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俺から見た君は
放っておけない
しおりを挟む洗面所からタオルを拝借する。
濡れた服を脱ぎたいけれど、人の家の物を着るわけにもいかず、俺は取り急ぎスナの頭をタオルで拭いてやる。
「‥早川‥」
「ん?」
「‥」
こうやって何度も俺を呼んでは黙るスナ。
なんなんだと、抗議してやりたいがそんなことを言える雰囲気じゃない。
「スナ、着替えるか風呂に入ってこいよ。風邪引くぞ」
「‥」
「スナ」
「‥一緒に入る‥」
「ッは、」
俺は顔が真っ赤になるのを感じて、すぐに顔を逸らす。
ダメだ。
絶対に入りたくないっ!無理だ。
虚な目が俺を見つめてきて、どきりと胸が高鳴る。やめろよ。頼むからこれ以上俺を振り回さないでくれ。
「ッ、」
ぎゅっと服の端を握られて、俺は眉を顰めた。
不安気な顔。スナが上目遣いで俺を見つめている。
俺の反応を確かめているようだ。
「わかっ、た‥」
壊れそうなスナの表情にしぶしぶ口を開く。
あぁ、俺は絶対に後悔する。
2人で浴室に入る。
服を脱ぐ音がやけに大きく響いて、緊張で冷や汗が出た。
熱くなる顔をじっと見つめられて、俺は居た堪れなくなる。
やはり、やめておけばよかったんだ。
「スナ‥服‥」
そう問いかけても返事がなくて、まるで脱がせと言わんばかり手を少し広げるスナ。
俺は仕方なくスナの服を脱がしていく。それを見つめるスナの視線に手が震えそうになって、
俺は平常心を保つためにぼーっと思考を止めて作業を進めた。
その先はよく覚えていない。
ただスナを洗い終えて、自分も軽く洗浄し、浴室を出て体を拭いてやる。
まるで、介護だな、なんて思いながら、服の場所を聞いて、適当なスウェットをスナに着せてから、俺の分も借りた。
何か食べ物を買ってこようと、家を出ようとしたらまた手を握りしめられて、俺は呆れてため息をつく。これは帰れないパターンだ。
仕方なく、キッチンにあったインスタントのラーメンを作り、また動かずに黙っているスナの口に少しずつ運んでやる。
スナが食べ終えた後、時間が経って伸び切った自分の分を食べた。
食器の片付けをして、洗濯をして、その間もスナは俺を監視するようについて回った。疲れないのかなと思いつつも、なんだか不安気なスナを安心させたくて好きにさせる。
やっと家事を終わらせて、今夜はどこで寝ようかと部屋を見渡した。
というか、まず親御さんは帰ってくるんじゃ?大丈夫なのだろうか。
家族写真が一枚もない。それどころか、全く生活感のない部屋。ソファと机、椅子。テレビと、ただそれだけのシンプルな構造で寂しさを感じた。
中学の時、何度かスナの家には来たことがあるけれど、一度も顔を合わせたことがない。
それどころか洗濯物や食器の数。人がいる気配が感じられなくて、どこか違和感を覚える。
「スナ、」
聞いてもいいのだろうか?
俺をじっと見つめているスナ。瞳の奥には感情が見えなくて、その危うい雰囲気に開いた口を閉じた。
いや、今はよそう‥。
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