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38話
しおりを挟むなぜ、拐われて捕らえられたはずの子どもたちが脱出できたのか。
カズユキたちがこの建物に入ったくらいの時刻まで遡る。
「おい! やめるんだミナト! 気は確かか!!」
美しい容姿を歪めてケンリュウが悲鳴に近い声を上げる。流した長い髪を振り乱して白い手が必死で握る腕は、取り乱したミナトのものだった。
「離せよリュウ! こんな目潰してやる!! そしたら商品価値とか無くなんだろ!!」
手には金の柄のナイフを掴んでいるが、ケンリュウは線の細い外見から想像するよりも力が強かった。振り回したいのに手が上手く動かせない。
「早まるな!! おい! 誰かいないのか!! 止めてくれ!!」
「お兄ちゃんやめてー!!」
「わーん!!」
ケンリュウだけでなく、他の幼い子どもたちまで涙声を上げ始める。
牢の中にも、もちろんその外にもその音は響き渡った。
届いた声に反応して、バタバタと2人分のガサツな足音が聞こえてくる。
「何事だよ!?」
「上が騒がしくて忙しいときに何してやがる…っておい! 止めろ! どこに持ってたんだそんなもの!」
鬼の様な形相のミナトが握る刃物を見て、明らかに男2人は狼狽える。
男たちに視線を向けた時に僅かに緩んだケンリュウの手。力の限りミナトは腕を振ってなんとか彼から離れることに成功した。
ケンリュウはバランスを崩して転けてしまう。
鋭い刃を自分の顔に向けてミナトは叫ぶ。
ビリビリと喉が痛くなるほどに。
「うるさいうるさい!! 逃げ回った挙句、結局捕まって誰かに売り飛ばされるなんてまっぴらだ!!」
「待て待て待て!! 落ち着きやがれ!!」
血相を変えた男の1人が腰に吊るしていた鍵を牢屋の錠前に入れた。
ガチャンと大きな音が鳴る。
「お前だけは絶対傷つけんなって言われてんだ…ッガぁ!!」
扉を潜った男は股間の急所に突如激痛が走り、カエルが潰れた様な声を上げて蹲った。
後ろにいた男がその異様な様子に、後を追って牢に入ってくる。
「おい、どうし…ギャアァ!!」
床に倒れていた筈のケンリュウが、先に入ってきた男と同じように同じ場所に膝蹴りをしたのだ。
同性とは思えぬ容赦のなさに、見ていたミナトは一瞬だけ顔を歪めた。
しかし、すぐに気を取り直して子どもたちを見下ろす。
「よし! 出るぞ!!」
ケンリュウを先頭に早足で牢を出て行く。
子どもたちは悶絶する男たちの頭を踏みつけにしていった。
全員出たことを確認すると、ミナトはガチャンと外側から鍵をかけたのだった。
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