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13話
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「まいどありー! いつもご贔屓にありがとうな!」
「こちらこそ、相変わらず質が良くて助かってるよ。」
カラフルなテントの屋根の露店が立ち並ぶ賑やかな通りで、カズユキは店主に愛想よく手を振る。手のひらサイズの革袋に入った商品をコートのポケットに突っ込んだ。
若い依頼人が転がり込んできてから一晩が経った。今はまだ、空が明るくなりきらない早朝だ。
そんな時間から市場は活動を開始する。活気のある声があちらこちらから聞こえてくる。
ここでは、野菜や肉、魚などの生鮮食品から狩りに出かけるのに必要な道具、魔術関連の道具まで様々なものが売りに出される。
市場の店は昼前に一度閉店し、夕方ごろにまた開く店が多い。
冒険者向けの品物が多いため、出掛ける前に買ったり帰ってきてから補充したりする時間に合わせているのだ。
冷たい空気が頬を撫でるのを感じながら、帰り道のついでに店の商品を眺めて歩く。
「おお、カズユキじゃないか!」
不意に、聞き覚えのある高めのトーンで声をかけられて足を止めた。振り返ると、身なりも恰幅もいい男が愛想よく走ってくる。声から予想した通り、馴染みの客だった。
「おう、トクオミじゃねぇか。随分ご無沙汰だな。」
「君が私の依頼を選んでくれないからだろう!」
「前は俺に直接依頼してくれてただろー?」
バンッと強く背中を叩かれ、体が揺れる。僅かに背が痺れるのを感じながら唇を尖らせて見せると、軽く笑ってはぐらかされた。
トクオミと呼ばれたこの男は、国内でも有名な会社の社長兼研究者だった。
ここ数年で、魔獣捕獲のためのアイテムを多く開発している。魔獣を人間の生活に取り入れていこう、という提案をして研究しているのもこの男の会社だった。
引き篭もりがちなイメージの強い研究者には珍しく、社交的で朗らかな人柄により自ら研究結果を売りに行くことで会社を大きくしていったのだ。
今では国中に事務所や研究室がある会社になった。
以前はよく対魔獣アイテムの新作を試したり、本人のボディーガードをしたりとカズユキは依頼を受ける機会が多くあった。最近も依頼の張り紙が貼ってあるのはよく見かける。
内容は主に研究用の魔獣捕獲なのだが、以前よりも依頼料が安い。
依頼件数が多いため、一件一件に掛けるコストを低くしたいのだろう。
依頼料を高く設定しているカズユキを雇うのは難しかった。
お互いそんなことは承知の上だ。これ以上はつっこまず有耶無耶のままにしておく。
それにしても、組織が大きくなればなるほど忙しそうにしていたのに朝市に出てくるとは。経済界の大物にしては珍しいことだった。
「ところでお前はこんな朝早くに、社長自ら仕入れか?」
研究者としてこだわりの強い面も知っているため可能性はゼロではない。世間話の一環として軽く尋ねると、首は横に振られた。
「いやいや。もちろんそういう日もあるがね。今回は慈善活動だよ。」
色とりどりの石の飾りのついたベルトに乗った、たっぷりとした腹を震わせる。そして、右手に持っていた紙の束を見せてきた。子供の写真や名前が貼ってあるようだ。
酒場の店長が、子供の行方不明者が出ているのだと言っていたのを思い出した。この後の予定のために全てスルーして目的地へと歩いて行ってしまったが、よく見ると他にも似たような紙を配っている者たちがいる。
見回り騎士の人数も通常より増えていた。
興味の無さそうな素振りでチラリと紙を一瞥する。4人の子供のモノクロ写真の下に名前や年齢、容姿の特徴などが細かく書いてある。
カズユキは束の一番上の紙を手に取った。
その行動を「事件に興味を示した」と判断したらしいトクオミが身を乗り出してくる。
「探すのに参加してくれないか? なんなら個人的に依頼して報酬を出そう。」
「慈善活動」とあっさり言っていた様子からして、行方不明になった子供と親しいわけでもないだろうことが分かる。
長年熱心に没頭している魔獣の研究には出せない金が、よく知らない他所の子供のためにあっさり使えるのかとカズユキは感心した。人道としては当然のことなのだが、よっぽど精神的にも金銭的にも余裕がないと出来ることではない。
自分の身を守るための術も助けを求める手段も全く知らずに、倒れるまで走り続けていた少年とは天と地ほどの違いだった。
カズユキは小さく笑って紙から視線を上げる。
「…悪いな。今、結構厄介な依頼を受けててよ。」
まだ食い下がろうとする表情を見せたトクオミに、「もし何か情報があれば知らせる」とだけ伝えて背を向ける。キッパリ言い切って仕舞えば、それ以上は追ってこなかった。
