公爵令嬢の辿る道

ヤマナ

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いつか見た夢の世界で

再起

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 ジークの話してくれた、毒殺未遂事件から現在に至るまでの経緯を纏めると、概ね以下の通りとなる。

剣術大会のあった日に出された夕餉に毒が盛られており、毒味役の男性が一人亡くなってしまった。
王太子の毒殺未遂事件の発生によりジークの周辺は警戒態勢にあって基本的には誰も近づく事が出来ないようになっていて、私に会いに来た例外を除けば自室に篭りきりになる生活を余儀なくされているとの事。
そして、そんな状況の中で再び暗殺の危機に陥るリスクを冒してまで私に会いに来た理由は、これから私が巻き込まれる事態の説明と謝罪をジーク自身が直接話したいと思っての事だという。

「学園内では君も知る通り。 他にも一部貴族の中では、ユースクリフ家の令嬢が王家主催のパーティーにおいて王太子のパートナーとして選ばれるという噂が出ている。 だから、王家としては噂通りに自然な形でエリーナ嬢にパートナーとして立ってもらい、不測の事態に備える必要があったんだ」

なるほど。 話を聞いてみれば、私がジークのパートナーとして選ばれた話の裏にはそんな事情があったという事だった。
それならば、高位貴族の令嬢である私が選ばれる事も当然だ。 サリーのような男爵令嬢よりも、噂話の種とするならば公爵令嬢の方が現実的なのだから。
そして不測の事態備えるというのも、要するに、いざという時にはジークの盾となれという事だ。

「つまり犯人達に殿下のお命を狙う意思がまだあるとして、次に手を出してくるならばパーティーの時になると」

「今、俺の周りは警戒態勢にあるから迂闊に手は出せない。 だから再び毒を使うにしろ、もっと直接的な手段をとるにしろ、王太子としてどうしても顔を出さなければならないパーティーが一番狙いやすいだろうからね」

「事を公にして、殿下はお隠れになってはいけないのでしょうか? 王家ならば、それから時間を掛けてでも犯人を特定するくらい」

「王太子の毒殺未遂については公にはされていないし、する事も無いだろう。 他の貴族達の間に不信感を生ませるよりも、犯人共にもう一度事件を起こさせて一網打尽にしてやる方がいいという陛下の判断だ」

「では、犯人の目星は幾らか付いているのですね?」

「事件直後の調査で、俺が以前から糾弾しようとしていた王城内部の汚職事件に関係していると思われる輩が怪しいと上がってきた。 もっとも、確信を持てる証拠が無いから逮捕までには至らない。 が、所詮は汚職を重ねる小悪党ばかりだ。 今回で俺を殺せなかった事に焦って、次に狙いやすい機会を逃さず仕掛けてくるだろう」

つまり、その者らの動向を追いながら泳がせて、言い逃れの効かない状況まで追い込んでから逮捕してしまおうという事らしい。
しかし、それではあまりにもジークの立ち位置はリスキーではないか。 

「基本的には、俺と君には危害が及ばないよう警備の者は配置されるが、それでも万一の場合がある。 その時には、その……君に頼む事になる。 勿論、自身で対処できるものは俺がなんとかする!」

「ええ、お任せ下さい。 私が殿下の背中をお守りしますから、殿下は気兼ね無く王太子としての務めを果たして下さいませ」

いざという時には、ジークの身を脅かす凶刃を払い、最悪の場合はこの身を挺して彼を守る。 それが、王家より賜り、そしてこの身の罪を贖うために与えられた此度の試練。
乗り越え、為すべきを為すのだと、気合いと共に言葉を吐いた。
だというのに、未だ申し訳なさそうなジークに心配は要らないと、気にする事はないと態度で示したというのに、何故か彼は微妙そうな表情を浮かべるのだった。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 「おはようございます、アルダレート様。 どうもありがとう」

私が学園に復帰したその日、登校の馬車を出てすぐ。 
差し出された幼馴染の騎士の手を取って、学園の門前に降り立った。

「おはようございます、エリーナ様。 このまま生徒会室までお供いたします」

「こんなにも朝早くなら、学園内には他に誰もいないと思いますから大丈夫なのですよ? 朝の貴重な時間までいただいてしまうなんて申し訳ないです」

「いえ、俺が貴女に付いていたいのです。 延いては、これが殿下の下命を果たす事にも繋がりますから」

「アルダレート様………それは普通、逆でしょう。 貴方は王国騎士なのですから、私情は後回しにするべきです!」

「これは失礼しました。 エリーナ様が仰るように、今は周りに誰もおりませぬゆえ、つい本音が漏れてしまいました」

そう軽口を言って少し口角を上げたアルダレートは普段の堅苦しい雰囲気とは違い、少し巫山戯ていて、ぎこちないながらもどこか柔らかな空気を纏っていた。
普段は冗談を口にしないアルダレートの少しおちゃらけた態度に、彼の気遣いを感じた。
そんな軽口を言い合いながら早朝の誰もいない学園を、私とアルダレート並んで歩いている。 
なぜそうなったかと言えば、先にアルダレートが言ったように、彼に対してジークから指示があったから。
『学園内部でエリーナ嬢の側に付き、護衛として今回のような直接的な危害からその身を守れ』と。 その下命はジークとアルダレートがユースクリフ邸へ訪れたあの日に、私の目の前で、ジークからアルダレートへと下された。
最初は、王国の騎士を一令嬢に過ぎない私に貸し与えるような真似をする事など無いと断りの言葉を伝えたのだけれど、パーティーの日程までに今以上の危害を受けるような事にってはパートナーとしての役目を果たせないからと説明されては、彼の好意を受ける他無かった。
それに、得心した事もまた事実。 私が、私を取り巻く些事にも等しい虐め程度で今回のように倒れていては、私の贖罪は果たせないままだ。
まずは、ジークを守り抜く事。 私が生き残るかは二の次に、いざという時にはこの身を挺してでも為すべき事柄である。
いくら運命の2人とはいえ、命を亡くしてしまっては結ばれはしない。 そうなれば、私は贖罪の機会を失って、きっとまた終わりの見えない死を繰り返すのだろう。
………そんなのは、嫌だ。
それに、王家からの下命を伝えるついでとはいえども私の見舞いに来てくれたジークとアルダレートに報いたいと思ったのだ。
危機にあるジークと、そんな主人を守る騎士であるアルダレートの力になる。
そのためにも、学園内部で姑息で陰湿な手段でもって虐め程度の情けない事しか出来ない愚か者達などに潰されるわけにはいかない。

「少し急ぎましょう、アルダレート様。 今日もまた、山と積まれた仕事が待っていますから」

全ては自らの贖罪を果たし、ジークとサリーを結び、そして此度はジークとアルダレートへの義を通すために。
私はもう一度、新たな一歩を踏み出した。
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