14 / 46
13話
しおりを挟む
「まいどありー! いつもご贔屓にありがとうな!」
「こちらこそ、相変わらず質が良くて助かってるよ。」
カラフルなテントの屋根の露店が立ち並ぶ賑やかな通りで、カズユキは店主に愛想よく手を振る。手のひらサイズの革袋に入った商品をコートのポケットに突っ込んだ。
若い依頼人が転がり込んできてから一晩が経った。今はまだ、空が明るくなりきらない早朝だ。
そんな時間から市場は活動を開始する。活気のある声があちらこちらから聞こえてくる。
ここでは、野菜や肉、魚などの生鮮食品から狩りに出かけるのに必要な道具、魔術関連の道具まで様々なものが売りに出される。
市場の店は昼前に一度閉店し、夕方ごろにまた開く店が多い。
冒険者向けの品物が多いため、出掛ける前に買ったり帰ってきてから補充したりする時間に合わせているのだ。
冷たい空気が頬を撫でるのを感じながら、帰り道のついでに店の商品を眺めて歩く。
「おお、カズユキじゃないか!」
不意に、聞き覚えのある高めのトーンで声をかけられて足を止めた。振り返ると、身なりも恰幅もいい男が愛想よく走ってくる。声から予想した通り、馴染みの客だった。
「おう、トクオミじゃねぇか。随分ご無沙汰だな。」
「君が私の依頼を選んでくれないからだろう!」
「前は俺に直接依頼してくれてただろー?」
バンッと強く背中を叩かれ、体が揺れる。僅かに背が痺れるのを感じながら唇を尖らせて見せると、軽く笑ってはぐらかされた。
トクオミと呼ばれたこの男は、国内でも有名な会社の社長兼研究者だった。
ここ数年で、魔獣捕獲のためのアイテムを多く開発している。魔獣を人間の生活に取り入れていこう、という提案をして研究しているのもこの男の会社だった。
引き篭もりがちなイメージの強い研究者には珍しく、社交的で朗らかな人柄により自ら研究結果を売りに行くことで会社を大きくしていったのだ。
今では国中に事務所や研究室がある会社になった。
以前はよく対魔獣アイテムの新作を試したり、本人のボディーガードをしたりとカズユキは依頼を受ける機会が多くあった。最近も依頼の張り紙が貼ってあるのはよく見かける。
内容は主に研究用の魔獣捕獲なのだが、以前よりも依頼料が安い。
依頼件数が多いため、一件一件に掛けるコストを低くしたいのだろう。
依頼料を高く設定しているカズユキを雇うのは難しかった。
お互いそんなことは承知の上だ。これ以上はつっこまず有耶無耶のままにしておく。
それにしても、組織が大きくなればなるほど忙しそうにしていたのに朝市に出てくるとは。経済界の大物にしては珍しいことだった。
「ところでお前はこんな朝早くに、社長自ら仕入れか?」
研究者としてこだわりの強い面も知っているため可能性はゼロではない。世間話の一環として軽く尋ねると、首は横に振られた。
「いやいや。もちろんそういう日もあるがね。今回は慈善活動だよ。」
色とりどりの石の飾りのついたベルトに乗った、たっぷりとした腹を震わせる。そして、右手に持っていた紙の束を見せてきた。子供の写真や名前が貼ってあるようだ。
酒場の店長が、子供の行方不明者が出ているのだと言っていたのを思い出した。この後の予定のために全てスルーして目的地へと歩いて行ってしまったが、よく見ると他にも似たような紙を配っている者たちがいる。
見回り騎士の人数も通常より増えていた。
興味の無さそうな素振りでチラリと紙を一瞥する。4人の子供のモノクロ写真の下に名前や年齢、容姿の特徴などが細かく書いてある。
カズユキは束の一番上の紙を手に取った。
その行動を「事件に興味を示した」と判断したらしいトクオミが身を乗り出してくる。
「探すのに参加してくれないか? なんなら個人的に依頼して報酬を出そう。」
「慈善活動」とあっさり言っていた様子からして、行方不明になった子供と親しいわけでもないだろうことが分かる。
長年熱心に没頭している魔獣の研究には出せない金が、よく知らない他所の子供のためにあっさり使えるのかとカズユキは感心した。人道としては当然のことなのだが、よっぽど精神的にも金銭的にも余裕がないと出来ることではない。
自分の身を守るための術も助けを求める手段も全く知らずに、倒れるまで走り続けていた少年とは天と地ほどの違いだった。
カズユキは小さく笑って紙から視線を上げる。
「…悪いな。今、結構厄介な依頼を受けててよ。」
まだ食い下がろうとする表情を見せたトクオミに、「もし何か情報があれば知らせる」とだけ伝えて背を向ける。キッパリ言い切って仕舞えば、それ以上は追ってこなかった。
風でヒラヒラと揺れる紙には、「15歳 赤い髪 金と黒の瞳」の少年の写真が写っていた。
「こちらこそ、相変わらず質が良くて助かってるよ。」
カラフルなテントの屋根の露店が立ち並ぶ賑やかな通りで、カズユキは店主に愛想よく手を振る。手のひらサイズの革袋に入った商品をコートのポケットに突っ込んだ。
若い依頼人が転がり込んできてから一晩が経った。今はまだ、空が明るくなりきらない早朝だ。
そんな時間から市場は活動を開始する。活気のある声があちらこちらから聞こえてくる。
ここでは、野菜や肉、魚などの生鮮食品から狩りに出かけるのに必要な道具、魔術関連の道具まで様々なものが売りに出される。
市場の店は昼前に一度閉店し、夕方ごろにまた開く店が多い。
冒険者向けの品物が多いため、出掛ける前に買ったり帰ってきてから補充したりする時間に合わせているのだ。
冷たい空気が頬を撫でるのを感じながら、帰り道のついでに店の商品を眺めて歩く。
「おお、カズユキじゃないか!」
不意に、聞き覚えのある高めのトーンで声をかけられて足を止めた。振り返ると、身なりも恰幅もいい男が愛想よく走ってくる。声から予想した通り、馴染みの客だった。
「おう、トクオミじゃねぇか。随分ご無沙汰だな。」
「君が私の依頼を選んでくれないからだろう!」
「前は俺に直接依頼してくれてただろー?」
バンッと強く背中を叩かれ、体が揺れる。僅かに背が痺れるのを感じながら唇を尖らせて見せると、軽く笑ってはぐらかされた。
トクオミと呼ばれたこの男は、国内でも有名な会社の社長兼研究者だった。
ここ数年で、魔獣捕獲のためのアイテムを多く開発している。魔獣を人間の生活に取り入れていこう、という提案をして研究しているのもこの男の会社だった。
