「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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39話 不穏な晩餐会

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 ルイン王国第一王子ならびに摂政であるザカリアス=グレンヴィル。
 彼が、パーシヴァル領の領主屋敷にやって来たのは、夏も盛りに突入しようという時期だった。
 私がこの世界に召喚されてから、もう半年以上が経過した。けれどパーシヴァル邸で迎えたザカリアスからは、半年前とさほど変わらない印象を受けた。

「これはこれはエリカ様、お久しぶりです。その後、お変わりはありませんか?」
「お久しぶりです、ザカリアス殿下。フレイさんが尽力してくださっているので、何一つ不満はありませんわ」
「それは何より――訳あって王都からエリカ様を遠ざけねばならなくなったこと、常々心苦しく思っていました。パーシヴァル伯爵は第一の臣下です。よもや不手際はあるまいと考えておりましたが——エリカ様から直々に申していただいて、心より安堵致しました」

 眉一つ動かさないで言ってのけるザカリアスの態度に、私は呆れかえってしまう。
 ザカリアスからは、1ミリの後ろめたさも感じない。
……ってことは、今のセリフは本気で言っているのか。やっぱり正気とは思えない。並みの精神構造じゃない。頭がおかしいんじゃないだろうか。
 二の句が継げなくなる私を見て、フレイさんが会話を引き継いだ。

「殿下、よくぞお越しくださいました。今宵は晩餐会を用意してございます」
「フレイか。晩餐会か……当然、舞踏会も催されるのであろうな?」
「はい」
「ほう。では当然、私のパートナーは聖女様が務めてくださるのであろうな?」
「……はい」
「はっはっは! 重畳重畳!」

 ザカリアスはパーシヴァル邸の迎賓館に向かう。私たちはその間に、やはり敷地内にある社交場に移動して支度を済ませておく。

「エリカ殿、今宵は窮屈な思いをさせてしまいます」
「いいんですよ、フレイさん。こうなることは分かり切っていたじゃないですか。覚悟は決まっているから大丈夫です、心配いりません」
「エリカ殿……」
「……それにあの王子と踊らなくちゃいけないから、フレイさんに毎晩ダンスを教えてもらえたし。役得っていうか……」
「エリカ殿?」
「っ、なんでもありません! それよりも今夜は頑張りましょうね!」
「……はい、そうですね」

 迎賓館は国内の王侯貴族や、国外からの賓客をもてなす為に用意された館だ。宿泊や会食を行う為の施設や、舞踏会を開催する為の大ホールが用意されている。
 日が落ちて、辺りが暗くなると晩餐会の始まりだ。
 晩餐会で使用される食材には、私の魔力で育てた野菜・果物類も含まれている。

「ほう、これが聖女の魔力で育てた植物か。なるほど。聖女の力とは、このような使い道もあるのか。魔族との戦い以外にも、我が王国の益となりそうだ!」

 ……褒められているんだろうけど、素直に受け取る気になれないのは何故だろうか。
 なんとなーくこの人の口調は、私を人じゃなくモノとして扱っているような。コマとして認識しているような。そんな匂いが漂っている。気のせいかもしれないけど。
 努めて顔色に出さないよう、細心の注意を払って食事を続けた。

 食事が終わると、場所を大ホールに移して舞踏会が始まる。
 今夜、私のパートナーはザカリアスだ。私としてはフレイさんがいいけど、ワガママを言っていられない。相手は王子で、名目上私に会いに来ている以上、相手をしないのは礼に失する。
 王家の不興を買えば不利益を被るのは、領主であるフレイさんだ。これぐらいは我慢しないとね。

「聖女エリカ様。今宵の貴女は誰よりも美しい……御覧なさい、誰しもが貴女の麗しさと、貴女と踊る栄誉を得た私を羨望の眼差しで見つめています」
「お、おほほほほほほ」

 いや、ほんと大丈夫か、この人は?
 褒められ慣れていないから恥ずかしいとか、そんな次元を通り越して嫌悪感を抱く。
 一度は見捨てたのに、殺す為に召喚したのに。まるであの夜の出来事なんて、なかったかのように振る舞っている。
 少しは使い道があると分かった途端、この変わり様だ。
 露骨なご機嫌伺い。それでいて、一番大事な謝罪は一切ない。ただの一度もない。
 ザカリアスの中で、あの夜の出来事は「なかったこと」になっているんだろう。だから謝る必要もないんだろう。
 でも私は覚えている。忘れられるわけがない。
 いきなり異世界に召喚されて、見捨てられて、殺されかけて……どれほどの恐怖を味わったか、この人には絶対に分からない。
 最初からそうする為に呼び出されたと知って、どれほどの憤りを覚えたか。そんな私を助けてくれて、心を癒してくれたのはフレイさんだ。
 ザカリアスがこの国の王子だろうと、摂政だろうと、美形だろうと、権力者だろうと、すべてどうでもいい。私がこの人になびくことは、生涯あり得ない。
 ——これほどの嫌悪感を隠すのは、我ながら難儀した。それでもなんとかボロを出さずに舞踏会を終え、迎賓館を離れた。
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