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第1章 始まりの街『グリィト』
第31話 約束
しおりを挟むモッフィにクロワッサンをねだられ、大量のパンを買わされた。
そうして朝御飯を済ませたわたしたちは、冒険者ギルドへ向かおうと歩いていた。
すると、街の通りの正面から三人組の冒険者がやって来た。
「よう、アイリじゃないか」
「ベルドさん!」
偶然前から歩いてきたのは、ベルドさんたちのパーティだった。
たたたっと駆け出し、近寄っていく。
すると、タンク役のマーレスさんが低い声で問いかけた。
「これからギルドに行くのか?」
「はい! 朝御飯も食べたので!」
「アイリちゃーん!!」
「わぷっ!」
ガバッ、とわたしをハグしてくる女性。
この人はベルドさんのパーティの女魔法使い、ジェシーさんだ。
ジェシーさんは、わたしと目を合わせて心配そうに眉を曲げた。
「昨日は一人で宿に泊まったみたいだけど、大丈夫だった!? 何か大変なこととかなかったかしら!?」
「えっ」
ジェシーさんが過保護なお母さんのような雰囲気で詰め寄ってきた。
宿で大変なこと、か……。
てへへ、暗殺者に襲撃されちゃいました~――なんて言ったら卒倒しそうだな。
わたしは苦笑いを浮かべながら当たり障りのない言葉を返す。
「は、はい! とてもぐっすり眠れましたよぉ?」
「本当!? もし何か困ったことがあったらいつでも私たちの家に泊まっていいんだからね!」
「ああ……ザレックさんの話次第では、今日からお邪魔させてもらうかも……」
「ん? 何か言った、アイリちゃん?」
「い、いえ! なんでもないデス!!」
わたしはややカタコトになりながら誤魔化す。
あれ、そう言えばベルドさんたちに言うことがあったような……あっ、そうだ!
わたしは昨日考えていたことを思い出し、リーダーのベルドさんに顔を向けた。
「ベルドさんたちに、少しお願いしたいことがあるんですけど……」
「お、なんだ? 俺たちにできることなら手助けするぞ」
わたしは脳内に、昨日訪れたお花畑があった洞窟を思い描く。
「実は昨日、『魔草』の群生地を見つけたんです。でも、かなり量が多くてわたし一人だととても摘み切れなさそうで……。良かったら、ベルドさんたちも一緒に魔草を採るの手伝ってくれませんか?」
「魔草の群生地!? そ、それ本当なのか!?」
「はい! それはもう、わんさか生えてましたよ!」
わたしは両手を広げて"わんさか感"を演出する。
「だから到底わたし一人じゃ摘みきれなさそうなので、ベルドさんたちにも着いてきて手伝ってもらえたらと思ったんです。あ、もちろん採取した魔草は折半で大丈夫なので!」
ベルドさんは少し申し訳なさそうな顔で言った。
「そうだな。魔草となるとかなり貴重な素材だし、群生地を見つけたんなら俺たちもその採取を手伝いたいところなんだが……生憎今日はこれから予定があってな」
「昨日、商人の護衛依頼を受けちゃって、隣の村まで今から向かうのよ」
「帰ってくるのは明日の夜になるだろう」
ベルドさんの言葉を、ジェシーさんとマーレスさんが捕捉して引き継ぐ。
だから、とベルドさんが続けた。
「明後日ならどうだ? それなら予定はつけられるだろうし」
「あ、それじゃあ明後日でお願いします! 朝に冒険者ギルドに行きますので!」
「ああ。分かった」
言葉を交わし、ベルドさんたちと別れた。
通りすぎていくベルドさんたちの背中を見送りながら、わたしはぽつりとこぼした。
「ベルドさんたちとの魔草採取は明後日になっちゃったし、これからどうしようか……」
うーむと考えるわたしに、モッフィが言う。
「金は手に入れたのであろう? ならば無理にクエストに励む必要もなかろう」
「そうだなぁ。まあ、暗殺者に襲撃されたばっかりだしね。今日は街の中をぶらぶらするか!」
グリィトの街はまだ隅々まで探索できていないから、ちょうどいいかも!
