【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ

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俺から見たお前

拒絶

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┈┈┈

早川が、俺以外の奴とキスをした。

気づけば近くの窓が割れていて、血だらけの腕を見て、”あぁ俺が割ったのか”と頭の片隅の冷静な自分がそう呟く。

周りの目なんてもうどうでもよかった。

感じたことのないような、ドス黒い感情が胸を渦巻いて支配する。
吐き気がして、同時にその光景がすごく気持ちの悪いものに感じた。俺は教室から逃げるように立ち去る。

ふと横切った拍子に早川と目が合った。心配そうに俺を見つめるその視線に、感情のまま「気持ち悪い」と吐き捨ててしまう。

俺の言葉に、早川はひどく傷ついた顔をした。

俺は胸の奥がさらに強く締め付けられる感覚がして、罪悪感で顔を顰める。それでもそれを押しのけるほどに”どうしてという怒りが込み上げてきて、それ以上早川を見ることなく教室を飛び出した。

その次の日、俺は初めて学校を休んだ。
理解不能な気持ち悪さに襲われて仕方なかった。何度も何度も夏樹と早川が脳裏に浮かんで、眠れない。苛立ちでどうにかなりそうになる。


「俺への当てつけかっ?」

「‥」

学校から連絡がいったのか、昼間父が久しぶりに帰ってきて、そんなことを言う。

俺は今はそれどころじゃなくて、無表情でただ父を睨んだ。

「っ‥なんだその目はっ!どうしてそんな風に育ったんだ‥はぁ、お祖父様も孫の顔が見たいとかなんだか無理やり結婚させたくせに、結局すぐ‥。なんのためにこいつを作ったと思ってるんだっ!くそっ、もう迷惑をかけるなッ頼むからこれ以上俺と家族の幸せの邪魔をしないでくれっ」

そう怒鳴って帰っていく父の背中を俺はぼーっと眺める。

父から初めて教えてもらった。

家族‥そうか、俺に家族はいないのかーー。

俺には初めから何もなかったんだ。

望まれず、作られた理由も無くなって、俺はただの邪魔なだけの存在だったんだな。

そう理解すると同時に消えてしまいたい衝動に駆られる。

なんだかもう全てがどうでもいい。

”空っぽだ

心が無いみたいだ

苦しさと乾いた笑みが溢れてきて、どうしようもない虚無感に襲われた。

こんな時、早川なら俺を‥

思い浮かぶのは、不思議と早川の笑顔だった。

俺はまたひとりになって無意識にスマホで本を読む。ただ無心にこの感情の答えを探したかった。

”人間の気持ちは日々変わるーー。

ふと一つのページの一文に手が止まる。俺はスマホを握りしめた。
もしかしたら早川も、そうなのだろうか?

だったらどうしてっ、

変わるきっかけは様々。

仲違い。

ストレス

”恋愛

「恋愛‥」

ここ最近、鈴鹿が馬鹿みたいなことを周りに言いふらしていた。

”早川の片思いの相手が夏樹で、この前のことをきっかけに結ばれたらしい。

そんなの嘘に決まってる。だって早川は恋愛なんかよりも、俺を一番に考えてる。俺を一番に大事にするやつだから。

教室で、夏樹が早川にキスをする。

ありえない‥。

”好きな人を宝物のように扱いなさい。好きな人を第一に優先しなさいーーー。

優先順位が、変わったのか‥?

恋をしたから?

夏樹のせいでーー。




俺はもう、早川の一番じゃないのか?


目の前が真っ暗になる。それからの事はあまり覚えていない。

気がつくとインターホンが鳴る音がして、俺はB級ホラー映画のゾンビのようにゆっくりと体を起こす。



「ハチ‥どうした?」

その日の夜、ハチが訪ねてきた。

「えっと‥スナが心配で‥」

「‥またハチの母さんに言われたのか?もう俺はでけえし大丈夫だって伝えて」

小学生の頃は、ハチはよく母親から言われて、俺に作り置きのおかずを持ってきてくれた。
今回もその類かと俺は断りを入れてドアを閉めようとする。

「違っ、母さんは関係ないよ‥俺が心配だったんだっ」

「‥、」

閉めようとしたドアの間に手を挟み、その勢いのままドアを開けて俺に擦り寄るハチ。その距離感に俺は困惑する。

また、冗談やふざけているのだろうか?
こんなにも人に寄り添うような奴だったか?