風でヒラヒラと揺れる紙には、「15歳 赤い髪 金と黒の瞳」の少年の写真が写っていた。
「こちらこそ、相変わらず質が良くて助かってるよ。」
カラフルなテントの屋根の露店が立ち並ぶ賑やかな通りで、カズユキは店主に愛想よく手を振る。手のひらサイズの革袋に入った商品をコートのポケットに突っ込んだ。
若い依頼人が転がり込んできてから一晩が経った。今はまだ、空が明るくなりきらない早朝だ。
そんな時間から市場は活動を開始する。活気のある声があちらこちらから聞こえてくる。
ここでは、野菜や肉、魚などの生鮮食品から狩りに出かけるのに必要な道具、魔術関連の道具まで様々なものが売りに出される。
市場の店は昼前に一度閉店し、夕方ごろにまた開く店が多い。
冒険者向けの品物が多いため、出掛ける前に買ったり帰ってきてから補充したりする時間に合わせているのだ。
冷たい空気が頬を撫でるのを感じながら、帰り道のついでに店の商品を眺めて歩く。
「おお、カズユキじゃないか!」
不意に、聞き覚えのある高めのトーンで声をかけられて足を止めた。振り返ると、身なりも恰幅もいい男が愛想よく走ってくる。声から予想した通り、馴染みの客だった。
「おう、トクオミじゃねぇか。随分ご無沙汰だな。」
「君が私の依頼を選んでくれないからだろう!」
「前は俺に直接依頼してくれてただろー?」
バンッと強く背中を叩かれ、体が揺れる。僅かに背が痺れるのを感じながら唇を尖らせて見せると、軽く笑ってはぐらかされた。
トクオミと呼ばれたこの男は、国内でも有名な会社の社長兼研究者だった。
ここ数年で、魔獣捕獲のためのアイテムを多く開発している。魔獣を人間の生活に取り入れていこう、という提案をして研究しているのもこの男の会社だった。
引き篭もりがちなイメージの強い研究者には珍しく、社交的で朗らかな人柄により自ら研究結果を売りに行くことで会社を大きくしていったのだ。
今では国中に事務所や研究室がある会社になった。
以前はよく対魔獣アイテムの新作を試したり、本人のボディーガードをしたりとカズユキは依頼を受ける機会が多くあった。最近も依頼の張り紙が貼ってあるのはよく見かける。
内容は主に研究用の魔獣捕獲なのだが、以前よりも依頼料が安い。
依頼件数が多いため、一件一件に掛けるコストを低くしたいのだろう。
依頼料を高く設定しているカズユキを雇うのは難しかった。
お互いそんなことは承知の上だ。これ以上はつっこまず有耶無耶のままにしておく。
それにしても、組織が大きくなればなるほど忙しそうにしていたのに朝市に出てくるとは。経済界の大物にしては珍しいことだった。
「ところでお前はこんな朝早くに、社長自ら仕入れか?」
研究者としてこだわりの強い面も知っているため可能性はゼロではない。世間話の一環として軽く尋ねると、首は横に振られた。
「いやいや。もちろんそういう日もあるがね。今回は慈善活動だよ。」
色とりどりの石の飾りのついたベルトに乗った、たっぷりとした腹を震わせる。そして、右手に持っていた紙の束を見せてきた。子供の写真や名前が貼ってあるようだ。
酒場の店長が、子供の行方不明者が出ているのだと言っていたのを思い出した。この後の予定のために全てスルーして目的地へと歩いて行ってしまったが、よく見ると他にも似たような紙を配っている者たちがいる。
見回り騎士の人数も通常より増えていた。
興味の無さそうな素振りでチラリと紙を一瞥する。4人の子供のモノクロ写真の下に名前や年齢、容姿の特徴などが細かく書いてある。
カズユキは束の一番上の紙を手に取った。
その行動を「事件に興味を示した」と判断したらしいトクオミが身を乗り出してくる。
「探すのに参加してくれないか? なんなら個人的に依頼して報酬を出そう。」
「慈善活動」とあっさり言っていた様子からして、行方不明になった子供と親しいわけでもないだろうことが分かる。
長年熱心に没頭している魔獣の研究には出せない金が、よく知らない他所の子供のためにあっさり使えるのかとカズユキは感心した。人道としては当然のことなのだが、よっぽど精神的にも金銭的にも余裕がないと出来ることではない。
自分の身を守るための術も助けを求める手段も全く知らずに、倒れるまで走り続けていた少年とは天と地ほどの違いだった。
カズユキは小さく笑って紙から視線を上げる。
「…悪いな。今、結構厄介な依頼を受けててよ。」
まだ食い下がろうとする表情を見せたトクオミに、「もし何か情報があれば知らせる」とだけ伝えて背を向ける。キッパリ言い切って仕舞えば、それ以上は追ってこなかった。
風でヒラヒラと揺れる紙には、「15歳 赤い髪 金と黒の瞳」の少年の写真が写っていた。
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