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39 元ピンクさん「第一王子……大丈夫かなぁ……」
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ラオルドが用意した隠れ家に降り立った二人は馬を馬車から外したり水を用意したりと馬を丁寧に労ってから荷物を持って家に向かった。
鍵を開けて中に入ると掃除も行き届いていて過ごしやすそうな空間だった。
「まさかラオルド様がお掃除なさっているとか??」
「いや、村から掃除婦を呼んでいるって言ってた」
「うわぁ。ラオルド様……、ここを満喫するつもりマックスですね」
二人は玄関に入ったところで立ち止まりぼんやりと室内の様子を見ている。
「お前は二階の主寝室を使えって仰ってたぞ」
「は?! いやいやいやいや、無理ですよ」
ヴィエナは引き千切れんばかりに首を左右に振った。
「だよな。一階の奥に護衛が使っている客間が三つあるんだと。そこでいいな」
今度はコクコクコクと縦に振る。
二人はそれぞれの部屋を決め早々に就寝した。
「ラオ様……大丈夫かなぁ……」
ベッドの中で呟かれたヴィエナの言葉は隣室のムーガには届かない。
翌朝の朝食を済ませるとヴィエナはムーガに鍛錬をお願いした。
「あの役――ウェルシェ――で体なまっちゃったんです! 師匠! 遠慮なくお願いしまーす!」
「えぇ。俺、ずっと忙しくて……。午前くらい休みたいんだけどなぁ。殿下と鍛錬してたんだろ?」
「まあまあ! ムーガ様を独り占めなんてなかなかできませんから」
渋々な顔をしていてもヴィエナに背中を押されることを照れながら嬉しいムーガである。
昼近くになるとムーガだけが出立の用意を始めた。
「ムーガ様。どちらへ行かれるのですか? 私を国外追放まで送るという演技をしなくちゃならないのでしょう?
となると二週間は王都へ戻れませんよね?」
「ちょっとな。エーティル様に頼まれ事だ。
ここには一ヶ月くらいで迎えを寄越すからお前はそれまで大人しくしてろ」
「えーー! 鍛錬の相手もいないんですかぁ」
師団長を鍛錬相手だと言えるヴィエナは大物である。ムーガは拗ね顔のヴィエナに思わず吹き出した。
そこに強めのノックの音がした。
『ゴンゴンゴン!』
こんなところに来客があるわけもなく、二人は一瞬瞠目するも直様臨戦態勢で腰の剣の柄に手を当ててドアの方を向く。
「いるのだろう? 俺だ」
「ラオルド様っ!」
「ラオルド殿下っ!」
ムーガが急いでドアを開ければそこには本当にラオルドがいた。
「殿下。そのお姿は!?
いやいやそれよりっ!」
ムーガは外に出て辺りを見回す。
「ん? は? 護衛は?」
「俺はもう殿下じゃないのだ護衛なんていらないだろう」
「男爵でも貴族家の当主なんですから護衛は付けますよっ!」
ムーガはとても慌てていたがそんなものはどこ吹く風。その様子を見たラオルドはカラカラと笑っている。
「荷馬車と護衛は先に男爵領へ行ってもらったんだ。いろいろな領地を見学して勉強しながらゆっくりと男爵領へ行くと言ってある」
「なら、尚更護衛が必要でしょう!」
「俺は剣ならキリアに負けない。それにこんな格好の旅人を狙う野盗はいないさ」
ラオルドは街人というよりも農民という格好をしている。馬も一頭。脇に野宿支度をくくりつけていた。
そして。
何より髪が茶色だった。
「ヴィエナを真似てみた」
ラオルドが茶色のカツラをヒョイと取る。輝く銀髪は頭頂部が少し長いだけで短く刈りそろえられていた。
「これならカツラも蒸れなくていいだろう」
