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俺から見たお前
雨の日
しおりを挟むふと窓の外を見ると雨が降っていた。
俺はそのまま傘もささずに外にフラリと飛び出す。
馴染みのある公園。幼い頃よく1人でブランコに乗って遊んでたっけ。
″人はひとりでは生きていけない。
本にはそう書かれていたけど、
もし本当にひとりになってしまったら、どうすればいいのだろう。
『スナ』
もう気持ちは変わらないのだろうか。
なんで、夏樹を好きになったのだろう。
いつから?
恋愛なんてしなくていいじゃないか。
また思い浮かぶのは早川のことばかり。
どうせ皆んな文句ばかりで最後は愛なんてどうでもよくなるんだから。
無駄な時間だ。すぐに冷めて早川はまた俺のところに戻ってくる。
だけど、
このブランコから何度も眺めた幸せそうな親子。映画で見た老夫婦。
もし‥そんな風にこの先一生ふたりが想い合っていたとしたら?
『スナーー。』
もうあの穏やかな目の中に、俺は映らないのか‥?
雨がひどくなって、激しい雷が鳴り響いた。濡れたシャツが張り付いて、体温が急激に下がる。
早川と登った崖の上で感じた、あの妙な気分に飲み込まれていく。
あぁ‥なんだか‥もうさ
このまま消えてしまえたら
楽なのかな
「スナ‥?」
前方から微かにする聴き慣れた声。
幻聴だろうか
早川の声がする方へゆっくりと視線を向ける。
肩につかない程度の猫っ毛の黒髪。少し垂れ目な穏やかな瞳が揺れる。
近づいてくる早川を、俺はただぼんやりと眺めていた。
「‥どうしたんだよ」
不安そうな顔。お節介な性格だから、きっと雨の中ひとりでこんなところにいる俺を心配しているのだろう。
最後に会った時、すごく傷ついたって顔をしてた‥。
そうだ。酷いことを‥俺は言ったのに‥
謝らないとーー。
そう思うのに、俺の口から零れたのは謝罪とは程遠い言葉だった。
「‥なぁ‥お前はどうしたら戻ってくんの?」
「え?」
「ずっと上手くいってただろ。なのになんで‥」
俺じゃない、別の誰かを好きになってんだよ
目の奥が初めて熱を帯びるのを感じる。
ーーちがう。俺は、こんなことを言いたいんじゃない。
俺は早川に謝らないといけないんだ。
コントロールができない。
こんなこと、初めてで分からない
なんだこれ、どうすれば止まるんだよ‥
「‥大丈夫か?八谷は?今日もお前の家に行くって‥」
優しい声。俺は今すぐその体に縋りたくなって、グッと拳を握りしめる。
ダメだ、やめろ。これ以上惨めな姿を晒すな。
もう早川を傷つけたくない
止まれ、止まれよっ、
「夏樹が悪いんだよな‥夏樹さえ居なければこんなことにはなってないよな。あいつを潰せば戻るのか‥?」
「は?!何言ってんだよ‥なんでそこで夏樹がでてくんだよ。」
「じゃあどうすればお前は戻ってくるんだよ!」
「ッ!?」
制止の声も届かず感情にまかせて強く早川の両肩を掴む。
傘が落ちる音がして、怯えた顔の早川が俺をその目に映した。
「誰も愛すなよ‥恋愛なんてしなくてもいいだろ‥」
あぁ、今こいつの目の中、俺だけしかいねえや‥このまま‥ずっと
「どうして‥お前にそんなこと決められなきゃいけないんだよ‥」
弱々しくも俺にそう強く告げる早川に、俺とは違う考えなのだと思い知らされて、俺は歯を噛み締める。
恋愛が、そんなに大事かよ
「そんなに恋愛ごっこがしたいなら‥俺を夏樹の代わりにすればいい」
2人のキスシーンがまた頭をよぎり、俺は腹が煮え繰り返りそうになった。
早川の胸ぐらを掴み上げて、その口に噛みついてやろうかと近づくと、早川がもがいて抵抗する。
なんでっ、
「スナ‥?ッ、馬鹿!なにしようとしてっ、ぐっ、!?はなっせ、よッ‥」
強く胸を押されて、ふらりと離れた俺は俯いた。
「なんなんだよッ、意味わかんねえ!」
もう‥どうでもいい‥
お前がいなくなるならもう‥
「‥」
「ッ~、何とか言えよ!?」
歩き出した早川の足元が視界から消えて、俺は目を閉じる。
どうして‥俺じゃないんだよ
どうして俺はこんなにダメなやつなんだ
どうして‥
俺なんか生まれてきたんだよーー。
早川、俺、空っぽなんだ
分からないんだ‥
早川、
行かないでーー。
「ッ‥おい、スナ‥雨降ってるから‥帰れよ‥」
「‥」
「スナ」
「‥」
「くそっ、」
戻ってきた早川が俺の手を握った気がした。
俺は虚な目でそれを見つめる。
あたたかい‥
俺はその手を離さぬように、強くぎゅっと握りしめた。
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