転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい

夢見望

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第28話 モブにはない主人公の思いがあります

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「ミリアーデさん、大丈夫? 怪我は無い?」
「はい、レインさん。レインさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
 リーゼをモンスターから助けた後、他にモンスターがいない事を確認してみるが、大丈夫のようだ。
 俺が気付かなくても、アルファが教えてくれるだろう。
 リーゼは、体を起こし立とうとしたが、上手く力が入らなかったのかよろけて倒れそうになった。
「あっ」
「おっと、大丈夫」
「す、すみません」
「少し休んだ方が良いよ。今はこの辺に、モンスターいないみたいだし」
「・・・はい」
 倒れそうになったリーゼを受け止めた後、ゆっくりとその場に座らせた。
 リーゼを受け止めた際に、ふわっと香った髪の匂い、胸の辺りで感じた柔らかいもの・・・。
 リーゼを受け溜めきれずに自分も倒れてしまいそうになるほどの幸福を得たが、それが表情や行動に出ないように必死だった。
 リーゼを座らせた後、俺もその場に座ったが全身が震えるほどの力で拳を握り、馬鹿みたいに唇を噛んで痛みで上書きしようとした。
 俺がそんなことをしているとはリーゼには気付かれなかったが、後でアルファには何か言われそうだ。
 平静を装いリーゼの体調について聞いた。
「何処か、痛む所とかある?」
「さっき、モンスターに殴られた所が痛みますが、これくらいなら我慢出来ます」
「無理はしない方が良いよ。この階層まで降りてきたんだ。疲れも溜まっているはずだよ」
「でも、まだ魔石が足りなくて・・・」
「一定数集められなくても、評価は下がらないって先生言ってたよ」
「はい、でも私は貴族様達と違って平民ですから、頑張って少しでも評価を上げたいんです」
 声に、いつもみたいな元気がない。
 表情も何処か浮かない顔をしている。
「どうしてそこまで評価を上げようとしているの?」
「・・・私の両親に恩返しがしたいんです」
「恩返し?」
「はい、私の家は裕福な暮らしが出来るような家ではなくて、小さい頃から私も両親の仕事を手伝っていたんです」
 平民にも色々な家庭がある。貴族ではなくとも、商売が成功して余裕のある生活を送っている者もいる。
 俺の家は、親父が冒険者として稼いだ金で暮らしていたが不自由に感じたことはない。
「私は、お父さんとお母さんと一緒に居られて嬉しかったんですが、同い年の子達と遊べなかったり、美味しい物を食べさせてあげられないのが苦しかったみたいで・・・」
「・・・・・」
「どうにか両親を喜ばせて、今でも幸せなんだって伝えたいんですけど、どうしたら良いのか分からなくて・・・そんな時に、この学園の入学案内の手紙が届いたんです」
 俺も手紙が届いたが、親父が助けた人による紹介で届いたものだ。
 リーゼの場合は、どういう経緯で届いたんだろう。
 少し気になるが、今はリーゼの話しを聞くことに集中した。
「手紙の内容を見たときは驚きました。本来なら貴族しか入学出来ないと言われる学園に学費免除の特待枠として入学できるなんて・・・最初は誰かのイタズラかとも思ったりしたのですが、両親とも一緒に確認して本当に学園からの手紙だって分かって」
「すぐに入学することを決めたの?」
 リーゼは、静かに首を横に振った。
「・・・いいえ、悩みました。学園に入れたとしても私の実力でついていけるのか不安でしたし、それに、両親と離れるのも・・・でも、もしも学園で良い成績を残すことが出来たら良い職業にも付けて両親に恩返しが出来るんじゃないかって・・・」
「ミリアーデさんの両親は、学園に入学することをどう思ってたの?」
「お母さんは、私のことを心配して最初は反対していました。でも、お父さんが『リーゼの人生だから、リーゼが学園に行って学びたいことがあるなら応援するよ』って言ってくれて、お母さんもお父さんのその言葉を聞いて学園に入学することを許してくれました」
「優しいご両親だね」
「はい、私の大好きな両親です。・・・だから、両親の為にも私は頑張らないといけないんです」
 先程まで沈んでいた表情は、学園に来た理由を話している内に変わっていった。
 不安はありそうだが、それでも両親の為に頑張ろうとするリーゼの表情。
 それは、リーゼが主人公だから出来る表情なのか・・・
 しかし、今のリーゼ気持ちを主人公だからという理由で済ませてしまう事は、してはいけない気がした。
「ミリアーデさんは、凄いね」
「えっ? いや、えっと、全然凄くないです!! 凄くないから必死になっているだけで」
「そうやって、必死に頑張る事が凄いんだよ」
「私は、レインさんの方が凄いと思います。さっきもモンスターを一瞬で倒してしまうし、いつも何処か余裕がある気がして・・・」
「俺に余裕がある? それは気のせいだよ。何なら常に気を張っているくらいだ」
「そうなんですか?」
「ああ」
『嘘はいけませんよ、マスター』
『嘘じゃねぇ、今も目の前に主人公がいるせいで心臓バックバクだ』
 姿が見えないアルファから注意を受けたが、別に嘘は付いていない。
 モブである俺は、リーゼや攻略対象達の動きが気になってしょうがない。
 何か面倒なことが起きるのは嫌だから。
「さてと、それじゃあ、ミリアーデさんが頑張りたい理由も聞いちゃったし、俺も手伝おうかな。あっ、さっきのモンスターが落とした魔石は全部上げるよ」
「えっ!? そんな悪いですよ!」
「気にしない、気にしない、俺はもう魔石集め終わってるから。何なら俺の魔石上げようか?」
「だ、ダメです! それは、レインさんが集めたものですから、簡単に人にあげちゃダメです! 私は自分で集めますから!」
「真面目だなぁ~、少しくらい別に良いのに、先生にもバレないって」
「もう! 怒りますよ!」
 リーゼの頬が膨らみ、いつもより目が吊り上がっている。
 確かに少し怒っているようだが、不思議と全然怖く無い。寧ろ、可愛い。
 リーゼをたしなめながら、その場に立ち上がる。
「分かった。分かった。今持っている魔石をミリアーデさんに上げるのは諦めるよ」
「もう~、本当に分かっているんですか?」
「一緒に頑張ろうって話しだろう? だから、ほら」
 そう言って、リーゼに手を差し出した。
 リーゼの頬はまだ膨らんだままだが、俺の手を取り立ち上がった。
「さて、それじゃあ、ちゃちゃっとモンスターを探して魔石を集めますか」
「もう、そんな簡単に・・・」

 『ドォーン!!!!』

 ダンジョンが揺れるほどの爆発音。
「ミリアーデさん! 大丈夫!」
「は、はいっ、驚きはしましたけど、何ともないです。でも、今のって」
 俺の後ろにアルファが近づき
『マスター、どうやらボスの部屋でイレギュラーが発生したようです』
 不穏な事を教えられた。
 一体ボスの部屋で何が起きたというのか・・・。

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