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シロップの展望
03 ー カルトーフィリ村
しおりを挟む鍋の締めは、雑炊かうどんか悩むところだ。冷凍のうどんを持って来ているが、誠は雑炊を選んだ。
バッグの中からスルトの別館で炊いてあった米を取り出して鍋に入れる。溶き卵を流し入れると完成だ。たまにはパン以外の主食を食べたかったのは、誠だけの秘密だ。
自分の欲求に付き合ってもらったが、米はレビ達にも好評だった。大食い微笑み王子であるルイージは米に興味を持ったらしく、今度の長期休みは米を探すと言い出したのには驚いたのだが。
食事の片付けが終わると、誠はアレクセイによってテントの中に引きずり込まれてしまった。約束だったから仕方が無いが、途中目の合ったオスカーに生温い視線を送られ、声に出さずに「がんばれ」と言われてしまい、誠は居た堪れない気持ちでいっぱいになった。
「…ん」
自分のテリトリーに入った銀狼は、容赦がなかった。誠の口内を蹂躙する勢いで舌を絡め、唾液を啜る。その音に羞恥を覚えながらも、誠は懸命にアレクセイに応えた。
何度も唇を合わせる角度を変え、誠の舌を優しく噛んだり舐めたりしたアレクセイはやっと満足したのか、名残惜しそうに誠の下唇を舐めてから少し離れた。
「マコト」
「…何?」
あまりの情熱にトロンとした目になった誠は体に力が入らず、アレクセイに体を預けている。
「君は一体、どこまで俺を惚れさせれば気が済むんだ」
「さあ?」
誠はクツクツと笑いながら、アレクセイの首にするりと腕を回した。
別に計算しているわけではない。誠は自分がしたいことを、しているだけだ。それでアレクセイが喜んでくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
「君には一生、振り回されそうな気がするな」
アレクセイはそう言うが、誠の頬を撫でる手つきは優しい。
きっと誠に触れるのを我慢していたのだろう。それが爆発したのが先程の荒々しくも官能的なキスで、本当はこうしてゆっくりと触れ合いたかったのかもしれない。
誠はアレクセイのしたいように、身を任せていた。時折いたずらな指先が、唇を撫でていく。顎を掬われ、額に、頬に、唇に。小さなキスを落とされた。
しばらくそうしていると、急にアレクセイの胸元から鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「…チッ」
珍しく舌打ちをしたアレクセイは誠を片腕に抱いたまま、胸元を漁る。通信用のコンパクトが音の原因だったようで、少し乱暴に開くとフレデリクの声が聞こえてきた。
『やあ、アレクセイ。お兄ちゃんだ』
先程のムードを成層圏まで吹き飛ばす台詞に、誠はむせてしまう。アレクセイは余計に気分を害したのか、眉間に皺を寄せていた。
「何ですか兄上」
『おや、マコトも一緒だったか。それはすまないな』
「本当ですよ。それで、要件は」
『マコト、聞いているか。弟が私に対して冷たいよ』
「聞いてますよー。タイミングが悪かったんじゃね?」
急に話を振られたが、誠はアレクセイの胸をぽんぽんと叩きながら笑っている。実の兄は好きだが、やはり家族なので邪険にしてしまう時がある。アレクセイも同じなのだろう。
やはりこの二人は、確かに兄弟だ。
『そうか。それはすまなかったな』
「兄上!話を進めてください」
『そうだな。マコトにも知っておいて欲しいんだが、各地で魔獣の目撃数が増加している。そちらは何か変わりは無いか?』
「…去年よりも群れに遭遇する割合が多いと思われます」
誠はあまり気にしていなかったが、言われてみるとミョート村からスルトの港街の間と比べて、港街を出てからの方が魔獣やその群れに当たる回数が多かったように思う。出やすい地帯だと勝手に思っていたが、アレクセイの言葉からすると、そうではないようだ。
『スタンピードの予兆は出ていないのだがな…。冒険者ギルドから話を聞いたが、あちらも魔獣の増加を確認しているが、スタンピードの予兆は見られないと言っていた。魔獣の亜種のこともある。気を付けろよ』
「分かりました。何かありましたら、その都度連絡します」
『ああ。マコトも気を付けろ。アレクセイになら迷惑をかけてもかまわん。自分の身を守れ』
部隊長の一面を見せていたのに自分の心配をしてくれたフレデリクに、誠は少し嬉しくなった。
「了解」
それから少し話をして、通話は終了した。
アレクセイは誠と兄が以前より仲が良いことに訝しんでいたが、誠は適当に流しておく。先日の協定の件は、何となく秘密にしておきたいからだ。
しばらくのんびりしていると、夜番の交代の時間になった。テントから出ていくと、ルイージとレビがぴたりとくっ付いて座っているのが見えた。レビの頬が赤いのは焚き火のせいかと思っていたが、近付いてみると珍しくルイージがレビの肩を枕にして眠っているようだ。
「…ルイージって、居眠りするイメージが無いんだけど」
「ルイージは体力が少ない方だからな。それにこの時期は疲れが溜まってくる頃だ」
「へー。だからレビが固まってるのか」
ニヤニヤしながらレビの顔を覗くと、動けないレビは、むっと唇を突き出す。
「仕方ないだろ。こんなルイージは珍しいんだよ。あれでいつも気ぃ張ってるし、隙を見せたがらないんだ」
そう言いながら何とか首を捻り、ルイージを見るレビの顔は穏やかな笑顔を浮かべていた。
ルイージを起こさないように横抱きにしたレビは自分のテントの前で立ち止まると、こちらを振り向く。
「…マコト、すまん。テント開けてくんねぇ?」
アレクセイ班の元気印のようなレビは、決めるところで決めきれない星の元に生まれたらしい。誠は笑いながらテントを開けてやった。
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