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12話
しおりを挟む月明かりのみが差し込む部屋のベッドの上で、規則正しい寝息が聞こえる。
片手は少年の手を優しく握る。もう片方の手はあどけない寝顔の、濡れたまつ毛をそっと拭う。
「寝たのか?」
ベッドの脇に膝をつくカズユキの隣に、声をかけながらコウは立つ。常人ならば入ってきたことに気付かないほどに静かに。
「おう…ガキの寝かしつけなんて初めてしたぜ。」
孤児院という箱の中で平穏に暮らしていた少年には、この1日は負担が大きかった。なかなか眠れずに寝返りを打ったり布団を頭から被ったりと動き回っていたのを思い返す。見ていられずに手を握ってやると、だんだん大人しくなっていったのだ。
痛ましくも可愛らしい少年に対して、苦い笑いが溢れる。
起こさぬように慎重に繋いでいた手を離す。すっかり寝入っていたミナトの手は、想像以上にあっさり抜けた。
「んじゃ、俺も寝るからお前も…なんだ?」
深く息を吐きながら膝に手を置いて立ち上がる。そのままドサリと隣のベッドに座ったカズユキは、何かを訴えるようなコウの眼差しに首を傾げた。
「…手…」
「ん?」
コウの言葉はあまりにも短く、意図は不明だった。だがカズユキは、まだミナトの温もりの残る手をコウに差し出す。
コウはその手をとると、ただ両手で包み込んだ。
カズユキはその様子を可笑しそうに眺める。そして空いている手を動かして、恋人たちがそうするようにひと回り大きい指に絡めた。指と指の間が大きく広がる。
カズユキより小さく細かったミナトとは全然感触が違う。
「なんだ? もしかして妬いてんのか。」
「いや。単純に羨ましい。」
あくまで表情は変わらず、低く小さい声で言う。絡め合う指に少しだけ力が篭った。
常に一緒に居ても、コウは本心をあまり声に出さない。今はそれが聞ける日なのだと、うれしく思うのだが。
「いつまでもガキだな。」
口から滑り出てくるのはいつもの人を小馬鹿にしたような言葉だった。幼い子どもではないのだから、と言った張本人であるカズユキ自身も辟易した。
「初めて会った時から、俺は大人だ。」
「そうだったか?」
コウは眉を寄せ、手を強く握る。しかし、二人の距離を縮めようとはしなかった。カズユキは、絡んだ指に思わせぶりに頬を寄せる。
そして、立ったままそこに居る男を流し見た。
「…コウ。」
「なんだ。」
カズユキとて、隣でミナトが寝ているのに何か色事を起こそうとは思ってはいない。だが、男女問わず惑わせてきた艶のある笑みを向けているというのに、全く動じる様子のない鉄壁の理性に虚しさがつのる。
つまらなそうに目を逸らすと、手を顔から離した。
「その、まぁ…今回のこととかも。いつもお前には助けられてるな。」
「何を今更。」
「可愛げねぇなー。ま、寝ようぜ。」
伝えたことは紛れもなく本心だった。そのことは通じているに違いないが、態度は通常通りそっけない。
遊びは終わりだというように指を解くと、カズユキはベッドに転がった。それを追うように、コウは腰をかがめてシーツに手を着く。
「一緒に?」
「…寝たけりゃ好きにしろよ。」
1人用のベッドの端に寄って、隣の空間を叩く。どう見ても、コウの巨体が入れるようなスペースではない。そもそもカズユキも、一般的な男性よりも体が大きいのだ。
一緒に寝るためには抱きしめあうほど体を密着させる必要があるだろう。
コウは小さく笑った後、ゆっくり部屋を後にする。
「…ま、そうだよな。」
自嘲と共に落ちたカズユキの言葉は、被った布団に飲み込まれていった。
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