選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
18 / 33

18話 夏祭り

しおりを挟む
 陽が沈んだ街を照らすのは揺れる提灯。現代ではこんなほのかな灯りだけでは足りないとでもいうように、街頭や屋台も負けじと足元を照らしている。

 俺は歩く度に足首に布が触れているのが落ち着かない。人が多くてどうしても大和と距離が近くなる。閃く袖が隣を歩く腕をくすぐっているのも伝わってるけど、大和は嫌な顔ひとつせずに俺を見下ろした。

「夏祭りって感じでいいね。似合ってる」
「帯が緩んだりしたら大惨事だけどな」
「普通にしてたら大丈夫だよ」

 俺は今、浴衣を着ている。
 甚平なら子どもの頃の写真が残ってるけど、浴衣なんて人生初なんじゃないだろうか。
 女将さんが花火の前に店に寄ってくれって言うからその通りにしたら、なんと浴衣着てくれってことだった。

「おじいちゃんの若い時のなのー!」

 と嬉しそうに見せられたのは、黒っぽい生地にもっと暗い黒の縦筋模様の入ったシンプルな浴衣だった。純和風で落ち着いた雰囲気の服は絶対大和の方が似合うだろって思って、

「大和が来た方がいいんじゃないか? 大将のなんだろ」

 と、俺にしては珍しくはっきり伝えたんだけど。

「僕には丈が足りないんだよ」

 納得せざるを得ない理由であっさり却下されてしまった。
 大和は人混みにいても分かりやすそうなスラリとした長身だが、大将は俺と同じ平均くらいの体だ。

 俺は浴衣が嫌ってわけでもなかったし、せっかくあるのを着せて懐かしみたい女将さんの気持ちを汲んで着付けてもらうことにした。
 草履もあるって言ってたけど歩きにくいからスニーカーのまま。女将さんは渋い顔をするかと思ったら、

「今はそういうのもおしゃれに見えていいわねー!」

 だってさ。本当に柔軟な人だと思う。

 カバンも普段使いの肩掛けポーチで、しかも大和と行った原画展の特典キーホルダーがついている。見るたびに大和がニコニコするから外し損ねた代物だ。
 そういうわけで、相当カジュアルな雰囲気の浴衣姿で夏祭りという、風流と言っていいのか分からないことになっているんだが。

「暑い……」

 今日は一日中どんよりと空が重く、いつ雨が降るかとヒヤヒヤする一日だった。それでも熱気と湿気で肌に汗が滲む。
 首元をすこしでも涼しくしようと、いつもはハーフアップにしている髪を全て纏めた。女将さんが渡してくれた扇子でバタバタと仰ぐ。風が当たると汗をかいたところが冷えて涼しいけど、一時的なものだった。

 隣を見れば、なんでもないような表情をしている大和の額にも水滴が浮かんでいる。
 Tシャツと短パンというラフな格好をしていてもそうなんだから、しっかりした生地の浴衣を着ている俺は尚更だ。
 見た目は華やかで涼しげな周りの浴衣女子たちも、根性で着ているに違いない。

 人が多い中、もみくちゃにされながら大和が屋台を見回す。

「何か食べる? それとも王道に金魚掬いする?」
「楽しそうだけど……絶対浴衣濡らすからたこ焼き食う」

 偶然目に入ったタコのイラストは、黄色い屋根によく映えていた。祭りっぽいかと気軽に選んだものの、よく見たら列が出来てたからちょっと迷ったけど、

「急いでるわけじゃないから並ぼうよ」

 と言ってくれる大和と二人でだったから、順番はすぐに回ってきた。

 河川敷の芝生に座って食べるか考えた結果、やっぱり浴衣を汚しそうなのが心配で。察してくれた大和が、橋の下で立って食べようと提案してくれた。
 出店の通りを抜けると比較的人の行き来が少ないから、ようやくまともに息が吸えるようになった。気温は変わらないのに、少し涼しい場所に出たような気になる。

 俺と大和は並んでたこ焼きを開けた。香ばしい匂いが鼻を満たす。ついさっきまで鉄板の上にあっただけあって、白い器は熱くて、鰹節は踊っている。
 大きな一口でぱくんっと食べた大和が口を押さえてハフハフ言っている。俺は無意識に笑ってしまった。

「ひとつ目を一気にいったら熱いだろ」

 大和はウーっと何か音を発しながらコクコクと何度も頷く。俺は同じ轍を踏まないようにたこ焼きを齧る。
 ソースと生地を舌に乗せて、上手く熱を逃がしながら咀嚼した。

「うま」
「そうだね、熱々美味しい」

 復活した大和が顔を綻ばせた、直後。全く想定していなかった事態が起こった。

「あそこにいる人イケメンじゃない?」
「本当だ! って、あれ? 浴衣着てるのって同じクラスの」
「なんだっけー……蓮くん?」

 今世紀最大の無視したい声が聞こえてきたのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

処理中です...