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レモンの憂愁
07 ー 冬将軍と銀狼
しおりを挟む自分も狐の姿になろうかと言ったがアレクセイが背中に乗せたがったので、誠は大きな銀狼の背に揺られながら目的地に向かっていた。
月明かりが雪で反射され、いつもより幻想的な夜だ。
目の前には熊とコヨーテとゴールデンレトリーバーが一列になり、熊の上には鷹獣人が乗っている。それを一番後ろから見ていると、ここだけ童話の世界のようだ。
けれどそう思えていたのは移動中だけで、目的地に着く頃には魔獣の凍死体がゴロゴロとそこら中に転がっている現実に直面する。口を開けたまま牙が剥き出しになっているので、ある種の地獄絵図だ。
「…何匹居んの、これ」
アレクセイの背から降りた誠が思わず呟く。雪崩にでも遭遇したのか、手や足しか見えていないものもあった。
ある程度はオスカーの風魔法で雪を散らしたそうだが、それでも見渡す限りの雪だ。流石に全域となると、魔力が足りないらしい。
とっさのことだとは言え、アレクセイはどれだけ魔力を保有しているのだろう。だから魔力が漏れ出すと周りに雪が降るのかと誠が納得していると、あることに気が付いた。
「これってアレクセイが出した雪なんだから、アレクセイが消せないの?」
自分のケツは自分で拭く。これしかない。
けれど人型になったアレクセイは困ったように誠を見てきた。
「それならとっくに試したさ。けれど鏡の作用か魔法の作用か、全く効果が無かったよ」
「…マジか」
誠は絶望した。
これだけの雪だ。溶かすにしても辺り一面が水浸しになり、下手をすると小川くらいはできるかもしれない。水で流すのも同じだ。側溝があるわけではないので、事態が悪化するだけだ。
「こうなりゃ…」
「こうなりゃ?」
人型になったレビ達が誠を見つめる。
「…地道にやるしかない…気がする」
しごく真面目な表情を作った誠がそう言うと、レビ達の目は半目になってしまった。
誠とて他に案があったり力があれば、とっくにそうしている。けれど除雪作業は思ったよりも大変なのだ。
こういう時に諏訪が居れば雪なぞすぐに消せるのだが、それは無いものねだりだ。
「俺が雪を風で飛ばすから、その間に回収お願いしても良い?」
「…そうだな。この雪の量だ。溶かすよりもそちらの方が良いかもしれんな。足場を確保できれば、回収作業も早く終わるだろう」
アレクセイが頷くと、レビ達はそれに追随した。
誠はバッグから鉄扇を取り出すと、思い切り振り上げた。強い風が起こり、雪の塊がかなり巻き上げられる。レビ達はその隙にまだ体半分が雪に埋まっている魔獣を引っ張り出し、せっせと巾着しまっていった。
その作業を何十回繰り返しただろう。夜空の色が薄くなる頃に、やっと終わりが見えてきた。
「これで…最後!」
誠は力を振り絞ると、残りの一角の雪を舞い上げる。疲れで無言になっているレビ達は魔獣を何体も引っ張り出すと、先に作業を終わらせていたドナルドが素早く巾着に魔獣をしまった。
「…終わったー!」
それを見届けたレビが、その場で大の字になる。少し踏みしめられているが、まだふかふかの雪だ。疲れて熱った体には心地良いだろう。
しかし、レビは忘れていた。まだ誠が舞上げた雪は、地上に降りてきていないのだ。
「レビ!」
それに気付いたルイージが声をかけるが、少し遅い。レビは落下してきた雪の塊に埋もれてしまった。
「レビ…良い奴だったのに…」
「何バカなこと言ってるんですか!ほら、オスカーさんも手を貸してください!」
真っ先に避難していたオスカーがそう呟くが、即座にルイージに叱られていた。
やっとのことで邸に戻ると、空の色はすっかり水色に変わっていた。誰もが先に魔獣の確認をしなければならないことを理解しているのだが、どうしても足は食堂に向かってしまう。
アレクセイはそんなレビ達を黙認しつつ、誠に朝食作りを頼んでいた。
「まあ、腹が減っては戦ができぬって言うし。ご飯できるまで、先に風呂でも入ってきたら?」
洗浄魔法で団服を綺麗にしているとはいえ、体は冷えているはずだ。体を鍛えているから風邪はひかないかもしれないが、少しはゆっくりして欲しいものだ。
誠がそう提案すると、レビ達はノロノロと移動し始めた。
「アレクセイも先に風呂入ってきたら?」
「いや、俺は君の手伝いがあるからな」
「…分かった。じゃあ、手伝ってもらおうかな」
「ああ。喜んで」
アレクセイはふわりと笑うと、誠と一緒に厨房に向かった。こうして少しでも自分との時間を作ってくれようとしてくれることが嬉しい。アレクセイは誠と手を繋げたことが嬉しいようで尾を緩やかに降っているが、それは誠も同じだった。
「さて…」
とは言え、体を温めて欲しいのはアレクセイもだ。調理を始める前に、誠はミルクパンを取り出して水を温めた。
作るのは蜂蜜レモン。すぐに体が温まるし、レモンも蜂蜜も体に良いのだ。だがビタミンCは六十度以上になると壊れてしまうと聞いたことがあるので、沸騰する前にミルクパンを火から下ろした。
「先にそれ飲んで」
「ありがとう。レモンと蜂蜜か。確かゼリーでもその組み合わせがあったと思うが」
「よく覚えてたな。その組み合わせって相性が良いんだよ」
アレクセイが飲み干すのを確認してから、一緒に朝食を作り始めた。
疲れも溜まっているだろうから、今朝は甘いメニューにする。久しぶりにパンケーキでも良いだろう。
そうと決まれば、生地を混ぜるのはアレクセイにお任せだ。サイドメニューももちろん作るが、蜂蜜とバターのパンケーキだけではなく、甘くないパンケーキも作ることにした。ベーコンとアスパラ、そして目玉焼きを乗せれば見栄えも良いし飽きないだろう。
甘い匂いにつられたようにレビ達はぞろぞろと食堂に入ってきたが、食べ終わる頃になるとこの後に控えている魔獣の選別作業のことが頭をチラチラと過ったらしく、「椅子に根が張った」「立ち上がりたくない」とぼやいていた。
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