42 / 44
第1章 始まりの街『グリィト』
第40話 別れと旅立ち
しおりを挟むナデシコちゃんを仲間にしてからさらに数日後。
旅支度を整え、マジックバッグを提げたわたしは、グリィトの街の門に立っていた。
隣には、大きな体になったもふもふフェンリルことモッフィと、忍者少女のナデシコちゃんがいる。
「――じゃあな、アイリ。道中、気を付けるんだぞ」
街の門まで、わざわざ見送りに来てくれたザレックさんが言った。
その周りには、ギルドの受付嬢さんや数人の冒険者が並んでいる。
皆、笑顔で言葉をかけてくれた。
「困ったことがあったら、いつでもグリィトに戻ってきてくださいねー!」
「今度は旨いツマミでも教えてやるからよー!」
「バカ、あの子にツマミは早いでしょ!」
「アイリなら大歓迎だぞー!」
そして、この街では大変お世話になった冒険者の、ベルドさん、マーレスさん、ジェシーさんの姿もあった。
「アイリ、この街では色々とあったが、次の街でも気をつけるんだぞ! できることなら俺たちも着いて行きたいが、そうもいかないからな……!」
「モッフィとナデシコも、達者でな」
「うぅ、可愛いアイリちゃんの姿ももふもふのモッフィの毛並みももう見れないなんて寂しいわ~!!」
ジェシーさんが駆け出し、わたしを抱き締めてくれる。
「う、うぎゅ、く、苦しいですよ、ジェシーさん~!」
「あぁ~ん、だってぇ~!!」
ジェシーさんが号泣した。
こんなに人に想ってもらい、悲しんでもらった経験なんて初めてなので、わたしの胸もジーンと熱くなる。
ひとしきりジェシーさんにハグられた後、わたしは乱れた衣服を直し、集まってくれた人たちにペコリと頭を下げた。
「皆さん、短い間でしたが、本当に色々と良くしてくれてありがとうございました! このご恩は忘れません!!」
わたしは晴れやかな笑顔でザレックさんたちに最後の挨拶をする。
と、皆一斉に言葉を返してくれた。
「いつでも帰ってこいよー!」
「待ってるからなー!」
「また元気な顔見せてくれー!!」
わたしは大きくなったモッフィの背に乗った。
そのわたしの後ろに、控えめにナデシコちゃんが乗った。
モッフィの背中で二人乗りしている状態だ。
わたしは唇を噛み締め、振り返る。
心に湧いてくる寂しさをぐっと押し込めて、全身を使って手を振った。
「ありがとうございまーすっ! 皆さんもお元気でーーっ!!」
あ、あれ。
なんだこれ。
この街には何ヵ月も滞在してたわけじゃないのに、思わず涙があふれてくる。
こんな感情に見舞われたのは初めてだ。
それだけ、この街の人たちが温かくて、優しい人たちばかりだったってことなのかな。
「……では、行くぞ」
モッフィは見送り人たちを一瞥し、前を向く。
ナデシコちゃんもザレックさんたちに向けて頭を下げた。
「しっかり掴まっておれよ!」
ぐんっ、とモッフィが加速する。
わたしのゆるふわ金髪が風にはためくのを押さえながら、背後に手を振った。
ザレックさんたちは今もなお大声で別れと激励の言葉を叫んで送り出してくれる。
わたしは目尻に浮かぶ涙が弾けるような笑顔でそれに応えるけど、次第に街が遠くなり――やがて街の人たちは見えなくなってしまった。
「……別れも、旅の醍醐味の一つだよね」
振り上げていた両手をゆっくりと下げ、寂しさにきゅっとなる胸を軽く押さえた。
「あ、あああ、あのアイリ様! だ、大丈夫ですか!?」
街を離れる寂しさに涙を拭うわたしを見て、背後のナデシコちゃんが挙動不審におろおろとしていた。
そんなナデシコちゃんの姿を見たら、別れの悲しさも和らいだ。
旅っていうのは、別れだけじゃなく、出会いもあるものだもんね!
