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シロップの展望
04 ー カルトーフィリ村
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翌日の昼前には、目的地であるカルトーフィリ村に着いた。
隣の村と言っていたのでもっと近いのかと思っていたが、どうやら魔獣の討伐のために遠回りをしていたそうだ。通常のルートだと、半日ほどで着くらしい。
本日は朝から寒さが厳しく、空もうっすらと曇っている。もしかしたら夜は雪が降るかも知れないなと、誠は空を見上げていた。
大門を抜けて領内に入ると、港街とは違い人通りは落ち着いていた。村長の家へ挨拶と報告に向かうアレクセイ達とは一旦別れ、誠は市場や屋台を冷やかすために早速移動した。時間になれば連絡鳥が飛んで来る手はずになっているので、それまでは自由時間だ。
店先に目新しい商品は並んでいないが、見て回るだけでも楽しい。じゃが芋が特産だと言うだけあって、青果店にはじゃが芋がたくさん並んでいた。見ているとポテトサラダやフライドポテトが食べたくなったので、いくつか購入した。
屋台の通りに移動すると、冒険者の姿がちらほらと見えた。この後で冒険者ギルドに行こうと決め、誠は屋台飯で昼食を摂ることにした。
スープの屋台では、具材に魚が入っているものがあったので、迷わず購入する。港街セーヴィルが隣にあるからだろうが、それにしては魚の傷みが少ないように思う。
屋台の店員に聞いてみたところ、領主であるレイナルドが領内のみを結ぶ専門の行商隊に、マジックバッグを貸し与えているそうだ。だからスルト領内では新鮮な魚がどこでも食べられるらしい。
あのバカ息子の教育は失敗だったが、統治能力は高いようだ。誠は密かにレイナルドを見直していた。
「…さて。まだ時間はありそうかな」
腹ごしらえを済ませた誠は、冒険者ギルドと商業ギルドに行くことにした。いい加減レベルを上げたいし、どの程度滞在するのか知らないが、店も出したい。
幸いこの村にも冒険者ギルドがあったので、真っ直ぐ掲示板に直行した。依頼は少ないかと思っていたが選べる余裕はあったので、一つ上のFランク用の依頼を剥がして受付カウンターに持って行く。
依頼は村外れのオークの討伐だったが、誠がソロだと言うと受付の女性職員は誠を止めた。どうやら新人ハンターが無茶をしていると思われたらしい。
「大丈夫ですよ。今、王都騎士団のアレクセイさんの班に身を寄せてまして、一緒に討伐もしてるんで」
アレクセイの名前を無断で借りたが、王都騎士団の名前はこの村でも有名なのだろう。職員は少し考えたようだが、誠にゴーサインを出した。
「それなら大丈夫…かな。でも、無理は禁物ですよ。危なくなったら、撤退してくださいね」
「もちろん。しっかり生きて戻ってきます」
職員に笑いかけると、仕方がないという表情をされながらも受理された冒険者カードを返された。誠はカードをバッグにしまうと、その足で商業ギルドに赴いた。
出店許可の申請だけだから手続きはすぐ済むと思っていたが、誠のカードを受け取った職員はカードを照会すると何かに気付いたようで「少々お待ちください」と言い残して席を立った。
何かしてしまったのだろうか。そう考えてみたが、誠は完全に白だ。いや、地球の調理法を用いているので、せめてオフホワイトくらいだろうか。それでも白は白だ。
暫く待っていると、先程の職員は狐獣人の職員を連れて戻って来た。どうやら上司らしく、誠はその獣人に奥の部屋を案内された。
「どうぞ、おかけになってください」
丁寧に言われたが、どこかその目が気に入らない。狐という括りでは誠とその職員は同じなのだが、誠は妖狐だ。狐の神使と相容れないのと同じく、狐獣人とも相性が悪いのかもしれない。
用心しながら椅子に座るとすぐに他の職員が入ってきて、テーブルの上に紅茶を置いて、無言のまま退室した。
「すみませんね、少しお話を聞きたかったのです」
「そうですか。何を聞きたいんですか?」
誠は顔には出さず、平然とした態度をあえて取っている。
面倒臭い。早く狩りに行きたい。考えているのは、それだけだった。
