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4 ピンクさん『いたーい! 殿下に突き飛ばされたぁ!』
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ラオルドは蒼白になってピンクさんとエーティルを交互に見る。喜色満面なピンクさんと氷点下無表情のエーティル。
「君は一体何をしたんだ?」
ラオルドは声を絞り出すように震える声で言った。
「エーティル様にラオルド様のご希望をお伝えしたんですよっ。エーティル様は快く受け入れてくださいました。これでエーティル様との婚約を解消できますね!
婚約のことはラオルド殿下の自由にさせてくれるそうですっ!」
ニッコリと笑って首を傾げるピンクさんは庇護欲そそる仕草が可愛らしい少女だ。
「婚約の解消? わたくしたちは婚約などしておりませんが?
ラオルド殿下の自由になさるとは婚約者のことでしたの?」
エーティルは無表情で詰問する。
「そうですよっ!
それにみんながエーティル様は王太子妃になるって言ってますっ!」
「ええ。確かにわたくしは王太子妃となりますわ。そのための勉強も社交もしております」
「それならっ! ラオルド様の婚約者ってことじゃないですかっ! ラオルド様はこの国の第一王子様なんですからっ!」
「ラオルド殿下は確かに第一王子殿下ですが王太子ではありませんよ。
先程、王太子権を放棄したばかりですし」
「なっ!! 放棄などしていないっ!」
「きゃあ!」
ラオルドはピンクさんを振り払って手を伸ばす。ピンクさんが脇に倒れたがそれには目もくれずエーティルに縋る視線を送るが、エーティルの脇に控えるメイド二人が物凄い形相でラオルドを睨んでおりラオルドは一歩も歩みを進ませることができない。エーティルは扇で口元を隠し無表情のままである。
「いえ、ラオルド殿下。殿下の側近たるお二人もわたくしにそう宣言いたしました。
側近の管理も殿下のお力次第。側近の言葉は殿下の言葉。
それが王太子候補者様のルールですわよね?」
「それはそうなのだが……。
ドリテン! ソナハス! どういうことだっ!」
ラオルドはエーティルの後ろで震える自分の側近である二人の青年を睨んだ。
側近二人は走り出しエーティルを追い越してラオルドの足元に縋った。
「我々はエーティル様に直接は何も申しておりません!」
「我らは付き添ってきただけです!」
「わたくしはその女性の方のお言葉はみなさんが了承しているかと確認いたしましたわ。
貴方方は首肯なさったではございませんか」
エーティルは呆れ声で説明する。
「まさかエーティル様に『婚姻するな』と言い始めるなどと思っていなかったのです!」
「『自由にさせろ』というのは側妃のお話かと」
「それに、それに、殿下もウェルシェ嬢を妃に迎えると」
ピンクさんはどうやらウェルシェという名前のようだ。
「だからそれはっ! 遠い未来にできるかもしれないという話でっ!」
ラオルドが首を左右に振りながら言い募る。
「あらまあ! 王太子にお決まりになっておいででもいらっしゃいませんのに側妃をお決めになりましたの?」
エーティルはわざとらしく目を丸くする。
「そ……それは……その……」
ラオルドはエーティルから視線を逸した。
「国王陛下でない限りこの国は一夫一婦制です。国王陛下でさえ側妃様については厳しい決まりがございます」
エーティルのため息が響く。
「馬鹿にしないでよっ! 私は側妃じゃないわっ! 正妃になるのよっ!」
床に座ったままだが顎を突き出してピンクさんことウェルシェが叫ぶ。
「正妃様? それはご無理かと……。
ですが王子妃でしたらまだなれますわよ」
「王太子妃だって言っているでしょう!」
「ラオルド殿下。先程までわたくしはその方に発言は許しておりませんし許したとしてもお話が通じないようですわ。
発展のないお話にあまり時間を取られては困りますの。わたくしにも予定がございますし」
エーティルは食堂の受付あたりをチラリと見ると少し瞳が揺れた。
「君は一体何をしたんだ?」
ラオルドは声を絞り出すように震える声で言った。
「エーティル様にラオルド様のご希望をお伝えしたんですよっ。エーティル様は快く受け入れてくださいました。これでエーティル様との婚約を解消できますね!
婚約のことはラオルド殿下の自由にさせてくれるそうですっ!」
ニッコリと笑って首を傾げるピンクさんは庇護欲そそる仕草が可愛らしい少女だ。
「婚約の解消? わたくしたちは婚約などしておりませんが?
ラオルド殿下の自由になさるとは婚約者のことでしたの?」
エーティルは無表情で詰問する。
「そうですよっ!
それにみんながエーティル様は王太子妃になるって言ってますっ!」
「ええ。確かにわたくしは王太子妃となりますわ。そのための勉強も社交もしております」
「それならっ! ラオルド様の婚約者ってことじゃないですかっ! ラオルド様はこの国の第一王子様なんですからっ!」
「ラオルド殿下は確かに第一王子殿下ですが王太子ではありませんよ。
先程、王太子権を放棄したばかりですし」
「なっ!! 放棄などしていないっ!」
「きゃあ!」
ラオルドはピンクさんを振り払って手を伸ばす。ピンクさんが脇に倒れたがそれには目もくれずエーティルに縋る視線を送るが、エーティルの脇に控えるメイド二人が物凄い形相でラオルドを睨んでおりラオルドは一歩も歩みを進ませることができない。エーティルは扇で口元を隠し無表情のままである。
「いえ、ラオルド殿下。殿下の側近たるお二人もわたくしにそう宣言いたしました。
側近の管理も殿下のお力次第。側近の言葉は殿下の言葉。
それが王太子候補者様のルールですわよね?」
「それはそうなのだが……。
ドリテン! ソナハス! どういうことだっ!」
ラオルドはエーティルの後ろで震える自分の側近である二人の青年を睨んだ。
側近二人は走り出しエーティルを追い越してラオルドの足元に縋った。
「我々はエーティル様に直接は何も申しておりません!」
「我らは付き添ってきただけです!」
「わたくしはその女性の方のお言葉はみなさんが了承しているかと確認いたしましたわ。
貴方方は首肯なさったではございませんか」
エーティルは呆れ声で説明する。
「まさかエーティル様に『婚姻するな』と言い始めるなどと思っていなかったのです!」
「『自由にさせろ』というのは側妃のお話かと」
「それに、それに、殿下もウェルシェ嬢を妃に迎えると」
ピンクさんはどうやらウェルシェという名前のようだ。
「だからそれはっ! 遠い未来にできるかもしれないという話でっ!」
ラオルドが首を左右に振りながら言い募る。
「あらまあ! 王太子にお決まりになっておいででもいらっしゃいませんのに側妃をお決めになりましたの?」
エーティルはわざとらしく目を丸くする。
「そ……それは……その……」
ラオルドはエーティルから視線を逸した。
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エーティルのため息が響く。
「馬鹿にしないでよっ! 私は側妃じゃないわっ! 正妃になるのよっ!」
床に座ったままだが顎を突き出してピンクさんことウェルシェが叫ぶ。
「正妃様? それはご無理かと……。
ですが王子妃でしたらまだなれますわよ」
「王太子妃だって言っているでしょう!」
「ラオルド殿下。先程までわたくしはその方に発言は許しておりませんし許したとしてもお話が通じないようですわ。
発展のないお話にあまり時間を取られては困りますの。わたくしにも予定がございますし」
エーティルは食堂の受付あたりをチラリと見ると少し瞳が揺れた。
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