わたしはナデシコちゃんににこりと笑った。
「うん、大丈夫だよ! 心配してくれて、ありがとう!」
「ア、アイリ様……!」
ナデシコちゃんは感激したように口元を押さえ、感じ入る。
すると、ナデシコちゃんがわたしを見てハッと体を硬直させた。
「アイリ様! そのお荷物お持ちします!」
「荷物って……ああ、このカバンのこと? これはマジックバッグでそんなに重くないから大丈夫だよ」
わたしはポンッと肩掛けのマジックバッグを叩いた。
このバッグの中には大量の素材やら生活物資やらが詰まっているけど、重さはあんまり感じない。
幼女の体でも十分に持ち歩けるくらいの重量だ。
だけど、マジックバッグと聞いて、一つ思い出すことがあった。
「ああ、そうそう。マジックバッグといえば……」
わたしはガサゴソとマジックバッグを漁り、先日受け取った一枚の封書を握る。
「ネモさんから貰ったこの封書も忘れず届けないとだね」
これは行商人のネモさんから頼まれた約束だ。
次の街に行き、とある人物にこの封書を届けて欲しいというミッション。
ネモさんは急ぎで王都に向かわなきゃいけないって言ってたし、さっきわたしを見送ってくれた人たちの中にもネモさんの姿はなかったから、きっともう王都に向けて出立してしまったのだろう。
行商人っていうのも大変な仕事みたいだ。
「その封書は……?」
「次に行く街で渡すように頼まれてるやつなんだ。そんなに急ぎじゃなくても良いって言ってたけど、忘れないようにしなきゃね――って、ああっ!」
不意に、ビュオオオ! と突風が吹いた。
そのせいで思わず、わたしの指先から封書が風に流されてしまう。
ヤバイ!
封書が風に飛んでいっちゃう!!
わたしが反射的に風に舞う封書に手を伸ばしたと同時、ナデシコちゃんの目がギランと光った。
「――シッ!」
ナデシコちゃんが目にも止まらぬ早業で空中を舞う封書を奪取。
凄まじい身のこなしで封書を回収したナデシコちゃんは、にこにこ笑顔でわたしに封書を返してくれた。
「アイリ様、こちらを!」
「あ、ありがとうナデシコちゃん。助かったよ……!」
「いえ、これしきのこと当然です!」
ナデシコちゃんから封書を受け取り、いそいそとマジックバッグにしまう。
アホなことで封書紛失なんて事態にならなくてひと安心だ。
ふっ~、と安堵の息を吐くわたしに、モッフィが軽くわたしたちに顔を向けた。
「おいお主ら。人の背中の上であまり馬鹿なことをするでないぞ」
「ば、馬鹿なことなんてしてないもん! ちょっと手が滑っただけだし!」
モッフィが呆れたようにやれやれと首を振る。
そして、モッフィが言った。
「それで、次の行き先はこの方角で良いのか? 我は詳しい場所は知らぬゆえ、道案内はアイリの仕事じゃぞ」
「うん、任せて!」
セリエーヌちゃんの知識を借りれば、次の目的地までのルートは大体分かるから!
「そう言えば、これはどこに向かわれているのですか?」
「ふっ、気になるかいナデシコちゃん?」
「は、はい! アイリ様がお選びになった目的地、とても興味があります!!」
わたしはグラサンをかちゃりとかけ直し、不敵に笑う。
ワクワクした顔で見つめてくるナデシコちゃんを横目に、わたしはビシッと人差し指を前に突き出した。
「次なる目的地は、王国中の錬金術師たちが集うレシピと素材と薬品の街――錬金都市『アルケシュ』だ!!」
果たして、アルケシュではどんな楽しいイベントが待ち受けているのか!
アルケシュでは珍しい巻物が入荷された情報もあるので、わたしの魔眼を治せるかもしれないし!
くっくっく、今から楽しみじゃないか!
わたしは仲間の皆と心を踊らせながら、モッフィの背に乗って広大な草原を突っ走って行った。
10
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しに満ちた気ままな旅の物語!
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる