモン様に面会を求む』
『敵意なし』
『バフォメット城に異常あり』

「フレイさん、バフォメットって――!」
「以前、エリカ殿を襲った魔王四天王の1人ですね。……クレイトン、この場は一時任せる! 俺はアモンの面会に行く」
「はっ!」
「エリカ殿もご一緒に」
「もちろんです!」

 私とフレイさんは、アモンが繋がれた地下牢に急いだ。
 アモンは床に転がって寝ていたけど、上で見た光景について話すと顔色を変えて起き上がる。

「んだト? 俺様の部下が負傷して面会を求めているだト? しかもバフォメット城に異常あり、だト!? 畜生、さてはレオナールの野郎カ!!」
「どういうことだ、アモン。バフォメットとは、以前俺が倒した魔王軍四天王の1人ではないのか。まさか奴が生きていたとでも言うのか?」
「あ? バフォメットの野郎は死んだサ。そいつぁ気配で分かル。だがナ、奴には腹心とも言える部下がいたのサ。レオナールっつぅ、バフォメットの“影”がナ」
「レオナール……」
「バフォメットの野郎は、元々この辺り一帯の支配を魔王から任されていた魔族ダ。だから聖女召喚の儀もいち早く察知しテ、返り討ちに遭っちまったというわけだがナ。こっからさらに北へ行ったところにある古城、通称バフォメット城を本拠地にしていタ。魔族にとっちゃ地上侵攻する上での重要拠点だナ。奴が死んだ後ハ、俺様の城になったがナ」
「だが先日の戦いで、君の率いる軍勢は敗北した。その結果、レオナール率いる旧バフォメット勢力が反撃に出た、と見るべきか」
「あア、そんなところだろうヨ! ……レオナールの野郎、バフォメットに似て嫌な野郎だからナ! 前々から俺様たち混血種を見下していやがっタ。城に戻った俺様の部下たちにどんな対応をしたのカ、手に取るように分かるゼ――クソッ、胸糞悪イ!」

 アモンは壁を蹴る。どうやらバフォメット一派とは、相当仲が悪いみたい。魔族同士もいろいろ事情があるようだ。

「おイ、俺様を外にいる部下どもに会わせロ!」
「見返りもなしに?」
「~~ッ、わぁってるゼ! てめぇらにバフォメット――じゃなかっタ、レオナールたちの情報を教えてやル! 奴はまだ四天王じゃねえガ、四天王に次ぐ力を持っていル。今はまだ選出されてねぇガ、バフォメットの穴埋めをするのはあの野郎だろうヨ! てめぇらも目と鼻の先にそんな野郎がいたら困るだろうガ!」
「それだけでは足りないな。他の魔王四天王、ひいては魔王の情報も出してもらわないと」
「……そいつァ今度の展開次第ダ。状況から見て俺様の派閥ト、バフォメット派閥残党の衝突は不可避だろウ。レオナールのクソ野郎が俺様へ牙を剥いた背後ニ、他の四天王や魔王の存在があるのカ……もしあるってんなら、黙っていてやる義理はねェ」
「敵の敵は味方、ということか」
「そういうことダ」
「フレイさん……どうしますか?」

 判断を仰ぐ。フレイさんを見上げると、彼は私を見つめ返して頷いた。

「これまでの付き合い、それに現状から判断するに、彼の提案は飲む価値があります」
「おオ! そんじゃあ俺様の魔力ヲ――」
「ただし、魔力は当面還さないようにしましょう。まだ十全に信用したわけではありませんので」
「ンだヨ!? じゃあ何割程度信用してるってんダ!?」
「3割程度だな」
「少っ! おイ聖女、てめぇはどうダ!?」
「え、私? うーん、私はもっと少ないかな……2割程度?」
「どいつもこいつモ! チクショウ! まあいイ、とにかく今は自由にしやがレ!!」

 魔力がない状態のアモンは、子犬程度の力しか持たない。フレイさんは全身の拘束を解く。――が、首輪と鎖はつけたままだった。鎖の先はフレイさんが握っている。

「完ッ全に犬扱いじゃねぇカ! この俺様ガ……チクショウ!」
「しかし、先程のような発想が出てくるとは……魔王軍の中で、お前の立場は相当悪いようだな」
「ったりめぇだロ。俺様たちは混血種の部隊だゾ? 純血魔族どもからどんだけバカにされているカ、まあ人間のてめぇらに言っても分からねぇだろうがナ」
「混血種は見下されてるっていう話なら聞いたことがあるよ。……でもその様子だと、話で聞く以上にひどいみたいだね」
「今の魔王が純血主義者だからナ。だからこそ俺様たちは力を示しテ、魔族内での地位を高める必要があっタ。おかげで俺様は晴れて四天王入りを果たしたってわけダ。……その末路がこれジャ、もはや笑い話だがナ」
「アモン……」
「同情したカ? 同情すんなら魔力を還セ。とっとと還セ。そしたらバフォメット城までひとっ飛びして、レオナールのクソをボコってきてやル」
「エリカ殿、安易な同情は禁物ですよ」
「もちろんです」
「チッ!」

 悪態をつくアモンを連れて、私たちは砦の城壁の上に戻った。
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