「なぁ、スナ、俺になんでも話して?しんどいことも、全部俺が受け止めるから!」

「、‥ハチ、俺は本当に大丈夫だ。ありがとな。ちょっと体調が悪かっただけだ」

俺はどこか焦ったような顔をするハチを落ち着かせるために、ハチの頭を撫でながらそう告げる。

俺の腰へ回る腕の力が強くなって、ハチの心臓の音がやけに大きく聞こえてきた。

慣れないからか居心地が悪い。ハチは昔から人とよく絡んでいたけれど、その反面八方美人でもあり、好意を分散させるように他人と一定の距離を置く癖があった。

だからこんなハチは知らない。

心が落ち着かない。

ハチは嫌じゃないのだろうか。

「ゔう‥‥なら、いいけど‥あ!そうだ、俺看病してやるよ!」

「‥あぁ」

そう言うハチに俺は一瞬眉を顰める。今は‥ひとりで少し考えたい。
だけど、ハチが望むなら‥そうしないと‥

だって、ハチは俺の好きな人だからーー。

俺は笑顔でハチを迎え入れた。



「スナ‥もう3日間も休んでるけど、‥本当に大丈夫なのか?」

「あぁ‥ごめん、まだちょっと体調が悪くて」

次の日も、また次の日もハチは俺の家に来て、世話を焼いた。

昨日は着替えまで持ってきては、一緒のベッドで眠ると言い張って、俺はさらに困惑する。

人と寝るのは苦手だ。相手の寝息や体温の熱さが気になってしまって眠ることができないから。

ここ2日間、ろくに眠れていない。


「嘘‥スナ‥どうして何も言ってくれないの‥本当はなにかあるんだろっ、」

「ハチ‥俺は‥」

俺の服を握りしめて、俯くハチ。

俺だってお前が望むなら話すつもりだ。

だけど、

もし、言葉にすることを知らなかったら?できなかったら?

分からないんだ。教えてもらわなかったから、どうすればいいか何も知らない。

昔から一緒だったお前なら‥分かってくれるだろうか?

俺のこの渇きも、理解不能な胸の苦しみも。

「スナ‥おかしいよ‥いつもみたいに笑わねえし‥俺のこと見てる時も虚な目で違うところ見てるみてえ‥。なんか‥スナじゃない別人みたいで怖いんだ‥」

ポロポロと涙が床に落ちて、それを俺は感情の無い目でただ呆然と眺めていることに気づいた。

あれ、俺今、

「っ、ごめんハチ‥ほんとっ調子悪りぃだけだから‥」

すぐさま、本の内容を思い出し、ハチの頭を撫でようと手を伸ばす。
まずい、演技が完璧じゃなかった。こんなこと一度も無かったのに、

「俺のこと信用できないんだなっ‥」

「なに言って‥っ、」

顔を上げたハチが、パチンと涙目で俺の手を振り払う。

俺は訳がわからなくて固まった。

ハチが怒って出て行くのが分かる。何故。何がいけなかった?

本の通りに演じるのが甘かったから?
だけど、昔から俺はこんな感じだったろ?
お前なら、分かってくれるって‥理解してくれるって‥そう思って気が緩んで‥、

なんだ‥それすらも許されないのか。

尊重した。一番に優先した。そしたら満たされんじゃなかったのかよ。じいさんの嘘つき‥。


「どいつもこいつも‥意味わかんねえ‥」

あぁ、気持ち悪りぃ。
俺が何に悩んでいるのか教えてくれって?伝えたくても表現すらできない気持ちなら?
初めての事でどう伝えたらいいかも分からなかったら?

食い物の食い方

人との話し方

学校の通い方

お金の使い方

恋愛の仕方


誰に聞けばいいかも分からずに、本から全て学んだんだんだ。

本の「正解」に従えば、間違わないで済むと思っていた。

だから、そこに無いことなんてわかんねえんだよ‥

俺は空っぽだーー。

あぁ


消えてえな
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