34 / 62
34 新公爵「あいつらは金髪だっ!」
しおりを挟む
エーティルとムーガに打ち明けるラオルドがスッと立ち上がり自身の執務机の引き出しから紫色の小瓶を取り出してきてエーティルの前に置いた。
それを手に取りしっかりと見ようとしたエーティルをムーガが手で制止する。
「万が一がございますのでエーティル様はお触れにならないでください」
ムーガはポケットから取り出したハンカチにその小瓶を包むと廊下へ行き部下に鑑定に行かせて戻ってきた。
「過保護だわ。ラオルド殿下がお触れになっても大丈夫なのだからいいのではなくて?」
「女性にのみ作用する媚薬もございますから。それにしても王太子妃様になられるお方へ媚薬を盛れと言うって正気ですか?」
鑑定はまだなので媚薬とは確定していないがラオルドから聞いたノンバルダの発言を考慮するとそういう結論になる。
ムーガの皮肉を込めた笑みにラオルドはゆっくりと左右に首を振る。
「ノンバルダ本人は正気のつもりのようだ」
「はあ。バリバリの自己肯定ですね。公爵子息だからですかねぇ?」
「…………いや……肯定ではない……ノンバルダの劣等感だ……」
意外な答えにエーティルとムーガは驚いていた。
悲哀を見せるラオルドは再び説明を始めた。
〰️ 〰️ 〰️
ラオルドに媚薬を渡したノンバルダは今日か今日かとラオルドとエーティルの卑猥な噂を待ちわびていたがそのようなものが流れてくる気配もなく苛立ってラオルドの執務室に押しかけた。慣れてきた側近たちはラオルドに目配せして一礼してから早急に立ち去る。
「ラオルド! いつまでそうしているつもりだっ!」
「いいから座ってくれ。落ち着いて話もできない」
『ドカリッ!』
ノンバルダは殿下であるラオルドより先に腰掛けた。ラオルドはため息を一つ零していつもの席に座る。
「で? そう、とは何のことだ?」
「エーティル嬢が第二王子のものになるのを指を咥えて待つつもりなのかと聞いているっ!」
「ノンバルダ。いい加減にしろ。
お前は王家に忠誠を誓う公爵家の当主なのではないのか?」
興奮しているノンバルダにゆっくりとした口調でラオルドは返していく。
「そうだっ! だが、私が忠誠を誓いたいのはラオルドだ」
「俺と弟たちに差はないのだぞ。誰もが王家の者だ」
「あいつらは金髪だっ!」
「……………………は?」
ラオルドは思わず顎を突き出して聞き直した。
「あいつらはあいつらはあいつらは! 国王陛下と同じ金髪だ!」
「………………確かに弟たちは三人とも金髪だ。国王陛下だけでなく側妃様も金色のお髪をなさっておいでだから当然かもしれないな。そして俺は銀色だ。だがこれは王妃陛下からいただいたものだ。皆にも美しいと言われているし私も気に入っている」
自身の三つ編みにしている銀の後ろ髪を前に持ってきてそれをもて遊びながら見つめる瞳は母を想う幼さが垣間見えた。その手を離してノンバルダに向き直す。
「だが、それがどうしたというのだ?」
「王家の証である金髪を持たないお前こそが国王になるべきなのだ」
「ノンバルダ。金の髪は王家の証ではない」
「証でないなら象徴だ」
「それも違う」
「……私は私は……公爵家の色ではないから父上から疎まれていた。銀糸を持つ弟に全てを奪われるところだった。だから私は……」
虚ろな瞳で宙を見て呟くノンバルダの声はラオルドには聞き取れなかった。
「ノンバルダ? 大丈夫か?」
ラオルドがソファの反対側に座るノンバルダの顔を覗き込む。
「私は王家の色ではないお前を国王にして国王の血縁者となり公爵家を更に大きくするのだ」
『バン!』
ノンバルダはおもむろに立ち上がりテーブルを両手で叩いてラオルドを睨みつけた。
「父を! 越えるのだっ!」
ノンバルダは今日もまたラオルドの返事を待たずに退室していった。
「殿下? 大丈夫ですか?」
側近が紅茶のグラスをトレーに乗せて入室しラオルドの前に置く。
「すまないが今日は解散だ。少々考えを纏めたい」
「かしこまりました。メイドたちにもしばらくは入室しないように伝えておきます」
「ああ。そうしてくれ」
ラオルドは側近が持ってきた冷たいタオルを目に乗せて頭をソファに預けた。
それを手に取りしっかりと見ようとしたエーティルをムーガが手で制止する。
「万が一がございますのでエーティル様はお触れにならないでください」
ムーガはポケットから取り出したハンカチにその小瓶を包むと廊下へ行き部下に鑑定に行かせて戻ってきた。
