すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛

虎ノ威きよひ

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七話

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 最悪だ。
 俺は返ってきた答案用紙を確認すると、すぐに机の中にねじ込んだ。

 月曜日の三時間目、俺の気持ちはどん底にあった。

 俺の機嫌が悪いのは、休み明けでダルいからでも、百合根のマウントが聞こえてきたからでもない。
 昨日ずっと泣いていて、瞼が腫れぼったいからでもない。

 小テストでミスをしたからだ。

(昨日、勉強頑張れなかったから……ちょっと頑張れなかっただけであっさり間違える能力しかないんだ俺は)

 たった一つのミスが「勉強はできる」という、俺の自尊心最後の砦を突き崩してしまった。

 そもそも、昨日から俺は全然勉強できていない。
 いつもだったら授業中はもちろん、休み時間だって勉強しているのに。
 今日は全く身が入らない。

 先生の声が遠くて、スルスルと耳を素通りしてしまう。
 教科書の文字を目で追っても、滑って読めない。
 全然、頑張れないんだ。

(努力すらできねぇすみっこぼっち……最悪だ)

 音もなくため息を吐きながら、俺はポケットのスマホに触れた。

 椿とは昨日から連絡をとっていない。
 それもそのはず。
 スマホの電源は、あのメッセージを送った直後に切ってしまったからだ。
 俺のポケットに入っているのは、画面が暗くなったただの薄い板。

 いつもの癖で持ってきちゃったけど、家に置いてきても良かったかもしれない。

(……椿、怒ってるかな……全然気にしてないかもなぁ)

 どっちも嫌で、胸がキュッと締め付けられる。

 ぼんやり教科書を読むふりをしながら考えるのは、やっぱり椿のことだ。
 俺との約束がなくなったから、バイトの後は店長さんと本当のデートをしたのかな、とか。
 わざわざ自分の傷に塩を塗るような想像が止まらない。
 
 また、泣いてしまいそうだ。
 ごちゃごちゃ考えていると、不意に声をかけられた。

「杉菜くん、大丈夫?」

 顔を上げると、百合根の涼やかな顔が見下ろしてきていた。いつの間にか授業が終わっていたらしい。

 きっと、さっき返ってきた小テストが百点だったことを自慢しにきたんだろうけど。
 俺はもう、イラつく元気もなかった。

 明らかに沈んでいる俺の顔を見て、百合根は眉を八の字にした。

「元気ないけど、テスト、もしかして良くなかった? 難しかったよね! 僕も見直しでミスに気がついてさ……」

 慰めるふりをして、なんだか腹立たしいことを言われてる気がする。

 でも俺は、目の前のどこに出しても恥ずかしくないイケメンの顔しか見ていなかった。
 顔が良くて、自信満々で、人気者。

「……俺、お前みたいになりたかったな」

 一生心に秘めておくはずだった言葉が、ポロリと口から落ちてしまった。

 ボソボソと低い声の俺とは正反対の百合根の声が、ぴょこんと弾む。

「えっ! 急になになに? うれしいなぁ」
「百合根、喜んでる場合じゃないぞ。どう考えてもおかしくなってるだろ杉菜。ほぼ絡まない俺でもわかる」
「痛いよ! 木田くん痛い!」

 褒められ慣れすぎて素直に喜ぶ百合根の頭を、無表情な木田がガシッと掴んだ。
 痛がる百合根の横から、草野までひょっこり顔を出す。

「どうしたんだ杉菜。お涙頂戴ドラマでも見て泣いてたのか?」
「……別に……」

 クラスのイケメンたちがわざわざ俺の席に集まる異常事態だ。でも、俺にはそんなことどうでもいいし、返事をする気力もない。

 会話を終了させてしまった俺の代わりに、木田が鼻で笑った。

「お涙頂戴ドラマ見て一晩中泣いてたのはお前だろ草野。目、真っ赤」
「ちっげぇし! 俺のは花粉症だし!」
「ええ? それは嘘でしょ。無理があるよ草野くん」
「百合根に一票。昨日遊んだ時は花粉症なんて一言も言ってなかったろ」
「嘘ついてませぇん。花粉症は突然やってくるんですぅ」

 売り言葉に買い言葉でポンポン交わされる会話を聞きながら、俺はさらに落ち込んだ。
 なんの遠慮もない会話が羨ましい。

 楽しげな会話を近くでしてくれても俺は混ざれないし、なんだかみじめだ。

 同じ賑やかイケメンでも、椿だったら元気になった気がするのに。
 俺の中で、やっぱりあいつは特別なんだ。

「だいたい、ドラマで泣いてたのは椿だっての椿!」

 頭を支配していた名前が、草野の口から飛び出した。
 俺の肩はわかりやすく、ビクッと跳ねる。

(椿って、ドラマ見て泣いたりするんだ)

 もう少し詳しく聞きたいけど、俺はどうしても口が挟めない。
 小心者な自分が嫌になる。

 でも、椿のことが気になったのは俺だけじゃなかったみたいだ。

「なんで草野が椿のこと知ってんだよ」

 木田が草野に首を傾げた。
 聞いてくれてありがとう。

 草野も話を広げてほしかったのか、意気揚々と喋り出す。

「さっき女子が話してた。なんか、目も真っ赤で髪もボサボサだったから、心配になって聞いてみたんだと」
「へぇ、珍しいね。海斗くん、いつもキメキメなのに」
「百合根もそう思うだろ? で、聞いた結果。ドラマの見過ぎで寝坊したからってオチらしいぜ」
「あはは、なんかかわいいね」

 キーンコーンカーンコーン……
 百合根の軽快な笑い声と、授業開始のチャイムが重なる。
 クラス中のみんなが反射的にバタバタと席に戻り始めた。

 俺の席に集まってた三人も例外じゃない。
 でも、木田は席に戻る前にそっと耳打ちしてきた。

「たぶんドラマのせいじゃないぞ。お前のわんこだろ? 声かけてやれよ」
「え?」

 一体どういう意味だろう。
 驚いて聞き返したけど、木田はもう席に向かってしまっていた。

 先生もやってきて、授業が始まる。
 もちろん俺は、授業なんて聞いていなかった。

(……俺のわんこ? 椿のことか?)

 毎日のように俺のところにやってくる椿を、木田も犬みたいだと思っていたらしい。
 それよりも、ドラマのせいじゃないってどういうことだろう。

(声をかけるなんて、俺にはそんな資格ないし。あんなメッセージ送っちゃったしな…………メッセージ?)

 そういえば俺、感情に任せて酷いメッセージを送ったよな。
 もしかしなくても、突然あんなメッセージ送られてきたら誰でも傷つくんじゃないか。

(なんて送ったっけ……確かもう話しかけてくんなとかそんな……やばい。俺、自分のことばっかで)

 なんて送ったか、もう一回、確認してみよう。
 俺は初めて授業中にスマホの電源を入れた。
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