「トオノ様は、セーヴィルで屋台を出されていましたよね」
「はい」
「その…クッキーでしたか。それがかなり人気になってまして、向こうの商業ギルドに問い合わせが何件もきてるんですよ」
「へぇ…そりゃ、ありがたいことですね」
職員はゆっくりと紅茶を飲む。下手に出ているようだが、自己紹介をしないあたり、どうなのだろう。誠は前髪で隠れている眉を片方、ひくりと上げた。
「こちらの村でも出店をなさるようですが、どうでしょう。商品のいくつかを、向こうで販売されませんか?」
「へぇ…。でも俺は身一つですよ。どうやって?」
「それは簡単ですよ。この領内では領主様肝煎の専用行商隊があるんです。ご存知でしょうか?」
「あー…屋台で聞きました。領内のみを回っているらしいですね」
「そうです。我々商業ギルドも同じような行商隊を持っていましてね。それを使って頂くと、あなたの商品がセーヴィルでも販売できるのですよ」
狐獣人はそう言いながら、両手を広げた。
「なるほど…」
誠は話に乗ったふりをしながら、狐獣人を注意深く見ていた。いちいちしぐさがオーバーなのが鼻につく。これがフレデリクの演説などの場面なら似合っている…いや、似合い過ぎているのだろうが、向かい側に座っている獣人は、どこか小物感が拭えない。
「面白そうですね」
あえて微笑みながら、誠はそう答えた。
「そうでしょう。ギルド間での取引は盛んですからね、大きさによって仲介料をいただくことになりますが、トオノ様の商品ですと、一袋銅貨一枚といったところでしょうか」
「銅貨一枚ですか…」
安いな、とは思う。それくらいなら、こちらも採算が取れる。しかし、誠の商売の基本は実家の喫茶店であり、対面販売だ。
利益を追求するのも良いだろうが、やはり客に美味しい物を届け、それを食べた時の笑顔が見たい。それだけだ。それに狐獣人の細い目を何とか見るが、瞳孔は小さいままだ。
人間の心理なら、興味がある物事に直面すると瞳孔は大きくなる。これが獣人に当てはまるのかは不明だが、商売のパートナーにはしたくないタイプだ。
誠は紅茶を一口飲み、カップを置いた。
「…この話は持ち帰って、後見人に相談させてもらいます」
そう言った途端、狐獣人の笑みはいやらしいものに変わった。
「おやおや。登録されているのは貴方でしょう?いちいち後見人の方に聞かなくても、よろしいんじゃないですか?」
「まぁ、いろいろあるんですよ」
溜息を吐きたくなるのを堪え、誠は笑みを浮かべ続ける。
「僕が下手を打つと、後見人の家にまで被害を及ぼす可能性がありますから。まあ、その後見人は私の好きにさせてくれますけど」
「なるほど」
「なので、すぐお返事ができるように、貴方のお名前を伺っても?受付で申せばすぐに対応してくれるんですよね?」
「ええ、もちろん。私はシャイニイと申します」
「シャイニイさんですね。それではまたこちらに伺います。少し時間が押しているもので」
誠はそのまま押し切ると、ゆったりと見えるように席を立った。出口まで見送ると言われたが、やんわりと断る。これ以上一緒に居ると、殴ってしまいそうになるからだ。
そのまま村の大門を出て、冒険者ギルドで受けた依頼のポイントまで移動すると、誠はおもむろに手を握り、一呼吸置いてから開いた。その手の中には、黄色く濁った小さな玉が転がった。
「…さーて。紅茶の中に入ってたのは、何だったのかね」
これは大事な証拠品だ。無くさないように、マジックバッグに入れた。
真っ当な職員なら、少々強引に話を持っていってもこちらの気分を害するような言い方はしないはずだし、紅茶に何か混入することもない。
それくらいは分かるが、誠は実家のカフェではキッチンとたまに入るフロア業務以外はノータッチなのだ。経営に関することは、殆ど分からない。一応屋台を出すにあたっての帳簿はつけているが、その程度だ。
けれど当初の予定通り、ゆるりと営業をするのなら問題は無かったはずだ。もしかすると、面倒臭い相手に目を付けられたのかもしれない。
「オニーチャン…いや、先にアレクセイに相談か」