『その輝く笑顔は隠せるんですかねぇ?』
『キラッキラだぁ!』
ムーガはラオルドの手前ため息を飲み込みヴィエナは自分の瞳をキラッキラにしている。
鍵を開けて中に入ると掃除も行き届いていて過ごしやすそうな空間だった。
「まさかラオルド様がお掃除なさっているとか??」
「いや、村から掃除婦を呼んでいるって言ってた」
「うわぁ。ラオルド様……、ここを満喫するつもりマックスですね」
二人は玄関に入ったところで立ち止まりぼんやりと室内の様子を見ている。
「お前は二階の主寝室を使えって仰ってたぞ」
「は?! いやいやいやいや、無理ですよ」
ヴィエナは引き千切れんばかりに首を左右に振った。
「だよな。一階の奥に護衛が使っている客間が三つあるんだと。そこでいいな」
今度はコクコクコクと縦に振る。
二人はそれぞれの部屋を決め早々に就寝した。
「ラオ様……大丈夫かなぁ……」
ベッドの中で呟かれたヴィエナの言葉は隣室のムーガには届かない。
翌朝の朝食を済ませるとヴィエナはムーガに鍛錬をお願いした。
「あの役――ウェルシェ――で体なまっちゃったんです! 師匠! 遠慮なくお願いしまーす!」
「えぇ。俺、ずっと忙しくて……。午前くらい休みたいんだけどなぁ。殿下と鍛錬してたんだろ?」
「まあまあ! ムーガ様を独り占めなんてなかなかできませんから」
渋々な顔をしていてもヴィエナに背中を押されることを照れながら嬉しいムーガである。
昼近くになるとムーガだけが出立の用意を始めた。
「ムーガ様。どちらへ行かれるのですか? 私を国外追放まで送るという演技をしなくちゃならないのでしょう?
となると二週間は王都へ戻れませんよね?」
「ちょっとな。エーティル様に頼まれ事だ。
ここには一ヶ月くらいで迎えを寄越すからお前はそれまで大人しくしてろ」
「えーー! 鍛錬の相手もいないんですかぁ」
師団長を鍛錬相手だと言えるヴィエナは大物である。ムーガは拗ね顔のヴィエナに思わず吹き出した。
そこに強めのノックの音がした。
『ゴンゴンゴン!』
こんなところに来客があるわけもなく、二人は一瞬瞠目するも直様臨戦態勢で腰の剣の柄に手を当ててドアの方を向く。
「いるのだろう? 俺だ」
「ラオルド様っ!」
「ラオルド殿下っ!」
ムーガが急いでドアを開ければそこには本当にラオルドがいた。
「殿下。そのお姿は!?
いやいやそれよりっ!」
ムーガは外に出て辺りを見回す。
「ん? は? 護衛は?」
「俺はもう殿下じゃないのだ護衛なんていらないだろう」
「男爵でも貴族家の当主なんですから護衛は付けますよっ!」
ムーガはとても慌てていたがそんなものはどこ吹く風。その様子を見たラオルドはカラカラと笑っている。
「荷馬車と護衛は先に男爵領へ行ってもらったんだ。いろいろな領地を見学して勉強しながらゆっくりと男爵領へ行くと言ってある」
「なら、尚更護衛が必要でしょう!」
「俺は剣ならキリアに負けない。それにこんな格好の旅人を狙う野盗はいないさ」
ラオルドは街人というよりも農民という格好をしている。馬も一頭。脇に野宿支度をくくりつけていた。
そして。
何より髪が茶色だった。
「ヴィエナを真似てみた」
ラオルドが茶色のカツラをヒョイと取る。輝く銀髪は頭頂部が少し長いだけで短く刈りそろえられていた。
「これならカツラも蒸れなくていいだろう」
『その輝く笑顔は隠せるんですかねぇ?』
『キラッキラだぁ!』
ムーガはラオルドの手前ため息を飲み込みヴィエナは自分の瞳をキラッキラにしている。
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