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俺から見た君は
うまくいかない
しおりを挟むその日は雨が降っていた。
夏樹にまた明日と伝えて、帰路を歩く。
時々、雷が鳴って、俺は小走りでいつもの帰り道を駆けた。
ふと、何気なく傘の間から見上げた近所の公園。
雨の中、傘も刺さずにブランコに座る銀髪の長身の男。
それが誰か、遠くからでも分かった。
「スナ‥?」
「‥」
俺が呼んだ声に気づいたのか、こちらにゆっくりと視線を向けるスナ。どこか目が虚だ。
雷がゴロゴロと鳴っている。
雨の量も増えた。異常だ。俺はスナのいる方に足を進める。
「‥どうしたんだよ」
「‥早川」
何も写してないような真っ暗な目。俺の名をつぶやくスナに不安になる。
「スナ‥?」
「‥なぁ‥お前はどうしたら戻ってくんの?」
「え?」
雨が強くなる。微かに聞こえるスナの声は怒りと悲しみがこもったような、そんな声だった。
「ずっと上手くいってただろ。なのになんで‥」
俺を責めるような口調は弱々しくて、今にも泣き出しそうだ。なにがあった?そうだ、八谷は?
こういう時、きっと八谷ならスナの心を助けてやれる。俺じゃなくて‥八谷なら
「‥大丈夫か?八谷は?今日もお前の家に行くって‥」
「夏樹が悪いんだよな‥夏樹さえ居なければこんなことにはなってないよな。あいつを潰せば戻るのか‥?」
俺はスナの言葉にゾッとする。潰すなんて正気じゃない。どうみても様子がおかしい。会話が成り立たない。
「は?!何言ってんだよ‥なんでそこで夏樹がでてくんだよ。」
「じゃあどうすればお前は戻ってくるんだよ!」
「ッ!?」
ガッと両肩を掴まれて、俺は傘を落とす。
こっちを見ているようで、その目は何も見ていない。
「誰も愛すなよ‥恋愛なんてしなくてもいいだろ‥」
「どうして‥お前にそんなこと決められなきゃいけないんだよ‥」
「そんなに恋愛ごっこがしたいなら‥俺を夏樹の代わりにすればいい」
ふいに首元を掴まれて、俺は焦る。スローモーションのようにゆっくり近づいてくるスナ。俺ははっと我に帰って、近づく口元を押さえてもがく。
「スナ‥?ッ、馬鹿!なにしようとしてっ、ぐっ、!?はなっせ、よッ‥」
強く胸を押すと、力なく俺からふらりと離れるスナ。雨で垂れた前髪でその表情は見えない。
「なんなんだよッ、意味わかんねえ!」
「‥」
「ッ~、何とか言えよ!?」
俺は怒りでどうにかなりそうで、傘を拾い、黙ったままのスナを置いて歩き出す。
もう知らない。俺の気持ちなんてスナは微塵も考えちゃいない。
スナの気分次第の言葉ひとつで、行動ひとつで、俺がどれだけ心を乱されるのかも。
途端、大きな雷が鳴って、俺はびくりとその場で立ち止まる。
ふと振り返ると、まだスナがいて。俺は何故かすごく胸騒ぎがした。
「ッ‥おい、スナ‥雨降ってるから‥帰れよ‥」
「‥」
「スナ」
「‥」
「くそっ、」
黙ったままのスナの元に戻って、俺はその手をひっぱって連れて帰る。放っておけなかった。そのままにしていたら、今にも消えてしまいそうだったから。
数分歩けば、見慣れた青い屋根の家に着いた。
握っていたはずの手が、今じゃ強く握り返されていて、俺はドキドキと高鳴る心臓を隠すように俯く。
「‥」
「スナ‥ついたよ‥俺、帰るから、離して」
「‥」
「スナ‥」
「‥」
返事がない。その代わりに、握る腕の力が強くなって、俺は情けなくも突き放せずに、ぐっと唇を噛み締める。
「ッ‥はぁ、分かったよ‥」
植木鉢の下。隠された鍵を拾って、ガチャリとドアを開ける。
中学の時はよくお邪魔してた。いつもご両親がいなくて、俺は初々しく緊張してたっけ。
俺は迷わずスナをリビングのソファーに座らせ、そのまま出て行こうと踵を返す。けれど叶わずにスナに力強く腕を掴まれた。
「‥なに‥」
「‥」
「スナッ、いい加減に」
「行くな‥」
「っ、」
「頼むからッ‥行かないで、くれ‥」
切な気な顔。声は消え入りそうに弱々しくて見ていられない。
俺はどうすることもできず、ただ俺の腕を握るスナの手を見つめて目を細めた。
「‥わかった。わかったから‥一度離して」
俯きながらこくりと頷くスナに俺はため息をつく。どうしたらいいのか分からなかった。ただ、俺の心は素直で、頼られているという気分になって馬鹿みたいにまた期待して浮かれている。まるで離れようとすればするほど、俺が苦しむようにできてるみたいだ。
「スナ‥」
何があったんだよ‥どうしてここまで弱ってんだよ‥。
お前は‥俺を拒絶したり、そばに居ろって言ったり‥何を考えてるのか分かんねえって‥。
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