こういうことに強そうなのは、お腹も真っ黒そうな黒豹だ。でも、やはり先に頼るのはパートナーだろう。誠は遠くに見えたオークの首に向けて風を飛ばしながら、忘れないうちにアレクセイに相談だと考えていた。
隣の村と言っていたのでもっと近いのかと思っていたが、どうやら魔獣の討伐のために遠回りをしていたそうだ。通常のルートだと、半日ほどで着くらしい。
本日は朝から寒さが厳しく、空もうっすらと曇っている。もしかしたら夜は雪が降るかも知れないなと、誠は空を見上げていた。
大門を抜けて領内に入ると、港街とは違い人通りは落ち着いていた。村長の家へ挨拶と報告に向かうアレクセイ達とは一旦別れ、誠は市場や屋台を冷やかすために早速移動した。時間になれば連絡鳥が飛んで来る手はずになっているので、それまでは自由時間だ。
店先に目新しい商品は並んでいないが、見て回るだけでも楽しい。じゃが芋が特産だと言うだけあって、青果店にはじゃが芋がたくさん並んでいた。見ているとポテトサラダやフライドポテトが食べたくなったので、いくつか購入した。
屋台の通りに移動すると、冒険者の姿がちらほらと見えた。この後で冒険者ギルドに行こうと決め、誠は屋台飯で昼食を摂ることにした。
スープの屋台では、具材に魚が入っているものがあったので、迷わず購入する。港街セーヴィルが隣にあるからだろうが、それにしては魚の傷みが少ないように思う。
屋台の店員に聞いてみたところ、領主であるレイナルドが領内のみを結ぶ専門の行商隊に、マジックバッグを貸し与えているそうだ。だからスルト領内では新鮮な魚がどこでも食べられるらしい。
あのバカ息子の教育は失敗だったが、統治能力は高いようだ。誠は密かにレイナルドを見直していた。
「…さて。まだ時間はありそうかな」
腹ごしらえを済ませた誠は、冒険者ギルドと商業ギルドに行くことにした。いい加減レベルを上げたいし、どの程度滞在するのか知らないが、店も出したい。
幸いこの村にも冒険者ギルドがあったので、真っ直ぐ掲示板に直行した。依頼は少ないかと思っていたが選べる余裕はあったので、一つ上のFランク用の依頼を剥がして受付カウンターに持って行く。
依頼は村外れのオークの討伐だったが、誠がソロだと言うと受付の女性職員は誠を止めた。どうやら新人ハンターが無茶をしていると思われたらしい。
「大丈夫ですよ。今、王都騎士団のアレクセイさんの班に身を寄せてまして、一緒に討伐もしてるんで」
アレクセイの名前を無断で借りたが、王都騎士団の名前はこの村でも有名なのだろう。職員は少し考えたようだが、誠にゴーサインを出した。
「それなら大丈夫…かな。でも、無理は禁物ですよ。危なくなったら、撤退してくださいね」
「もちろん。しっかり生きて戻ってきます」
職員に笑いかけると、仕方がないという表情をされながらも受理された冒険者カードを返された。誠はカードをバッグにしまうと、その足で商業ギルドに赴いた。
出店許可の申請だけだから手続きはすぐ済むと思っていたが、誠のカードを受け取った職員はカードを照会すると何かに気付いたようで「少々お待ちください」と言い残して席を立った。
何かしてしまったのだろうか。そう考えてみたが、誠は完全に白だ。いや、地球の調理法を用いているので、せめてオフホワイトくらいだろうか。それでも白は白だ。
暫く待っていると、先程の職員は狐獣人の職員を連れて戻って来た。どうやら上司らしく、誠はその獣人に奥の部屋を案内された。
「どうぞ、おかけになってください」
丁寧に言われたが、どこかその目が気に入らない。狐という括りでは誠とその職員は同じなのだが、誠は妖狐だ。狐の神使と相容れないのと同じく、狐獣人とも相性が悪いのかもしれない。
用心しながら椅子に座るとすぐに他の職員が入ってきて、テーブルの上に紅茶を置いて、無言のまま退室した。
「すみませんね、少しお話を聞きたかったのです」
「そうですか。何を聞きたいんですか?」
誠は顔には出さず、平然とした態度をあえて取っている。
面倒臭い。早く狩りに行きたい。考えているのは、それだけだった。
「トオノ様は、セーヴィルで屋台を出されていましたよね」
「はい」
「その…クッキーでしたか。それがかなり人気になってまして、向こうの商業ギルドに問い合わせが何件もきてるんですよ」
