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第1章 始まりの街『グリィト』
第32話 皆で魔草採取!
しおりを挟む――二日後の朝。
わたしは一昨日襲撃を受けた宿で目を覚ました。
「ふわぁ~、いい朝だね~!」
チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえる。
今日も快眠だ。
ちなみに、あれから襲撃者の音沙汰はない。
夜間はモッフィに聖属性のバリア魔法を張ってもらって、万全の守りを徹底しているから、わたしの襲撃は諦めたのかも?
「起きたか、アイリよ」
わたしのベッドの横から、小動物サイズのモッフィがぴょんと乗っかってくる。
「モッフィおはよう」
「今日はあやつらと草むしりに行くのであろう」
「うん! 今から用意して冒険者ギルドに行って、ベルドさんたちと魔草採取に行くよ!」
モッフィは乗り気じゃなさそうだけど、わたしは魔草集めにワクワクしていた。
あの洞窟の奥にはまだまだ魔草が生えているし、それにそれらを売ったらガッポガッポ稼げちゃうかもだしね……ぐっふっふ。
黒い笑みを浮かべながら、わたしは漆黒のサングラスを装着する。
そして、簡単に支度を済ませて宿の一室を後にするのだった。
■ ■ ■
冒険者ギルドに行くと、お目当ての三人が酒場の席に腰かけていた。
わたしと目が合うと、にこりと笑ってくれる。
「お、来たかアイリ!」
「意外と早かったな」
「アイリちゃーん! こっちこっちー!」
冒険者パーティの、ベルドさん、マーレスさん、ジェシーさんの三人だ。
わたしは小走りで三人が座るテーブル席へ向かう。
「こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそ」
ぺこりと頭を下げて挨拶をするわたしに、ベルドさんが笑顔で応えた。
「それで、今日はアイリが見つけた魔草の群生地に着いていけば良いんだったか?」
「はい!」
「魔草の群生地とか、私見たことないわ。どんなところなのか楽しみね!」
「まさかグリィトの森にそんな場所があったとは」
そして、冒険者三人が立ち上がる。
代表して、ベルドさんが聞いてきた。
「それでアイリ、その魔草の群生地っていうのは、どこら辺にあったんだ?」
ベルドさんの質問に、わたしは笑顔で答えた。
「グリィトの街の外にある森……その山のてっぺん辺りです!」
■ ■ ■
ベルドさん、マーレスさん、ジェシーさんの三人が、バタリと倒れるように地面に膝をついた。
「はあ、はあ……こ、ここが、山のてっぺん、か――ッ!?」
「ぐっ、はあ……とてつもない、移動だった……!」
「ぜえ、ぜえ……ア、アイリちゃんって、いつもこんな体験をしてるの……!?」
ここは山のてっぺん。
見晴らしのいい景色の傍らには、大きくなったモッフィが凛々しい表情を浮かべて四本の足で立っていた。
わたしはモッフィの背中に乗ったまま、早々にグロッキー状態になっている冒険者たちに苦笑した。
「す、すみません、わたしもこのモッフィの爆速移動には全然慣れないです……。ただ、山のてっぺんに素早く向かうにはこの方法しかなくて……」
「フンッ! これしきで根を上げるとは、お主らもまだまだ精進が足りんのぅ!」
モッフィは肩で息をするわたしたちを未熟者を見る目で見下ろした。
大きくなったモッフィの背中に乗って山の頂上まで連れていってもらうと、わたしも毎回こうなってしまう。
ジェットコースターのような爆速移動は、神獣であるモッフィにとったら何てことないかもしれないけど、ただの人間であるわたしたちにとったら超迫力の衝撃体験だ。
たとえモッフィの背中に跨がっていて、モッフィの魔力で絶対に落下しないように固定されていたとしても、である。
「だが、おかげでこれだけ早く山の頂上まで着くことはできた」
ベルドさんが呼吸を整え、立ち上がった。
それを皮切りに、ジェシーさんとマーレスさんも弱々しい足腰ながら立ち上がって見せる。
「そ、そうね。普通に徒歩で向かってたら、何時間かかるか分からない距離だし……!」
「こんな所、普段は誰も立ち入らない、からな……」
さすがベテランの冒険者パーティ。
多少息を乱してはいるものの、もう回復しつつある。
「それで、アイリ。魔草の群生地ってのは、どこにあるんだ?」
「えっと、たしかこっちの方に」
わたしはモッフィの背中に乗りながら、指をさした。
モッフィがわたしの指先の指示に従ってのっそのっそと歩いてくれる。
ベルドさんたちは徒歩でわたしたちの後を着いてきた。
そうしてしばらく歩いていると、少し開けた場所に出る。