引き篭もりがちなイメージの強い研究者には珍しく、社交的で朗らかな人柄により自ら研究結果を売りに行くことで会社を大きくしていったのだ。
今では国中に事務所や研究室がある会社になった。
以前はよく対魔獣アイテムの新作を試したり、本人のボディーガードをしたりとカズユキは依頼を受ける機会が多くあった。最近も依頼の張り紙が貼ってあるのはよく見かける。
内容は主に研究用の魔獣捕獲なのだが、以前よりも依頼料が安い。
依頼件数が多いため、一件一件に掛けるコストを低くしたいのだろう。
依頼料を高く設定しているカズユキを雇うのは難しかった。
お互いそんなことは承知の上だ。これ以上はつっこまず有耶無耶のままにしておく。
それにしても、組織が大きくなればなるほど忙しそうにしていたのに朝市に出てくるとは。経済界の大物にしては珍しいことだった。
「ところでお前はこんな朝早くに、社長自ら仕入れか?」
研究者としてこだわりの強い面も知っているため可能性はゼロではない。世間話の一環として軽く尋ねると、首は横に振られた。
「いやいや。もちろんそういう日もあるがね。今回は慈善活動だよ。」
色とりどりの石の飾りのついたベルトに乗った、たっぷりとした腹を震わせる。そして、右手に持っていた紙の束を見せてきた。子供の写真や名前が貼ってあるようだ。
酒場の店長が、子供の行方不明者が出ているのだと言っていたのを思い出した。この後の予定のために全てスルーして目的地へと歩いて行ってしまったが、よく見ると他にも似たような紙を配っている者たちがいる。
見回り騎士の人数も通常より増えていた。
興味の無さそうな素振りでチラリと紙を一瞥する。4人の子供のモノクロ写真の下に名前や年齢、容姿の特徴などが細かく書いてある。
カズユキは束の一番上の紙を手に取った。
その行動を「事件に興味を示した」と判断したらしいトクオミが身を乗り出してくる。
「探すのに参加してくれないか? なんなら個人的に依頼して報酬を出そう。」
「慈善活動」とあっさり言っていた様子からして、行方不明になった子供と親しいわけでもないだろうことが分かる。
長年熱心に没頭している魔獣の研究には出せない金が、よく知らない他所の子供のためにあっさり使えるのかとカズユキは感心した。人道としては当然のことなのだが、よっぽど精神的にも金銭的にも余裕がないと出来ることではない。
自分の身を守るための術も助けを求める手段も全く知らずに、倒れるまで走り続けていた少年とは天と地ほどの違いだった。
カズユキは小さく笑って紙から視線を上げる。
「…悪いな。今、結構厄介な依頼を受けててよ。」
まだ食い下がろうとする表情を見せたトクオミに、「もし何か情報があれば知らせる」とだけ伝えて背を向ける。キッパリ言い切って仕舞えば、それ以上は追ってこなかった。
風でヒラヒラと揺れる紙には、「15歳 赤い髪 金と黒の瞳」の少年の写真が写っていた。
65
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
a life of mine ~この道を歩む~
野々乃ぞみ
BL
≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫
第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ
主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック
【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~
必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。
異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。
二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。
全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 閑話休題以外は主人公視点です。
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結済】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!
キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。
今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。
最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。
だが次の瞬間──
「あなたは僕の推しです!」
そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。
挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?
「金なんかねぇぞ!」
「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」
平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、
“推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。
愛とは、追うものか、追われるものか。
差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。
ふたりの距離が縮まる日はくるのか!?
強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。
異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕!
全8話
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる