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6話
しおりを挟むその空間を揺らすような怒号が響き渡る。
ステージ上で男と男が、素手で激しい殴り合いをしている。
その丸いステージを囲むように並ぶ階段状の観客席。座っている人々の身分は問わないようで、豪華な服装の者もいれば数日間洗っていないだろうと感じる者も居る。
共通点としては、皆が仮面をつけていることだ。顔の全体を覆う物、目元や口元、はたまた片目のみを出す物など、デザインは様々だ。
その異様な光景を、カズユキとミナトは顔全体を覆う仮面越しに見ている。2人とも、黒い猫のデザインだ。
喧騒の中、ミナトは興奮気味に口を開いた。
「闘技場って、初めて来た……!」
「そうか。じゃあ楽しんでけ。ま、公式のやつじゃねぇけどな」
闘技場とは文字通り、闘う場である。
カズユキの言う「公式」の闘技場は、国に認められた娯楽施設の一つだ。選び抜かれた剣闘士たちがトーナメント形式で闘う。そして、その結果に応じて賞金が出るシステムだ。
一種のショーのため、華美な衣装を纏う者もいるし派手な技で観客を魅了する者もいる。その時のコンセプトにもよるが基本的には剣と盾を持って闘う。
そして、互いの命を奪うことはない。
現在2人が来ているのは「非公式」の闘技場。大抵は一見するとなんでもない、普通の建物の地下に内密に存在するため「地下闘技場」と呼ばれる。
「公式」の闘技場と大きく違う点は3つ。
まず、誰でも闘士として参加出来ること。公式の剣闘士は職業だが、こちらでは希望すればどんな人間でも出場が可能だ。
次に、賭け試合であること。どの闘士が勝つか観客は予想し、各々好きな金額を賭ける。
最後は、生死を問われないこと。武器は使わないルールだが、そのルールが破られるのも暗黙の了解という闇が深い場だ。
しかし、優勝出来れば多額の賞金を手にすることになるので、様々な事情を抱えた参加者が後を絶たない。
会場によって経営している人間は違うが、それが誰なのかは誰も知らない。
政治に関わる貴族や有名な商会の者も出入りしているという噂もあるものの、あくまでも「存在してはならない」場所である。
「あ! コウだ!」
ステージ上の闘士が入れ替わると、ミナトは口元を引き締めた。コウは揺るがぬ静かな表情で相手と対峙している。
ここで優勝して、賞金を依頼金に充てるつもりなのだとコウは言っていた。家で待っていても良かったのにわざわざ会費を払って観に来たのは、
「ついでに賭けの方でも儲けさせてもらおうじゃねぇか」
と、カズユキが勝ちを確信した顔で乗ってきたからだ。
2人の様子を見ていると大丈夫なんだろうとミナトも気軽に考えていたのだが、実際に場の空気を吸うと気持ちが揺らぐ。自分が闘うわけでもないのに、自然と体に力が入る。
(初対面の俺のためにこんな命懸けのとこに……対戦相手も強そうだ)
とても体格の良いコウであったが、ここの闘士達の中では平均的に見えた。
コウの正面に立つ、筋骨隆々の強面の男を見てミナトは息を飲む。どうしようもなく申し訳ない気持ちが溢れてきた。しかし、ミナトにはもうコウを信じるしか道はない。
隣に座るカズユキがそんなミナトを見て穏やかに目を細めたが、仮面のせいで誰も気がつくことはなかった。
そして、開始の合図の直後。
コウの回し蹴りが見事に男の首に直撃。
男は膝から崩れ落ちた。
一瞬で勝負はついたのだ。
そしてその後も、まるで赤子の手を捻るかのようにコウは屈強な男たちを沈めていった。
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