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時価2000万
3-10
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「……!」
思わず耳を塞ぐと、ジスランは悪戯っぽく目を細めると上体を起こしアオイから離れた。
「ふふ、ごめんね、少し妬きました」
「や、ちが、その、ジスランにはいちばん綺麗な僕を見て欲しくて……」
「分かってますよ。ごめんね、意地悪して」
どうしよう、心臓が爆発してしまうかもしれない。アオイは赤くなった頬を隠すように俯いた。
恋人同士の演技なんてこれまで何度もしてきたのに、ジスランから迫られた途端コレだ。早まったかもしれない。アオイは途方に暮れた。
「……とりあえず名前は聞いていいですか」
「あれ、聞いちゃうの?」
ジスランはくすくすと肩を揺らした。しょうがないですね、と頬をくすぐられ、アオイは首をすくめた。
「んっ……ちゃんと聞きます。というか最初名乗ってくれてましたよね」
聞いてなくてごめんなさい、と謝ると、痩身の男は「構いません」と眉を下げた。
「わたくしの名前はネポスといいます。こっちの何も出来ずにオロオロしているのはアブル」
アブルはネポスを睨んだ。
「ネポス」
「竜神様とその番様の前ですよ。ともあれ、わたくしたち兄弟を今後ともよろしくお願いします」
「あ、兄弟なんだ……」
「似てないでしょう。よく言われます」
「でも目元はそっくりですよ。ネポスさんにアブルさんですね。僕はアオイです。ところで、デザインの続きなんですけど」
2度目の挨拶もそこそこにアオイは視線を手元のデザイン画に移した。
「僕はジスランよりも体が薄いから、腰のあたりを絞ったりして、より女性的なデザインの方向でお願いします。ジスランはそのまま素材を活かすような感じで……」
「はい、とても似合うと思います……ですが……少し採寸しても構いませんか? 確かに竜神様と比べるとそうですが……」
「やっぱ、そこまで薄いわけじゃない?」
「……言ってもいいものか悩みますが、アオイ様のお体は魅せるためのものだと思いました。筋肉のつき方が理想的というか……ここでなければモデルをお願いしたいくらいです」
ネポスの言葉にアオイは嬉しそうに顔を輝かせると、得意気に「ほらね?」とジスランに向かって首を傾げた。
「やっぱ朝の僕は間違ってなかったでしょ?」
休戦しているだけで終戦しているわけじゃない。ここぞとばかりに習慣の継続を仄めかすと、ジスランは眉間に深い皺を刻んだ。
「アオイが美しいことは知っています。でも、だからと言って何をしてもいいわけじゃないです」
もう絶対にやめてください、とジスラン。アオイはむ、と唇を尖らせた。
「絶対ダメ?」
「絶対ダメ。それより、話が脱線していますけどいいんですか?」
ジスランがデザイン画を指す。彼の言うことももっともなので、アオイは渋々デザイン画に再び向き直った。
ネポスは何事もなかったかのように話を再開した。
「レースやフリルをどこまで、どう付けるかは実際に着ながらやった方がいいと思います。少し大変な作業にはなってしまいますが」
「それもそっか。それくらいなら僕は大丈夫だけど……でも間に合う?」
式典は1週間後である。
「間に合わせます」
それは頼もしい。こういうときは信じて全て任せることにしているアオイは「お願いします」と微笑んだ。
「それじゃあ使う布と、色も考えたいです。使ってはいけない色とかありますか?」
アオイが尋ねると「ここからはわたくしが説明したします」とアブルが身を乗り出した。ネポスと場所を入れ替えた彼は、数枚の反物をアオイの前に広げた。
思わず耳を塞ぐと、ジスランは悪戯っぽく目を細めると上体を起こしアオイから離れた。
「ふふ、ごめんね、少し妬きました」
「や、ちが、その、ジスランにはいちばん綺麗な僕を見て欲しくて……」
「分かってますよ。ごめんね、意地悪して」
どうしよう、心臓が爆発してしまうかもしれない。アオイは赤くなった頬を隠すように俯いた。
恋人同士の演技なんてこれまで何度もしてきたのに、ジスランから迫られた途端コレだ。早まったかもしれない。アオイは途方に暮れた。
「……とりあえず名前は聞いていいですか」
「あれ、聞いちゃうの?」
ジスランはくすくすと肩を揺らした。しょうがないですね、と頬をくすぐられ、アオイは首をすくめた。
「んっ……ちゃんと聞きます。というか最初名乗ってくれてましたよね」
聞いてなくてごめんなさい、と謝ると、痩身の男は「構いません」と眉を下げた。
「わたくしの名前はネポスといいます。こっちの何も出来ずにオロオロしているのはアブル」
アブルはネポスを睨んだ。
「ネポス」
「竜神様とその番様の前ですよ。ともあれ、わたくしたち兄弟を今後ともよろしくお願いします」
「あ、兄弟なんだ……」
「似てないでしょう。よく言われます」
「でも目元はそっくりですよ。ネポスさんにアブルさんですね。僕はアオイです。ところで、デザインの続きなんですけど」
2度目の挨拶もそこそこにアオイは視線を手元のデザイン画に移した。
「僕はジスランよりも体が薄いから、腰のあたりを絞ったりして、より女性的なデザインの方向でお願いします。ジスランはそのまま素材を活かすような感じで……」
「はい、とても似合うと思います……ですが……少し採寸しても構いませんか? 確かに竜神様と比べるとそうですが……」
「やっぱ、そこまで薄いわけじゃない?」
「……言ってもいいものか悩みますが、アオイ様のお体は魅せるためのものだと思いました。筋肉のつき方が理想的というか……ここでなければモデルをお願いしたいくらいです」
ネポスの言葉にアオイは嬉しそうに顔を輝かせると、得意気に「ほらね?」とジスランに向かって首を傾げた。
「やっぱ朝の僕は間違ってなかったでしょ?」
休戦しているだけで終戦しているわけじゃない。ここぞとばかりに習慣の継続を仄めかすと、ジスランは眉間に深い皺を刻んだ。
「アオイが美しいことは知っています。でも、だからと言って何をしてもいいわけじゃないです」
もう絶対にやめてください、とジスラン。アオイはむ、と唇を尖らせた。
「絶対ダメ?」
「絶対ダメ。それより、話が脱線していますけどいいんですか?」
ジスランがデザイン画を指す。彼の言うことももっともなので、アオイは渋々デザイン画に再び向き直った。
ネポスは何事もなかったかのように話を再開した。
「レースやフリルをどこまで、どう付けるかは実際に着ながらやった方がいいと思います。少し大変な作業にはなってしまいますが」
「それもそっか。それくらいなら僕は大丈夫だけど……でも間に合う?」
式典は1週間後である。
「間に合わせます」
それは頼もしい。こういうときは信じて全て任せることにしているアオイは「お願いします」と微笑んだ。
「それじゃあ使う布と、色も考えたいです。使ってはいけない色とかありますか?」
アオイが尋ねると「ここからはわたくしが説明したします」とアブルが身を乗り出した。ネポスと場所を入れ替えた彼は、数枚の反物をアオイの前に広げた。
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