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八話
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昼休みに入るなり、俺は教室を飛び出した。
目的地は一年の教室。椿のクラスだ。
ドタドタドタと鈍臭い足音が廊下に響く。
頭の中で、握りしめたスマホの着信履歴や大量のメッセージがぐるぐる回る。
《どうしました? 何かありました?》
《俺、何かしましたか?》
《返事ください。話をさせて》
《幸哉先輩、やっぱりキス嫌でした?》
《俺のこと、嫌いになった?》
とにかく、信じられないほどたくさんの連絡を椿はくれていた。
せめてちゃんと理由を言わなければ、と、俺は必死で足を動かす。
(お前のことを好きになった。でも恋人がいるって知って辛くなった。だから、話すのが嫌なんだ。……大丈夫か? 伝わるか?)
恋人がいるくせにキスしたことには、チクっと文句を言ってやろう。
面と向かってフラられるのは怖いけど、いつも元気をもらってたんだ。最後にちゃんと誠意は見せないと。
ゼェゼェと肩で息をしながら辿り着いた教室では、一年生たちが賑やかに昼休みを過ごしていた。
仲良さそうに喋ったり、弁当食べたり、すでに本を読んでいたり……思い思いに楽しんでいるようだ。
でも、その中に椿が見当たらない。
(……食堂か? 誰か知ってるかな……)
知らない後輩たちばかりで、誰かに質問するのも躊躇われる。
でも、食堂に行って入れ違ったら困るよな。
スマホで連絡しても、こんなに無視したらもう見てもらえるかわかんないし。というか、俺が椿ならもうブロックしてる。
俺は意を決して、一番入り口に近い男子に声をかけた。
「あ、あのさ……椿って……どこにいるか知ってる?」
「椿ですか? いつも通り『幸哉先輩のとこ行く』って走っていきました」
「え……あ……そ、そうか! ありがとう!」
ひとまずお礼を言っておく。「幸哉先輩」が目の前にいるだなんて知らないその男子は、にこやかに手を振ってくれた。
俺は再び廊下を駆ける。
(俺のところ? 教室か? 図書室か?)
行き交う生徒をワタワタと避けて、まずは最上階の図書室に向かった。
椿はいない。
(じゃあ教室か!)
俺は改めて教室を目指して走った。
頼む、誰か引き留めておいてくれ!
そう心の中で念じながら、必死で階段を駆け降りる。
急いでいるけど、一段一段をしっかり踏みしめる。……踏みしめた、はずだった。
「わ……っ!」
ズルっと足が滑り、浮遊感が俺を襲う。
ゾワッと全身に鳥肌が立った。
(落ちる……!!)
「幸哉先輩!!」
咄嗟にすくんだ俺の体は、がっしりと誰かに受け止められた。
危機感でバクバクと嫌な音を立てる心臓の音を聞きながら、俺は唖然と呟く。
「あれ……? 落ち、なかった」
「何やってんだよ! 走ったら危ないだろ!」
「……っ!」
至近距離で怒鳴られて、顔を上げる。
そこには、眉間に皺を寄せて必死の形相の、椿がいた。
階段の中ほどで、俺たちは抱きしめ合っている。
椿の逞しい腕が、俺の落下を防いでくれたらしい。
ハーッと大きなため息が耳元で聞こえる。
「俺が偶然、この階段を登ってなかったら……怪我してましたよ」
「ご、ごめん……ありがとう」
「俺も、怒鳴ってすみませんでした」
「いいんだ。お、俺が悪いから……俺……」
心臓がどんどん早くなっていく。
危機感からのドキドキは消えて、好きな人に抱きしめられているドキドキに変化していく。
さらにはそこに、これからフラれるんだというドキドキも加わって。
ドキドキがゲシュタルト崩壊しそうだ。
「椿、ごめん。俺……話したいことがあって、探してた」
「俺も……教室に幸哉先輩がいなかったから、図書室に向かう途中でした。でも……」
お互いに話したいことがあることは一致したが、椿は口を閉ざした。
理由は簡単。階段の周りに「なんだなんだ」と人が集まってきたからだ。
こんなところじゃ話せない。
「……音楽準備室とか、いくか?」
二人っきりになれる場所が思いつかなくて提案すると、椿が唇を耳に寄せてきた。
「明るいとこで顔見て話したいんで……屋上にしましょう」
深い声が、脳髄まで染みる。
いつもと違う低い声にもう何も言えなくなって、俺は椿の腕の中でカクカクと頷いた。
目的地は一年の教室。椿のクラスだ。
ドタドタドタと鈍臭い足音が廊下に響く。
頭の中で、握りしめたスマホの着信履歴や大量のメッセージがぐるぐる回る。
《どうしました? 何かありました?》
《俺、何かしましたか?》
《返事ください。話をさせて》
《幸哉先輩、やっぱりキス嫌でした?》
《俺のこと、嫌いになった?》
とにかく、信じられないほどたくさんの連絡を椿はくれていた。
せめてちゃんと理由を言わなければ、と、俺は必死で足を動かす。
(お前のことを好きになった。でも恋人がいるって知って辛くなった。だから、話すのが嫌なんだ。……大丈夫か? 伝わるか?)