「あ、ここは薬草を採った場所だね。となると、たしかあの辺りで擬態イタチに襲われたはずで……あ、見つけた!」
とある茂みの一角に、無理やり押し退けたような不自然な空間があった。
あれは、わたしが擬態イタチに拐われた時の跡だ。
それが獣道のように残っている。
これを辿れば、例の谷底にある洞窟の場所まで辿り着けるはずだ。
「この獣道の先を進んでいきましょう! ちょっと足場は悪そうなんで、気をつけてください」
「お、おお。分かった」
「先日のアイリは、こんな所を進んで行ったのか……?」
「だ、だいぶ人が進むには難しそうな場所だけど……」
やや困惑しながらも、ベルドさんたちは着いてきてくれた。
すみません、こんな厄介なルートを通らせてしまって。
草木をかき分け進んでいくと、崖のように反り立つ斜面に着いた。
下を覗いてみると、薄暗い地の底が見える。
「この真下にある洞窟が、目当ての場所です! 人の足で降りるのは危ないので、皆さんモッフィの背に乗ってしがみついてください!」
「わ、分かった」
ベルドさんたちが恐る恐るモッフィの背中に乗り、がしりと白銀の毛並みを握った。
わたしもぎゅっとモッフィに全身でしがみつき、合図を飛ばす。
「モッフィ、頼んだ!」
「ふむ、しょうがないのう!」
モッフィは軽々とジャンプすると、そのまま底まで真っ逆さまに落ちていく。
やがて、ドスン! と鈍い音を立てて着地。
「つ、着いた、みたいね……?」
「はい! 皆さん、お疲れさまでした! モッフィもありがとね!」
わたしはベルドさんたちと一緒にモッフィの背中から降りる。
そして、皆を先導するように歩き、洞窟の入口まで案内した。
「ここが、アイリが見つけた洞窟か……!」
「こんな所に洞窟があったとはな」
「いや、こんな場所知ってなきゃ辿り着くのなんてムリよ」
そうだよね。
わたしもこの洞窟を見つけたのは完全に偶然だし。
「では、早速入っていきましょう! 中には魔物がいるかもしれないので、気をつけてください」
「ああ、任せろ」
ベルドさんたちが、各々の武器を構えた。
さすがベテラン冒険者というだけあって、様になっている。
わたしはモッフィにくっついて洞窟をぐんぐん進んで行く。
特に魔物の姿が見えることもなく、簡単に洞窟最奥のエリアに辿り着いた。
一気に視界が広がり、お花畑や植物たちが目に飛び込んでくる。
「ついた~!」
わたしが元気に言うと、ベルドさんたちも少し武器を下げてお花畑を呆然と眺めていた。
「こ、これはすごいな。本当に花や植物が生えている!」
「ここにある草花、全部が魔草なのか?」
「ちょっと待って!? あの花畑の花……もしかしてマジカルフラワーじゃない!?」
おっ、ジェシーさん鋭いね。
「ジェシーさん、マジカルフラワーを知ってるんですか?」
「もちろんよ! ポーションとかによく使われる魔草だし、他にも多くの魔道具の素材に用いられるわ! 錬金術の素材としても重宝されている、万能魔草よ!」
おお、さすがの知識量だ。
魔法使いという職なだけはある。
「どうやら魔物もいないみたいなので、魔草採取に移りましょうか! あ、このお花畑は安全なんですけど、洞窟の壁際に生えている魔草は毒を持っているものもあるみたいなので、注意してください!」
「ああ、分かった。俺たちも冒険者の端くれだ。薬草採取は何度もしてきたし、魔草の採取クエストの受注経験もある。多少は目利きが利くと思うから、安心してくれ」
さすがベルドさんは頼もしいね。
ただ、ジェシーさんの様子がおかしかった。
「ふおぉぉ、マジカルフラワーだけじゃなくて、あっちにもこっちにも色んな種類の魔草がいっぱい……! こ、これ全部売ったらいったいどれだけの大金を稼げるのか……こうしちゃいられないわ! ベルド! マーレス! アンタたち、死ぬ気で魔草を採取しまくりなさい!!」
そう檄を飛ばし、ジェシーさんはお花畑にダイブした。
目をキラーンと輝かせて、一心不乱にマジカルフラワーの採取に乗り出している。
ベルドさんはそんなジェシーさんの後ろ姿を見て、苦笑する。
「ふっ、そうだな。せっかくアイリがこんな激レアスポットを教えてくれたんだ。俺たちもジェシーに加勢するぞ!」
「うむ。俺はあまり採取系のクエストは得意ではないのだが、こうも分かりやすく生えていてくれれば簡単に採取できる!」
「わたしもガンガン採っていきます!」
わたしたちもジェシーさんに続き、魔草採取に乗り出した。
「では、我は少し休むとしよう。終わったら起こすがいい」
モッフィは適当な場所で寝転がってうたた寝をし始めた。
ちょっとは手伝ってくれてもいいのに、このぐーたらフェンリルめーっ!
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