【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
56 / 62

56 孫「おばあちゃまぁ」

しおりを挟む
 ラオルドとラフィネが屋敷へ入るとヴィエナが頭を垂れて迎える。

「王太后陛下におかれましては……」

「家族としてお世話になるのよ。それはいらないわ。母と呼んでちょうだいな」

 痺れるほどの優しい口調にヴィエナは改めてへそに力を入れた。

「かしこまりました。お義母様」

 頭を上げたヴィエナを見て王太后ラフィネは眉を二ミリほど動かした。元工作員のヴィエナだからわかったくらいの小さな小さな動き。だが、その動きでヴィエナにはわかってしまった。

『これはバレたわぁ………………』

 だが、ヴィエナもここでそれを顔に出すわけにはいかないしそのくらいの訓練は受けている。動揺を隠して笑顔を貼り付けた。

「母上」

 ラオルドがヴィエナの隣に立つ。

「この子がリベルト、そしてティモ。お休み中なのはタールだよ」

 リベルトとティモはヴィエナのスカートを握りしめてラフィネの様子を伺っている。タールはメイドの腕の中でお昼寝中だ。

「リベルト。お祖母様にご挨拶よ」

 ヴィエナに促されてリベルトは前に出た。

「リベルト。はじめまして。貴方のおばあちゃまよ。フィーネおばあちゃまって呼んでくれる?」

 子供の目線に膝を落としたラフィネが優しさ溢れる笑顔で尋ねた。
 リベルトはラオルドとヴィエナとラフィネとその後ろにいるムーガをぐるぐると見回す。

「僕のおばあちゃまなの?」

「そうよ。わたくしは貴方のお父様の母親なの」

「フィーネおばあちゃま。リベルトです。はじめまして。
あのぉ、僕、ぎゅ~していいですか?」

「まあ! ぎゅ~してくれるの?」

「はい!」

 リベルトは五歩走りラフィネに抱きついた。

「僕のお友達は皆おばあちゃまに抱っこしてもらっているんだよ。だから僕、おばあちゃまに会いたかったの。僕のおうちにはお祖父様しかいないでしょう。ムーガお祖父様も大好きだけど、フィーネおばあちゃまは柔らかいね」

 ここで言うリベルトのお友達とは領民のことだ。農民にせよ商人にせよ共働きは当然で、子供の世話は祖母が行うことが大半だ。まだ八歳のリベルトの友達が自分たちの祖母に甘えているのをリベルトは何度も見ていた。

「ティモもぉ!!」

 ラフィネは左腕を広げてティモを受け入れた。

「おばあちゃまぁ」

 ティモはリベルトに負けじとぎゅ~ぎゅ~する。ラフィネは笑いながら泣いていた。

 そうしてしばらく初対面を堪能した。

「二人とも。今日はお祖母様は長旅でお疲れだ。お屋敷までお見送りしてあげておくれ。
母上。夕飯までおくつろぎください」

「わかったわ。そうさせてもらうわね。
ヴィエナさん。孫たちに会わせてくれてありがとう」

「とととととととんでもございません」

 慌てて頭を下げるヴィエナにラフィネは笑った。

「うふふふ。いつか貴女の緊張も解いてね」

「はひぃ」

 ラフィネはリベルトとティモと両手を繋ぎ、後ろにはムーガとメイドを連れて別館へ向かった。

 本館の玄関がパタリと閉まる。

「なんとかなりそうだな」

 ラオルドは肩の荷を降ろし、サロンへ向かおうと奥へ向いた。
 ヴィエナは玄関を見つめたまま動かない。

「ん? どうした?」

 ラオルドは心配気にヴィエナの顔を覗き込む。ヴィエナにとって夫の母親というより王太后であろうことはわかっているので気にしている。どちらにせよ緊張する間柄ではあろうが。

「気が付かれちゃった」

「何を?」

「私がピンクさんだってこと」

「ッッッ!!」

 ヴィエナは鼻で息を吐くと踵を返してサロンへ向かった。我に返ったラオルドがそれを追った。

 サロンにはワゴンに乗せてお茶が用意されていてヴィエナがそれを押してテーブルまで行き茶葉をポットに入れる。男爵家ではメイドも少ないので男爵夫人であろうとお茶を淹れることは当然である。

 ラオルドは不安と心配と疑問とで複雑な顔でテーブルにつく。
 ヴィエナがお茶を二人分置いてラオルドの向かい側に座った。

「おそらくだけどお義母様は私がウェルシェだってお気づきになったわ」

「本当かい? だってヴィーは一度しか母上に会っていないのだろう?」

「ええ。それも修道院へ出立前に遠目で一度だけよ。王妃陛下に接近する任務は受けたことないし」

「だよな。それで、なんで?」

 ラオルドが前のめりに聞いた。
しおりを挟む
感想 105

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に

ゆっこ
恋愛
 王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。  私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。 「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」  唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。  婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。 「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」  ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...