そう結論付け、わたしはモッフィと一緒に街中を散策する。
しばらく歩くと、街の中に怪しげなオーラを放つお店を見つけた。
探ってみると、どうやら魔道具店だった。
「魔道具店! 異世界定番のお店だけど、まだ入ったことなかったな。ちょっとお邪魔してみようか」
わたしは少し緊張しながら、店の扉を開ける。
店内は、意外と普通のお店だった。
雑貨屋さんのような形式で、色々な薬品やら素材やらアクセサリーやらが展示されている。
「へぇ~、すごく色々なものが売ってるんだなぁ! 見たことないものばっかで新鮮!」
「我はいまいちじゃのう。この店からは美味そうなものの匂いがせん」
モッフィは退屈そうにあくびをした。
いいんだよ。
今はわたしが異世界感に浸ってる時間なんだから。
「あら、アイリちゃん!」
不意に店の奥から声をかけられる。
振り向くと、そこには行商人のネモさんがいた。
「あ、ネモさん! こんな所で奇遇ですね!」
ネモさんは目の色を変えて接近してくる。
「ていうか、聞いたわよ! アイリちゃん、あのレイジグリズリーを討伐したんですって!? もうギルド中、大騒ぎだったわよ!」
「あはは、たまたまですよ」
ネモさんは感心するように頷いた。
「いや~、やっぱりアイリちゃんとモッフィのペアはスゴいのね。あ、そうだ! 昨日の薬草採取クエストのことだけど、もし余分な薬草があったらこの店で買い取ってあげるわよ。この店、私の身内が経営してる店の系列店だから」
「そうなんですか!? なら、お願いしようかな?」
「アイリちゃんなら、ギルドで売るより少しだけ色をつけちゃうわよ! さっ、レジ前に来て!」
そうして薬草と魔草の一部を売り、そこそこのお金をもらった。
一気に手持ちの魔草を解放しても良かったんだけど、あまりに大金が返ってきたら口座に入れにいかなきゃいけないし、今はとりわけお金に困ってるわけじゃないので少し魔草を温存しておく。
そうして薬草と魔草の買い取りをしてもらうと、ネモさんが思い出したように言った。
「あ、そうそう。アイリちゃんに会ったら言っておこうと思ってたんだけど」
「なんですか?」
改まって言うネモさんに、わたしは首を傾げる。
「実は、錬金都市――アルケシュっていう街で、激レアな巻物が入手されたって情報が入ってきたのよ!」
「えっ!」
激レアの巻物が!?
巻物があれば、わたしの魔眼の暴発を抑えられるかもしれない。
でもかなり高品質な巻物じゃないと魔眼の暴発に効果がないと踏んでたんだけど……まさかそれが見つかったの!?
「それ、どういう効果の巻物なんですか!?」
「あ、ごめんなさい。詳しい魔法効果まではよく分からないんだけど……でも、レアリティが高い珍しい巻物だっていうのは間違いないわよ」
「そうですか……!」
「それで、どうする? アルケシュに行ってみる?」
『幼女の知識』を使うと、アルケシュはここから北東方面に位置している。
もし王都を目指すなら遠回りなルートを選ぶことになるけど……行ってみる価値はあるか!
「ネモさん! わたし、そのアルケシュっていう街に行ってみます!」
「ほんと!? ならちょうど良かった!」
ん?
ちょうど良かった?
どういう意味か問う前に、ネモさんが懐から一枚の封書を取り出した。
「良かったら、この封書をアルケシュのリドロフって人に渡して来てくれないかな? そんなに急いで行かなくて大丈夫だし、リドロフって名前を言ったら向こうじゃ伝わると思うから!」
「えっ? えっ!?」
わたしは封書を渡され、混乱と共に受け取らされる。
「もしリドロフが見つからなかったら、アルケシュの冒険者ギルドか商業ギルドに持っていってくれたらいいわ。後は対応してくれるでしょうから!」
「あ、あの」
「いやー、本当にごめんなさいね! 私もうすぐ王都まで向かわなきゃなんだけど、アルケシュに寄ってる時間がなくて! でもこの封書をいつまでも私が持ってたら怒られちゃうから、アイリちゃんがアルケシュまで行ってくれるなら良かったわ!」
「……もしかして、わたしを使いっぱしりにさせるために、巻物の情報を?」
「そ、そんなことないわよ! アルケシュに激レアの巻物が入ったって噂は本当なんだから! それは安心して!」
なんか上手く誘導された気がしないでもないけど……まあ封書を届けるくらいならいっか。
それに巻物の情報は真実らしいから、どっちみちアルケシュに行く気にはなってたし。
わたしは何とも言えない気持ちを抱えながら、渋々封書をマジックバッグにしまうのだった。
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