【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ

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俺から見た君は

震える心の奥底に

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人間、キャパオーバーすると熱が出るのか、それとも昨日の雨が原因か。

また、夢を見た。


「ん、ごほっごほっ‥はぁ‥ここ、どこ、寒い‥」

真っ暗な部屋。体がだるくて動かない。喉が焼けるように痛くて、たぶん自分は風邪をひいたのだろうと頭の片隅で考えていた。

「早川、」

「っ、!」

熱の日に見る夢はやけにリアルだ。

白い肌に綺麗な銀髪が映えて、まるで物語に出てくる王子様みたいだ。長いまつ毛が揺れて、俺を捉えて離さない。

目の前。痛みに顔を歪めるような表情のスナに、罪悪感で胸が押しつぶされそうになった。

スナ。
‥ごめんな‥振り払ってごめん、

スナの頬に手を伸ばそうとして、俺は躊躇う。

ズキリと思い出すのは、カフェで八谷と並ぶスナの姿。スナが幸せならそれでいいはずなのに‥好きな人と結ばれて‥いっぱい笑って。

だけどっ、どうしても思ってしまった。少しでいいから、俺のこと思い出してって。忘れないでいてほしいって。俺はあの時、ガラスで隔てられた二人のことを見ながら馬鹿みたいなこと考えてたんだよ。

「っ、‥ごほっごほっ‥」

俺は苦しくて乾いた喉を抑える。

俺がちゃんと友達でいられたらよかったんだ。俺がスナのこと友達だって思えてたら、スナの幸せを一番に願えたのかな。

八谷とうまくいかないときはアドバイスして、2人を応援して。そしたら‥

『スナ‥俺、ずっと側に居るから‥』

俺の目の前でスナに抱きつく八谷の姿が頭に浮かんで、俺はぐっと顔を歪めた。

いいなぁ‥八谷は‥ほんとうに‥いい、な‥

ふと俺から視線を外すスナに嫌な予感がして、俺は咄嗟に手を伸ばす。

「スナ‥ッ、やだッ、行かないでッ‥!」

「っ、はやかわ、水を取りに行くだけだ‥喉、辛いんだろ?」

ぎゅっと握りしめたスナの服。俺はやってしまったと口を塞ぐ。

違う、こんな事、俺は思っちゃダメなのに‥。八谷の場所に俺が代わりにいられたらなんて‥ごめんっ。こんなこと思ってごめんっ。

スナ‥お願いだから‥俺のこと‥嫌いにならないで‥。

握った手に力が入る。全部ぶちまけてしまいたい。それができないのなら、いっそ消えてほしい‥この醜い思いも重すぎる愛も全部。

卒業式からずっと俺は縋ってた。
祈ってた。この想いを隠し通したら、スナの隣にずっといられるかもって。

スナとの宝物みたいな思い出だけ持ってたら、きっと大丈夫だって。

俺とスナだけの大切なーー。

「スナッ‥す、な‥ごほっ」

本当に好きなんだ‥言葉にならないぐらいに。世界の誰よりも大好きだ。

だからこそ、耐えられなかった。



『早川何見てんのー!スナとの写真?あ!ここ昔行ったことあるよな!小学校の時だっけ?』

『え‥?』

高校に入学してすぐ、八谷が告げた一言に俺の心はざわりと揺れた。

『あぁ、そうだな。お前は転んで大泣きしてた。』

『なっ、変なとこ覚えてんなよ‥もう‥でも泣く俺をスナがおんぶして家に連れ帰ってくれたよな‥ほんと昔から不器用だけど‥優しくて‥って、俺恥ずかしっ!なしなし!今のは忘れろよー!』