「過保護だわ。ラオルド殿下がお触れになっても大丈夫なのだからいいのではなくて?」
「女性にのみ作用する媚薬もございますから。それにしても王太子妃様になられるお方へ媚薬を盛れと言うって正気ですか?」
鑑定はまだなので媚薬とは確定していないがラオルドから聞いたノンバルダの発言を考慮するとそういう結論になる。
ムーガの皮肉を込めた笑みにラオルドはゆっくりと左右に首を振る。
「ノンバルダ本人は正気のつもりのようだ」
「はあ。バリバリの自己肯定ですね。公爵子息だからですかねぇ?」
「…………いや……肯定ではない……ノンバルダの劣等感だ……」
意外な答えにエーティルとムーガは驚いていた。
悲哀を見せるラオルドは再び説明を始めた。
〰️ 〰️ 〰️
ラオルドに媚薬を渡したノンバルダは今日か今日かとラオルドとエーティルの卑猥な噂を待ちわびていたがそのようなものが流れてくる気配もなく苛立ってラオルドの執務室に押しかけた。慣れてきた側近たちはラオルドに目配せして一礼してから早急に立ち去る。
「ラオルド! いつまでそうしているつもりだっ!」
「いいから座ってくれ。落ち着いて話もできない」
『ドカリッ!』
ノンバルダは殿下であるラオルドより先に腰掛けた。ラオルドはため息を一つ零していつもの席に座る。
「で? そう、とは何のことだ?」
「エーティル嬢が第二王子のものになるのを指を咥えて待つつもりなのかと聞いているっ!」
「ノンバルダ。いい加減にしろ。
お前は王家に忠誠を誓う公爵家の当主なのではないのか?」
興奮しているノンバルダにゆっくりとした口調でラオルドは返していく。
「そうだっ! だが、私が忠誠を誓いたいのはラオルドだ」
「俺と弟たちに差はないのだぞ。誰もが王家の者だ」
「あいつらは金髪だっ!」
「……………………は?」
ラオルドは思わず顎を突き出して聞き直した。
「あいつらはあいつらはあいつらは! 国王陛下と同じ金髪だ!」
「………………確かに弟たちは三人とも金髪だ。国王陛下だけでなく側妃様も金色のお髪をなさっておいでだから当然かもしれないな。そして俺は銀色だ。だがこれは王妃陛下からいただいたものだ。皆にも美しいと言われているし私も気に入っている」
自身の三つ編みにしている銀の後ろ髪を前に持ってきてそれをもて遊びながら見つめる瞳は母を想う幼さが垣間見えた。その手を離してノンバルダに向き直す。
「だが、それがどうしたというのだ?」
「王家の証である金髪を持たないお前こそが国王になるべきなのだ」
「ノンバルダ。金の髪は王家の証ではない」
「証でないなら象徴だ」
「それも違う」
「……私は私は……公爵家の色ではないから父上から疎まれていた。銀糸を持つ弟に全てを奪われるところだった。だから私は……」
虚ろな瞳で宙を見て呟くノンバルダの声はラオルドには聞き取れなかった。
「ノンバルダ? 大丈夫か?」
ラオルドがソファの反対側に座るノンバルダの顔を覗き込む。
「私は王家の色ではないお前を国王にして国王の血縁者となり公爵家を更に大きくするのだ」
『バン!』
ノンバルダはおもむろに立ち上がりテーブルを両手で叩いてラオルドを睨みつけた。
「父を! 越えるのだっ!」
ノンバルダは今日もまたラオルドの返事を待たずに退室していった。
「殿下? 大丈夫ですか?」
側近が紅茶のグラスをトレーに乗せて入室しラオルドの前に置く。
「すまないが今日は解散だ。少々考えを纏めたい」
「かしこまりました。メイドたちにもしばらくは入室しないように伝えておきます」
「ああ。そうしてくれ」
ラオルドは側近が持ってきた冷たいタオルを目に乗せて頭をソファに預けた。
200
あなたにおすすめの小説
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。
レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。
知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。
私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。
そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる