【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
38 / 46

37話

しおりを挟む
「私のかわいい魔獣たちが…」

 部屋には魔獣が所狭しと倒れている。
 赤、青、黒、黄、緑など、美しいとはいえない血液が混ざり合った地面にトクオミは降りてきた。
 動かなくなった魔獣を見下ろして悲しそうな声を出しているが、その目は悲嘆に暮れることはなく。歓喜の色さえ見えるようだ。
 そのチグハグさに鳥肌が立つのを感じながら、カズユキは自身とコウ、セイゴウの返り血を魔術で浄化した。セイゴウは「余計な真似を」と呟いたが、血液の生臭さに辟易としていたのでそれ以上は何も言わなかった。
 
 魔獣の死骸の間を観察するように大股でゆっくりと歩きながら、トクオミは芝居がかった溜息を吐いた。
「仕方ない観念しよう。だが、やられっぱなしも面白くない。」
 観念しよう、という単語には似つかわしくない不穏な言葉が続く。まだ何か企んでいるのかと、カズユキら3人は再び身構える。
 一足では届かないほどに距離をとったトクオミは両手を上げる。降参のポーズのようではあるが、違うだろう。
 それを表すかのように、右手には中心に黒い魔石の埋まった円形の何かを持っている。
 世間話でもするかのような軽々しさで、トクオミはソレを振って見せた。
「子どもたちのいる地下牢には爆弾ネズミから生成した魔術道具をしかけている。これが起爆道具だ。」

 3人はそれぞれ、何をすべきかを瞬時に考えねばならなくなった。
 
 すぐに動き出そうとしたコウの腕をカズユキは掴む。
 横目でそれを確認しながら、セイゴウはその場で短い呪文を唱えた。
 部屋の中にもかかわらず発生した風の渦がトクオミに迫る。
 しかし、トクオミのベルトの石が光ったかと思うと、その風は対象に触れる直前で散って消えた。
 
 2度もセイゴウの攻撃を阻んだ魔術道具の優秀さに、カズユキは地団駄を踏みたくなった。
 掴んでいたコウの腕を離さないまま指に力が入る。
 八つ当たり気味に早口になってしまう。
「トクオミお前、なんなんだほんと。死ぬなら1人で勝手にいけ」
「いや、余罪があるかもしれん。絶対死なせんぞ」
「あ、そう。だそうだ! 良かったな!」

 魔術を阻まれ奥歯を噛んでいたセイゴウだったが、口にしたのは理性的な意見だった。相変わらずの自分とは対象的な態度に、カズユキは柄にもなく投げやりに言葉を終わらせる。
 魔術は効かない可能性が高いと判断したセイゴウは、剣に手を掛ける。
「わざわざ爆発について知らせるということは、何か交渉したいことでもあるのか」
 もし自殺を企み子どもを道連れにしたいのであれば、黙って爆破してしまえばいい。
 3人の刺すような視線を浴びながらも、トクオミは商会の大物らしく怯まずに頷いた。
「もちろん、見逃してほしい。どこか遠くで、魔獣の研究を続けることにする」

 決して受け入れることの出来ない内容だった。
 王族を人質にとれていると分かっているがための強気の態度だ。

 話を聞く3人は、交渉内容を受け入れるか否かなどは端から考えてはいない。断る一択なのだ。
 彼らの脳で計算されているのは、どのように起爆装置を奪うか、その一点に尽きる。
 そのことを理解しているのか、それとも本当はそんなことはどうでもいいのか。
 トクオミは近くに横たわる魔獣の顔に愛おしそうに触れる。

「私は、魔獣たちと過ごせていたらそれでいいんだ。見てくれ。命が消えても美しい姿だ。血の色も、冷たくなっていく皮膚も、光を失った目も…」
 手のひらで割れ物にでも触るように、青い血液、鱗に覆われた皮膚、虚な瞳、と順に触れていく。手が汚れることなど気にもとめない。
 カズユキたちはその狂人の隙を伺いながら黙って見守る。
「ただ一緒に暮らしたいだけなのに、どうしても金が掛かってね。地下闘技場も良かったが…」

 ここに至るまでの犯行に及んだ理由は、カズユキたちが予想していた通りだった。
 闘技用の魔獣をずっとこの薄暗い空間に閉じ込めて維持していくには、相応のコストがかかる。特に大型魔獣は押さえつけるための魔術道具も強力なものでないといけない。
 もう少し、効率良い方法がないかをトクオミは模索していた。
 そんな時、他国の取引先から人身売買の話を持ちかけられたのだ。
 人間の方が圧倒的に制御しやすい。
 
 まずは小さな村を魔獣を操って襲わせた。
 その状況で人が姿を消そうとも魔獣に喰われたとしか思われない。何人か生かしておけば、「魔獣に村が襲われた」と証言もしてくれる。
 都合の良い方法だった。
 それに加え、4人の子どもを街で攫わせた。
 しかしこの4人は狙っていたわけではない。
 ただ、偶然、その場に連れ去りやすい状態でいただけだ。
 さすがに騎士団が動いたので4人のみになったが、ついでだったので問題なかった。
 