「へぇ…そりゃ、ありがたいことですね」
職員はゆっくりと紅茶を飲む。下手に出ているようだが、自己紹介をしないあたり、どうなのだろう。誠は前髪で隠れている眉を片方、ひくりと上げた。
「こちらの村でも出店をなさるようですが、どうでしょう。商品のいくつかを、向こうで販売されませんか?」
「へぇ…。でも俺は身一つですよ。どうやって?」
「それは簡単ですよ。この領内では領主様肝煎の専用行商隊があるんです。ご存知でしょうか?」
「あー…屋台で聞きました。領内のみを回っているらしいですね」
「そうです。我々商業ギルドも同じような行商隊を持っていましてね。それを使って頂くと、あなたの商品がセーヴィルでも販売できるのですよ」
狐獣人はそう言いながら、両手を広げた。
「なるほど…」
誠は話に乗ったふりをしながら、狐獣人を注意深く見ていた。いちいちしぐさがオーバーなのが鼻につく。これがフレデリクの演説などの場面なら似合っている…いや、似合い過ぎているのだろうが、向かい側に座っている獣人は、どこか小物感が拭えない。
「面白そうですね」
あえて微笑みながら、誠はそう答えた。
「そうでしょう。ギルド間での取引は盛んですからね、大きさによって仲介料をいただくことになりますが、トオノ様の商品ですと、一袋銅貨一枚といったところでしょうか」
「銅貨一枚ですか…」
安いな、とは思う。それくらいなら、こちらも採算が取れる。しかし、誠の商売の基本は実家の喫茶店であり、対面販売だ。
利益を追求するのも良いだろうが、やはり客に美味しい物を届け、それを食べた時の笑顔が見たい。それだけだ。それに狐獣人の細い目を何とか見るが、瞳孔は小さいままだ。
人間の心理なら、興味がある物事に直面すると瞳孔は大きくなる。これが獣人に当てはまるのかは不明だが、商売のパートナーにはしたくないタイプだ。
誠は紅茶を一口飲み、カップを置いた。
「…この話は持ち帰って、後見人に相談させてもらいます」
そう言った途端、狐獣人の笑みはいやらしいものに変わった。
「おやおや。登録されているのは貴方でしょう?いちいち後見人の方に聞かなくても、よろしいんじゃないですか?」
「まぁ、いろいろあるんですよ」
溜息を吐きたくなるのを堪え、誠は笑みを浮かべ続ける。
「僕が下手を打つと、後見人の家にまで被害を及ぼす可能性がありますから。まあ、その後見人は私の好きにさせてくれますけど」
「なるほど」
「なので、すぐお返事ができるように、貴方のお名前を伺っても?受付で申せばすぐに対応してくれるんですよね?」
「ええ、もちろん。私はシャイニイと申します」
「シャイニイさんですね。それではまたこちらに伺います。少し時間が押しているもので」
誠はそのまま押し切ると、ゆったりと見えるように席を立った。出口まで見送ると言われたが、やんわりと断る。これ以上一緒に居ると、殴ってしまいそうになるからだ。
そのまま村の大門を出て、冒険者ギルドで受けた依頼のポイントまで移動すると、誠はおもむろに手を握り、一呼吸置いてから開いた。その手の中には、黄色く濁った小さな玉が転がった。
「…さーて。紅茶の中に入ってたのは、何だったのかね」
これは大事な証拠品だ。無くさないように、マジックバッグに入れた。
真っ当な職員なら、少々強引に話を持っていってもこちらの気分を害するような言い方はしないはずだし、紅茶に何か混入することもない。
それくらいは分かるが、誠は実家のカフェではキッチンとたまに入るフロア業務以外はノータッチなのだ。経営に関することは、殆ど分からない。一応屋台を出すにあたっての帳簿はつけているが、その程度だ。
けれど当初の予定通り、ゆるりと営業をするのなら問題は無かったはずだ。もしかすると、面倒臭い相手に目を付けられたのかもしれない。
「オニーチャン…いや、先にアレクセイに相談か」
こういうことに強そうなのは、お腹も真っ黒そうな黒豹だ。でも、やはり先に頼るのはパートナーだろう。誠は遠くに見えたオークの首に向けて風を飛ばしながら、忘れないうちにアレクセイに相談だと考えていた。
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