恋人がいるくせにキスしたことには、チクっと文句を言ってやろう。
面と向かってフラられるのは怖いけど、いつも元気をもらってたんだ。最後にちゃんと誠意は見せないと。
ゼェゼェと肩で息をしながら辿り着いた教室では、一年生たちが賑やかに昼休みを過ごしていた。
仲良さそうに喋ったり、弁当食べたり、すでに本を読んでいたり……思い思いに楽しんでいるようだ。
でも、その中に椿が見当たらない。
(……食堂か? 誰か知ってるかな……)
知らない後輩たちばかりで、誰かに質問するのも躊躇われる。
でも、食堂に行って入れ違ったら困るよな。
スマホで連絡しても、こんなに無視したらもう見てもらえるかわかんないし。というか、俺が椿ならもうブロックしてる。
俺は意を決して、一番入り口に近い男子に声をかけた。
「あ、あのさ……椿って……どこにいるか知ってる?」
「椿ですか? いつも通り『幸哉先輩のとこ行く』って走っていきました」
「え……あ……そ、そうか! ありがとう!」
ひとまずお礼を言っておく。「幸哉先輩」が目の前にいるだなんて知らないその男子は、にこやかに手を振ってくれた。
俺は再び廊下を駆ける。
(俺のところ? 教室か? 図書室か?)
行き交う生徒をワタワタと避けて、まずは最上階の図書室に向かった。
椿はいない。
(じゃあ教室か!)
俺は改めて教室を目指して走った。
頼む、誰か引き留めておいてくれ!
そう心の中で念じながら、必死で階段を駆け降りる。
急いでいるけど、一段一段をしっかり踏みしめる。……踏みしめた、はずだった。
「わ……っ!」
ズルっと足が滑り、浮遊感が俺を襲う。
ゾワッと全身に鳥肌が立った。
(落ちる……!!)
「幸哉先輩!!」
咄嗟にすくんだ俺の体は、がっしりと誰かに受け止められた。
危機感でバクバクと嫌な音を立てる心臓の音を聞きながら、俺は唖然と呟く。
「あれ……? 落ち、なかった」
「何やってんだよ! 走ったら危ないだろ!」
「……っ!」
至近距離で怒鳴られて、顔を上げる。
そこには、眉間に皺を寄せて必死の形相の、椿がいた。
階段の中ほどで、俺たちは抱きしめ合っている。
椿の逞しい腕が、俺の落下を防いでくれたらしい。
ハーッと大きなため息が耳元で聞こえる。
「俺が偶然、この階段を登ってなかったら……怪我してましたよ」
「ご、ごめん……ありがとう」
「俺も、怒鳴ってすみませんでした」
「いいんだ。お、俺が悪いから……俺……」
心臓がどんどん早くなっていく。
危機感からのドキドキは消えて、好きな人に抱きしめられているドキドキに変化していく。
さらにはそこに、これからフラれるんだというドキドキも加わって。
ドキドキがゲシュタルト崩壊しそうだ。
「椿、ごめん。俺……話したいことがあって、探してた」
「俺も……教室に幸哉先輩がいなかったから、図書室に向かう途中でした。でも……」
お互いに話したいことがあることは一致したが、椿は口を閉ざした。
理由は簡単。階段の周りに「なんだなんだ」と人が集まってきたからだ。
こんなところじゃ話せない。
「……音楽準備室とか、いくか?」
二人っきりになれる場所が思いつかなくて提案すると、椿が唇を耳に寄せてきた。
「明るいとこで顔見て話したいんで……屋上にしましょう」
深い声が、脳髄まで染みる。
いつもと違う低い声にもう何も言えなくなって、俺は椿の腕の中でカクカクと頷いた。
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