 既に温度のない魔獣に向ける熱い目とは対照的に、まるで無機物の商品の話をするかのようにトクオミの口はスラスラと動く。
 
 カズユキは孤児院でミナトの腕の中で震えていた女児を思い出して拳を握りしめた。彼女はこの男の欲のために魔獣に村を襲われ、あそこにいる。
 腹から沸々と湧いてくる怒りは、冷静さを失わせるのだと自分に言い聞かせて抑え込む。
「孤児院のことは、『高額商品』のミナトとその『ついで』ってとこかよ。」
 言葉にすると吐き気がする。
 隣でコウもセイゴウも、制御しきれなくなってきた殺気が滲み出ている。
 
 トクオミは、その質問にはただ微笑みを浮かべただけだった。肯定の意味だろう。
 それ以上は何も語らず、巨大なワニのような魔獣を見つけるとその体に抱き付いた。コウが闘技場で倒した怪物だ。
 うっとりと目を閉じて頬を硬い皮膚に擦り付ける。

「この子は特に、寿命が長い。人間の倍は生きる。私の寿命が尽きたらこの子の腹に入るのが夢だったのに…こんな姿に…」
 これ以上、茶番に付き合うのも気分が悪くなってきたカズユキが1歩だけ足を踏み出した。
 低い声で嫌悪感を隠さず睨みつける。
「お前のその変態趣味のために、いったい何人の人生を狂わせる気だ。とっととお縄につけ。」
「人間なんて、つまらない生き物はどうでもいいんだ。私にとってはね。」
 自分が異質だと自覚している分タチが悪い。
 両者は一生分かり合えないだろう。
 
 コウも痺れを切らして、カズユキよりも数歩前まで歩いていく。やろうと思えばいつでもやれると、威嚇するように指を鳴らす。
「カズユキ、会話する時間が無駄だ。」
「…みたいだな。」
 乾いた笑いがカズユキから漏れる。説得は不可能だ。
 相手の見ている世界は自分たちとは違いすぎている。
「だがあの起爆道具…」
 2人の後ろから、全く動かずトクオミを睨みつけているセイゴウが低く唸る。
 トクオミを取り押さえることは造作無いが、それまでに魔術道具を起動しないようにさせるのは難しい。
 拐われた子どもたちを人質にされているのだ。
 最悪の事態は避けなければならない。
「第二王子の命の方が、私の逃亡より大事だとは思わんかね?」
 追い討ちをかけるようにトクオミは再び起爆道具を持ち上げてチラつかせる。
 爆破して混乱に乗じて逃げるか、交渉により爆破せず逃げるか。どちらにしても彼はこの場を逃れる気だ。
 勝ちを確信している表情に対して唾を吐きかけたい気持ちになる。
「やったことの重大さが分かってんのかお前。子どもたちは当然助けるが、お前は絶対逃がさない。」
「その通りだ。貴様のようなやつは野放しにすると同じことを繰り返す。」
 カズユキとセイゴウは断固として交渉には応じない姿勢をとる。
 
(流石のコウでもこの距離じゃ無理、魔術攻撃は弾かれる…動きを止める魔術はいけたとしても詠唱時間がかかる…)
 爆破する前にトクオミを行動不能にすることが出来ないか脳内シュミレーションを繰り返す。
 しかし全く成功する案が浮かばない。
 
 急に魔獣が起き上がるなどの奇跡でもないと、隙が出来そうになかった。
「残念だ。」
 言葉とは裏腹に、トクオミの目尻は下がっている。
 右手に持った起爆道具を掲げたまま、見せつけるように左手を中心の魔石にかざした。
「カズユキー! コウー!!」
「セイゴウ無事か!?」
 もう触れる、という直前で聞こえた若い2つの声。
「ミナト!?」
「殿下!!」
 魔獣たちがいた牢の中から登場した想定外の人物に、カズユキとセイゴウの声が重なる。
 
 走ってくるミナトとケンリュウの両手は、幼い子どもたちの手を握っている。
 全員で6人。
 その全員が、防御魔術によるものと思われる光を纏っていた。

 カズユキたちは把握できていなかったが、トクオミには分かる。ここに捕らえていた子どもの数と同じだ。
 
 驚いて固まったトクオミをコウは見逃さなかった。
 
 ヒビが入るほど強く床を蹴り、瞬時にトクオミの元へ跳ぶ。
 
 叩き落とされた起爆道具は禍々しい血溜まりに落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ
BL
 ≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫  第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ  主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック 【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~  エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。  転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。  エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。  死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~  必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。  異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。  二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。 全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 閑話休題以外は主人公視点です。 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結済】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!

キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。 今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。 最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。 だが次の瞬間── 「あなたは僕の推しです!」 そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。 挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?  「金なんかねぇぞ!」 「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」 平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、 “推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。 愛とは、追うものか、追われるものか。 差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。 ふたりの距離が縮まる日はくるのか!? 強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。 異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕! 全8話

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

処理中です...