『ぷっ、はは‥お前は昔から変わらないな‥』

『っ、』

ぐしゃりと八谷の頭を撫でるスナ。
2人に気づかれないよう俺は写真を握りしめる。

俺が入れない空間。俺がいなかった時間が2人にはあった。

その時気づいたんだ。
この大切な思い出すらも全部、紛い物だったんだって。

キラキラしてた俺の宝物は、時間が経つと錆びて消えていくただの石っころでーー。

その現実を思い知った時、隠していた俺の心もバラバラに砕け散った。平気だった、我慢できていた事が抑えられなくなる。
嫉妬ばかりしてうまく笑えなくなった醜い自分。自信がなくなって人と比べては惨めになって、そんな自分がいつしか大嫌いになった。

ーー、

「、早川、俺はどこにも行かないから‥」

掠れた声で何度もスナの名前を呼んでいると、安心させるようにぎゅっと抱きしめられた。俺は心が満たされるのを感じて、でもそれと同時に押し寄せる疑念と絶望感が俺を支配していく。

「ッ‥ほんとに‥?」

「あぁ、ずっと一緒だ」

あぁ、嬉しい‥嬉しいけど‥

「‥スナは嘘つき‥だね‥」

「っ、」

今日はあの日の記憶が鮮明に蘇る。
笑い合う2人の姿が浮かんで、俺は存在は透明になって消えちゃうんだ。

特別じゃないって‥分かってる。
スナは優しいから、弱ってる俺にこうしてくれてるだけだ‥。

「ずっと‥側に‥いたかった‥のに‥」

声が震える。

「いればいいだろ‥」

「っ、はは‥夢の中でも‥残酷な事‥言うんだ‥せめて、幸せな夢が見たいよ‥」

俺はスナの首筋に顔を埋める。溢れる涙は止まることを知らなくて、俺はそのまま声を殺して泣いた。

「‥っ、泣いてんのかっ‥?早川、こっち向けっ‥!」

俺はぎゅっと力を込めて首を振る。夢の中でも見られたくない。こんな醜い姿。

「っ、早川、頼むから‥お前に否定されたら俺っ、どうすればいいのかわかんなくなるんだ‥」

「、ス、ナ‥?」

震えるスナの体。弱々しく声が耳元で響いて、俺は心配になってそっと顔を上げる。

「っ、」

薄い黒の目が俺を情けなく見つめている。まるで、助けを求めているのに言葉が見つからない子供のようだ。

「ゴホッ‥なんで‥そんなに震えてるの‥どうしてそんなに辛そうな顔をしているの。」

俺はそっとスナの頭を抱きしめる。安心させるように、何度も綺麗な銀の髪を撫でた。
壊れものを扱うように背中から腰に移動したスナの腕の力が強くなっていく。

大丈夫、大丈夫だよスナーー。

「っ、分かんねえっ‥俺‥、俺は‥ほんとは空っぽで‥何もない、から‥こういう時は、どうすればいい‥?なぁ、早川っ、俺どうすれば‥ッ」

頭を撫でる俺の腕を掴み、縋るように俺を見上げるスナ。
俺はそんなスナの頬を両手で包み込む。

「大丈夫だよスナ‥大丈夫。そのままのスナで、いいんだ。‥スナのやりたいことをすればいい。スナの好きなことをして‥スナが笑えるならそれで‥」

「っ、」

いいんだよーー。

俺は‥どんなスナも‥

大好きだから

最後にまたぎゅっと抱きしめて、震えるスナの背中を優しく撫でてやる。
俺はそう心の中で呟いて、力尽きたようにそのままガクリと倒れ込んだ。力のない俺を強く抱きとめるスナ。その体温が心地いい。

明日になれば、ちゃんと忘れるように努力するから。この夢の中だけはまだスナの体温をを感じていたいーー。


「っ、はや、かわ‥?眠ったのか‥?‥なぁ、お前はこのままで、本当にいいのか‥?分かんねえよっ、お前はどんどん離れていくじゃねえかッ‥。

なぁ‥早川‥


なんで‥俺の側にいてくれねえの‥?」


意識を手放す瞬間、首筋を掠めた熱い痛みに、思わず声が漏れそうになって、その冷たい痛みを感じながら、俺は深い暗闇の中へと沈んでいった。

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